Column

2022.06.27 18:00

【単独インタビュー】『ベイビー・ブローカー』でカン・ドンウォンが“家族”を求めるキャラクターとともに歩んだ旅

  • Atsuko Tatsuta

是枝裕和監督初の韓国映画『ベイビー・ブローカー』は、第75回カンヌ国際映画祭でソン・ガンホが韓国人俳優として初めて男優賞を受賞するなど、高い評価を受けている話題作です。

赤ちゃんポストのある施設で働くドンス(カン・ドンウォン)は、クリーニング店を経営しているサンヒョン(ソン・ガンホ)とともに預けられた赤ちゃんをこっそりと連れ去り、子どもを欲しいと願う家庭に売る闇ブローカー。ある日、赤ん坊のウソンを置き去りにした若い母親ソヨン(イ・ジウン)が戻ってきたことで、誤魔化しが効かなくなった彼らは、一緒にウソンの養父母を見つける旅に出ることに。一方で、以前からサンヒョンたちに目をつけていた刑事スジン(ペ・ドゥナ)とイ刑事(イ・ジュヨン)たちも、彼らの後を追い──。

事情により子どもを育てられない親のための赤ちゃんポストを巡り、命の価値、親になることといったこれまで是枝監督が追求してきたテーマをさらに推し進めた『ベイビー・ブローカー』。韓国で撮影することになったきっかけを、「映画祭などで知り合った韓国の俳優たちと仕事をするため」と明かしている是枝監督ですが、ソン・ガンホ、ペ・ドゥナとともに主要メンバーに真っ先にキャスティングされたのが、カン・ドンウォンです。

ファン・ジョンミンと共演の『華麗なるリベンジ』(16年)やイ・ビョンホンと共演の『MASTER/マスター』(16年)などヒット作で知られる実力派スターが、『ベイビー・ブローカー』の日本公開に合わせて来日。Fan’s Voiceの単独インタビューに応じてくれました。

──久々の来日となりましたが、いかがですか?今回は、アンバサダーに抜擢されたルイ・ヴィトンのショーにパリで出席されて、そのまま日本にいらっしゃったそうですね。
3年半ぶりかと思いますが、戻ってこられて本当に嬉しいです。パリはとても楽しかったです。スケジュールに余裕があり、仕事があったのは1日だけで、休みを数日いただけたので、良い休暇となりました。

「ルイ・ヴィトン」2023年春夏メンズ・コレクションのフォトコールにて ©Louis Vuitton

──私はカンヌ映画祭での公式上映でも『ベイビー・ブローカー』を拝観したのですが、皆さんが歓迎されて、作品も高い評価を受けていたのが本当に嬉しかったです。
カンヌもすごく楽しかったです。クロージングの授賞式にも出席できて、本当に光栄な思いでいっぱいでした。

──韓国で本作は動員100万人を突破したと伺っておりますが、韓国での反応をどのように受け止めていらっしゃいますか?
韓国で公開されたこれまでの是枝監督映画の興行記録は、もう更新されています。もう少し伸びたらいいなという思いが正直ありますが、すごく満足しています。この映画の損益分岐点を韓国の中で超えることが出来たので、気持ちが軽くなりました。

第75回カンヌ国際映画祭にて Photo by Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

──是枝監督は、映画祭などで知り合った韓国の俳優さんたちと仕事をするのが本作の一つの目的だとおっしゃっていました。監督との最初の出会いはどんなものだったのですか?
是枝監督と最初に出会ったのは本当に偶然で、2016年に六本木のリッツ・カールトンでお会いしました。その後に、“お話をさせていただきたい”とこちらから申し上げて、“一緒にやれるプロジェクトがあればやりましょう”という話になり、それが『ベイビー・ブローカー』につながりました。

──リッツ・カールトンでは、本当にばったりと会ったのですか?
そうです。ちょうどその頃、是枝監督とお会いして何か一緒にできることがあればやりたいと思っていたのですが、別件で日本に来てみたら、リッツ・カールトンのロビーで偶然ご本人とお会いして、ご紹介いただきました。

──是枝監督作品のどこに魅力を感じていたのですか?
言うまでもなく世界的な巨匠ですし、是枝監督のように自分がやりたいテーマでずっと映画を作り続けるというのは、本当に大変なことだと思います。それをずっとやっていらっしゃるのは素晴らしく、ぜひ一緒に仕事をさせていただきたいと思いました。それから、是枝監督の映画には必ず、監督が持っていらっしゃる温かさと、社会を批判的に見る視点の両方が混在しているのが魅力です。

──印象的な作品はありますか?
『奇跡』(11年)と、『万引き家族』(18年)が一番好きです。

──是枝監督は今回、脚本の3分の2までしか書かずに撮影に入ったとお聞きしています。俳優としては気を揉んだのでは?
そのやり方は、僕としては初めてではありませんでした。『M』や『デュエリスト』でご一緒させていただいたイ・ミョンセ監督も、朝になると脚本が変わっていたりしたので。でも今回、そういうやり方で撮るのは久しぶりだったので、興味深い部分もありましたし、驚く部分もありました。久しぶりにフィルムで撮っているような感じがしました。実際のところはフィルムカメラではありませんでしたがね。

