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2022.05.28 9:00

【カンヌ国際映画祭】『ベイビー・ブローカー』公式会見に是枝裕和監督&キャスト陣が登壇!

  • Fan's Voice Staff

第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で公式上映された『ベイビー・ブローカー』のフォトコールと公式会見が、カンヌ現地時間5月27日(金)に開催されました。

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

カンヌの快晴の空の下、公式上映の正装とはうって変わってカジュアルな装いでフォトコールに登場した是枝裕和監督とキャスト陣。白い爽やかなジャケットに身を包んだソン・ガンホと、個性的なハーフパンツスーツでラフに決めたカン・ドンウォン、白いミニスカートのスーツ姿のイ・ジウン、さらに白いパンツスーツを纏ったイ・ジュヨンも揃い、世界から集まったスチールカメラマンたちを前に笑顔で撮影に応じました。カメラマンからは「コレエダー」という声が飛びかい、サングラスをつけるように頼まれて監督も応じるなど、和気あいあいとしたフォトコールとなりました。

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

その後、公式会見に向かった5人。場内には多くのメディアが詰めかけ、質問も飛び交い、作品への注目度が伺える熱気に包まれた会見となりました。

以下、記者会見の内容です。

 

Photo by John Phillips/Getty Images

──(監督へ)キャラクターたちはみな孤独です。それでいて親密なグループを形成する家族の話です。今回もまた自分たちが選んだ家族の物語を描いていますが、どうしてそういう作品にしたのですか?
監督 まずは沢山お集まりいただいて有難うございます。今回、車に乗り込む者たちの疑似家族の旅を描こうと思って書き始めたプロットで、そこに乗り合わせる人たちが、あらかじめ色々な形で、一般的に考えられる普通の家族、親子という者から排除されている、切り離されて生きてきたという人たちが、ほんの短い間同じ車に乗るという話にしたいと思って書きました。そのことによって、私たちが考えて捉えている“家族”というものを捉え直したいという気持ちもありましたし、彼らが一瞬だけ手にすることで何かひとつだけ良いことをする、すごく小さな悪人だったり、悪意をもって旅に同行した人たちが、ひとつ良いことをする、そんな物語を紡いでみたいと思って作った映画です。

──(監督へ)ブローカーたちが犯していることは重罪ですが、視点はとてもヒューマニズムであったり、彼らに対する視線が優しいので、少し混乱しました。どうしてこうしたキャラクターたちを生んだのでしょうか?人権的なことと犯罪的なところの視点が混乱するところでした。どうしてそのような設定にしたのか教えてください。
監督 描かれるモチーフが深刻であればあるほど、ディティールの描写にはある種の軽やかさやおかしみのようなもの──コメディではないですが、人間が本来持っている存在のおかしさみたいなものを表現したいと思い、それを表現するにはソン・ガンホさんという役者さんは一番ピッタリだなと思いました。

Photo by John Phillips/Getty Images

──(役者さんへ)4名とも素晴らしかったです。是枝監督と他の韓国監督たちとの一番大きな差はなんですか?教えてください。(監督へ)釜山は映画人にとってとても大切な場所だと思いますが、その釜山を舞台にした理由を教えてください。
ソン・ガンホ 是枝監督と韓国の監督との違いは、是枝監督は食が大好きなところです。美食を好み、食べることが好きで、韓国料理が好きです。他の韓国の監督との大きな違いでした。

カン・ドンウォン 監督と仕事して、他の韓国の監督はわかりませんが、現場では本当にそこに一緒にいてくれた。それは本当に素晴らしかったです。役者と共にいてくださる。そして感情をディティールにわたって捉えてくださる。

イ・ジウン 私にとって監督と違うのは、まず同じ言語を話しません。なので努力をします。ちょっとしたディティールも見逃さないように。言語のバリアがあるから、より集中しました。他に参加した映画に比べて面白い体験でした。

イ・ジュヨン 監督との仕事はすばらしいもので、もちろん通訳は入りましたけれども、それ以外はそんなに大きな差は感じませんでした。国籍が違うというだけで、私たちといても非常に監督はリラックスしていましたし、現場の雰囲気もリラックスしたものを作ってくださったので、撮影も快適でした。

Photo by John Phillips/Getty Images

監督 釜山のロケーションについては、映画祭には度々参加しているのですが、いつも食べるのに一生けん命で、撮影を前提に街を見ていなかったというのもありまして、今回ロケハンで結構色んな場所を候補として回らせていただきました。その中で、やはりあの町は坂道が多い。山が迫っている。その立地の高低差みたいなものを活かした場所を、撮影のホン・ギョンピョさんと一緒に探して、結果的にあのような場所を選んで撮影しました。とても魅力的な街で、ソウルとの違いもワンカットで出るという、とても面白い撮影でした。

