Column

2021.06.08 19:00

【単独インタビュー】『猿楽町で会いましょう』金子大地が今しかできない”鮮度が命”の映画

  • Atsuko Tatsuta

都会で生きる若者たちのリアルな恋愛を描いた『猿楽町で会いましょう』は、広告界でキャリアを築いた児山隆監督の下に気鋭キャストが集結した話題作です。

独立したばかりの駆け出しのカメラマン・小山田修司(金子大地)は、編集者の紹介でインスタグラム用の写真を撮ったことがきっかけで、読者モデルの田中ユカ(石川瑠華)と知り合う。やがて小山田は、彼の写真家としての才能をきらめかせる被写体となったユカの、とらえどころのない魅力にのめり込んでいく──。

次世代クリエイターの発掘・育成を目的とした「未完成映画予告編大賞 MI-CAN」でグランプリを受賞し映画化された『猿楽町で会いましょう』は、渋谷の猿楽町を舞台に、純朴そうながらも実は嘘だらけのユカと、そんな彼女に翻弄されながらものめり込んでいくカメラマン・小山田の不確かな恋愛を通して、都会に生きる男と女の夢と現実、欲望をリアルに描く青春映画です。

主人公の若手カメラマン・小山田を演じた金子大地は、「アミューズオーディションフェス2014」俳優・モデル部門を受賞しデビュー。『腐女子、うっかりゲイに告る。』や『おっさんずラブ』などの人気ドラマで、クセの強い役を演じ注目を浴びました。2021年には本作に加えて、『サマーフィルムにのって』、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』など話題の映画の公開も控えており、また2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』への出演も決定しています。

初主演映画ながら圧倒的な存在感で魅せた若手実力派の金子大地が、公開を前にインタビューに応じてくれました。

Photo: Takahiro Idenoshita

──コロナ禍により、公開が少し遅れてしまいましたが、そもそも『猿楽町で会いましょう』には、どのような経緯で参加することになったのですか?
この世に存在しない映画の予告編を対象にした「未完成映画予告編大賞 MI-CAN」でグランプリを受賞したことから長編を作る運びとなって、主人公の小山田という役を決めるにあたって、監督と面談して決めていただきました。

──小山田という役が面白いと思ったのは?
すごくピュアで純粋で真っ直ぐで、そしてまだ完成されていない男というか、未熟さがあって。そこがすごく人間味があって、魅力的だと思いました。

──普段は俳優として撮影される側ですが、今回は撮る側のカメラマンの役。しかも小山田はまだ駆け出しということで、仕事を軌道に乗せるために苦労しているシーンもありました。役作りのためにリサーチなどはしましたか?
監督の児山さんは写真も撮る方で、カメラも持っていたので、扱い方を教えてもらいました。クランクインの前に監督のカメラを借りて、散歩しながら実際に撮ってみたりもしましたね。実は、写真を撮られるのは照れくさくてあまり得意ではないんです。こちらがあまり意識しなくてもいいよう、落ち着いて撮ってくださる方はすごく素敵だと思いますね。

Photo: Takahiro Idenoshita

──普段はどういう写真を面白いと思ったりするのですか?
写真をあまり撮らないので、友だちがものすごくふざけている時の写真がいちばん面白いと思っています(笑)。

──金子さんは、こうして話されているとすごく落ち着いていて、大人っぽく見えます。小山田はもっと”青い”部分がある青年ですが、役作りはどのようにしたのですか?
若者っぽい服装で、若者っぽい髪型で、余裕がない男。監督からは、とにかく格好悪い男を演じてくれと言われました。なので、本当に自分の中にある恥ずかしい部分、格好悪い部分、ダサい部分を全部出そうと思いました。あのちょっと伸びかかった感じの金髪にしたのは、田舎から出てきて東京で頑張ってるというような、イモっぽさを出すためです。Tシャツは全部監督の自前です。

──映画中ではジョージ・A・ロメロ監督の映画『ゾンビ』のTシャツを着ていましたね。ホラー映画の金字塔ですが、あの作品は観たのですか?
あのTシャツも監督のものですが、映画は観ていないです(笑)。

