【単独インタビュー】『メインストリーム』ジア・コッポラ監督
- Mitsuo
アンドリュー・ガーフィールド&マヤ・ホークが共演した『メインストリーム』は、YouTuberとして突如ブレイクした男の狂乱を描いた青春映画です。
舞台は、夢と野心が交錯する街・LA。さびれたコメディバーで働きながら、映像作品をYouTubeにアップする日々を過ごすフランキー(マヤ・ホーク)は、ある日、天才的な話術のリンク(アンドリュー・ガーフィールド)と出会い、そのカリスマ性に魅了されます。ふたりは作家志望のジェイク(ナット・ウルフ)を巻き込み、本格的に動画制作を開始。「ノーワン・スペシャル(ただの一般人)」と名乗るリンクの破天荒でシニカルな言動を追った動画は、かつてない再生数と「いいね」を記録。リンクは瞬く間に人気YouTuberとなり、3人はSNS界のスターダムを駆け上がっていきます。ところが、刺激的な日々と名声を得た喜びも束の間、リンクの暴走は歯止めの効かない状態に──。
主人公リンクを演じるのは、『ソーシャル・ネットワーク』(10年)でゴールデン・グローブ助演男優賞に初ノミネートされ、その翌年には『アメイジング・スパイダーマン』の主役に抜擢、『アンダー・ザ・シルバーレイク』での怪演も記憶に新しいアンドリュー・ガーフィールド。プロデューサーとして本作の製作にも携わっています。
リンクに魅了され、映像プロデューサーとしてSNSの罠にハマっていくフランキーを演じたのは、マヤ・ホーク。ユマ・サーマンとイーサン・ホークを両親にもち、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』やNetflixオリジナルシリーズ『ストレンジャー・シングス』への出演でブレイクを果たしたハリウッドの注目株です。
監督・脚本を手掛けたのはジア・コッポラ。フランシス・F・コッポラの孫で、ソフィア・コッポラの姪にあたる映画界のサラブレットともいえるジアですが、批評家から高評価を受けた監督デビュー作『パロアルト・ストーリー』に続く長編2作目にあたる本作でも、2020年のベネチア国際映画祭オリゾンティ部門に選出され、全米公開時に激論を巻き起こしました。
人気YouTuberへと駆け上がろうとする若者たちの野心と狂気の行きつく果てを描いたジア・コッポラ監督が、日本公開に先立ち、Fan’s Voiceのオンラインインタビューに応じてくれました。
──日本ではYouTuberが子どもたちのなりたい職業1位にランクインするほどの人気です。あなたから見て、YouTuberの何が人々を惹きつけるのだと思いますか?
とても簡単に大金が稼げ、名声や人気も得られるのが魅力なのでしょうね。今日の世界ではそうしたことが重要視されるようなので。誰でもパソコンなどを使えば始めることができますし。
私がこの映画を作りたいと思った理由の中には、そうした名声や人気を皆が重要視する中で、強い疎外感を感じていたことがあると思います。ただただ何時間も話し続けたり、パッケージを開封したり、家のパントリーにあるものを紹介したりするだけの、ストーリー性もないコンテンツになぜ人々が引き込まれるのか、私にはよくわかりませんでした。その答えを私が本当の意味で理解できることはないと思いますが、でもこの映画を作る過程で多くのことを学び、以前の偏った視点に比べ、様々な側面から捉えられるようになったと思います。とにかく「一体何が起きているの!?」と感じていた状態からは多少は解放されました。
──SNSの登場は人々の関係にも変化をもたらしたと思いますが、実際にあなたもそういった影響を実感していますか?
はい。それも私がこのテーマに興味を持った理由だと思います。SNSは、最初は親しい人同士でいろいろシェアしたり、新たに人と知り合える楽しい場所だったと思います。でもその後には、他人と比較し絶望する、精神衛生上も良くない習慣であることに気づき、さらには、その背後にあるのは企業であり、ユーザーは“機械の歯車”でしかないことがわかってきました。どうすればこの“ハムスターの回し車”から抜け出せるのかが私の中での大きな疑問となっていき、抜け出すための唯一の方法は、中に入ることだと思いました。その疑問が完全に解決できたとは思っていませんが、私は、SNSとは以前とは異った関係を築けていると思います。
──この映画にはYouTuberやインフルエンサーが何人も登場しますが、出演してもらうのに説得等は必要だったのでしょうか?彼らとはどんな会話をしましたか?
