Column

2021.02.27 9:00

【単独インタビュー】『ステージ・マザー』トム・フィッツジェラルド監督

  • Atsuko Tatsuta

名女優ジャッキー・ウィーヴァーの主演作『ステージ・マザー』は、ドラァグクイーンの息子の死をきっかけにゲイバーを立て直す羽目に陥った主婦を中心とした、愛と友情と希望の物語です。

サンフランシスコのカストロ・ストリート。ある夜、ドラァグクイーンのショーを披露するゲイバー「パンドラ・ボックス」でショーが行われている最中、バーのオーナーでドラァグクイーンのリッキー(エルドン・ティーレ)が、薬物の過剰摂取で急逝する。疎遠だった息子の訃報を受け取った母親メイベリン(ジャッキー・ウィーヴァー)は、夫の反対を押し切って葬儀に参列するため、テキサスの田舎町からサンフランシスコに向かった。敬虔なクリスチャンで教会の聖歌隊で歌っているメイベリンにとって、友人たちによる華やかなミュージカル調の葬儀は耐え難いものだった。共同経営者でリッキーのパートナーだったネイサン(エイドリアン・グレニアー)に拒絶されたメイベリンは、リッキーの友人だったシングルマザーのシエナ(ルーシー・リュー)に仲を取りもってもらうことにするが──。

リサ・チョロデンコ監督の『キッズ・オールライト』(10年)やNetflix映画『シカゴ7裁判』(20年)を製作したJ・トッド・ハリスがプロデューサーを務める本作。『世界でひとつのプレイブック』のジャッキー・ウィーバーを始め、亡き息子のパートナーのリッキー役には『プラダを着た悪魔』(06年)のエイドリアン・グレニアー、リッキーの友人であるシングルマザーのシエナ役に『チャーリーズ・エンジェル』シリーズのルーシー・リュー、トランス女性のドラァグクイーンのチェリー役に『タンジェリン』(15年)で注目されたマイア・テイラーと、個性豊かな演技派が顔を揃えました。

日本公開に際して、本作を手掛けたカナダ出身の実力派トム・フィッツジェラルド監督にオンラインインタビューしました。

トム・フィッツジェラルド監督

──今日はありがとうございます。今、どちらからですか?
(カナダ・ノバスコシア州の)ハリファックスにある自宅のダイニングルームからです。

──『ステージ・マザー』は楽しく拝観しました。この作品はどういう経緯で撮ったのですか?
脚本がプロデューサーから送られてきて、楽しくて面白いとは思ったのですが、個人的にこの脚本を気に入った理由は、悲しい部分です。私自身も、3歳上の兄を薬物の過剰摂取で亡くして、母親が同じような経験をしているのを見てきているので。

──映画化するにあたって膨らませた部分等はありますか?
メイベリンの旅を的確に描くことに集中したいと思いました。

──ドラァグクイーンの方々を描く時には、その描写の正確性も問われますよね。
私自身LGBTのひとりなので、その辺りのことは知っています。さらにキャストとスタッフのほとんどがクィアやドラァグクイーンなので、例えば衣装やメイクアップも、ドラァグクイーンの方にお願いしました。もしかしたら全員がゲイかもしれません。それにジャッキー・ビートというアメリカではものすごく有名なドラァグクイーンにも参加してもらっています。とてもリアルなものが出来ていると自負しています。

──これまでのLGBT映画に関して、正当に描かれていないと思うことはありましたか?
私がLGBTの映画を多く観ていると言えるかどうかはわかりませんね。例えば『プリシラ』(94年)は、オーストラリア版はとても好きですが、アメリカ版はドラァグクイーンの見た目がリアルじゃないと思ったので、あえて観ていません。ただ今回の映画では、リアルなものにするのがモチベーションだったかというと、そうではありません。どちらかと言えば、キャストやスタッフのドラァグの方たちがリアルさを持ち込んでくれたと思います。

──ジャッキー・ウィーバーが演じた母親はとても感動的でした。なぜ彼女を選んだのでしょうか?
過去の作品を観ていて、彼女のことが好きだったんです。私もジャッキーも別々に脚本を読んで、気に入って、ある日お互いに会う機会があってウマが合ったので、これはやるしかないと思いました。ジャッキーは、ドラァグクイーンやゲイが大好きだと言って、この役は私しかできないでしょと説得してきたので、メイベリン役には彼女しか考えませんでしたね。

──この作品で描かれるような母と息子の葛藤は、世界中でどこでも起こっていることですね。息子の生き方を受け入れらない両親というのは、普遍的な物語だと思います。ここではゲイの息子を両親は受け入れないわけですが、この不寛容に関する問題は、徐々に解決の方向に向かっていると思いますか
全体的には解決してきていると思います。私の母はカトリックのキリスト教で、私がカミングアウトした時には泣き崩れてしまいました。息子は罪を犯しているから、若くして命を落とすだろうと嘆いていましたね。でも、徐々に受け入れてくれるようになりました。今では80年代と比べるとカミングアウトしやすい世の中になっていると思います。

