Column

2021.05.19 18:00

【単独インタビュー】『くれなずめ』藤原季節が俳優を続ける理由とこれから

  • Atsuko Tatsuta

若手実力派・松居大悟監督の下に旬の俳優たちが結集した話題作『くれなずめ』が絶賛公開中です。

高校時代、文化祭でコントをしたことがきっかけで仲良くなった帰宅部仲間6人。あることがきっかけで疎遠になっていた彼らは、友人の結婚式での余興の打ち合わせのため、久しぶりに集まった。優柔不断だが心優しい吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)、役者の明石(若葉竜也)、ひと足先に既婚者となったソース(浜野謙太)、会社員になった大成(藤原季節)、地元の工場で働いているネジ(目次立樹)。そして結婚式当日、渾身の“赤フンダンス”を披露するが──。

『アフロ田中』(12年)『アズミ・ハルコは行方不明』(16年)『君が君で君だ』(18年)など独創的な作風で知られる気鋭・松居大悟の新作『くれなずめ』は、松居が主宰する劇団ゴジゲンが2017年に上演し、成功を収めた舞台の映画化です。松居監督が「友だちに書いた手紙みたいな作品」という戯曲を元にした思い入れのある作品には、今が旬の若手演技派たちが顔を揃えました。

最年少の大成(ひろなり)を演じた藤原季節は、白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』(18年)で注目され、今泉力哉監督の『his』(20年)主演作『佐々木、イン、マイマイン』(20年)にて第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。今後も、主演作『のさりの島』(山本起也監督、5月29日公開予定)や、『空白』(田恵輔監督、9月23日公開予定)など、多数の出演作が公開を控えています。

待望の『くれなずめ』公開に際し、今後さらなる飛躍が期待される藤原季節が、撮影裏話から俳優としてのビジョンまで、Fan’s Voiceの単独インタビューで語ってくれました。

──今回の出演の決め手は何だったのですか?
松居監督の映画は、きっと役者は出演したいですよね。お話を頂いた時、決まっていたキャストの方を聞いて興奮しましたし、脚本もとても面白かったので、絶対に出たいと思いました。

松居監督は、何かで僕のことを観て「良いと思った」とおっしゃったので、どの作品だったのか尋ねたら、「いやぁ、思い出せないなあ」って言われて。面白い方だなと思いました(笑)。

──松居監督のどのようなところに魅力を感じていたのですか?印象に残った作品は?
僕の周りの役者陣だと、やっぱり最初は『アイスと雨音』(18年)が話題になって、みんな観ていました。僕は池松壮亮さんが主演を務めた『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13年)が好きで。泥臭さみたいなのが自分のマインドにマッチして、カッコ良いなと憧れました。

──実際に一緒に仕事をしてみて、どうでしたか?
やっぱり作品ごとに全然違うと思うので、『君が君で〜』を撮っている時の松居さんと、『くれなずめ』を撮っている時の松居さんは違うし、違うものを撮ろうとしていると思うので、僕が見た『くれなずめ』の松居さんは『くれなずめ』の松居さんで、「あっ、僕が憧れていた作品を作った人だ」という風にはすぐにならないと言うか。だからもっともっといろんな作品をやってみないと、松居さんのことも全然わからないのだろうなと思います。

──人としても仲良くなったのですか?
それもこれからで、やっぱり気恥ずかしいというか。みんなで一緒にいるとすごく楽しいんですけど、二人っきりになると恥ずかしくて。

──脚本をもらった時点で、大成(ひろなり)役でオファーが来たのですか?
はい、大成(ひろなり)役で。

大成(藤原季節)

──大成はどういう男だと思いますか?
欽一さん(高良健吾)と明石さん(若葉竜也)は劇団をやっていて、まだ夢を追い続けている。ソース(浜野謙太)は奥さんと新婚生活を送ってすごい浮かれている感じ。ネジさん(目次立樹)は自分の工場を継いでいる。一方で大成はサラリーマンで、自分で就活して仕事を見つけて、生活が最も目の前にあるというか、「あ、今日も仕事行かなきゃ」「この仕事やりたくないな」「上司が嫌だな」といった悩みが最も身近にある役だと思います。大成は、夢やロマンを追うことをもう止めている人。自分には生活があって、地に足をつけて生きることを選択して、そのためにちゃんと働いている。でも、同世代の劇団をやったり、自分が好きなことをしている人を見ると、イライラする。自分は地に足をつけているのに、こいつらがまだ夢を追っていることに対して微妙な嫉妬心とかがあるのではないかと思いました。

