Column

2021.10.15 10:00

【単独インタビュー】ケイシー・アフレックが『Our Friend/アワー・フレンド』で経験した感情の旅

  • Atsuko Tatsuta

全米雑誌大賞を受賞した実話エッセイを映画化した『Our Friend/アワー・フレンド』は、妻が余命を宣告された夫婦とその親友の友情と絆を描いた感動のドラマです。

ジャーナリストのマット(ケイシー・アフレック)は、舞台女優の妻ニコル(ダコタ・ジョンソン)と幼い娘二人を育てながら多忙な日々を送っていた。が、ある日、ニコルが末期ガンに侵されていることがわかり、余命宣告を受けてしまう。愛する妻の看護と子育てで追い詰められたマットに救いの手を差し伸べてくれたのが、ふたりの親友デイン(ジェイソン・シーゲル)だった──。

米国の一流誌「Esquire」に掲載され、全米雑誌大賞を受賞したマシュー(“マット”)・ティーグの実話エッセイを基にした『Our Friend/アワー・フレンド』は、英国アカデミー賞ノミネートを始め数々の映画賞で高く評価されたドキュメンタリー『Blackfish』(13年・日本未)などで注目される新進監督ガブリエラ・カウパースウェイトの最新作です。

製作総指揮にはリドリー・スコットらが名を連ね、ニコル役に『フィフティ・シェイズ』シリーズで知られるダコタ・ジョンソン、デイン役にはジャド・アパトーによるプロデュース作の常連でもある人気コメディ俳優ジェイソン・シーゲル、マット役には『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したケイシー・アフレックと、実力派のスター俳優陣がキャスティングされました。

ガス・ヴァン・サント監督の『GERRY ジェリー』(02年)で共同脚本、さらには『容疑者 ホアキン・フェニックス』(10年)、『ライト・オブ・マイ・ライフ』(19年)では監督も手掛けるケイシー・アフレック。日本公開に際し、原作者でもあるマットことマシュー・ティーグを演じた舞台裏をオンラインインタビューで明かしてくれました。

──原作となっているマシュー・ティーグのエッセイは、喪失と悲しみ、友情、献身について書かれている感動的なストーリーですが、このプロジェクトの何があなたを惹きつけたのでしょうか。
マットのエッセイは、とてもよく書かれた記事だと思いました。妻を失うマット・ティーグという人物にとても共感できたし、今おっしゃったような、友情や哀しみといったこの記事にあるテーマにはどれも共感できるもので、かつ理解できました。それぞれのシーン、それから映画全体がとても力強いドラマになると思いました。それと、映画のプロジェクトでいえば、ジェイソン・シーゲルやダコタ・ジョンソンと一緒に仕事をしてみたいとも思いました。

──ブラッド・イングルスビーによる脚本は、原作のエッセイとはまた違う、映画ならではの構成が素晴らしかったと思いますが、脚本を読んだときの感想は?
脚本を読んで、深い哀しみの中でもユーモアのある瞬間を見い出していたところがとても気に入りました。時には一つの感情だけで描かれる映画もありますが、この映画はそうなっていないところが良かったと思います。どのシーンにも幾層もの深いレイヤーがあって、それが重なりこの映画を複雑で奥深いものにしていると思います。

──実際の血縁関係にある兄弟や親類よりも、時には他人の助けが救ってくれることがありますが、ティーグの物語はその大切さを伝えてくれているように思います。
友情をはじめ人との関係というのは私にとって非常に大切なもので、それがいかに価値のあるものか、歳を重ねるごとに理解が深まっているように思います。

──マット・ティーグ役を演じるにあたり、監督のガブリエラ・カウパースウェイトからはどのようなリクエストやアドバイスがあったのでしょうか?
まず、“もっと背の高いハンサムな男性で……”と言われました(笑)。というのは冗談で、マット・ティーグに似せようと心配しなくていいと言われました。脚本の時点で既に若干異なっているのだから、人物を完璧に真似ようとするのではなく、この映画の心(真意)をきちんと捉え、登場人物がそれを映し出すことが最も重要だ、と。

