Column

2023.03.01 17:00

【単独インタビュー】『少女は卒業しない』河合優実が体験した特別な時間と“心の卒業”

  • Atsuko Tatsuta

※本記事には映画『少女は卒業しない』の重大なネタバレが含まれます。

直木賞作家・朝井リョウの同名連作短編小説を映画化した青春恋愛映画『少女は卒業しない』が2月23日(木・祝)公開されました。

廃校により校舎の取り壊しが決まった地方都市のとある高校。最後の卒業式を間近に控えた料理部部長の山城まなみ(河合優実)は、卒業生代表の答辞を担当することにプレッシャーを感じる一方、彼氏・佐藤駿(窪塚愛流)との思い出を振り返る。バスケット部部長の後藤由貴(小野莉奈)は、進路の違う彼氏・寺田賢介(宇佐卓真)と別れることを選ぶ。軽音部の部長の神田杏子(小宮山莉渚)は、中学校からの同級生・森崎剛士(佐藤緋実)に片思いしているが打ち明けられない。クラスに居場所がない作田詩織(中井友望)は、図書館を管理する現代文学の教師・坂口優斗(藤原季節)に密かに想いを寄せ、今日も会いに行く──。
 
『桐島、部活やめるってよ』を始め数々の映像作品の原作で知られる朝井リョウが、青春時代に味わうすべての感情を詰め込んだ連作短編小説を、『カランコエの花』で注目を浴びた気鋭・中川駿が映画化。

青春群像劇の新たな金字塔との呼び声も高い本作で、主人公の山城まなみを演じたのは、『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』『PLAN 75』など話題作に立て続けに出し、今最も注目を集める新進俳優・河合優実。公開に先立ち、Fan’s Voiceの単独インタビューに応じてくれました。

──さまざまな話題作に立て続けに出演し、まさに今最も忙しい若手俳優のひとりである河合さんですが、『少女は卒業しない』はどのようなきっかけで出演することになったのですか?
どういう経緯だったのかはわからないのですが、オファーを頂いて、脚本と原作の両方を読み、興味を持ちました。原作の小説にはもっと多くのエピソードがあって、その中から4つに絞られて、2時間の映画の尺に収まる一つの物語にとても上手くまとめ上げられているな、というのが最初の印象でした。

──おっしゃるように、原作は7人の“少女”のそれぞれ独立した物語ですが、映画ではその中でも4人の少女たちの物語が交錯し、群像劇としてとても上手く描かれていましたね。
原作では、“卒業する”という決断を最終的にみんなが下すことが各エピソードのゴールではありません。というか、卒業式までいかずに終わっている話も出てきます。卒業できずに“留まっている”感じの女の子たちの話が集まっている印象でした。映画では、みんなに“卒業できない”事情がある中、そこからどうやって卒業するか、心の卒業というか、どうやって前に進むかというところに重きを置いているところが興味深かったですね。

──高校の卒業は多くの人が経験するわけですが、この作品の中で描かれる「卒業」に対する思いや感情には共感でしましたか?
そうですね、卒業はもちろんすごく大きい出来事ですから。この映画は、卒業式の前の日からの2日間を描いていますが、その卒業直前の空気というのは、この作品に携わるまでほとんど意識したことがありませんでした。卒業にまつわるいろいろなことを思い出すタイミングはあったかもしれませんが、卒業式の前のみんなの雰囲気は、すごい独特なのにあまり思い出せなかった。撮影に入ってから、そのことに気が付きました。

──撮影に入って思い出した、ご自身の「卒業」とは?
いろいろ思い出しましたね。でも、私の高校卒業時は、ここまで感傷的ではなかったというか、もっとお祝いのような感じの「卒業」だった記憶があります。みんなそれぞれの未来があり、「未来が楽しみだな、みんなこれからも頑張ろうね、バイバイ!」みたいな。祝福という感じでした。実は、私は自分の高校の卒業式の時に、まなみと同じように答辞を読ませていただいています。この映画ほどドラマチックな記憶ではなかったですが、すごい偶然だなと思いました。

──山城まなみは、答辞を読むことに多少ためらいがあるように思いますが、ご自身で読むときは、どういう感情があったのですか? 
読む瞬間のことは覚えていませんが、映画の中にもあったように、先生とやり取りして内容を変えたりと、準備したことを覚えています。高校時代の3年間を思い出しながら書いたのですが、こういう時間は誰もが経験できることではないので大切にしなきゃと思いながらやっていましたね。

──卒業生代表に指名されたのですか?
はい。経緯はあまり覚えていませんが。でも卒業生の総代ではなく、代表が3人くらいいたので、もう少し緊張感を分散できていたと思います。でも、やっぱりみんなの思いを代弁しなければいけないという気持ちがあったので、個人的な思いだけでなく、学生生活においても、いろんな立場の人がいただろうなということを想像しながら書いていました。