──母親と和解のきっかけになったものはあったのですか?
やはり母親なので、自分の子どものことを完全に嫌うことができなかったことが一番大きいと思います。他には、テレビや映画でこうしたテーマが扱われることが近年増えていったことも影響しているのではないでしょうか。私が子どもの頃は、メディアがゲイについて触れることがほとんどありませんでしたから。今ではあたり前のことになっているので、母親の宗教的な考えも変えてくれたのだと思います。

──ペドロ・アルモドバル監督の作品などを観ても思いますが、ゲイの息子は、父親よりも母親との繋がりが強く描かれているように感じます。本作でも、母親は早くから息子を受け入れるのに、父親はなかなか理解しようとしませんが、なぜなのでしょうか?
リッキーの父親もメイベリンと同じくらい息子を愛していると思います。でも男性は、一般的に自分の愛を表現しないように育ってきているのが原因ではないでしょうか。無駄なバリアが1枚多くあるために、自分の本当の気持ちを子どもに伝えられないだけじゃないかと。『ステージ・マザー』の父親も同じで、息子のことを嫌っているように見えるけれど、母親と同様に息子を愛していると私は思っていますよ。

──ジェンダーギャップ問題が近年注目され、男社会のおける被害者は女性だと言われてきましたが、本作では、そうした社会では男性も被害者であり得ることを明示していますね。男性も、男らしくあるべきというプレッシャーを抱えて生きていると。
私も同じ考えです。男性社会というのは、女性だけでなく男性にも被害を及ぼしていると思います。男性社会に生きていると視野が狭くなり、そこから抜け出すことができなくなるのが問題だと思います。

──息子の恋人だったネイサンが変容していく様子はこの作品のもうひとつの見どころで、リッキーに対して冷たい仕打ちをした親を初めは拒絶しますが、やがて心を開いていきます。この複雑な役にエイドリアン・グレニアーをキャスティングした理由は?
この役をどうしてもやりたいとエイドリアンの方から言ってきたんです。それで話してみたら、意気投合しました。ネイサンはどういう人物なのかについて話したのですが、愛と悲しさと怒りが非常に重要になるという話をしましたね。エイドリアンはジャッキー・ウィーバーとも会って、二人の関係性を時系列で辿りながら確認していきました。どのタイミングでお互いの関係が変わってくるのかも計算をしていました。最終的にはネイサンがメイベリンの息子のようになっていくのが素晴らしいと思いました。

──友人もたくさん参加しているとのことでしたが、撮影中楽しかったところは?
ドラァグの人たちがいろいろなものを毎回出してくるのが楽しかったですね。新しいウィッグやドレスを見せにきたり、そのウィッグも会う度になぜか大きくなっていたり。ドレスもどんどん派手になっていくし。毎日撮影に行くのが楽しくてたまらなかったですね。

──サンフランシスコが舞台ですが、カナダで撮影した理由は?
基本的な話では、税金の優遇措置もあります。多くのハリウッド映画がそれを理由にカナダで撮影するように。個人的には大好きなサンフランシスコの街で映画を撮りたいとずっと思っていましたが、カナダのハリファックスは自分にとって、サンフランシスコを彷彿とさせる風景がある街なんです。それでハリファックスで多くを撮影しました。数日間はサンフランシスコで撮りましたがね。

──観客からのリアクションで、意外だったものはありますか?
パンデミックのため、実際に観客と一緒に映画を観られたのはプレミアが行われたパームスプリングス映画祭だけなんです。その時に驚いたのは、観客たちが歌唱シーンでみんな歌い始めたことです。撮影している時もいきなりスタッフたちが歌い出すことがありましたが、一緒に歌うことがみんな大好きなんだと発見しました。

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『ステージ・マザー』(原題:Stage Mother)

テキサスの田舎町に住むごく普通の主婦メイベリンは、ある日息子リッキーの訃報を受ける。長らく疎遠だった息子の最期を見届けるため、夫の反対を押し切りサンフランシスコへ。そこで、リッキーのパートナーであるネイサンから、彼がドラァグクイーンでゲイバーを経営していたことを知る。さらに、遺言を遺さずに他界したため、バーの経営権は母親のメイベリンにあること、そのバーが破綻寸前の危機にあることが発覚!彼女は困惑しながらも、愛する息子の遺したゲイバーを再建するために立ち上がるがー。

出演/ジャッキー・ウィーヴァー、ルーシー・リュー、エイドリアン・グレニアー、マイア・テイラー
監督/トム・フィッツジェラルド
2020/カナダ/93分/PG12

日本公開/2021年2月26日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開!
提供/リージェンツ、AMGエンタテインメント
配給/リージェンツ
公式サイト
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