Column

2021.06.18 22:00

【単独インタビュー】『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』ジョン・クラシンスキー監督が語る”続編作り”のはじめ方

  • Atsuko Tatsuta

※本記事には映画『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』のネタバレが含まれます。

社会現象となった大ヒット作の続編『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は、夫を失いながらも窮地を切り抜けたアボット一家が新たな脅威に立ち向合う様を描くサバイバルホラーです。

音に反応して人間を襲う“何か”の襲撃を受けてから474日。荒廃した世界で、最愛の夫リー(ジョン・クラシンスキー)と住む家を失ったエヴリン・アボット(エミリー・ブラント)は、長女のリーガン(ミリセント・シモンズ)と長男マーカス(ノア・ジュプ)、生まれたばかりの乳児とともに新たなる避難場所を求めて旅立ちますが、突然”何か”の襲撃に遭います。廃工場へ逃げ込んだ一家は、謎の男エメット(キリアン・マーフィ)に出会い、世界の激変ぶりを聞かされショックを受ける一家でしたが、父親譲りで正義感の強いリーガンは母の言いつけに背き、とある使命を実行することを決意します──。

得体の知れない“何か”の出現により、音を立てたら即死を意味する世界で恐怖に震えながらも生き抜こうとする家族の絆と闘いを描いた前作『クワイエット・プレイス』は、2018年に公開されるや否や社会現象を引き起こす大ヒットを記録しました。

前作では父親役としても出演するだけでなく脚本・監督を手掛け、フィルムメーカーとして高い評価を得た俳優のジョン・クラシンスキーですが、今作では制作に専念し、その手腕をいかんなく発揮しました。前作を上回ることはほとんど不可能と思われた続編をいかにして成功へと導いたのか、オンラインインタビューで明かしてくれました。

──ヒット作の続編は難しいと言われますが、今作は前作を上回ると言っても良い素晴らしい出来で驚きました。前作も脚本が高く評価されましたが、今回もまず脚本が素晴らしいと思いました。どのように脚本を構築していったのですか?
ありがとうございます。面白いことに、「続編を作りたくない」と宣言することが、僕にとっての続編作りの第一歩となりました。1作目が公開された後、「続編を作るつもりがあるか」とパラマウントから尋ねられたのですが、その時は、1作目ほど個人的な感情をこめた作品を作れないと思っていたので、「作りたくない」と答えて、それで考える時間が生まれました。いろいろ考える中で何度もたどり着いたアイディアが、ミリー(ミリセント・シモンズ)が演じたリーガンを物語の中心人物にすることでした。この幼い女の子が、2作目ではヒーローになる。そのことばかり考えていました。それから、1作目のテーマの先にあるものについて、いろいろなアイディアが生まれてきました。

前作では、“何があっても親はずっと子どもの側にいる”という約束を描きましたが、今作は、その約束が破られてしまった時の話です。それはいつかは起きる避けては通れないこと、大人へと成長することだと親なら誰でも知っていますよね。リーガンの視点を中心にすることで、1作目のテーマの先にあるもの、さらには、僕が演じた父親リーを越えていくことすら描けると思いました。彼女は本作で、これまで学んだことを全てを活用します。”父親”の僕が全く想像すらしなかったほどの形でね。こうしたアイディアが出てきて、2作目の内容が固まりました。

でも最初に書いたのは、映画の冒頭部分です。”最初の日”に戻ろうと思い。その部分が書き上がった時、これは形になるぞと思いました。

──前作でのミリセント・シモンズの演技は圧巻でした。やはり彼女の存在が大きかったのですね?
はい、100%その通りです。彼女が2作目の原動力でした。彼女の物語を書けそうだと思うまで、とっかかりがありませんでした。ミリーは1作目の中でも最も力強い演技を披露しただけでなく、彼女自身も人として圧倒的に素晴らしく、この方向に物語を進めるしかないと思いました。彼女の持つ強さを見せたい、と。

脚本が書き上がった後、ミリーに連絡した時のことをよく覚えています。「今から脚本を送るけど、まずは僕とZoomして欲しい」と伝えました。その頃はまだFaceTimeを使っていたかもしれません。Zoomでつないで、「これから脚本を送るけど、まず知っておいて欲しいのは、あなたがこの映画の主人公だから」と伝えた時の彼女の表情は、一生忘れられません。彼女は口に手を当てて、「オーマイガー、どうしよう、とっても不安」と本当に心配そうな顔を見せたのですが、2秒後には表情が変わり、「OK、送って。早く読みたい」と言いました。その瞬間に僕は、ミリー、そしてリーガンがこのシリーズを引き継ぐ姿とその力強さを見ました。

──前作は閉ざされた空間での物語でしたが、今回はロードムービーです。続編と言いつつ、映画の構造はいろいろな面で正反対とも言えるほど変わりましたね。
1作目では、家族が親密さを保って一緒にいる限り、出来ないことは無いことを描いていましたが、今回、その親密さが崩れてしまい、一家は新たな道に足を踏み出さなければなりません。新しい世界を初めて経験するようなもので、それが僕をワクワクさせるものでした。一家の安全を守っていた家長を失い、納谷も焼けてしまったため、農場を出て新たに生きる場所を見つけなければならず、助けが必要になることは明らかでした。”生き延びるため”という非常に原始的な理由で移動を迫られるわけですが、移動の最中は、どんなことが起きてもおかしくない状況ですから、もちろん緊張や恐怖が大きくなります。1作目の農場では、様々な仕掛けが予め張り巡らされていて、そこに留まる限りは安全だったのに、今は何も準備が無いわけです。次の曲がり角に”終わり”が待っているかもしれません。