──(監督へ)撮影で最も難しかったシーンは?
監督 基本的に制作部、撮影部が本当に優秀で、撮影はスムーズに進みました。車のロケーションも合成を使わずに、基本的には全部実際の車を走らせて撮るというやり方をしたのですが、それにも関わらずとても順調だったのですが…、一番難しかったのは、観覧車かな。観覧車が狭くて、僕自身は乗れず。先ほどドンウォンさんがおっしゃってくださったように、なるべく役者の側でお芝居をみて、ジャッジをしたいと思っていたんですけれども、あのシーンに限っては僕は下で待っていて、観覧車が上に行くにつれて音が飛ばなくなるので、どんなやりとりがあったのかというのは戻ってこないと判断ができないような状況もあったりして、そこが一番不安でしたし、撮れたものに一番感動したのも、あのシーンでした。

Photo by John Phillips/Getty Images

──(監督へ)あなたの作品は悲劇として描かれてもおかしくない。でも時にはコメディだし、センチメンタルコメディだと感じました。人間を信じているということでしょうか?人類を信じている気持ちを表現しようとしたのでしょうか?
監督 うん。あの、まぁ置かれている状況は本当に登場人物誰一人として楽観できる人はいないというか、深刻な状況だからこそ、深刻に語るというよりは、どこかで軽やかにということは意識しますし、逆の場合は逆を考えるんですよね。それは一つの戦略でもありますけれども、何かを語って聞かせる時に、悲しい話を悲しそうに語っても聞いてくれないので、そこはむしろ笑える話として届けます。そういう様子を描いていくのは考えますし、この作品に限らず僕自身は、現実の厳しさというものをどこかにきちんと描きこみながらも、やはり最後には人間の可能性とか、ある種の善性みたいなものを描きたいと思いました、特に今回は赤ちゃんを巡る話でもあるので。

──(ソン・ガンホさんへ)監督はパルムドールを2018年に受賞して、フランスで、そして韓国で撮影してこられました。監督のチャレンジをどう思われますか?
ソン・ガンホ 監督は素晴らしい作品を手掛けられてきました。例えば、『真実』。フランス映画です。今もいろんな作品の企画を手掛けられていることを知っています。監督は常に挑戦を受ける方で、そこに感銘を受けます。あるいは感服しています。この作品もそうです。最もワクワクさせる作品の一つです。日本と韓国では文化的な違いがありますが、私たちはそれを乗り越えて幸せに一緒に仕事をすることができましたし、そのことが逆にこの仕事を面白いものにしてくれました。

Photo by John Phillips/Getty Images

──(監督へ)監督はトリロジー三部作をこの作品で完成させているような感覚はありますか?『そして父になる』、『万引き家族』、この作品で終わらせている感覚はありますか?またフランスで映画を作りたいと思っていますか?
監督 繋がりがあるといえばそうかもしれない。『そして父になる』を撮って、こういうインタビューに答えていると、女性は子どもを産むとみんな母親になれるけど、男性はなかなか実感が持てなくて、父親になるには何か階段を上っていかないとなれないというような実感を話した時に、友人から批判をされまして。女性でも産んだ人たちがすぐに母になるわけではなく、母性というものが生まれつき備わっているのだということ自体が、やはり男性からみた女性に対する偏見であるということを指摘されて、それはすごく反省しました。

そのことから、『万引き家族』の安藤サクラさんが演じた産まないんだけど母親になろうとする女性と、今回イ・ジウンさんが演じた産んだんだけれども色んな事情で母になることを諦める女性というその二人の女性像が、自分なりにそこの反省から生まれた二人の女性像という形で。これは本当に姉妹として描いているんですね。だから僕の中でも直線的に『そして父になる』からこの『万引き家族』と『ベイビー・ブローカー』はつながっております。

──(ソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、イ・ジウンさんへ)素晴らしい演技でした。とても強烈なキャラを演じつつも、社会背景だったり、複雑な部分を理解させなければならなかったでしょうが、どんな風に役に命を吹き込みましたか?
カン・ドンウォン ドンスは孤児ですが、彼は赤ちゃんを売っている仲介役です。なので、リサーチでそういう孤児院とか環境で育った方にお話を伺いました。その方々の内面に痛みを感じ、それを映画の中で表現しようとしました。ソヨンと会うときに、彼の痛みは少し和らぎます。それを表現したいと思いました。

イ・ジウン 私にとって初めての母親役、しかも未婚の母でした。なのでスクリーンで表現するのに自分が実際経験したことがほとんどなく、緊張しました。ベイビー・ボックスについては、それが何であるかを知るのに調べなければいけませんでした。シングルマザーという役は慣れ親しんだものではなく、シングルマザーに対しても知識がなかったのでお話をしたり、いろんなインタビューやドキュメンタリーを見たりして、ある程度理解することができました。彼女たちが強い事、でも社会が彼女たちを見下しているということ。この経験で私の彼女たちを見る目が変わりました。

Photo by John Phillips/Getty Images

ソン・ガンホ 同じですね。この映画のすべてのキャラクターは、それまでの人生で幸せを感じていない。幸福だった過去もないし、今も幸福ではない。出会うまでは幸福ではなかった。監督が描いたのは、彼らの日常。それは普通の日常かもしれないが、同時にそこにある暴力性やその恐怖心、苦しみも描いています。それぞれの人生で、そういったことが積み重なってきているわけです。そして客観的な距離のある形でこの世界がどんなに冷たいものか描きつつ、私たちの心を同時に溶かしてきます。僕ら皆のキャラクターのアプローチに、似たようなものがあったと思います。