──マット・ティーグの経験に、どのように感情移入していったのですか?
そうですね、うーん、これは説明するのが難しいというか、この質問は以前にもされたことがあったのですが上手く答えられたことはなく……。役に対する俳優の責任というのは、その日に必要となる感情一式を自分の“道具箱”に入れて、現場に入ることだと思います。画家が必要な絵の具を持って行くのと同じように、俳優は現場に来て、怒りや悲しみ、喜び、情欲、後悔といった様々な感情を取り出せなければなりません。これが私が30年やってきていることと言えるでしょう。俳優は、自分の感情を表現できるという点でとても良い仕事です。多くの人は仕事に行って、一日中泣いたり皆を笑わせたりすることはないでしょうからね。自分のリアルな感情を仕事場に持ち込み表に出せるのは、俳優という仕事の特典だと思っています。心理カウンセリングに行くのとちょっと似ているかもしれませんが(笑)、でも報酬ももらえて、良い人たちと一緒に仕事ができますからね。マットというキャラクターはたくさんの感情を抱えていて、恋に落ち、でも妻に不倫され、でも彼は子どもたちを愛し、でも同時に妻への怒りもあり、そしてその妻を亡くすわけで、本当に多くを経験しています。それに対して、必要に応じてこの“小さなカバン”に入れて仕事場に持っていけるだけの痛みが、私の人生にもあったのだと思っています。

──今も存命の人物を演じる上で、困難なところはありましたか?
監督から早い段階で、マットになりきろうと真似をしたりしないで欲しいと言われたことで、私もそうする必要はなかったし、見た目も話し方も彼に合わせる必要はありませんでした。重要なのはそこではなかったし、脚本もそのようには書かれていませんでしたから。でも、(二人の)子どもたちが、恥ずかしさや辛さを感じてしまう映画にはしないように、深い責任を感じていました。彼女たちはもうたくさんの経験をしているし、この映画を作って欲しいと頼んだわけでもなければ、この映画から何かを得ようとしているわけでもないのですから。彼女たちが嫌な思いをすることがないよう、一つ一つのシーンにしっかり気を配っていく必要があると思っていました。

──マット・ティーグとは実際にお会いしてアドバイスをもらったりしたのですか?
はい、彼とはかなり話しました。それから娘さんたちとも。私にとって、彼の子どもたちが満足できる映画にすることが非常に重要でした。それからマット・ティーグは、撮影現場にも来てくれました。初めてセットを訪れた時は、私が演じているところを(セットの)外のモニターで監督やプロデューサーと一緒に見ていたのですが、私は彼の意見が気になって、外に行って聞いてみよう思っていると、ちょうどその時、何かが倒れるような大きな金属音がしました。今のは何だと思いながら外に行ってみると、マットがうつぶせで倒れていました。モニターを見ていたら突然気を失ってしまったそうで、これはとても良い反応か、非情に悪い反応のどちらかだろうと思っていたところ、彼が目を覚まし、興奮すると気を失ってしまうのだと説明してくれました。良し悪しはともかく、彼にはとにかく楽しんでいたというわけですね。

──このストーリーの中でデインは、自らの生活を投げ売ってティーグ夫妻に献身しますが、彼はなぜそこまで尽くしたのだと思いますか?
人々の中には、彼のように自分の人生を差し置いて、他人を助けることに身を投じられるような大きな器の人もいるのだと思います。私自身はデインのことを直接は知りませんが、思うに、彼はとても落ち込んで辛い時期を過ごしていたのだと思います。一旦全てを捨てて友人のところに駆けつけ、サポートすることが、彼にとってもその辛い時期を乗り越える手段になったのだと思います。これはあくまで想像の話ですが。

ケイシー・アフレック(左)、ジェイソン・シーゲル

──カウパースウェイト監督との仕事はいかがでしたか?撮影現場で印象に残っていることはありますか?
仕事相手の中には、お互いうまく仕事を終えてもう顔を合わせない人もいて、それはそれで良いのですが、ギャビー(カウパースウェイト)のことはこの映画で初めて知って、本当に大好きになりました。この映画を通じて非常に尊敬するようにもなったし、彼女の性格がとても好きになりました。生き生きと楽しい現場にしてくれて、特にこの映画はテーマが残酷ですから、ある種の明るさやユーモアが必要でした。ギャビーは元気に溢れ、とても面白くて、笑いながら良い時間を過ごすのが大好きです。そんなところが私も大好きでした。それから彼女は、俳優のこともとても気にかけてくれます。監督の中には俳優を気にかけず特に興味を示さない方もいますから。でもギャビーは好んで俳優と話したりしてくれて、とても良ったですね。

