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2022.04.08 18:00

【単独インタビュー】エドガー・ライトが『スパークス・ブラザーズ』で称える、音楽界の“異端児”

  • Atsuko Tatsuta

エドガー・ライト監督初のドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』が4月8日(金)より日本公開されます。

1945年生まれのロンと1948年生まれのラッセルのメイル兄弟による“スパークス”は、1970年代から現在までカルト的な人気を誇る、米国をベースにしたポップ・ロックデュオ。世界中にコアなファンを抱え、アーティストたちに絶大な影響を与えている知る人ぞ知る存在です。

最近では、スパークスが持ち込んだ原案と楽曲を、フランスの鬼才レオス・カラックスが映画化したロック・ミュージカル『アネット』が公開され、注目を浴びています。

『スパークス・ブラザーズ』は、子ども時代からの大ファンだというエドガー・ライト監督が、貴重なアーカイブ映像や、彼らから影響を受けたというベック、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーといった豪華アーティストを含む約80の人やグループのインタビューを基に、メイル兄弟の軌跡を辿る珠玉のドキュメンタリーです。

2021年のサンダンス映画祭でワールドプレミアされて以来、世界中で絶賛されてきた本作。日本での劇場公開を前に、エドガー・ライト監督がロンドンからオンラインインタビューに応じてくれました。

エドガー・ライト監督

──あなたは、ご両親の影響で子どもの頃からスパークスの音楽を聴いていたそうですね。最初に聴いたときの印象を覚えていますか?また、あなたの人生の節目節目において、どのようにスパークスの音楽と関わってきたかを教えていただけますか。
5歳のときに、「トップ・オブ・ザ・ポップス」というイギリスの音楽番組に出ていたのを見たのが最初だったと思います。同じ頃に、20曲ほどのヒット曲が入った安いコンピレーション・アルバムを両親が何枚か買ってくれたのですが、その中の2枚にスパークスが入っていて、何度も何度も繰り返し聴いていました。インターネットもない時代だから、ヒットを連発しているバンドでもない限り、どんな人たちなのか、そのパーソナリティもよくわからないものでしたが、私は(スパークスの)その“わからない部分”に、逆に興味が湧きました。ということで、私の場合は、5歳の時からの折りに触れスパークスを聴いていましたが、かなり時間が経ってから、それらの点と点が繋がり線となって、スパークスはこういうバンドなのだとわかった気がします。

──彼らはある意味カルトな存在ともいえますが、このドキュメンタリーを撮ることで、彼らをメジャーにしたい、有名にしたいという気持ちはあったのでしょうか?
その通りです。スパークスは世界中に熱心なファンがいますが、それ以上に、多くのバンドに影響を与えています。そのことをもっと広めるべきだと思うし、先ほどの「点と点をつなぐ」という点では、スパークスのことを知っていると思っている人たちでも、彼らの本当のキャリアの核になるものを実はわかっていない人もいると思います。なので、彼らの活動全体を網羅するようなドキュメンタリーにしたいと思いました。一方で、彼らを知らない人にとっては、イントロダクションになるように。そして何よりも、彼らのキャリアを称えるものにしたいと思いました。

──彼らの魅力とは何か、撮る前から把握していたのでしょうか?それとも、撮りながら新たに魅力を発見していったのですか?
二人とは制作に入る2年ほど前に会い、付き合いが始まりました。そこから、彼らは面白く謙虚で、しかもいかに普通の人であるかを知り、特に二人が、“スパークスであり続けること”に自分たちのすべてをかけていることに、とても感銘を受けましたね。私が彼らと過ごした2年間、ロンとラッセルが一緒にいないところを一度として見たことはありませんでした。それだけ、スパークスであることに、ものすごく本気です。

なので、このドキュメンタリーに取り掛かる前から彼らについて理解していた部分もありますが、もちろん制作を始めてからわかったこともあります。例えば、彼らが若い頃に聴いた音楽や生まれ育った土地の文化からの影響など。それらがあってこそ、スパークスは生まれたのだと改めて知りました。

──この作品のために80人ほどの人やグループにインタビューしたそうですが、その人選はどのように行ったのですか?
取材でいちばん大変だったのは、スケジュール調整ですね。インタビューは世界4都市で行いましたが、忙しい人たちもいて、スケジュールに組み込むことにとても苦労しました。

選んだ基準といえば、まず、彼らと一緒に仕事をして、よく知っている人です。もしくは、彼らのファン。そして、彼らから影響を受けたアーティストたち。その中には、ニュー・オーダーやデュラン・デュランといった、スパークスのファンを公言している人もいます。それから、“この人はもしかしたらファンではないか”と思った人にあたりをつけて、尋ねてみたら「そう、ファンだよ!」となったケースもあります。マイク・マイヤーズやニール・ゲイマンがそうですね。ロンやラッセルも、彼らが自分たちのファンだと知らなかったそうで、とても驚いていましたよ。

──ロンドン、東京、メキシコなどのスパークスのツアーにあなたは帯同されていますが、興味深いのは、有名人だけでなく、彼らのファンにもインタビューしていますよね。映画でも観客や映画ファンに目配りをしてますが、アーティストとファンの関係をどう捉えていますか?
熱心なファンがいたからこそ今のスパークスがあるので、ファンが話す機会を作るのも重要だと思いました。スパークスにはいろいろなタイプのファンがいて、いろいろな視点で彼らを解釈して、楽しんでいます。私は、それが良いと思います。例えば、著名なバンドが語るスパークスについてと、いちファンの意見のどちらが偉いのかというのではなく、それぞれの意見にそれぞれの意味があります。