──そんな大成に共感する部分はありましたか?
共感ばかりですよ。僕の親友もサラリーマンで、大成にすごく性格が似ているんです。台本を読んだ時、その親友をモデルに演技しようと思いました。大成を営業職ということにして。衣装とかも、最初はサラリーマンっぽい手持ちカバンだったのですが、リュックの方が良いかなと思って自分から提案してみたり。実際に生活している僕の友人にどんどん近づけていきました。お酒の飲み方など、細かい性格のニュアンスも入れていきました。

──そのご友人には、この作品で演技のモデルにしたことは伝えてあるのですか?
いや、言ってないです(笑)。

──どこかで告白する予定ですか?
します。映画を観に来てもらおうと思っています。その友人はもともと音楽をやっていたのですが、今はまったくやっていなくて。そういうところもあって、共通点を感じてしまう部分がやっぱり多いですね。

──松居組では、どのような感じで制作が進んでいったのですか?本読みやリハーサルには時間をかけたのですか?
しっかりとリハーサルがありました。みなさん活躍されている方だったので、僕は最初はビビっていました。若葉さんとか一見恐そうだし(笑)、高良さんも厳しい人だったらどうしよう…とか。特に高良さんは僕が10代の頃からずっと観ていて尊敬している方なので、恐かったんです。でも今では、このメンバーでいると、はしゃいでしまうほどになりました。

──映画では本当の仲間のように見えました。撮影が始まって直ぐにみんな打ち解けたのですか?
リハーサルの時、みんなでご飯を食べたんですよ。まだ、外食ができる時期だったので。何時間も何時間もずっとくだらない話をしていて。そうしたら自然と打ち解けていました。まさに映画の中の感じで。それでも、撮影の序盤には緊張感が少し残っていましたが、後半になるにつれて、カメラが回るところと回らないところの境界線がなくなっていましたね。ワチャワチャとか楽しいというのもありつつも、でも今思い出すと、締めるところはビッシリと締めていたと思います。一定の緊張感が保たれていて。

──大成を演じていていちばん難しかった点は?
大成が難しいと言うよりも、共演者はすごい周りを見えている、人間としてしっかり形成されている方たちなので、自分の未熟さみたいなのがやっぱりわかってしまう。それが結構悔しく思いました。

──未熟さというのは?
例えば、周りのことがあまり見えていなかったり、ワンカット長回しのシーンで、「あっ、この1箇所、自分はみ出しちゃったな〜」といったところが当時はわからなかったのに、出来上がった映像だとやっぱりわかるので、もう少し全体のことが見えていればな、と。そうしたことを撮影中もよく感じていましたね。

──成田凌さんを始め注目の俳優が勢揃いしていますが、面識があった方はいらしたのですか?
大好きな俳優ばかりで嬉しかったですね。みなさんのことは知ってはいましたが、ほとんど面識はなく、初共演の方ばかりでした。唯一、高良健吾さんは福島で舞台挨拶でお会いしたことがありました。今はもう“兄ちゃん”みたいな感じで、お会いすると、「今こんな感じで〜」みたいに自分から近況報告をして、「いや、お前大丈夫だから」って言ってくれる。そういう関係性ですね。

──成田さん演じる吉尾を中心に周りに人たちがいるというのがこの物語の構造ですが、主役である成田さんは、藤原さんから見てどんな方ですか?
成田くんのことは同世代の俳優としてずっと前から知っていたし作品も観ていて、でも未だにどんな人なのかわからない、正体の掴めない感じが続いていて。いろんな作品でもう少し共演してみたいと思います。