──『ベイビー・ブローカー』は、社会的なテーマ、人間的ドラマといった要素や、映画的にはロードムービーというスタイルも持ち合わせています。興味深い要素を組み合わせた野心的な作品だと思いますが、脚本を読んでどこに面白さを感じましたか?
まず、似ても似つかなそうな組み合わせの人たちが家族みたいになるというところがすごく良いと思いました。それと、赤ちゃんを売ることを仕事にしている人たちと、その赤ちゃんを売ろうとする母親が一緒に旅をするというコンセプトがすごく良いと思いました。韓国ではこうした題材のものがあまりありませんでしたので。

──あなたが演じたドンスは、ずっと見ていると良い人だなと思いますが、犯罪に手を染めているという面もあります。どのようにキャラクター作りをしたのですか?
ドンスが犯罪者だとは、それほど思っていませんでした。サンヒョンについては、犯罪を犯した人だと思っていましたがね。ドンスはどちらかというと、社会のシステムに反抗的なキャラクターなのではないかと捉えました。彼は児童養護施設の出身だから“こそ”許されるところがあると考えていましたので。それから彼は、施設より家庭で育った方が絶対に良いという信念を持った人物なので、犯罪に寄った感じではあまり考えませんでした。

──ドンスが児童養護施設の出身ということで、そうした部分のリサーチはされたのですか?
実際に施設を訪ねたりもしましたし、施設を運営している園長先生のような方やそこで働いている方たちとも話をしました。そこで育って巣立った方たちからも、もちろんお話を伺いました。そこで聞かせてもらった話をドンスの記憶として表現しようと思い、彼らが言っていたことを最大限込めて演じようと思いました。

──そうしたリサーチを通じて、発見したことはありましたか?
まず直感的に感じたのは、施設を出身された方は「強い」ということ。それで、ドンスが強い人であるように、そうした気持ちを込めて演じました。それから、彼らは憂鬱感を持った人たちでは決してないこともわかりました。キャラクターの設定を間違ってしまうと、ものすごく暗い感じの演技になってしまったと思いますが、そういう風に演じないようにしました。それともう一つ、彼らは自分で築いた家庭を持ちたいという思いを強くお持ちでした。

──是枝監督は、少年役のイム・スンス君が元気いっぱいで、カン・ドンウォンさんがよく面倒を見てくれたのが助かったとおっしゃっていました。是枝さんが先日お誕生日を迎えられた時も、カン・ドンウォンさんがお祝いをされている写真を拝見しました。カン・ドンウォンさんは是枝監督にとってすごく助けになったようですね。
監督の助けになろうと努力しました。(言語の違いから)監督が子どもたちと直接意思疎通ができない一方で、子どもたちに現場で気楽に楽しく過ごして欲しいと思っていらっしゃるのは存じ上げていたので、監督がきっと出来ないであろう部分の役割を、僕が買って出たというところです。誕生日に関しては、監督から「何も予定がない」と聞いたので、お誘いしました。

──是枝監督とは何語で会話をされるのですか?
彼女(今回のインタビューも担当している韓日通訳の女性)が、いつも一緒にいてくれています。

通訳さん あの写真も私が撮りました(笑)。

──これまでたくさんの監督とお仕事をされてきましたが、是枝監督はどんな監督でしたか?
他の監督と明確に違ったのは、ジャンル映画をお撮りになる方ではないということ。今回そこがよくわかったので、今度また一緒に何かを作ることがあったら、すごくスムーズに出来ると思います。それから、映画への視点、見方がジャンル映画とは本当に違うと思ったのと、これを見せたい、伝えたいという作家的なところがすごく強いと思いました。

──今回は、カン・ドンウォンさん含めそれぞれ活躍していらっしゃる俳優のアンサンブルキャストでしたが、皆さんは現場でどのようにしてバランス良くお仕事されていたのですか?
“刑事チーム”のペ・ドゥナさんとイ・ジュヨンさんとは一緒の撮影が全然なかったので、現場で絡む機会はありませんでしたが、“女性チーム”はおそらくドゥナさんが率いていたと思います。“男チーム”は僕とソン・ガンホさんですが、(共演は)今回が2回目で以前から仲が良いので、何の苦労もありませんでした。現場では僕が年齢的に中間だったので、ジウンさんや、ヘジン役のスンスくんがリラックスできるように、努力させていただきました。

Photography by Takahiro Idenoshita

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『ベイビー・ブローカー』(原題:Broker)

古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づき警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが…。
〈赤ちゃんポスト〉で出会った彼らの、特別な旅が始まる──。

監督・脚本・編集/是枝裕和
出演/ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン
製作/CJ ENM
制作/ZIP CINEMA
制作協力/分福

日本公開/2022年6月24日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
提供/ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.
配給/ギャガ
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