──マット・ティーグ自身や娘さんたちが、完成した映画を観てどのような反応を示したかご存知ですか?
ほぼ全て気に入ってくれたそうです。僕のこと以外は(笑)。とても親切で丁寧な方たちで、この映画のことを温かく応援してくれました。本当に優しい一家です。

──あなたがアカデミー賞主演男優賞を受賞した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は“残された子ども”についての話でしたが、このテーマはあなたのキャリアで何度も出てきますね。こうしたキャラクターを演じる魅力は?
まず、映画の話をもらった時に、キャラクターが最も魅力的な要素ではなく、監督や脚本が一番の要素な時もあります。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は私が今ままで読んだ中でも最高の脚本の一本でした。ケネス・ロナーガンは特に好きな監督・脚本家ですからね。どんな役でも出演していました。あの役で気に入ったところと言えば、彼はとても辛抱強く(立ち直る力があり)、最悪な出来事が起きた中で、諦めたいと思う気持ちもありながらも、また状況が良くなっているわけでもないながらも、彼は諦めずに進み続けた。そこに美しいものがあったと思いました。

──あなたが監督も手掛けた『ライト・オブ・マイ・ライフ』は、謎の感染症によって妻を亡くした男が、娘を守り抜くというストーリーでした。“最愛の人を亡くした”という点が、本作と共通するのは偶然でしょうか?
その点は全く思いもしませんでしたね。なので、単なる偶然だと思います。あの作品は完全に私が作り上げた物語ですから。私はアポカリプス映画が大好きなのですが、子どもを持つ親としては、周りのあらゆることが自分の子どもに対する脅威のように思える時があって、その感覚を描きたいと思いました。なので、周りの世界が子どもに対して実際に脅威となったとしたら、というアイディアを基に映画を作ることにしました。一方で、『Our Friend/アワー・フレンド』は、ギャビーから送られてきた実話。妻や愛する人を失う役を演じるのが特に好きなわけでもなく、単なる偶然ですね。

──なるほど。ちなみに、特にお好きなアポカリプス映画は?
『ワールド・ウォーZ』、『マッドマックス』、それから…たくさんありすぎて…、『アイ・アム・レジェンド』やB級のゾンビ映画も大好きです。何かまだ大事なのを忘れている気がするのですが……。

日本の映画だと、宮崎監督の映画は特にアポカリプスなわけでは無いですが、いつも不思議な別世界のような場所が舞台になっていますよね。

第89回アカデミー賞授賞式でのアフレック Photo by Mike Baker / ©A.M.P.A.S.

──ここ1年半ほどのコロナ禍において、映画人の一人としてあなたはこの状況に対処していますか?
そうですね、様々な形で対処していますが、時には上手くいったり、時には上手くいかなかったりと、難しい時期ですよね。ある程度の不安や憂鬱、困惑は皆が感じていることだと思いますが、私は、自分の子どもたちが置かれた状況を少しでも良くすることに集中して、全力を注いできました。それが私のこの1年のフォーカスですね。おそらくこの状況は、私よりも子どもたちにとって辛いものだと思いますから。

それ以外の話をすると、この状況は結果的には世界にとても良い変化をもたらすと思っています。生きるのにはとても興味深い時期ですよね。これまで世界が目指していた方向を、全く想像できないような形で変えてしまうチャンスがたくさんあります。それが現実に起きていて、おかげでこれまでの歴史の流れを壊す余地が出てきました。20代や私の子どもたちといった次世代の若い方たちというのはとにかく素晴らしくて、私たち全員が一緒になって皆の生活を良くする様々な方法があることを、上の世代に教えてくれていると思います。私が学んだのは、親は子どもに色々と教えていると思いがちですが、実際のところ、子どもから親が学ぶことの方が多いこと。今は世界全体が、そうしたことを若い世代から学んでいるのだと思います。これが現実に起きているのは、見ていてとても楽しいです。多くの人にとってはとても非常に辛い一年だったと思いますが、これが特別に美しい春を迎える前の冬であることを願っています。

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『Our Friend/アワー・フレンド』(原題:Our Friend)

監督/ガブリエラ・カウパースウェイト
脚本/ブラッド・イングルスビー
原作/マシュー・ティーグ「The Friend: Love Is Not a Big Enough Word」
キャスト/ケイシー・アフレック、ダコタ・ジョンソン、ジェイソン・シーゲル、チェリー・ジョーンズ、グウェンドリン・クリスティー
2019年/米/英語/126分/カラー/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳:神田直美/G

日本公開/2021年10月15日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー!
配給/STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト
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