今回の座組だと成田くんは、“接着剤”みたいな感じでしたね。僕らはそれぞれ個性が強めなので、その人たちを成田くんが接着剤みたいに留めて、キュッとひとつにしてくれた印象があります。成田くんが主演じゃなかったら、こんなに仲良くなっていないですね。これは間違いないです。

──撮影からは1年ほど経ちますが、皆さんとは今でも仲良くしているのですか?
仲良いですね。このご時世なので、みんなで集まることは出来ませんが、たまに連絡を取り合っています。「『おちょやん』観てるよ」とか、メールしたり。

──キャストの方々の仲が良いのは舞台挨拶の様子などからも伝わってきますが、藤原さんはちょっといじられキャラというか、可愛がられているようで?
可愛がらせてあげているっていう感じです(笑)。

──この映画は舞台が元になっていますが、舞台を観ていない方で映画を観る方も多いと思います。前情報なしにこの映画を観ると、こんなファンタジーな話だったのかと途中で驚くかもしれません。脚本を読んだ時の印象は?
僕はファンタジーだとはあまり思わなかったですね。逆にリアルな物語だなというか、生きていくというのはこれぐらい曖昧なことだよなと思いました。僕は結構空想しがちな性格だということもありますが、人の心の中ってこれくらいだよな、みたいな。人の悼み方や、折り合いのつけ方に悩んだ時期もあったので。でもこういう映画を観ると、そもそも折り合いをつける必要はあるのかな、と。折り合いをつけたり、乗り越えて前へ進むとか、別にそんなことを思わなくても良いのかなと、ちょっと優しい気持ちになれました。

──特に前半、途中までは男の子たちの間で起こっているわちゃわちゃ感がすごくあって、あれはすごくリアルですか?
リアルですね。僕らも集まると、あのまんま。本当にめちゃくちゃうるさいですよ。

──演じていて、特に面白かったところはありますか?
全部楽しかったんですよね。ただ、成田くんをいじるシーンは特に楽しかったですね。みんなでいじる時はもうやりたい放題できちゃうので、すごく楽しかったですね。

──松居監督ならではの、独特の演出はありましたか?
現場で監督と何かを話した思い出はあまりないんですよね。松居監督は、無理に俳優と距離を縮めようとしないというか、委ねてくれる部分が多くて。そこが普通にカッコ良かったです。ちょっと離れたところから「あの人カッコ良いなぁ」と思って見ていましたね。

──松居監督は、役柄について細かい説明はするタイプですか?
ほとんどしないですね。

──では、脚本から自分で読み取っていくのですね。
そうです。おそらく聞けば教えてくれると思いますが、「オレがいちばん大事な部分を司っておくから、お前ら好きにやれー」みたいなところがあるんですよね。部長みたいな。

──NGもあまりないのですか?
みんなでわちゃわちゃやっているシーンはあまりないのですが、僕と目次さんが雪の降る駅のホームで話すシーンとかは、数テイク撮っていましたね。

──いちばん好きなシーンは?
演っていて最高に興奮したのは、やっぱり“赤フンダンス”ですね(笑)。ほぼ最後の方に撮ったのですが、もうこの時間終わんなきゃいいのにと思っていました。これ本当に映画の撮影だよね?みたいな。

──そのシーンは1テイクで撮ったのですか?
いや、赤フンはカットを割っているので、20回ぐらい踊っていると思います。「何回踊るんだよ」と思いましたもん(笑)。

──踊る練習もしたのですよね?
かなりしましたね。みんなダンスは全然踊れないので。

──振り付けのパパイヤ鈴木さんも出演されていましたよね。
人生でパパイヤさんに振り付けをしてもらう日が来るとは思っていなかったです(笑)。

──先日、本作の一般試写会がありましたが、初めて観客に観ていただいた感想は?
嬉しかったですね。ただ、やっぱり公開されて、感想をレビューサイトやTwitterでも見るようになって、やっと実感が湧いてきました。

──印象に残ったコメントなどはありますか?
いろいろあるのですが、知り合いの役者たちが観に来てくれて、「自分もなんか、ズルズルややこしく生きていくわ」と言ってくれたのが、すごく印象的でしたね。白黒はっきりさせずに、“ズルズルややこしく”生きていくというのは、確かに松居監督の映画をよく表している言葉だなと思いました。