──山城まなみという人物は、どういう女性だと解釈して演じたのでしょうか?
共通点というか、共感するポイントとしては、人と接する時に相手の顔色を伺ってバランスを取ろうとしてしまう部分などは私の中にもあるので、理解できると思いました。また、彼女は大事な人を喪うという経験をしているのですが、そういう経験をすると、どうしても大人にならざるを得ない。周りの人と違って、独りで大人になっていった孤独のようなものがある人だと思いました。

──その大切な人を亡くした喪失の感情を理解するために、どのようなアプローチをしたのでしょうか?
一番大きかったのは中川監督との話ですね。監督がシェアしてくれたエピソードを、一番大きいヒントにしていましたね。中川監督は少し前にお母様を亡くされているのですが、監督と初めてお会いしたときに、お母様が亡くなってからのご自分の気持ちの変化だったりを、かなり詳細に話してくださいました。それをベースに監督もまなみのことを理解されていたので、私もそうした監督の理解に100%ついていきました。

──撮影は山梨の廃校になった小学校で行われたのですよね。素晴らしいロケーションでしたが、あの場所が演技の助けになった部分はありますか?
これまでの取材でも、あの学校の雰囲気が良かったと言ってくださることが多く、観た方にきちんと伝わっているのだと思いました。私たちはあの学校にずっと籠もりきりで撮影していたのですが、場所からパワーをもらっているなとずっと感じていました。桜並木があったり、窓から見えるところに川も流れていて、景色がとても気持ち良い。ずっとそこで制服を着てみんなで過ごすことも、“学校での時間を過ごしている”感覚の手助けになりました。私は東京の学校だったので、自分の学校の雰囲気とは全く違っていました。

──あの学校の風景を、私は少しノスタルジックに感じました。時代を限定したくないという意図もあったのかなと。
確かに、原作は2012年くらいのものでガラケーとか出てきたりするのですが、その雰囲気を引き継いでいるのかなと思いました。映画ではたまにスマホが出てくるぐらいで、デジタルの類はあまり出てきませんが、それについて私自身が何か意識していたわけでもありません。もしかすると中川監督には何か意図があったかもしれません。

──4人の女子高生のストーリーが群像劇的に描かれますが、物語はそれぞれほぼ独立していますね。現場では、小野莉奈さん、小宮山莉渚さん、中井友望さんたちとはどのように交流していたのですか?
それぞれのエピソードが独立していて、同じフレームにほとんど一緒に収まっていないのですが、(ロケ現場の学校の)控室が音楽室で、そこでみんなで制服を着て一緒にずっといたので、本当に同じ学校の生徒みたいな錯覚をするくらいの2週間でした。

最初はまだ打ち解けなかったり、すごく盛り上がった時もあるし、休み時間みたいなそれぞれがボーっとしている時もあったり、勝手にどこか行く人もいれば、戻ってくる人もいれば、ギター弾いている人もいれば。本当に学校を疑似体験しているみたいな感じになりましたね。私は普段大人の方と仕事をご一緒することが多いので、同世代の人たちとのそういった時間は新鮮でしたね。

──脚本は全員の分を読んでいたのですか?
そうですね。

──ということは、他の人たちにどういうことが起こっているかはご存知だったのですね。
はい。それぞれのストーリーには影響を受けましたね。ただ、私は一応(今作の)主演ですが、他の主演作と何が違うかといえば、他の人の撮影現場を見られておらず、まったく他のシーンの様子がわからないことでした。たまにモニターを見に行ったりもしましたが、それでも把握できない。なので、完成した作品を観た時、それぞれの話が本当に新鮮に感じられて、なんだか嬉しくなりました。俳優によって演じ方とか表現の仕方も全然違うし、同世代の俳優たちがそれぞれどういうことを考えてこれに臨んでいたのかなと、思いを馳せる面白さがありました。

──卒業式後、佐藤緋美さん演じる森崎剛士が「ダニー・ボーイ」をアカペラで歌うシーンは緊張感溢れるこの映画のハイライトともいえると思いますが、あの撮影の時は同じ体育館にいたのですか?
はい。緋美くんが元々歌をやっている方というのは知っていたのですが、本当に素晴らしくて。あそこでまなみの心が動くのですが、私もまなみと同じようにちゃんと感動したいなと思い、楽しみに体育館に行きました。まっすぐに緋美くんの歌を聞いて、出てくる感情に従って演じようと思っていましたし、あの歌にとても助けられました。

──あのシーンは、元々は録音したものを流すはずだったけれど、当日やっぱりライブでやることになったと中川監督からお聞きしました。想定外のことが起こったことによって引き出された、奇跡的なシーンですよね。
歌に感動させられるのにはいろいろな要素があると思いますが、英語の歌だし、まなみは歌詞に感動したのではないと思うんですね。でも、緋美くんの歌声に、意味とか言葉とかそういうものを超えた人を感動させる力があった。本当に素晴らしい歌い手だと思いました。

