Column

2022.12.10 12:00

【単独インタビュー】『夜、鳥たちが啼く』山田裕貴の心を揺さぶった“半同居”の距離感

  • Atsuko Tatsuta

傷ついた男女のかすかな希望の物語を山田裕貴主演、松本まりか共演で城定秀夫監督が描く『夜、鳥たちが啼く』が12月9日(金)に公開されました。

若くして小説家としてデビューを果たしたものの、その後は鳴かず飛ばずで鬱屈した日々を送る慎一(山田裕貴)の住む貸家に、友人の元妻・裕子(松本まりか)が幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。離婚後、住む場所が見つかるまで当面の間、居候することになったのだ。慎一は部屋を開け渡し、仕事部屋にしていたプレハブの離れで寝泊まるようになり、奇妙な半同居生活が始まる──。

作家・佐藤泰志の同名短編小説を映画化した『夜、鳥たちが啼く』は、同じく佐藤の小説を原作とする『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』に続き、高田亮が脚本を担当。監督は、高田の助監督時代からの朋友であり、『アルプススタンドのはしの方』『愛なのに』『ビリーバーズ』など、話題作を続けざまに送り出している城定秀夫が手掛けています。

主人公の慎一役に抜擢されたのは、『東京リベンジャーズ』(21年)、『燃えよ剣』(21年)、『余命10年』(22年)などで注目される人気と実力を兼ね備えた山田裕貴。公開に際し、“売れない作家”という陰のある役柄への挑戦を、Fan’s Voiceの単独インタビューで語ってくれました。

──佐藤泰志の原作、高田亮の脚本を城定秀夫が監督するという映画ファンにとってはエキサイティングなスタッフィングですが、このプロジェクトのどこに惹かれて出演を決めたのですか?
この映画の持つ色味やテイストに惹かれました。脚本を読んで、僕の好きな映画だなという印象を持ちましたし、エネルギーを発散するようなアグレッシブな役だけではなく、ヒューマンな作品にも挑戦したいと思っていた頃でした。

──確かに、パワフルな陽キャラやアグレッシブな役が多いイメージもありますね。
そのため、(役柄だけでなく)素もきっとそういうキャラなんだろうと思われやすいのですが、どちらかというと今回の役柄のほうが僕自身に近いと思っています。

──陽キャラに見られることに抵抗を感じますか?
別に本当の自分自身を知ってもらいたいとは思いませんが、簡単に人と繋がれるネット社会になったこともあり、表面だけではなく奥の奥を見てくれる人がなかなかいなくなっている気がします。「こういう人間です」とか、「こういうお芝居が好き」だとか、僕自身はまだちょっと主張できる立場にはないですし。明るい役が多い中でも、結構いろいろなタイプの役をやってきているとは思っています。個人的には、どちらかと言えば陰のある役を演じる方が好きかもしれないです。

──この映画で演じた慎一は、小説家として成功を掴みかけたけれど、その後は思うように書けず、人生も上手くいっていないというとても苦しい状況にあると思いますが、そんな慎一という男をどのように受け止めましたか?
「わかるなぁ〜こいつ」という感じがまずありました。最初の小説が認められた時は、おそらくすごく嬉しかったはずですが、(人生が)上手くいかなくなると、手のひらを返す人もいる。人は簡単に変わりますからね。それに対して感じることもあるだろうし、僕もそういう人を何人も見てきているので、彼の気持ちがすごくわかりました。

──彼に共感したのですね?
はい、ものすごく。

──慎一は、単に人生に上手くいっていないだけでなく、キレやすく、時に暴力的だったり、批判されても仕方がないような人物に描かれていますね。ある意味では、共感を得やすい人物ではありませんが、一方でそういう人物を物語の真ん中に主人公として据えていることが、この作品の強さにつながっていますね。
慎一は寂しいのだろうな、孤独感に苛まれているのだろうな、と思いました。恋人には捨てられてしまい、そんな自分の苦しみを誰かに知って欲しい。でも彼は甘えているんですよね、ずっと。そして、そういう自分に耐えきれなくなってしまう。本当はわかって欲しいということを伝えたいのに、ヒステリックになって暴力に走ったりして。