──藤原さんは主演作の『佐々木、イン、マイマイン』も本当に素晴らしく、『his』もそうですが、比較的、同世代の観客が共感するような身近な題材をモチーフにした作品に多く出演されている印象です。そうした作品を好んで選んでいるのですか?
そういうわけではないんですが、身近な作品の役をいただくことが多いですね。僕はもともとアクション映画が好きなんです。子どもの頃からハリウッドアクションムービースターが好きだったんですよ。アーノルド・シュワルツェネッガーとか、ジャッキー・チェンとか、キアヌ・リーブス、マット・デイモン、ジャン=クロード・ヴァン・ダムとか。とにかくアクションでメチャメチャ強いヒーローのスターたちが大好きで。休みの日は『ミッション・インポッシブル』をずっと観ています。何回観てるんだよってくらい。でも僕は運動が苦手で…、アクションは挑戦したいんですけどね。

──映画館へも観に行くのですか?アクション映画だとIMAXとか、大きなスクリーンで観たいですよね。
行きますね。IMAXで観るときもあります。でも、新しい映画も好きですが、昔の映画とか、一度観た映画を何度も観返すのが好きなんです。

──いちばんたくさん観ている作品は?
『スタンド・バイ・ミー』じゃないですかね。

──アクションじゃないですね(笑)。
身近な話、青春映画だ(笑)。でも、自分が演じるときには、身近な作品でも、アクション映画を観た時のような憧れやロマンみたいなものを込めようと思っています。結末とかはなんなら変えてやろう、ぐらいの気持ちで。身近な話ほどロマンチックであっても良いんじゃないかという気もするので。

『佐々木、イン、マイマイン』もそうで、ラストシーンは驚くような結末というか。そういう、映画にしか出来ない表現だったり、絶対に変えられないものへの抵抗──例えば『くれなずめ』は日が沈むってことへの抵抗じゃないですか。この2時間だけは日は沈ませない、みたいな。身近な話だけど、そこに夢やロマンや憧れや、感情の原点みたいなものがギュッと詰まっている映画にきちんと出演したいと思っているので、僕の中では結構ロマンチックです。

──全くアプローチは違いますが、「死と仲間」という意味では『くれなずめ』は『佐々木、イン、マイマイン』と通じるものがありますよね。
あります。僕も思いました。絶対に変えられない運命を捻じ曲げてやるというか。力強さがありますよね。

──今後やってみたい役は?
たくさんあります。何にでもなってみたいです。人間の感情の原点に近しいような話がやりたいですよね。舞台だったらシェイクスピアとかになりますが、愛するとか、憎しむとか、そういうもうちょっと人間の根源のような役をやりたいですね。

──最近の作品で、自分もこういう役をやりたかったなと思うものはありますか?
いっぱいあって、挙げだしたら本当にきりがないですが、でも、それを僕が出来るわけでもないですからね。やっぱり僕はまだあの大役を担えないとか思っちゃいますね。これはオレがやりたかったな、悔しいな、というよりも、これはオレに出来ねえわと、まず思ってしまいますね。全然修行が足りていないですね。

──俳優としての「修行」とはどういうことだと考えていますか?
修行は…世の中で起きていることに常に敏感でいるということですかね。楽しく生きるというのが、僕の選択肢にはあまり無くて。趣味がたくさんあって、休みの日も充実して、友だちもたくさんいて、というのも良いんですけど、僕は結構追い詰めるほうが好きですね。

宮沢賢治が好きなのですが、「告別」という詩があって、そこで、“みんなが楽しく遊んでいるときに、お前は一人であの石原の草を刈れ”というんです。“その寂しさで音を作れ”、と。それがめっちゃカッコ良くて。だからみんなが遊んで楽しく暮らしている時は、僕は一人で草刈りをしようという心持ちでずっといます。

──では、お休みの時は何をしているのですか?
本を読んでいるか、映画を観ているか、お酒を飲んでいますね。まあ、お酒を飲む時間は無駄なので、あまり良くないんですけどね(笑)。