──赤ちゃんとの撮影はどうでしたか?絆は育めましたか?キャラクターが赤ちゃんに対して想いを描くことでどう変化していくか、そのあたりはどうでしたか?
監督 赤ちゃんは奇跡でした。コロナ禍での準備ということもあって、直接会って、たくさんの中から選ばせていただくことはできませんでした。新生児に近い状況の赤ちゃんを探していたので、色々なケアも考えながら、動画をいくつか見せていただいた中で、僕自身としては一番まわりの音に反応の良い子を選んだつもりです。顔がどうこうとか、母親役のイ・ジウンさんに似ているとか、そういうこととは一切関係なく、音に反応する子ということで選びました。
それは正しかったんじゃないかと思っていますが、撮影の現場で、ソン・ガンホさんが動くと目で追ったり、目の前にいる養父母役の女性の顔に触ったりすることが、もちろん僕の演出ではなく起きていました。彼が電車の中でカン・ドンウォンさんの手をずっと握っていたりして、そういうことが多分大人のお芝居にも活きてきているのではないかと思います。最後、ホテルで(赤ちゃんを)売りに行こうとするサンヒョン(ソン・ガンホ)に語り掛けるように赤ちゃんが大きな声を出してソン・ガンホさんの顔をみるとか、もう二度とできないと思いますが、本当にこういうことが起きるんだなって思う奇跡的な瞬間が、映画の中にはたくさんありました。

ソン・ガンホ 今監督がおっしゃったように、最後のシーンですよね。赤ちゃんが僕を見ていて、「ソン、もういいんじゃない?テイク数、十分だと思うから撮影もうここでいいんじゃない?」、僕も撮影はここで良いと思ったから、まるで赤ちゃんと会話しているような気がしておりました。

Photo by John Phillips/Getty Images

カン・ドンウォン ソン・ガンホさんと僕は共演もしていて仲が良い。イ・ジウンさんのことはよく知らなかったです。映画の中でも二人は仲が良いわけではなかったのですが、ロードムービーのような映画ですから、少しずつ仲良くなっていかなければいけません。その友情が映画と共に育まれていかなければいい。加えて、赤ちゃんの存在があった。赤ちゃんがアイスブレイカーになってくれました。赤ちゃんをきっかけにいろんな話をすることができ、赤ちゃんがきっかけで仲良くなれました。

イ・ジウン 赤ちゃんのリアクションが素晴らしく、上手かったです。困ったことはなく、すごくかわいくて。劇中では母親としてふるまわなければいけなかったけど。本当にかわいくて何の問題もなく、役を演じるにあたり大きな助けになりました。

──(イ・ジウンへ)自分の子どもを捨てるというトリッキーな役だと思いましたが、一番の挑戦は何でしたか?
イ・ジウン 母親役は初めてのことでした。母親役をやったら面白んじゃないかと思っていたら、オファーが来たんです。奇妙な話ですが、すごい偶然でした。今回の母親役を演じるにあたって最善を尽くそうと思っていました。よくある母親ではなく、複雑な過去を持ち、少し影がある。母性もあるけど、劇中ではその母性を持っていないかのようにふるまわなければいけない。赤ちゃんのことを愛に満ちた目で見つつ、その気持ちを隠さなければいけなかったり。

Photo by John Phillips/Getty Images

──(監督へ)捨てられる赤ちゃんについて、デリケートな形で語られた映画だと思いますか?ベイビー・ボックスはすばらしい発明だと思います。そういう状況の見方は変わりましたか?
監督 日本でも韓国でも、この「ベイビー・ボックス」というものへの評価というのは定まっておらず、賛否色々とあると思います。多くは、この物語の冒頭でぺ・ドゥナさんが演じたスジンが発する「捨てるなら、産むなよ」という一言のような、母親に対するバッシングが大半を占めるんじゃないかと思います。そのスジンのセリフからあえて始めつつ、彼女の目線を通して、車の外から見ていたら単なる犯罪者の集まりである彼ら、そして売られていく赤ん坊を見る目線を、2時間の映画を通して色々なところから揺さぶっていきながら、スジンの中で彼女の言葉や、考え方、目線、母親に対する意見がどういう風に変わっていくのか、それが、映画の縦軸になるのだろうなと思いながら作っていました。僕が何か意見を表明するというよりは、映画をご覧になった皆さんがスジンと同じようにあの旅に同行しながら、スジンがそうしたように、見終わった後にそれぞれの今までの価値観をちょっとだけもう一度見つめ直していただけるような、そんな映画であれば良いなと思っています。

以下、その他の写真です。

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

Photo by Gareth Cattermole/Getty Images

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『ベイビー・ブローカー』(原題:Broker)

古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づき警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが…。
〈赤ちゃんポスト〉で出会った彼らの、特別な旅が始まる──。

監督・脚本・編集/是枝裕和
出演/ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン
製作/CJ ENM
制作/ZIP CINEMA
制作協力/分福

日本公開/2022年6月24日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
提供/ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.
配給/ギャガ
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