実はこんなにもグローバルなスパークスのファンコミュニティがあったというのは、インターネット時代の前まではなかなかわからなかった事かも知れません。それがネットの発達によって可視化されるようになったのは、とても面白いですね。東京のクラブクアトロでのスパークスのライブを撮影し、その後に外で待っているファンにインタビューしたり、ファンミーティングの様子も撮りました。ファンクラブを通じて、“自分たちならではのスパークスの思い出を教えてください”という企画もやったりもしました。彼らのファンには、10代の人もいるし、60代の方もいました。年齢はそれぞれだけれど、同じようにスパークスに対する思いがあって、それがとても良いなと思いました。

Photo: SPARKS / Courtesy of Focus Features

1975年にステージに突入していった、ジュリア・マーカスという14歳の女の子がいたのですが、彼女のインタビューも取れました。ロンにしがみつこうとする彼女を引き離したスタッフのリチャード・コーブルのインタビューもとれました。1975年と今、歴史が繋がり一つになった気がしました。今回のドキュメンタリーで、個人的に特に好きなシーンですね。

──その二人は、あなたが探し出したのですか?
このドキュメンタリーのために、スパークスや私のSNSを通じて、“スパークスとの思い出や写真がある方は教えて欲しい”と告知したのですが、ジュリア・マーカスはその中で見つけました。またそのリチャード・コーブルは、今ではマドンナとかザ・ローリング・ストーンズのツアーマネージャーもやっているほどの大物なのですが、スパークスが彼の出発点でした。なので、彼を見つけるのは簡単でした。それぞれに当時の映像を見てもらい、インタビューしました。

──ロック・ミュージカル映画『アネット』は、スパークスがレオス・カラックスに企画を持ち込んで、映画化が実現しました。スパークスはミュージカルに興味があって、さらにフランスの伝説的な監督に頼んだということは、正直少し驚きでした。この映画でも、『アネット』の撮影現場にカメラが入っていますね。どのような経緯で取材できることになったのでしょうか。
2015年に私が最初にスパークスに会った時、ラッセルの家でコーヒーを飲んだのですが、その際に、ミュージカル映画をレオス・カラックスと一緒に撮る企画があると聞きました。カラックスは私の好きな監督でもありますし、『ホーリー・モーターズ』も好きだったので、それはすごい企画だと、とても驚きました。

2018〜19年にかけて、このドキュメンタリーの撮影に入りました。最後の撮影は日本でだったのですが、その後に私は『ラストナイト・イン・ソーホー』の撮影に入り、同時にこのドキュメンタリーの編集も進めていました。でも、その時点でも『アネット』の方は、完全なゴーサインが出ていませんでした。

結局、『ラストナイト・イン・ソーホー』の撮影が終わる頃に、『アネット』の制作が決定したと聞きました。それで、(『アネット』が撮影されていた)ブリュッセルのスタジオに撮影に行きたいと申請し、承諾をもらいました。許可をもらうことは大変ではなかったのですが、レオス自身は、撮影中はインタビューを受けないということでした。私自身も監督なのでそれは理解ができることでしたし、期待しませんでした。

『アネット』の撮影スタジオに着いて、車から降りると、スタジオの外でタバコを吸っている人がまず目に入ったのですが、それがレオス・カラックスでした。「こんにちは」と挨拶をしたら、「君が監督なんだね」と言われ、少し言葉を交わしました。

Photo: Richie Starzec / Focus Features

──スパークスが作曲してくれるなら、あなたもミュージカル映画を撮りたいのじゃないですか?
実はロンとラッセルは、次のミュージカル映画(の曲)を書いていて、内容も知っています。かなりワイルドなコンセプトです。今の時点では私が監督をするという話にはなっているわけではありませんが、『アネット』もとても楽しめたので、面白くて野心的、ワイルドなものであれば、そしてそれをスパークスが曲を書くのであれば、モダンオペラになることはわかっているので、とても興味はありますね。

──この作品に限らず、『ベイビー・ドライバー』や『ラストナイト・イン・ソーホー』などからも、あなたがポップミュージックに興味があることは明らかですが、あなたにとってポップミュージックとは何でしょうか?
ロンとラッセルと私には、ちょっと似ているところがあります。私が彼らのことを興味深いと思う理由もそこだと思うのですが、彼らは「ポップ・ミュージックは、3分間のシングル」という言い方をしています。「3分間の中で作られたポップミュージックというフォーマットに興味を失ったことは一度もない」と。なにか超越した野心的なことをやってみようとするけれど、結局は、「ポップ・ミュージックは3分間のシングル」というところはブレません。これはふたりが貫いてきた部分だし、私が面白さを感じているところでもあります。

アーティストは往々にして、ポップミュージックは表面的すぎると思う傾向にあり、バカにしたりしますが、彼らにそういうところが一切ないのが、素晴らしいところです。私も常に新しいポップミュージックをできる限り聞いて、吸収するようにしています。

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『スパークス・ブラザーズ』(原題:The Sparks Brothers)

監督/エドガー・ライト
出演/スパークス(ロン・メイル、ラッセル・メイル)、ベック、アレックス・カプラノス、トッド・ラングレン、フリー、ビョーク(声)、エドガー・ライト ほか

日本公開/2022年4月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイント他全国公開
配給/パルコ、ユニバーサル映画
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