──本はどんな作品を?
何でも読みますが、最近は三浦綾子さんをずっと読んでいます。

──三浦綾子さんの世界がお好きなら、確かに自分を追い詰めていくタイプかもしれないですね。人間の深淵に向かっていく作品ですよね。
「この役、演じたいな〜」と思いながら読んだりしています。

──憧れている俳優とか、ロールモデルにしている方はいるのですか?
ロールモデルとなると全然話は違うのですが、憧れている人はいっぱいいますね。大勢いすぎて、とてもじゃないけど恥ずかしくて名前を出せないですね。これは思っているだけにしておきます。

──自分の演技メソッドのようなものはあるのですか?
今の僕がやりやすいのは内面から作っていくことですが、今後は、動作で自分の感情をいかに表現するかを、もっと細かく突き詰めていきたいです。

──デヴィッド・フィンチャーとかはまさに、感情よりも正確な動きやカタチを細かく演出をする監督で、例えばカップを持った小指の位置まで決めて、俳優に勝手にやらせないそうです(笑)。
僕は今まで結構自由に芝居させてくれる監督が多かったのですが、『佐々木、イン、マイマイン』の内山拓也監督は、細かく粘る人でしたね。タバコを吸うタイミングも全部。

──内山監督の他にも、形から入る監督はいましたか?
『ケンとカズ』(16年)の小路紘史監督ですね。それで小路監督が一番尊敬しているのが、デヴィッド・フィンチャー監督。撮る前に動画を見せられて、「このシーン撮りたいよねぇ。やれる?」みたいな感じでした。

──監督のスタイルとして一番合うのはどなたですか?
これは難しくて、自分が思う自分の武器と、他人が思う自分の武器は違うので、だから「決めで撮った方が季節は活きる」と言ってくださる方もいるし、「季節は自由にのびのびやらせた方が良い芝居をする」と言ってくださる方もいる。どっちにも良し悪し…というか“良し”があるので、一概に誰が良いとは言えないんですよね。

──自分としては何が“武器”だと思っているのですか?
いやぁ、難しいですね。これも矛盾しているんですけど、抑制された中から滲むような感情の出方の方が良いなと思う瞬間もあれば、わーっという流れの中で吐き出す感情が良いかもなという時もあって。どちらもあるので、行ったり来たり感じです。

──俳優の中には自分が出た作品を観ないという方もいますし、逆に何度でも観直したいという方もいますが、藤原さんはどちらのタイプですか?
ほとんど観たくないですね。もちろん観ますけど、自分の力量の限界値が見え過ぎて、嫌だなぁという気持ちにしかならないので。でもその限界を確かめるためにも、ちゃんと観ますけど。

──完成した『くれなずめ』を初めてご覧になった時の感想は?
2時間ずっと恥ずかしかったですね。初めての体験で恥ずかしいというか、自分たちがそのまま観られているような、気恥ずかしい感じでしたね。

──これまでの作品とはちょっと違う感じで?
全然違う感じでしたね。物語なのに物語をはみ出しているというか、半分物語で半分僕のプライベートみたいな、そういう恥ずかしさがありましたね。

──そういう意味で、どんな方に観ていただきたいと思いますか?
「すべてのアラサー男子に観てほしい」といった感想を目にしたのですが、それが嬉しくて。確かにキャストも男ばかりだし、男子の話なので「男子ノリ」とよく言われますし、女性の方がたくさん観るのかなという印象かもしれませんが、確かにこれを男子が観たらどう感じるのかもすごく気になっていて、観た人がそういう感想を持ってくれたのはすごい嬉しかったですね。

──この作品は今までとは違うということですが、自身のキャリアの中ではどのような位置づけのものになったと感じていますか?
周りの人が「こういう作品になったね」と言ってくれると良いなと思います。僕自身は19歳で小劇場から始めてもうじき10年目になるので、多少のことでは動じないように粛々と仕事を続けていければなと思っていなす。この作品をきっかけに…みたいなことはあまり考えないようにしています。

