【単独インタビュー】『サイレント・ナイト』カミラ・グリフィン監督&ローマン・グリフィン・デイヴィスが母と子で語るこの世の終わり
- Atsuko Tatsuta
人類が滅びゆく“地球最後のクリスマスイブ”を過ごす家族の姿を描く『サイレント・ナイト』が11月18日(金)に日本公開されました。
舞台はイギリスの田舎に佇むとある邸宅。ネル(キーラ・ナイトレイ)とサイモン(マシュー・グード)夫妻が催すクリスマスのディナーに、学生時代の親友たちが次々と集まってきます。二人の息子アート(ローマン・グリフィン・デイヴィス)と双子のハーディとトーマス(ハーディ・グリフィン・デイヴィス&ギルビー・グリフィン・デイヴィス)を加えた12人は、ネルが腕をふるったご馳走が並ぶテーブルを囲みますが、やがて不穏な空気が流れ始めます。そう、あらゆる生物を死に至らしめるという猛毒ガスが地球上を覆い始め、明日にもイギリスに到達する見込み。政府は苦痛無く自死するための“EXITピル”の服用を推奨しますが──。
出演はキーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、リリー・ローズ・デップ、『ジョジョ・ラビット』で頭角を現したローマン・グリフィン・デイヴィスらトップスターが顔を連ね、プロジェクトを牽引するプロデューサーには、『キック・アス』や『キングスマン』シリーズで知られるマシュー・ヴォーン。
監督を務めたカミラ・グリフィンは短編でキャリアを積み、本作で長編映画デビューを果たしたベテランの“新人”監督。夫は、『スリー・ビルボード』、『エターナルズ』、『キック・アス』などで知られる名撮影監督ベン・デイヴィスですが、本作には、『ジョジョ・ラビット』で注目されたカミラとベンの息子ローマン・グリフィン・デイヴィスと双子の弟も出演しています。
日本公開に合わせて、カミラ・グリフィン監督と、映画の鍵となる少年アートを演じたローマン・グリフィン・デイヴィス親子がオンラインインタビューに応じてくれました。
──とても面白く拝観しましたが、これが初監督作品だということに驚きました。オリジナル脚本も執筆していらっしゃいますが、まず、この奇想天外な物語のアイディアはどこから生まれたのか教えていただけますでしょうか。
カミラ お褒めいただきありがとうございます。私は何年もこの作品を撮りたいと思っていたのですが、雰囲気が難しそうだとか、心理的に辛いということでなかなかお金が集まりませんでした。ローマンが『ジョジョ・ラビット』を撮っているときに現場に付添で行ったのですが、(監督の)タイカ・ワイティティが、シリアスなテーマにも関わらずコメディという手法を使っていることにとてもインスパイアされました。
それで、核戦争というモチーフを扱うのであっても、もうちょっと軽い語り口の方が良いのではと思い始めました。「大丈夫だよ、もし核戦争が起こったってちゃんと睡眠薬を溜めてあるから、楽しい夕食を食べて、それを飲んで寝ればいいんだよ」と言って、「そんなの飲みたくないよ」って子どもが言ったりする……。それがきっかけで今回の脚本を作りました。
──『ジョジョ・ラビット』とはそんな接点があったのですね。その脚本はいつ頃から書き始めたのですか?
カミラ 脚本を最初に書いたときは、自分で資金を集めて、インディーズ映画で撮ろうと思っていました。でも、もう少しバジェットを大きくしようと思って、脚本をマシュー・ヴォーンに送りました。というのは、マシュー・ヴォーンが最初に有名になったのは『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』だし、つまり非常に低予算の映画から成功した人なので、こうした作品に理解があると思いました。そうしたら、やろうということになりました。
今の脚本を書いたのは『ジョジョ・ラビット』の撮影が終わった頃ですね。タイカの現場から非常にインスピレーションを受けた影響が残っているうちに、ものすごく早く書きました。何年もの間に何本も脚本を書いていたので、すごく簡単に書けました。2018年の12月でしたね。『ジョジョ・ラビット』のプレスツアーをしていた頃には、確か今作のキャスティングをしていたと思います。
──なぜ脚本を書いた時期をお聞きしたのかと言いますと、この作品は今のロシアによるウクライナ侵攻や、新型コロナによるパンデミックの状況をまるで反映したかのような作品になっている気がしたからです。が、2018年に書かれたということは、あなた自身はこの偶然をどのように感じていますか?
