Column

2022.02.18 18:00

【インタビュー】『355』セバスチャン・スタンが女性スパイたちに対峙した革新性

  • Atsuko Tatsuta

※本記事には映画『355』のネタバレが含まれます。

5人の女性エージェントが世界を救うミッションに挑むスパイ・アクション大作『355』が公開されました。

コロンビアの麻薬王の息子が開発した危険な秘密兵器である万能デジタル・デバイスが盗まれた。第三次世界大戦を誘発しかねない緊急事態に対処するため、CIAは敏腕エージェントのメイス(ジェシカ・チャステイン)とそのパートナー、ニック(セバスチャン・スタン)をパリに送り込む。新婚夫婦を装ったふたりは、デバイスを手にしたコロンビア人の特殊部隊要員ルイス(エドガー・ラミレス)と取引きを試みるが──。

プロデューサー・主演を兼ねたジェシカ・チャステインの下、過去にトラウマを抱えるBND(ドイツ連邦情報局)のマリー役のダイアン・クルーガー、最先端のコンピューター・スペシャリストでMI6のハディージャ役のルピタ・ニョンゴ、コロンビアの諜報組織に所属している優秀な心理学者グラシー役のペネロペ・クルス、中国政府で働くリン・ミーシェン役のファン・ビンビンといったスター俳優が結集。

注目のシスターフッド映画に、主人公メイスの同僚であり恋人でもあるニック役で出演したセバスチャン・スタンが、オンラインインタビューに応じてくれました。

──女性たちが活躍するスパイ映画で悪役を演じるのは、いかがでしたか?
大好きな俳優たちと一緒に演じられたので、とても心地良い時間でした。『オデッセイ』でも一緒だったジェシカ・チャステインやサイモン・キンバーグと再び仕事ができるのは本当に楽しみだったし、いろいろな意味で再会の機会となりました。

──このプロジェクトのユニークだったところは?もともとはジェシカ・チャステインの企画とのことですが、女性のエンパワーメントという側面は、撮影に入る前から感じられましたか?
このプロジェクトの他にはない特徴的だったところといえば、俳優たちと監督・脚本のサイモン・キンバーグが非常に親密にコラボレートしていた点だと思います。いろいろな面でインディー映画を撮影しているような感じもしました。パリやモロッコ、ロンドンといった異国情緒溢れる場所でロケを行い、予算規模も大きい今回のような映画が、そんな風に制作されることは異例です。もちろんそれは、ジェシカのおかげです。彼女が企画をサイモンに持ち込んで、キャストも揃えたのだと理解しています。『オデッセイ』の時から彼女のファンですが、それからも連絡はとりあっていて、今回の映画に誘われた時は本当に興奮しました。

──素晴らしいキャストが揃っていますが、あなたが参加した時点で、他に誰が決まっていましたか?それにより、あなた自身の判断が影響されたところはありますか?
僕は2019年の1、2月頃にジェシカから連絡をもらい、この映画の話を軽く聞きました。彼女から連絡をもらえただけで十分に興味を惹かれたのですが、ルピタやペネロペ、ファン・ビンビン、後にダイアンとなりましたがその時はマリオン・コティヤールも参加すると聞いて、なんてクレイジーなんだと思っていました。これだけの素晴らしい女性キャストが同時にスクリーンに登場したことが今まであっただろうか、と。「僕は何の役?参加するから、進めるのに僕から必要なものを教えて」と返事をしました。その後に、自分の役のキャラクターについてジェシカやサイモンと一緒に考えられたのは、おまけをもらったようでした。企画も脚本もまだフレキシブルな状態で、「あなたの役についてどう思う?好きなところは?どこを変えたら良い?意見やアイディアを聞かせて」と尋ねられました。今回のような規模のプロジェクトでそんな会話が出来るのは、とても稀です。

──ニックの行動に理解できるところはありましたか?
彼のことを、単なる悪い人物とは見ていませんでした。ジェシカが演じたメイスとニックの間には、非常にトリッキーな関係があるように見えました。二人のケミストリーはとても良く、CIAの同僚としていつも一緒にミッションをこなし、様々な面で非常に距離の近い存在でした。もしかすると近すぎたのかも…。この映画は二人の関係の始まりから終わりを描いているもので、その視点で僕は磨きをかけるように心がけました。誰が良い人で、誰が悪者というのではなく。

──劇中にはアクションシーンも多く登場しますが、男性を相手にする時と比べ、女性が相手で異なったところはありましたか?
男性は実際よりもタフであるように見せかけることも多いですが、女性は本当にこてんぱんにしてきます(笑)。入念なコレオグラフィーと厚い信頼が要求される点は変わらず、それはエドガー、ジェシカをはじめ、この映画でアクションシーンがあった全員に共通することです。それから、動きが自然に見えるようになるまで、何度も何度も繰り返すことも求められます。

──役作りにおいて、トレーニングなどはされたのですか?スタントダブルの方はどの程度入っていらっしゃるのでしょうか?
撮影が始まる1ヶ月前からアクショントレーニングをすることができました。最近では、時間の関係からそれだけの事前準備を出来る映画は少なくなりましたがね。今回は大作映画に出演したり演出を手掛けてきたスタントチームや軍事顧問についてもらうことができました。中には、スピルバーグ監督作の中でも特に大規模なものに参加していた方もいました。よく観てもらえればわかると思いますが、どのキャラクターにもそれぞれの戦闘スタイルがあります。彼らに、一つ一つの動きをキャラクターに合わせて見てもらうことが出来たので、非常に助けられました。特に、橋でのアクションシーンには1ヶ月の準備期間があったのですが、準備を重ねる毎に良くなっていくのがわかりました。