彼らは自分のことを“俳優”と思って参加しています。自分のコントロール下にない現場で、普段の自分の動画と同じようにふるまうのを嫌がるケースもありますので。多くの若いインフルエンサーと知り合ってすぐにわかったのは、彼らは非常に博識で、その活動の背後では本当に多くの才能が活かされていること。会話を通して彼らの視点や、いかにフォロワーを大切にしているかも知り、私の知らなかったこの分野の良い面や長所を知ることができたし、とても刺激を受けました。ただ、どんな場所でも“悪魔”に支配されてしまうのはあり得ることで、大勢の聴衆がいる場所は特に危険ですね。
──好きなYouTuberはいますか?
私自身はYouTubeはあまり見ませんが、若い人たちにとっては、生活の中で重要な役割を果たしていることは理解しています。ただ、今回の映画でフアンパ(Juanpa Zurita)と知り合い、大好きになりました。心優しく陽気で、大切にしたくなる存在です。
──リンクのモデルになった人物等はいるのですか?
彼のような軌跡をたどったキャラクターは、これまでもたくさんいると思います。1人がモデルというよりは、昔からある物語のようなものですね。大勢から慕われて自分がエゴに支配されたときに、どうするか。多くの人から尊敬される立場には、特に危険が孕んでいます。またそうした対象に、人々は集団として過大な評価と注目を浴びせ、精神的崩壊を招くこともあります。そうした中で、私たちの立ち位置とは…?もちろん、アンディ・グリフィス主演の『群衆の中の一つの顔』(57年)は大好きで、本作の構造面でも大きな影響を受けています。
──アンドリュー・ガーフィールドとは以前から面識があったそうですが、リンク役に起用した理由は?
昔からアンドリューのファンでした。非常に才能ある俳優であることは言うまでもありませんが、ヒーロー役を多く演じて良い人のイメージがついている彼が、嫌われ者のキャラクターになっていくことで、本作では物語が追いやすくなるという考えもありました。それから彼とは、私がSNSについて感じていたことや、ポップカルチャーが好むものと自分の興味との乖離、その中におけるアートの居場所などについて話したのですが、彼はとても知的で強く興味を持っていました。こうした大きなテーマを、共感できるキャラクターに詰めて物語を牽引していくのに、彼は素晴らしいコラボレーターになるだろうと思いました。それから彼はダンスも上手だし、笑いも取れる人です。これまでの役であまり見せられなかった彼のそうした面を、この作品で見せたいとも思いました。
──マヤ・ホーク演じるフランキーにあなた自身が共感する部分はあったのですか?
私にとってフランキーは、自分が何をしてどんな人間になりたいのか、模索して時には迷いながら道を切り開いていく、困惑している20代を象徴しています。非常に不安定で浅はかで、人生においてまだ未熟な段階です。一方で、マヤ自身は非常に自信に溢れている人なので、このキャラクターに共感するのに苦しんでいたし、楽しい役ではなかったと思います。
──ハリウッド大通りをはじめ地元LAの街も印象的に映し出されていますね。
はい、この街が大好きです。私自身、ハリウッド大通りの近くに住んでいて、この通りやそれが象徴するものにはとても魅力を感じています。それから、ある意味でインターネットのメタファーのようにも感じられます。スターになるのを夢見て大勢の人々がやって来ますが、実際は非常にダークなところですからね。また、ハリウッド大通りを歩いていると色々なコスチュームを着たキャラクターにも出会えることから、リンクも、代わる代わるコスチュームを身にまとう風変わりな人にしました。彼のような薄汚いインチキのような人物でも、人々が求めるカリスマ性と発言ができれば、インフルエンサーになれるのだと。
──撮影期間はどのくらい?
19日で撮りました。今日のインディペンデント映画では当然ですが、1日あたりのコスト負担がとても大きくなるので、早く終えなければなりません。とても難しかったし、大きなチャレンジとなりましたが、皆で協力して終わらせることができました。
──今作ではそれが最も大きなチャレンジだったのでしょうか?
そうですね。1日でも多くの撮影日数を確保しようと工面する一方、全く時間のない中で速やかに物事を進めなければなりませんでしたからね。でもどうしてもこの映画は作りたかったので、どんなことをしてでも完成させるつもりでいました。
──本作では、人気や再生回数を追い求めることの危険性とあわせて、観客こそがリンクの暴走を助長し、“モンスター”を作り上げていることも描かれています。映画中で描かれるような悲劇が起きないようにするための責任の所在は、どこにあると考えていますか?