脚本を読んだ時に感じていた慎一の感情よりも、実際に(松本)まりかさん演じる裕子と対峙した時に生まれてくる感情が、自分の中でより重要になりました。「ここでこういう悲しい感情になるんだ」とか「ここで案外笑えるんだな」とか、そういうのは相手の反応を見て変わってくる部分がたくさんあり、そこはすごく楽しかったです。それに、プレハブの中の空気感とか、慎一が独りでいる時にカタカタ(PCを)叩く音とか、そういうすべてが、演じる上での自分の力になりました。そうしたことは脚本を読んだ段階ではなく、現場に立ってみて初めて得られることでした。

──小説家を演じるにあたって、役作りのために作家にお会いしたりしたのですか?
それはしませんでした。僕は小説を書くといったことはしませんが、文章を書くことは好きです。SNSで長文を投稿することもあります。なので、(慎一が)どういう風に話を作るのか、その生みの苦しみのような痛みを表現したいと思いました。創作者の葛藤というか。ものを書く人は、たった一文を考えるだけでもさまざまなことを想像し、常にいろんなところにアンテナを張り巡らしていますから。

──書くことのどういう部分に魅力を感じるのですか?
人に何かを伝えられるところです。例えば僕の場合、応援してくださっている方に、「僕は今、こう思っています!」と想いを無性に書いて伝えたくなることが時々あります。

──応援してくれるファンのことは常に意識しながら活動しているのですか?
そうですね。人から“見られる”職業であるので、常に外からの視線は意識しています。

──そうした外からの視線や言葉に対して思うこと、感じることはありますか?
はい。悲しいなと思うことが多いですけどね。「山田裕貴ってこういう人だよね」とよく言われるたりしますが、そうして決めつけられるのはとても悲しくなります。

──『夜、鳥たちが啼く』で、特に興味深かったシーンはありますか?
裕子とアキラと3人でいるシーンで、アキラが「お母さんのこと好きじゃないの?」と言うあたりの会話の雰囲気がとても好きです。完成した作品を観た時は自分でも少し意外で、“こういうトーンになったんだ”と面白く感じました。

この作品を(観客が)どんな風に観てくれるのかはとても気になります。僕は普段から「こうじゃなきゃダメだ」と決めつけるのが嫌いなのですが、慎一たちのように、こういう風にしか生きられない人たちがこんな風に繋がっていたって良いんじゃないかなと、僕は思います。世の中がもっと寛容になってくれれば良い。人を理解するというは、自分の頭の中で考えることではなく、違う考えや生き方の人の言葉を聴き、わかろうと努力し続けることだと思うので。人と闘うことでは幸せになれないし、楽しくもない。僕はそういった他人に対する思いやりを忘れたくないですね。

──この作品を通じて、発見したことはありますか?
僕は結婚をしていないし、結婚した経験もありませんが、にも関わらず(慎一と裕子のような)家庭内別居というか半同居は良いだろうなと思ってしまったことですかね。良い距離感だな、と。慎一も心地良かったと思いますが、僕自身もこういうのは良いなと思いました。なんだか気持ちが楽な気がします。

──城定監督との仕事はいかがでしたか?
城定監督の撮り方はものすごく好きでした。役としては辛い役のはずなのに、撮影現場は楽しくて、まったく辛くなかった。おそらく演技で発散できていたのだと思います。モヤモヤしたものは残らず、やり切った感がありました。特に、慎一と裕子とアキラの距離感が近づいていった辺りからは、とても心地良かったです。

──最後には、確かに温かい気持ちになりますね。一種ハッピーエンドというか。
アキラの存在も大きかったと思いますが、僕自身、あんな心地良い気持ちになるとは予想していませんでした。

──コロナ禍での撮影も大変だったと思いますが、ご自身の中でどんな体験になりましたか?
シンプルに、やって良かったと思っています。なので、早くみなさんに観てもらいたい。そして感想をお聞きしたいです。

Photography by Takahiro Idenoshita

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『夜、鳥たちが啼く』

出演/⼭⽥裕貴、松本まりか、森優理斗、中村ゆりか、カトウシンスケ/藤田朋子/宇野祥平、吉田浩太、縄田カノン、加治将樹
監督/城定秀夫
脚本/⾼⽥亮
原作/佐藤泰志「夜、⿃たちが啼く」(所収「⼤きなハードルと⼩さなハードル」河出⽂庫刊)
2022年/日本/115分/ビスタ/DCP/5.1ch/R15+

日本公開/2022年12月9日(金)新宿ピカデリー他にて公開
製作・配給/クロックワークス
公式サイト
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