──スパイ映画が人々の興味を惹くのは、何故だと思いますか?あなたが最も好きなスパイ映画は?
すぐに回答するのが難しい質問ですね…もう少しスパイ事情を調べてみないと。スパイは複数の人物を装うことが求められることが多く、それは複雑で興味深いキャラクターにつながります。その点では、潜入捜査官と似ていますよね。出来る限り相手の信用を得るために、自らの生命をも危険に晒すこともあります。そして、「どの時点から、本来の自分を忘れ、成りすまそうとしている人物になりきってしまうのか」という問題も出てきます。これらはキャラクターに魅力を与える素晴らしい要素ですね。

良く出来たスパイ映画は、万人に気に入ってもらえるものだと思います。数多くの名作がありますが…70年代のロバート・レッドフォード主演作『コンドル』などは昔から大好きです。このジャンルは、やり過ぎだと思えるものもあれば、ユニークなアプローチの作品に出会えることもありますが、本作は新しいフレッシュなものになったと思っています。

──本作で最大のチャレンジとなったこと、新しい経験だったことは?
撮影が終わり、お別れをしなければならなかったことかな…(笑)。本当に最高の時間だったので。2019年の夏、パンデミックの前のことです。もはや、その頃あたり前にあった自由な世界を思い出すのも難しいですがね。今回は、ロンドンやパリといった素晴らしい街で、ロケを行うことができました。グリーンバックではなく、ヨーロッパの古くからある橋の上などでね。アクションシーンの多くは俳優が自ら演じたのですが、今回の現場は新しいアイディアや意見に対してとにかく前向きでした。“この体験は自分のものになるのだから、それがどういうものになるかも自分次第”という感じで、より多くを持ち込めば、より多くのことを得られる環境でした。この企画への参加が決まった最初の段階から、思い切り自由に、出来る限りのものを自らこの役に持ち込むよう促されていました。上手くいった部分は完成した映画に残り、そうでないところは残らなかっただけ。いずれにせよ、今回のようなロケでこれだけ自由にさせてもらえるというのは本当に幸運で夢のようなことでしたし、もっと出来たら良いなと思っています。

──あなたはルーマニアで生まれ、アメリカに移り住む前にオーストリアで過ごされた時期もありました。そうしたご自身の経験がこの映画に生かされているところはありますか?
ウィーンにいた頃はまだ小さく、8歳〜12歳の4年間でした。その頃はドイツ語を上手く話せていましたが、その後にアメリカに来てからは、英語がすべてに取って代わりました。同様の経験をした方ならわかると思いますが、その頃はとにかく生きていくことが最優先で、ドイツ語を練習する相手もいませんでした。正直、自分での練習は面倒なのでしてきませんでしたが、そうするしかないのかもしれませんね…。

その一方で、母がルーマニア人なのでルーマニア語はまだ残っていて、流暢に話せます。この映画でもルーマニア語を少し使うよう勧められました。今回に限らず、ルーマニア語を使ったり、自分の過去につながることを映画に取り入れてもらえると、本当に嬉しいです。その理由はと言えば、これまで長い時間をかけて、自分の生い立ちを理解しようと過去を振り返り、いくつもの国を転々としてきたのは自分にとって良いことだったのだと受け入れられるようになりました。いろいろな国で暮らしいろいろな経験ができたのは本当に幸運だった、今の仕事は一箇所に留まらずにいろいろな場所を転々とするのだから、その助けにもなっている、と。

それから、12歳からアメリカで生きてどんなに自分が“アメリカ人”になっていても、ヨーロッパに来る度に、ここが自分のルーツだという親近感を感じます。特に最近2年くらいは。今は、ルーマニアを含めそうした自分の生い立ちの部分にもっと関われるよう、そのやり方を探しているところです。こうした国の監督や脚本家、俳優をもっと知ることが必要だとも思っています。

『355』は、“外国映画”とは呼べないかもしれませんが、そうした要素は所々に入っていると思います。それぞれが自分の言語を話しているのもとても良いと思うし、異なる国を舞台に、異なる文化や経験をキャラクターが反映しつつ、一つの映画として物語が成り立っているというのも、上手く出来ていると思いました。この映画を多文化でダイバーシティに富んだものにしたいというのは、ジェシカをはじめ皆が特にこだわった点でしたからね。

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『355』(原題:The 355)

キャスト/ジェシカ・チャステイン、ペネロペ・クルス、ファン・ビンビン、ダイアン・クルーガー、ルピタ・ニョンゴ、エドガー・ラミレス、セバスチャン・スタン
監督/サイモン・キンバーグ
脚本/テレサ・レベック、サイモン・キンバーグ
製作/ケリー・カーマイケル、ジェシカ・チャステイン、サイモン・キンバーグ
製作総指揮/リチャード・ヒューイット、エスモンド・レン、ワン・ルイ・ファン
音楽/トム・ホーケンバーグ
2022年/イギリス/英語/カラー/ドルビー・デジタル/スコープ/122分/PG-12/字幕翻訳:チオキ真理
US公開/2022年1月7日予定

日本公開/2022年2月4日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
提供/木下グループ
配給/キノフィルムズ
公式サイト
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