カミラ 非常に複雑です。もちろん、こういう状況になることは誰も予期できなかったわけで、仕方なかったことでもありますが、心が引き裂かれそうです。
この映画は、非常に感情的な映画です。すごく笑ってしまうファニーなところもあれば、悲しいところもある映画ではありますが、こういう悲劇的な状況の中で公開されることを望んでいたわけではありません。もしこういう状況になるとわかっていたら、他の選択をしていたと思います。この映画を観ることでトラウマを受けてしまったり、余計に辛い思いをして欲しくはありません。そうなることを望んでいたわけではありませんし、もしそうなってしまったら、とても悲しいです。でも一方で、この映画をより味わえるとも言ってくれる人もいました。
ただ、映画の世界では、ロシアは──ナチスもそうですが──悪役として描かれる傾向があります。プーチンはずっとクレイジーだったわけですし、もちろんウクライナの人は大変な状況下にいますが、ロシアにも大変な思いをしている人が多いのではないかと思います。それを考えると、この映画がロシアで成功していることは、非常に興味深いです。
──この作品は終末映画ともいえると思いますが、“終末”に関してのあなたはどんな考えをお持ちですか?
カミラ 脚本を書いたとき、自分でもとても絶望的な気持ちになりましたが、でも最期は愛に囲まれていたいと思いました。私が死ぬ時には、子どもたちが私のことを愛していて欲しいし、家族が周りにいて欲しい。ひどい世の中なので、少なくとも私たちはお互い人間として親切でありたいと思っています。それこそ終末論的な世界で、子どもを引き連れて、食べ物を探し回って生き延びなければいけない状況にはなりたくないですね。
──『ジョジョ・ラビット』から影響を受けたということですけども、今作でローマンくんが演じたアートは当て書きしたのでしょうか?双子の息子さんも出演されていますが、あなたの3人の子どもたちを出演させるアイデアはどこから来たのですか?
カミラ (子どもたちを出演させた理由は)2つあります。脚本を書いていた頃は、資金もないので自力で全部作らなければならないと考えていました。私が持っているものは何だろうと考えたら、夫と子どもたちと犬と家がいるから、それらを使おうと思い、そういう脚本を書きました。ですが、マシュー・ヴォーンがプロデューサーを引き受けてくれて予算も増え、いろいろな役者を使えることになりました。子どもに関しては、ローマンは才能ある優れた役者で、とても感情的で大人な、知的な演技をすることができます。彼を使えることは特権的なことで、恵まれていることだと思ったので、予算に関係なく使うつもりでした。
それから、予算が少し増えたとはいえ撮影期間はとても短く、大人の役者もたくさんいる現場で、子役にはもっと気を使わなければなりません。自分の子どもたちだったらもっとスムーズに撮れるということもあり、双子も起用しました。身内びいきというよりは、限られた条件の中で映画を作るための“手段”と言ったら良いでしょうか。
──ローマンくんは『ジョジョ・ラビット』で日本にも多くのファンがいます。そんなローマンにお聞きしたいのですが、お母さんがそういう脚本を書いているのはいつ知ったのですか?アート役のどんなところに興味を惹かれましたか?
ローマン 母が脚本を書いていることはよく知っていました。というのは、夕飯の食卓でよく脚本について話していたので。でもタイミングが最悪なんですよね。僕がフィッシュアンドチップスを食べようとしているのに「今こういうシーンがあってね」と話し始めて。それも暗い話だし。早く終わってくれないかなといつも思っていました。でも最終的に脚本が出来上がり、読んでみたらすごく良いなと思いました。アートというキャラクターはとても好きです。この映画の中でもすごく“モラルコンパス”というか、倫理的な指針になっている役なので、すごく良いと思いました。
カミラ 私は脚本を書く時は、子どもによくシーンを読んで聞かせています。子どもというのは正直で直接的なので、「つまんない」とか「面白くない」とか「バカみたい」ということをはっきり言ってくれます。よくディナー中に読んで聞かせています。
──これはネタバレになりますがぜひお聞きしたいことがありまして、最後にアートが目を開くシーンを、ローマンくんはどのように解釈しているのでしょうか?