──父が作った”音”が、”何か”を倒す鍵となるわけですが、そのアイディアはいつ頃からあったのですか?
1作目の最初の脚本から、”何か”を倒すことができる装置は存在していましたが、どのキャラクターが使うかは決まっておらず、その使い方も曖昧でした。でも、この一家の中で一番自分のことを役に立たない厄介者だと思っている人物にその武器を与え、映画の終わりで戦士のようなヒーローにできないかと考えていたことを覚えています。そうした話の流れをまず作り、装置の細かいところは後で決めていきました。僕はこれを「アンサー」と呼んでいるのですが、2作目では、”若者の方がより大胆に勇敢に世界に答えをもたらすことが多い”ということの美しいメタファーとなりました。それはコミュニティというテーマにつながります。自分の周りにいる人々をはじめとしたコミュニティを救うために、自分の命をリスクにさらし、チャンスにかける意志があるか。リーガンはこの「アンサー」を手にしながら、自分の家族のみを救っている事が許せず、他の人にも「アンサー」を届けずにはいられないわけです。

──キリアン・マーフィがただの良い人ではないだろうという感じは、予告などからも伝わってきましたが、キャスティングのポイントは?
僕としては、キリアンは世界最高峰の俳優の1人だと思っています。もう何年もの長い間、彼のファンです。本当に演技の幅が広く、同時に、繊細な表現まで非常に正確にできます。ほんの僅かで本当に多くのことを表現でき、彼のような演技が出来る人は非常に稀です。本作での彼は、良し悪しが曖昧なキャラクターにしようと思っていました。実社会でもよくあることですからね。”本の中身は表紙から判断できない”とも言いますし。ただし、彼のキャラクターは、自分が必ずしも良い人間ではないことを自覚しています。

それから、“誰かのことをその人自身よりも強く信じることで、その人をより良い人間に変えることができるだろうか?”という考えがとても気になって、キリアンとミリーのシーンを書いている時にずっと脳裏にありました。ミリーは最終的に彼の心を救うわけですが、キリアンは、僕が脚本を書いていた時に想像したものよりも遥かに超えるものを、この役にもたらしてくれました。それと演技面だけではなく、撮影現場で彼ほど周りから愛される人に今まで会った事がありません。本当に現場にいる全員がキリアンの虜になっていました。

──『クワイエット・プレイス』の前にも家族の物語を監督していらっしゃいますが、あなたにとって家族の物語を描くことはどのような意味があるのでしょうか?
素晴らしい質問ですね。壮大な質問で…、あとどのぐらい時間ありますか…(笑)。

家族の物語にはずっと昔から興味がありました。それに家族の物語というのは、僕が日々の実生活で身近に触れるものでもあります。幸運なことに僕は、とても愛に溢れた家庭で育ち、今はそれに負けないくらい素晴らしい家族を育んでいます。作品作りにおいても、それらの経験がもとになっています。『クワイエット・プレイス』がホラーのジャンル映画としてカテゴリ分けされるのはもちろん理解できますが、僕にとってはファミリードラマです。ホラーというジャンルをストーリーテリングの手法として使い、悲劇的な家族ドラマであることを表面的には見えなくしているわけですね。

『オデッセイ』や数々のジャンル映画の脚本を書いている友人のドリュー・ゴダードとジャンルと脚本について話していた時に、「ジャンル映画が素晴らしいのは、良い意味で観客との距離を保ってくれる」と言われました。「例えば『クレイマー、クレイマー』は、離婚を本当に生々しく描いているので、実際に離婚をしたことがある人が観ると、辛い経験が思い出されて受け付けないかもしれない。でもジャンルというパッケージで包んでしまえば、例えば『E.T.』は本質的には離婚の最中で生きようとする子どもの話ですが、そうした物語の核心から距離を置きながら、様々な面で探求することができる」と。それを聞いて僕は、ジャンルが持つ力に対する最も賢い考え方の一つだと思いました。ジャンルはストーリーテリングにおいて全く新たな道を開いてくれます。今後もどんな形であれ、ジャンルを中心に携わっていきたいと思っています。

メイキング写真より

──シリーズものを作るつもりはなかったとのことですが、ここまで素晴らしい続編を作ってしまうと、もっと観たいという声が上がってしまいますよね。
1作目の時は、これほど私的な映画はもう絶対に作れないだろうと思っていましたが、2作目では本当にたくさんのことを学びました。

フランチャイズものでは、その作品の主人公となるヒーローもしくはヴィランを中心に新たな世界を都度構築していく場合がほとんどです。その点において『クワイエット・プレイス』は真逆で、緊張と恐怖に満ちた世界が既にあり、ヒーローであれヴィランであれ、好きなように入れ込むことができます。そのため、この世界を舞台に本当にたくさんの作品を作ることができると思います。

でも、僕自身がこのシリーズを作り続けていくとすれば、これまでの2作品と同じくらいに私的なものでなければなりません。1作目は僕の子どもたちへのラブレターでした。2作目は、未来を担う子どもたち全員へのラブレターです。ヒロイズム、希望、それから僕が子どもたちに経験し、達成してもらいたいと思うこと──もちろん人を殺す生物を相手にして欲しいわけではありませんが(笑)、勇気を持って果敢に、自身が望む本当にあるべき自分になること。ポスターの見た目からすると、なにを言っているんだと思われるかもしれませんがね(笑)。

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『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(原題:A Quiet Place: Part II)

監督・脚本・製作・出演/ジョン・クラシンスキー
製作/マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラー
出演/エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、キリアン・マーフィ、ジャイモン・フンスー 
北米公開/2021年5月28日

日本公開/ 2021年6月18日(金)全国公開
配給/東和ピクチャーズ
公式サイト
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