──山城まなみのエピソードで印象的なのは、料理部部長のまなみが、彼氏の駿と調理室でお弁当を食べるシーンでした。あのシーンはどんな風に撮っていたのですか?
あまりいろいろ決めずに、自由な感じで撮影しました。愛流くんとのセリフ合わせなどもあまりしないで。二人の中で輝いていた時間ということは胸に置きつつ自然に話してみよう、とにかく撮ってみよう、という感じで撮影しました。じゃんけんのシーンも、どちらが何を出すか決めないで撮ってみよう、と。二人の間の空気が自然に流れるように監督が整えてくれたので、自由にやっていた感じです。

──中川監督は、細かい所作まで厳密に指示するというより、オーガニックに演出をされる方なのですね。
そうだと思います。中川監督は、とにかく俳優と同じ目線に立ってくださる監督でした。最初にお会いした時、「それぞれのセリフや言葉尻は好きなように自分の中でかみ砕いてやって良いし、思ったことがあったら何でも言って欲しいし、一緒に作っていこうね」とはっきり言葉にしてくださったのは大きかったですね。私たちの感覚にかなり委ねてくださったという感じ。とても貴重な体験でした。演じる側にとって、このようなスタイルは、自由に演じる喜びがあります。もちろん作品にもよるのだと思いますが、例えば『フレンチ・ディスパッチ』だと、ウェス・アンダーソン監督が「数秒後にこの“バミリ”(位置)に立ってくれ」とか「ここで頭をこの角度で動かしてくれ」とか言ってそうじゃないですか。俳優もその演出に従うのは大変だと思いますが、あれだけの作品が完成するのだとしたら、喜んで駒になるというか、俳優としても全く別の楽しみ方が出来ると思います。つまり、どういう作品でも、クオリティが高い一流のものを作れる現場であれば、俳優は何でも楽しめるものだと思います。

──近年、河合さんは映画賞レースでも目立っており、今年も早川千絵監督の『PLAN 75』などで受賞されていますね。出演作も多いですが、高い評価を得る作品も多い。どのように作品を選んでいるのですか?
コロナ禍のせいでたまたま去年作品が多かっただけで、その前年に全部撮ったわけではないんです。なので、お休みなく撮影しているという感じでもないですよ。作品は自分が選んでいるというより、ほとんど事務所が決めてくれています。ただ、映画はいろいろ観るようにしているので、「この監督、良いですね」といったお話は事務所の方にするようにしています。

──お仕事をしてみたい憧れの監督はいますか?
その時々で変わりますが、三宅唱監督の作品に出たいとはずっと思っているんです。『きみの鳥はうたえる』(18年)は何度も観てますが、そこにある空気があそこまでありありと伝わってくる映像はなかなかないと思いました。肌感覚で、三宅さんのリズムが好きなのだと思います。

──演技という仕事を自分の一生の仕事だと思えるのは、どういう時ですか?
自分が出演していない映画で、すごく良いものに出会ったりすると、やっぱり本当に人とものを作ることが大好きだな、映画に携われているって本当に幸せだなと思います。ドラマでも感動すればそう思う瞬間もありますが、でも、映画の方が観る機会は多いですね。

──映画は劇場で観るのですか?
なるべく劇場に行きます。でも、配信で観ることもありますよ。大抵は一人で観ます。本当に心から感動する瞬間があると、自分の感覚がニュートラルに戻るというか、今までズレていたものが一番真ん中の状態に戻ってくるみたいな、そんなことが結構ありますね。

──観る作品はどのように選ぶのですか?
今公開されているもので、これは観に行っておきたいと思うもの。単純に興味ですかね。最近観て頭から離れなくなってしまったのは『RRR』です。『RRR』の話ばかりしています。大きい劇場で観たのですが、初めて劇場で観たインド映画になりました。例えば「あの男は火山だった」とかいう振り切った独特の感性のセリフが出てきたり、これまでに経験がないような驚きの連続でしたけれど、そのうちにどこか納得できるようになったんですよね。こういう破天荒な、あまりに揺るぎない国単位での信念を持ったような映画は真似できないし、真似しようとも思わないですけど、溢れるエネルギーに圧倒されました。

Photography by Aya Kawachi

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『少女は卒業しない』

廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えたとある地方高校、“最後の卒業式”までの2日間。
別れの匂いに満ちた校舎で、世界のすべてだった“恋”にさよならを告げようとする4人の少女たち。
抗うことのできない別れを受け入れ、それぞれが秘めた想いを形にする。
ある少女は進路の違いで離れ離れになる彼氏に。
ある少女は中学から片思いの同級生に。
ある少女は密かに想いを寄せる先生に。
しかし、卒業生代表の答辞を担当するまなみは、どうしても伝えられない彼への“想い”を抱えていた──。

出演/河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、窪塚愛流、佐藤緋美、宇佐卓真、藤原季節
監督・脚本/中川駿
原作/朝井リョウ「少女は卒業しない」(集英社文庫刊)
主題歌/みゆな「夢でも」(A.S.A.B)
製作プロダクション/ダブ
製作/映画「少女は卒業しない」製作委員会(クロックワークス、U-NEXT、ダブ)

日本公開/2023年2月23日(木・祝)より新宿シネマカリテ、渋谷シネクイントほか全国公開
配給/クロックワークス
公式サイト
© 朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会