Column

2021.07.08 21:00

【単独インタビュー】『シャイニー・シュリンプス!』監督が描く、自分でいることが肯定される世界

  • Atsuko Tatsuta

実在の水球チームをモデルとしたフランスの大ヒット映画『シャイニー・シュリンプス!』は、セドリック・ル・ギャロ監督の実体験を基にした心温まるヒューマンコメディです。

オリンピック水泳自由形の銀メダリスト・マチアス(ニコラ・ゴブ)は、同性愛への差別発言で世界大会への出場資格を失い、選手として復帰するための条件として、ゲイのアマチュア水球チームのコーチを引き受ける。3ヶ月後にクロアチアで開催されるLGBTQ+による世界最大のスポーツと文化の祭典「ゲイゲームズ」に、弱小チーム“シャイニー・シュリンプス”を出場させるというミッションを背負ったマチアスだが、パーティー好きなお調子者ばかりのメンバーは、勝ち負けにほとんど興味がない。マチアスは途方にくれるが、愛娘のヴィクトワールの応援もあり、やがてクセ者だらけのメンバーに心を開き始める──。

同性愛者ながらも、2012年に水球チーム「シャイニー・シュリンプス」に入るまでゲイの友人がひとりもいなかったというセドリック・ル・ギャロ監督。日本公開に際し、共同で脚本・監督を務めたマキシム・ゴヴァールと共に、オンラインインタビューに応じてくれました。

セドリック・ル・ギャロ、マキシム・ゴヴァール

──今はフランスのご自宅ですか?
セドリック・ル・ギャロ 自宅ではないんです。今、『シャイニー・シュリンプス!』の第2弾を撮影していて。『シュリンプスたちの反撃』というタイトルで製作中です。

──セドリックは、この映画のモチーフとなっている水球チーム「シャイニー・シュリンプス」で2012年から活動されているとのことですが、なぜ参加しようと思ったのですか?
セドリック 僕はもともと全くスポーツをしていませんでした。子どもの頃から体育の授業などで、お前は(他と)ちょっと違うと男子生徒たちから言われがちだったので、気詰まりな感じがしてスポーツにはあまり積極的になれずにいました。でも30歳くらいの頃、少し体を動かさなければいけないと思い始めました。「シャイニー・シュリンプス」に入って良かったのは、ちょっと変わっていることが良しとされ、むしろ褒められる点であったことです。この水球チームは、自分が自分でいることが肯定される世界で、僕にとって傷つくことのがない安心できる場所でした。

そして何よりも嬉しかったのは、人生において親友と呼べる人たちと出会えたことですね。僕らはユーモアのセンスや価値観も共有しています。みんなパーティー好きだし、コスプレも好き。スポーツをすること以上に、仲間と一緒にいることに生きがいを感じています。試合で勝つことは、絶対的な目標ではありません。

──「ゲイゲームズ」の存在をこの映画を通じて初めて知りました。ヨーロッパではよく知られているのですか?
セドリック あまり知られていませんね。LGBTQの人たちの間でも、その存在を知らない人もいるくらいで、『シャイニー・シュリンプス!』に出演している俳優たちも、ほとんど知りませんでした。ゲイゲームズは、1982年にアメリカのサンフランシスコで始まったもので、今では毎年行われている国際的なスポーツ大会です。前回はパリ、次は香港で開催されることになっています。

スタジアムで行われた開会式でこの映画の一部を撮影しましたが、とても感動的な経験でした。撮影の最終日だったのですが、俳優たちはフィールドで開会式に参加して、僕らは観客席にいました。世界中から2万人ほどの選手が集まりますが、アメリカの選手団は大きく、2,000人くらいいます。オーストラリアチームも大きいですね。でも、エジプトは同性愛が認められていないという事情もあり、参加選手はたったひとりでした。その彼が国旗を掲げて入場してくる様には感動しましたよ。

マキシム・ゴヴァール 僕は名前は聞いたことはあったけれど、実際にどんなものかは、このプロジェクトに関わるまで知りませんでしたね。

──マキシムをこのプロジェクトに誘った理由は?
セドリック 僕はもともとテレビのジャーナリストとして仕事をしていたのですが、水球チームに入って4、5年が経った頃、このチームをテーマにした映画を作りたいとプロデューサーに話したら、「面白い。オリジナルなアイデアだね」と言って、マキシムを紹介してくれました。それで会ってみたら気が合ったので、一緒にやることになりました。

──マキシムは、この企画のどこに惹かれたのですか?
マキシム 「シャイニー・シュリンプス」という名前の水球チームの話だと聞いた時ですね。このユニークな名前がツボで、オリジナルで愉快なものになると直感的に思い、なんとしてもこれはやらないと、と(笑)。

──セドリックはジャーナリストとして社会問題にも日頃からアンテナを張っていると思いますが、LGBTQのテーマを内包した映画は製作本数も増え、内容も多様になっています。この10年のLGBTQ映画にまつわる変化をどう感じていますか?
セドリック とてもポジティブに捉えています。これまでゲイやレズビアン、トランスジェンダーが映画に登場すると、それがポジテイブな形であっても、面白おかしく描かれがちだったと思います。最近では、彼らを面白がるのではなく、彼らと一緒に面白がろうとする作品が増えたと思います。ヘテロセクシャルと同性愛者が対立するのでもなく、一緒に笑える作品が増えたと思います。