──ご自身の中では新鮮な作品だったのですよね?
そうですね、かなり。演じた作品の物語の中で自分自身をさらけ出すということが初めて起きた作品でした。この作品をきっかけに、表の自分と裏の自分がつながってきた感覚があるので、今後の作品においても変化になると思います。

──今後もこうしたタイプの作品にも出てみたいと思いますか?
チャンスがあれば、もちろん。

──俳優という職業のどこが面白くて続けているのですか?
先ほど話した人間の感情の原点というところに、アクセスできてしまう職業というのがすごく良いですね。感情について考えるのが仕事だなんて、とても恵まれているな、と。人間というものを突き詰められるのが良いですね。

──そうした、人間を突き詰めることに興味を持ち始めたのはいつ頃から?
どこにいても演技をしているという感覚が、中学の頃からもうありました。生徒である自分、外にいる自分、息子の自分、先生と話している自分、二人きりの時の自分、…全部が違う人間に思えたんですよ。これは何なんだろうなと思って。幼い時から映画を観ていたので、やっぱり映画の世界に入るしかないなとその頃から思っていました。

それで19歳で上京して、2年間どんなに頑張ってもチャンスが無かったんですが、今の事務所、オフィス作のワークショップオーディションに参加して、社長の松田美由紀さんに拾っていただきました。

でも、今28歳なのですが、この9年間は自分が満足した瞬間は無く、ずっと苦しいですよ。

──未来に対するビジョンなどはありますか?
人によって成長するスピードは違うと思いますが、僕は特に遅いのではないかと思っています。芝居の技術においても人間的にもまだまだ未熟だと思うので、もう少し時間をかけて成長していき、いずれ結果がついてくれば良いかな、と。あと数年…数年じゃ済まないとは思いますが、数年は修行だと思って、作品選びにおいても規模感とか予算とかにこだわらず、自分のことを高めていけるようなものを純粋に選び続けていきたいです。その先のことは、これから考えようと思っています。

──俳優にはいろいろな引き出しが必要だと思いますが、そのために普段からやっていることはありますか?
俳優とは不思議な仕事で、生きているだけで引き出しを増やすことになります。本を読んだり映画を観たりして知識を増やすことをも、もちろん引き出しを増やすことにはなりますが、何も出来ない時間も、僕らにとっては引き出しになって。スマホをいじっているだけで日が暮れるような日も経験になります。充実しない日々も自分たちにとっては糧になると思っているので、何も出来ない時にあまり自分を否定し続けるのではなく、そういう自分がいてもいいよね、そういう時間があってもいいよね、と自覚的に意識を持つようにしています。

──1人の時間には結構強いんですね。コロナ禍となり、メンタル的に厳しいという方もいらっしゃると思いますが。
コロナ禍で仕事や時間を奪われたのなら、そのまま切り替えずに何も出来ずにいられるか、という自分も大切にしたく思っています。それを“良い時間”に切り替えてしまうのは、僕としては嫌ですね。

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『くれなずめ』

高校時代、帰宅部でつるんでいた6人の仲間たちが、5年ぶりに友人の結婚披露宴で「赤フンダンス」の余興をやるべく集まった!めちゃくちゃ恥ずかしいダンスをやりきった披露宴と、二次会の間の妙に長い時間を持て余しながら、高校時代を思い出す……「しかし吉尾、お前ほんとに変わんねぇよな。なんでそんなに変わんねぇの? まあいいか、そんなのどうでも」そう、僕たちは認めなかった。ある日突然、友人が死んだことを──。

監督・脚本/松居大悟
出演/成田凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、飯豊まりえ、内田理央、小林喜日、都築拓紀(四千頭身)、城田 優、前田敦子、滝藤賢一、近藤芳正、岩松 了、高良健吾
主題歌/ウルフルズ「ゾウはネズミ色」(Getting Better / Victor Entertainment)
製作幹事/UNITED PRODUCTIONS
幹事協力/ハピネット
制作プロダクション/UNITED PRODUCTIONS

日本公開/2021年5月12日(水)テアトル新宿ほか全国公開
配給/東京テアトル
公式サイト
©2020「くれなずめ」製作委員会