難しいですよね。どのように防いでいくかは、皆が一体となって考えなければならない課題だと思います。人々の多くの価値観がズレていることを認識するほかに、解決方法はわからないのですがね。でも、若い世代が互いを支えるために一体となり、ポジティブな抗議運動をする姿を見ると、今後に期待ができるようにも思います。一方でエンターテイメントには、人々がダークなものを求める面もあると思っています。
──フランキーとは異なり、あなたはセレブリティ一家で生まれ育ったわけですが、有名になりたい、メインストリームになりたいという人々の願望を、あなたはどんなふうに見ていますか?
理想的な存在がいたり、ファンとして誰かを応援したいという思いを皆がどこかで抱えているのは興味深いですよね。名声は魅惑的で、富にも繋がりますが、特に今回のパンデミックでいろいろなものが削ぎ落とされて皆が学んだのは、結局のところ人々のつながりと自然、そして地球こそが大切だということ。でも、ことセレブリティの話になると人々が熱狂的になるのは昔からあることですし、ハリウッド大通りはまさにその象徴となっていると思います。
──あなた自身を映画作りに駆り立てるものとは?
大学では写真を学んだのですが、映画と写真は互いの延長線上にあるようなものだと思い、さらにチャレンジしたいと思いました。ただ映画の方が、多くの人が関わり一緒に作り上げるものだし、音楽や衣装といった私にとって楽しみな側面もあります。写真と映画、どちらも大好きですが、映画は完成するまでには本当に多くのことを学べるので、最高です。
──本作での大きな学びは?
技術面でいろいろなことのやり方を学びました。ただ、プロジェクトは一つ一つ異なるので、ようやく何かのコツをつかんだと思ったら、また次のチャレンジが待っています。技術的な事でも、物語に関する事でも、俳優と一緒に仕事をする事でも、新たな学びに恵まれるのはとても素晴らしいことです。どんなものでもあれ、新たな体験は刺激的なので、そんな体験に出会える機会を、これからも追い求めようと思っています。
──YouTuberらの人気は、映画作りや業界全体に影響があったと思いますか?大手配信サービスも含め、再生回数を重視する傾向はどのように見ていますか?
誰でも映画を作って人々に観てもらえるようになったのは、良いことだと思います。ただその影響で映画館のビジネスは縮小していますし、作品自体のスタイルも、互いに似通ってきている部分があるとも思います。でもパンデミックによりZoom的な映像を存分に浴びた今、人々は高品質なレンズで撮影されたゴージャスな映像と、静かな空間での音響を懐かしみ、欲してくれるだろうと思っています。
──この映画はラブストーリーとも、成長の青春物語とも、ダークなYouTuberのオリジンストーリーともいえます。あなた自身はどのように説明しますか?
ダークな異色のおとぎ話。面白くて笑いのある説教臭くない風刺劇、かな(笑)。
──観客の反応で特に印象に残っているものはありますか?
『群衆の中の一つの顔』や『ネットワーク』(76年)、『ブロードキャスト・ニュース』(87年)といった古い映画から特に強い影響を受けているので、その辺りに気づいてもらえた時はいつも嬉しく思います。でも、この映画を観た人が、何かしら自身と通じる部分を見い出し、共感してもらえれば、今回の私の仕事は成功だったと思います。
──次はどんなプロジェクトに挑戦したいですか?
とにかく新たなチャレンジをするのが楽しみです。『パロアルト・ストーリー』は当てのない空想的な話だったので、今回のダークな風刺物語は対照的な作品になったと思います。次もこれまでとは全く異なるものにしたいですね。様々なジャンルにも興味があるし、新たなチャレンジで新たな学びを得たいと思っています。ホラーやSFが良さそうですが、とにかく楽しいものにしたいと思っています。
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『メインストリーム』(原題:Mainstream)
監督・脚本/ジア・コッポラ
共同脚本/トム・スチュアート
出演/アンドリュー・ガーフィールド、マヤ・ホーク、ナット・ウルフ
2021年/アメリカ映画/シネマスコープ/上映時間:94分/映倫区分:G
日本公開/2021年10月8日(金)より新宿ピカデリー他にて全国ロードショー
配給/ハピネットファントム・スタジオ
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