──小山田という役に共感しましたか?
しました。カメラマンとしてまだ未熟者で、未完成で。そういう時に好きな人ができた時の人の視野の狭さとか、余裕のなさとかにはとても共感しました。演じながら、自分の未完成さを痛感するような経験でした。

──映画のタイトルにもなっている渋谷の「猿楽町」に小山田のアパートがあるという設定ですが、この作品に関わる以前はこの場所のことをご存知でしたか?
知りませんでした。撮影している時に「ここも渋谷なんだ」という発見がありました。

Photo: Takahiro Idenoshita

──なぜ小山田は猿楽町に住んでいるでしょう?
監督は「響きが良いから」と言っていました(笑)。「”代官山で会いましょう”…違うなあ」と、そういう感じで決めたらしいです。”何々で会いましょう”にしたかったそうで、その中でいちばんしっくりきたのが、『猿楽町で会いましょう』だったと言っていました。

──撮影はあの辺りが中心だったのですか?
猿楽町での撮影は少なくて。渋谷でも、いわゆるスクランブル交差点ではないところとか、新宿での撮影が多かったですね。

──小山田は恋愛的にひどい目に遭うわけですが、彼を翻弄するユカはどういう女性だと思いましたか?
どういう女性かわからないところがユカなんじゃないか、と。小山田ではなく金子大地としてユカを見たとしても、本当に何を考えているのかわからず、それがこの映画の一つの余白で、魅力だと思います。あの後ユカはどうなったんだろう、と思います。

──演じている時に、この女はズルいな、酷いなと思ったり?
もちろん思いました。でも、小山田がすごく傷つけられているように見えますが、映画を観ると、だんだんとユカが可愛そうな、寂しい人に見えてくるのがやっぱり不思議ですね。すごく寂しい人なんだなと。それが悲しかったり、切なかったり。そこが面白いです。ユカは難しい役だと思いますが、石川さんがとても体を張って演じられていたと思います。

田中ユカ(石川瑠華)

──捉えどころのない役って、難しいですよね。
でも石川さん自身が、ちょっとそういう魅力を持っているんだと思うんです。だからユカを演じられたのではと。

──お会いしたのは今回が初めてで?
初めてです。最初は全然目を合わせてくれないな、という印象でした(笑)。

──現場での印象は?
キャピキャピしているときもあれば、急に黙り込んだりする時もあったりと、その日その日によって人格が違う感じがして。おそらく撮影中は彼女の中でいろいろ葛藤があったんだと思うんです。それだけすごく、あまり共演したことのないタイプの方でした。

──この映画で描かれるラブストーリーは、ご自身にとっては現実味のあるものでしたか?
リアルな話だなと思いました。こういう話って、よく聞きますよね。20代前半の恋愛を経験した人ってたくさんいると思うので、共感できる人は多いのではと思います。僕も仕事柄いろいろな役者さんと会いますが、やっぱりユカみたいな方はいると思うんです。なんか思うように上手くいかないというか。

Photo: Takahiro Idenoshita

──完成した映画を観た時の感想は?
脚本や予告編の印象とは全然違いました。児山さんの編集のマジックや、台本になかったシーンも入ったりして、初号試写で観た時にいろいろ発見がありました。驚きもあって、すごく良いものになったなという印象がありました。

──脚本から変わった部分は?
ユカの最後の面接は台本には無いシーンだったんです。そこが僕としては一番面白くて印象的でした。あとやっぱり、予告編で使われれていた映像を長編にも入れた画だとか、観た人が気づかないかも知れないけれど、そういう箇所が結構あって、面白みを感じました。予測できないと言うか。

──児山監督にとって今回が初の長編ですが、お仕事をしてみていかがでしたか?
本当に良い監督です。現場ではよっぽど何かない限り、基本的に委ねてくださって。もちろん映画の知識も豊富で、映画を愛していて、これからも一緒にお仕事をさせていただきたい監督です。