カミラ その点をご指摘いただいて、ありがとうございます。というのは、あのシーンはかなり批判されたんです。私は社会というものは、苦しみを通じてより覚醒すると考えています。なので陰謀主義とかそういうことではなく、あの男の子(アート)は苦しみを経て自分の意思が現状に勝ったということを見せたくて、あのシーンを書きました。でも科学的な根拠がないと批判されて、書かなければよかったかなと後悔しかけていたところなので、あのシーンに言及していただき、本当に嬉しいです。
ローマン 演技としては、そんなに時間がなかくたくさんのテイクができないから、とにかく早く終わらせなきゃという気持ちもあり、目を開けたり閉じたりしていました。僕は、あの目を開けるシーンが示しているのは、勇気だと思います。最良のことを希望すること。
カミラ アートという子は、真実のために戦っている。つまり、希望の象徴でもあります。あのシーンの撮影はとても大変でした。というのは、コロナのせいでロックダウンの決定が出て、予定よりも2日早く繰り上げて仕上げなければいけなくなったから。2日分の撮影を1日でやるために本当にみんなバタバタしていて、キーラ(・ナイトレイ)が演じ、それで最後にしましょう、と。あの長いシーンを14分で撮り上げました。なので、ものすごくみんな急いでいたし、非常にみんなドラマチックな雰囲気になりました。コロナにおびえているような感じもありましたし。
実際に脚本を書いていたときは、そんなに時間のない撮影になるとは思わなかったので、いろいろとバリエーションを考えていました。目が開いているとか、目が閉じているとかそのほかもっといろんな撮影をして、編集で選ぼうと思っていたのですが、そんな時間がなかったので、2パターンしか選べませんでした。目を閉じているか、目を開いているか。私にとっては、アートが目を閉じているのは希望がないと思ったので、目を開けた方を選びました。
──先ほどローマンくんが、脚本を読んだときに「最終的に全部読んだらすごい良い話だ」と言っていましたが、どの部分が刺さったのですか?
ローマン キャラクターがお互いに話す時のエネルギーの感じがすごく良いなと思いました。それから、子どもの扱い方が面白いと思いました。あの親たちは子どもを寄宿舎に送って、つまり離れ離れにしてしまうけれど、実は子どものことを愛している。そういう秘密めいたところとかも、僕の経験とすごく似ていると思いました。
カミラ 私はあなたを寄宿舎に送らないわよ。
ローマン でも、文化的にというか、(大人たちが)子どもをあまり近寄らせない、そういった考え方が脚本に表れているなと思いました。それを役者が演じるとさらに面白いくなるのではないかと思いました。
──音楽についてお伺いします。冒頭から「ザ・クリスマス・セーター」というマイケル・ブーブレのちょっとおどけたような曲をすごく印象的にお使いですが、この選曲についてもお聞かせいただけますか。
カミラ 私たちの若い頃の、ロビー・ウィリアムズとかゲイリー・バーロウがいたテイク・ザットというバンドって覚えています?この「ザ・クリスマス・セーター」は、プロデューサーのマシュー・ヴォーンとそのゲイリー・バーロウが一緒に書いた曲です──これはたぶん言って良いことだと思うのですが……。その曲を聞かされて、どう思うかと尋ねられたので、私は「良いんじゃない?」と言いました。心の中では「そうかなあ?」と思っていたのですが、マシューに「誰に歌わせたら良い?」と聞かれ、「やっぱりマイケル・ブーブレでしょ。ミスター・クリスマスだから」と答えました。
それで、驚いたことに本当にマイケル・ブーブレに歌わせたんですね。実はあのオープニングシーンは、元々入っていなかったんです。撮影が終わって6ヶ月後に追加撮影をして、あのオープニングシーンを入れたのですが、それはあのマイケル・ブーブレの歌を入れるためでした。
カミラ 今では、マイケル・ブーブレのあの曲を使わせてくれたことを、マシューに感謝しています。とても風刺的な曲です。クリスマスソングはすごくキャッチーですが、ともすればすごくウザい。なので、それを上手く使えたら面白くなる。あの車の中であの曲が流れることにより、私たちがみんな死んで世が終わってもあの曲だけ生き残るという、ちょっと皮肉というか風刺になっていると思います。
今回の映画音楽を担当したローン・バルフェは、ハンス・ジマーのところで修業をした素晴らしい作曲家です。けれどもマイケル・ブーブレの曲があったために、サントラもそれに合わせた感じになってしまいました。なので私はあの曲に愛と憎しみを両方持っています。マイケル・ブーブレは、あの曲が「まさか、ああいう風に使われたとは」と驚いていました。
ローマン 僕はあの曲が大好きだよ。
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『サイレント・ナイト』(原題:Silent Night)
田舎の屋敷でクリスマスのディナー・パーティーを催そうとしているイギリス人夫婦のネル(キーラ・ナイトレイ)とサイモン(マシュー・グード)、彼らの息子たちであるアート(ローマン・グリフィン・デイヴィス)、双子のハーディ&トーマスの5人家族のもとに、学生時代の親友たちとその伴侶が次々と集まってくる。子供を含む全12人の男女は久々の再会を楽しんでいたが、今年はいつものクリスマスとは違っていた。あらゆる生物を死に至らしめる謎の猛毒ガスが地球全土を席巻し、明日にもイギリスに到達するのだ。果たして、彼らは“最後の聖夜”をどう過ごすのだろうか…。
監督/カミラ・グリフィン
出演/キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ローマン・グリフィン・デイヴィス、アナベル・ウォーリス、リリー=ローズ・デップ
2021年/イギリス/英語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/90分
日本公開/2022年11月18日(金)グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国公開
配給/イオンエンターテイメント、プレシディオ
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