──LGBTQに対する差別や偏見は是正されつつあると感じていますか?
セドリック フィクションの世界では、差別は減っていると思いますね。国によって状況は違うと思いますが、同性愛者の人たちに対する差別や暴力は、今も世界のどこかでは日々行われています。フランスに関しては言えば、かつてはアウトサイダー的な目で見られていたと思いますが、同性同士の結婚をはじめ、LGBTQに関するいろいろなものが制度化されつつあり、人々も受け入れつつあると思います。もちろん、同性愛嫌悪や偏見を持っている人たちも依然としているし、闘いは続いていくと思いますが、教育や啓蒙が大事だと思っています。そういう意味でも、僕らはLGBTQコミュニティに向けてではなく、みんなに向けて映画を作っています。

──近年、“当事者”ではないヘテロセクシュアルの監督や俳優がLGBTQ作品を撮ることに対して非難の声が上がることが何度もありました。
マキシム それはフランスでもあります。僕はヘテロセクシャルですが、6、7年前に撮った最初の監督作品の主人公は、ゲイでした。その時は問題にならなかったけど、今だったら、問題視されたかもしれません。今回の映画は同性愛者であるセドリックと一緒に作ったから、僕が攻撃されることはありませんでしたが、僕が一人でLGBTQコミュニティを描くと、ネットで叩かれるかもしれません。それはすごく残念なことですが、今は過渡期だと思っています。物事はどんどん変化していくでしょうが、アンフェアなことが別のアンフェアなことにとって変わることは、あってはならないと思います。

セドリック どれもケース・バイ・ケースですよね。LGBTQコミュニティについて、ヘテロセクシャルの人が間違った描き方をした時や、的外れなテーマで作られた時は、攻撃する方の気持ちもわかります。当事者にとってはとても大事なことですからね。でも、きちんと描かれているのであれば、ヘテロセクシャルの監督や俳優が攻撃されるには値しないと思います。実は僕自身、映画監督にはなれないだろうと長い間思っていました。僕が描きたいストーリーは、どうしたって自分の人生からインスパイアされるものになるのに、僕のとるに足らない人生になんて誰が興味を持つのだろう、と。僕は映画監督として、妻と夫と子どもの物語は描けないなと以前は思っていたけれど、今はそうは思っていません。

──表現の話で言うと、例えば同性愛を描いた映画を「普遍的なラブストーリーである」と表現するのは相応しくないという声もありますが、あなたはどのように思いますか?
セドリック その話には驚きますね。この『シャイニー・シュリンプス!』は、LGBTQコミュニティだけでなく、みんなに向けて作っています。しかも実際に、このコミュニティに属さない人々が、この作品を気に入ってくれました。僕らが期待していた以上の反応を目の当たりにしました。

この作品のプレミアは、ラルプ・デュエズ映画祭というコメディの映画祭で行われました。1,000人ほどの会場で、シニアや女性、子連れの家族も多かったので、この映画とはちょっと合わない客層なのではと最初は心配したのですが、上映後には15分のスタンディングオベーションを受けたし、老婦人が寄ってきて「本当にこの映画を作ってくれてありがとう。私が若い頃、仲間たちと一緒に過ごしたバカンスを思い出して、とても楽しかった」と言ってくれました。とても嬉しかったです。この映画はなにもゲイ同士の友情にとどまらず、性別や年齢を問わず多くの人の友情や連帯という共通の価値を語っています。観客の方々はそれをきちんと受け止めてくれました。

マキシム SNSやインターネットは匿名で、何でも言えてしまいます。スクリーンの後ろに隠れているから、透明性はありませんよね。

──いわゆる勝ち組ではないと思っている人たちが仲間になり、人生を楽しむというこの映画のテーマは、少し前にあった、マチュー・アマルリックが出演した『シンク・オア・スイム』という作品とも通じますね。
セドリック 『シンク・オア・スイム』が出来る前に、この脚本を書き始めていたから、影響を受けて作ったわけではないんです。どちらもカナル・プリュスが出資していますが、向こうにお金をポンと出したから、向こうが先に撮ったという流れですね。

──そうでしたか。では、続編も楽しみにしております。

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『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』(英題:The Shiny Shrimps)

監督・脚本/セドリック・ル・ギャロ、マキシム・ゴヴァール
出演/ニコラ・ゴブ、アルバン・ルノワール、ミカエル・アビブル、デイヴィット・バイオット、ロマン・ランクリー、ローランド・メノウ、ジェフリー・クエット、ロマン・ブロー、
フェリックス・マルティネス
2019/フランス/カラー/ビスタ/DCP/5.1ch/字幕翻訳:高部義之/PG-12/原題:Les Crevettes pailletées

日本公開/2021年7月9日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ ほか全国順次公開!!
配給/ポニーキャニオン、フラッグ
提供/フラッグ、ポニーキャニオン 
公式サイト
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