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2022.09.11 4:00

第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門 受賞結果

  • Atsuko Tatsuta

第79回ベネチア国際映画祭の授賞式がイタリア現地時間9月10日(土)夜に開催され、23本が出品されたコンペティション部門の受賞結果が発表されました。

『All the Beauty and the Bloodshed』ローラ・ポイトラス監督(Foto ASAC / A. Avezz)

最高賞の金獅子賞を受賞したのは、写真家ナン・ゴールディンを追ったローラ・ポイトラス監督によるドキュメンタリー映画『All the Beauty and the Bloodshed』。「The Ballad of Sexual Dependency(性的依存のバラッド)」や写真で構成された「I’ll Be Your Mirror」などで知られるゴールディンは、中毒性の高い鎮痛剤オピオイドの依存に苦しみ、この薬を販売する米製薬大手パーデュー・ファーマ社のオーナーに対して抗議活動を行ってきました。本作は、社会問題ともなっている薬害の実態を暴くとともに、ナン・ゴールディンの過去のトラウマも掘り下げ、その生き様を紐解いていきます。

ドキュメンタリー映画が金獅子賞に輝くのは、2013年にジャンフランコ・ロージが『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』で受賞して以来、史上2度目。『シチズンフォー スノーデンの暴露』(14年)で第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した実績のあるポイトラス監督は、長いベネチア映画祭の歴史に新たなる1ページを加えました。

『Saint Omer』アリス・ディオップ監督(Foto ASAC / A. Avezz)

銀獅子賞(審査員大賞)は、セネガル系フランス人アリス・ディオップの『Saint Omer』。海岸に生後15ヶ月の娘を置き去りにし、殺人罪に問われたセネガル系の女性ローレンス・コリーの裁判を、若い作家ラマの視点から描く法廷劇。ドキュメンタリー界で頭角を現したディオップが、フランスで2013年に実際に起きた事件をベースに、劇作家マリー・ンディアイと共同で脚本を執筆し映画化。本作が初の劇場用長編映画となるディオップは、ルイジ・デ・ラウレンティス賞(新人監督賞)とW受賞という快挙を成し遂げました。

23本が選出された今年のコンペで、女性監督によるものは5作品。うち2本が上位の2部門を受賞する結果となりました。

『Bones And All』ルカ・グァダニーノ監督(Foto ASAC / A. Avezz)

銀獅子賞(監督賞)は、『Bones And All』のルカ・グァダニーノ。今、最も国際的に活躍するイタリア人監督は、ティルダ・スウィントンを主演に迎えた監督デビュー作『The Protagonists』(99年)を始め、『胸騒ぎのシチリア』(15年)、『サスペリア』(18年)などをベネチアでプレミアしてきましたが、コンペでの受賞は初。

世界中でヒットし、アカデミー賞4部門にノミネートされた『君の名前で僕を呼んで』(17年)で組んだティモシー・シャラメを再び主演に迎えた『Bones And All』は、カニバリストの少女マレンと青年リーの出会いと恋を、ロードムービースタイルで描くホラー映画。ジャンル映画ながらグァダニーノらしい詩情溢れる青春映画に仕上がっています。『WAVES/ウェイブス』で注目を集め、今作でマレンを演じたテイラー・ラッセルは、マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)に輝きました。

『Bones And All』テイラー・ラッセル(Foto ASAC / A. Avezz)

女優賞は、『TÁR』のケイト・ブランシェット。競争の激しいクラシック音楽界で、世界的女性指揮者として上り詰めたリディア・タールの芸術家としての葛藤や生き様を掘り下げた本作で、センセーショナルなまでに力強い演技を魅せたブランシェット。ベネチアではトッド・ヘインズ監督の『アイム・ノット・ゼア』(07年)以来、2度目の女優賞を獲得しました。洗練された技術に裏付けされた演技とカリスマ性を発揮した本作で、今後の賞レースでも存在感を示すことは間違いないでしょう。

『TÁR』ケイト・ブランシェット(Foto ASAC / A. Avezz)

男優賞は、マーティン・マクドナー監督の『イニシェリン島の精霊』のコリン・ファレル。1923年のアイルランドの架空の孤島を舞台に、長年の親友同士の決定的な諍いを描いた本作で、ブレンダン・グリーソン演じる芸術家肌の友人との絆を取り戻そうと躍起になる朴訥とした青年を演じています。ちなみに、ファレルとグリーソンは、マクドナー監督の長編デビュー作『ヒットマンズ・レクイエム』でもタッグを組んでいますが、今回も旧知の間柄ならではの息のあった掛け合いが見どころのひとつです。

『イニシェリン島の精霊』コリン・ファレル(Foto ASAC / A. Avezz)

劇作家出身のマクドナーが執筆していた戯曲を元に自ら脚本を書き上げた『イニシェリン島の精霊』は、男優賞とともに脚本賞もW受賞。マクドナーは、2018年にベネチアのコンペで上映された『スリー・ビルボード』に続く2作連続の脚本賞の受賞となりました。

『イニシェリン島の精霊』マーティン・マクドナー監督(Foto ASAC / A. Avezz)

審査員特別賞には、イランの名匠ジャファール・パナヒの『No Bears』。『チャドルと生きる』(00年)でベネチアの金獅子賞を受賞しているパナヒは、反体制的姿勢から、政府に映画製作を禁じられていますが、自宅軟禁中でも次々と映画を撮り、世界中の映画人から支持を得ています。2010年には有罪判決により6年の禁固刑が決定、今年7月に収監されたことがニュースとなりましたが、『No Bears』は危険を顧みず、遠隔操作で映画撮影を行っているパナヒ自身がフィクション映画の中に登場するという、実験的な作りになっています。批判精神と確固たる意思を表明する本作。授賞式後の受賞者会見においても、パナヒの空の席に、大きな拍手が惜しみなく送られました。

『No Bears』公式会見(Foto ASAC / A. Avezz)

結果は以下の通りです。

金獅子賞

Photo credit: Nan Goldin

All the Beauty and the Bloodshed』ローラ・ポイトラス監督(アメリカ/113分)

銀獅子賞(審査員大賞)

Photo credit: SRAB FILMS ARTE FRANCE CINEMA 2022

Saint Omer』アリス・ディオップ監督(フランス/122分)

銀獅子賞(監督賞)

© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

ルカ・グァダニーノ『Bones and All』(アメリカ/130分)

男優賞

Photo by Jonathan Hession. Courtesy of Searchlight Pictures. © 2022 20th Century Studios All Rights Reserved.

コリン・ファレル『イニシェリン島の精霊』(アイルランド、イギリス、アメリカ/109分)

女優賞

Photo Courtesy of Focus Features

ケイト・ブランシェット『TÁR』(アメリカ/158分)

脚本賞

Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2022 20th Century Studios All Rights Reserved.

マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』

審査員特別賞

Photo credit: JP Production

No Bears』ジャファール・パナヒ監督(原題:Khers Nist/イラン/106分)

マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)

Credit: Yannis Drakoulidis / Metro Goldwyn Mayer Pictures © 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

テイラー・ラッセル『Bones and All』

ルイジ・デ・ラウレンティス賞(新人監督賞)

Photo credit: SRAB FILMS ARTE FRANCE CINEMA 2022

アリス・ディオップ『Saint Omer』

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© Lorenzo Mattoti per La Biennale di Venezia – Foto ASAC

第79回ベネチア国際映画祭

会期:2022年8月31日(水)〜9月10日(土)
開催地:イタリア・ヴェネチア
フェスティバル・ディレクター:アルベルト・バルベラ
© Asac – La Biennale di Venezia.