Photo: Takahiro Idenoshita

──金子さんが出演されている『サマーフィルムにのって』もこの夏公開になりますね。そちらもとても素晴らしい作品ですが、青春映画が続きますね。
ありがたいです。今しかできないと思いますし、”鮮度が命”という感じがするので。『猿楽町で会いましょう』も、まだ俳優としてのキャリアが浅い僕と石川さんのラブストーリーという点は、ある意味、説得力があるのではないかと思います。恋愛映画に何度も出演していないからこそ、新鮮な視点で観てもらえるのではないかと思っています。

──好きな恋愛映画はありますか?
なんだろう。いっぱいありますが、イ・チャンドン監督の『オアシス』(02年)ですね。芝居がすごすぎるし、話もすごいし、韓国映画のレベルの高さをすごく感じます。ポスターも良いですし、とにかく画がキレイですよね。こんな映画、どうやったら撮れるんだろうっていう。

Photo: Takahiro Idenoshita

──この人が出演していたら気になる、という俳優はいます?
います。ロバート・デ・ニーロだったり、ライアン・ゴズリングも好きです。ロバート・パティンソンの『バットマン』が楽しみです。

──同年代の方が出演する作品は観たりしますか?
観るようにはしています。最近だと『あのこは貴族』が面白かったですね。品のある美しい映画でした。たまたま交差点でばったり会うとか、日常で映画的なことが起きる瞬間は実はよくあって、そういうことを、絶妙に、リアルに映している気がします。自分はお金持ちでもないから“貴族”の人たちへの共感はできないかもしれないけど、でもすごく胸にくるものがありました。『猿楽町〜』も、誰もが知っている身近な”経験”が表現されているので、だからこそ刺さるんだと思います。

──『猿楽町〜』を撮影していた頃から時間も経ち、世の中はコロナ禍で一変しましたが、ご自身の中で変化したことは?
作品によっても、出会う人によっても毎回変わっていますね。撮影していた頃はなんでもかんでも勢いで頑張っていた感じがあったのですが、今はしっかりと地に足をつけて頑張らなければ…と思っています。

──小山田がアパートを出ていく時に封筒を残しますが、その中は何かご自分で作られたのですか?
それが何なのかは、この映画を観た方に委ねたいので、伏せておきます。感じてほしいです。あれはなんだったんだろう、と。

──完成した映画を観て、気に入っているシーンはありますか?
最後のシーンがすごく好きですね。ユカの面接の時に、「あなたはどういう人ですか?」と言われた時に、なんとも言えない顔をして答えられない石川さんの顔が、胸に来ました。

Photo: Takahiro Idenoshita

──この映画ではカメラマンに対して編集者が「君、なにやりたいの?」と毎回言いますが、自分が何をやりたいかと考えてしまったりすることはありましたか?
俳優は見られる仕事ですし、オーディションの時とかは、否定されているような気持ちになるときもありますね。「どういう人ですか?」って、難しい質問ですよね。

──実際に聞かれた時の答えは?
「明るい人です」と言って、たぶんそれで終わりです(笑)。

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『猿楽町で会いましょう』

鳴かず飛ばずのフォトグラファー・小山田は、読者モデルのユカと出会う。次第に距離を縮めていく2人だが、ユカが小山田に体を許すことは決してなかった。そんな中、小山田が撮った彼女の写真が、2人の運命を大きく変えることに──。

出演/金子大地、石川瑠華、栁俊太郎、小西桜子、長友郁真、大窪人衛、呉城久美、岩瀬亮、 前野健太
監督/児山隆 
主題歌/春ねむり「セブンス・ヘブン」 
製作/長坂信人
エグゼクティブプロデューサー/神康幸
プロデューサー/利光佐和子 
後援/ドリームインキュベータ
制作プロダクション/オフィスクレッシェンド
カラー/シネスコ/121分

日本公開/2021年6月4日(金)渋谷ホワイトシネクイント 、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
配給/ラビットハウス、エレファントハウス
公式サイト
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