Column

2021.02.18 8:00

【単独インタビュー】『あの頃。』 松坂桃李 × 仲野太賀が明かす撮影現場での恐怖と楽しさ

  • Atsuko Tatsuta

『愛がなんだ』(19年)、『アイネクライネナハトムジーク』(19年)、『his』(20年)など話題作を立て続けに世に送り出している気鋭・今泉力哉監督の新作『あの頃。』は、神聖かまってちゃんの元マネージャー・劔樹人の自伝的青春コミックエッセイを映画化した青春群像劇です。

好きで始めたバンド活動もままならず、悶々としながら生きていた劔(松坂桃李)は、友人からもらったアイドル・松浦亜弥のDVDをきっかけにアイドル集団「ハロー!プロジェクト」の大ファンとなる。イベントを通じて知り合ったハロプロを愛してやまないファン仲間と親交を深める中、“恋愛研究会。”というバンドを組むことに。“推し”について語り合い、生活のすべてをハロプロに捧げていた劔だが、やがてそれぞれが別々の人生を歩み始める──。

主人公の劔樹人を演じたのは、『娼年』(18年)で娼夫というセンセーショナルな役に挑戦、『新聞記者』(19年)で第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した若き実力派・松坂桃李。同じ趣味をもった仲間と出会ったことによって、遅れてきた青春を謳歌する主人公を生き生きと演じました。

主人公のオタク仲間の“コズミン”役を演じたのは、ここ1年でも『静かな雨』(19年)、『今日から俺は!!劇場版』(20年)、『生きちゃった』(20年)、『泣く子はいねぇが』(20年)など出演作が相次ぐ、人気沸騰中の仲野太賀。本作では、感じが悪く、陰口も叩く汚れ役を見事に演じきり、その卓越した演技が絶賛されています。

『あの頃。』の劇場公開に先立ち、実際に撮影を通じて友情を築いたという松坂と仲野が、Fan’s Voiceの単独インタビューに応じてくれました。

松坂桃李、仲野太賀/Photo: Takahiro Idenoshita

──松坂さんは、ちょうど1年前に『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞されましたね。遅ればせながらおめでとうございます。
松坂 ありがとうございます。前年度の最優秀女優賞受賞の方からトロフィーを頂くのですが、あの安藤サクラさんから頂けたことがダブルで嬉しく、感慨深かったですね。コロナ禍のため、もうずっと前のことのように感じてしまいますが、たった1年前のことなんですよね。

仲野 『あの頃。』を撮影したのも、もっと前のように感じますね。

松坂 ちょうど2020年の2月くらいなのにね。海外でコロナというウイルスがあるらしいよと言われ始めたくらいのときでしたね。日本ではまだ実感がなかった。まさかこんな日が来るとは。

──松坂さんは、『あの頃。』では松浦亜弥さんのファンである劔を演じたわけですが、実際に松浦さんは学校の先輩だとか?
松坂
 そうなんですよ。中学1年生のときに、松浦さんが中学3年生でした。松浦さんは既にスーパースターで、キラキラ光って、あの方の周りだけ後光が差している感じでした。学校で制服を着ているのも見ていて、スターでしたね。不良の子たちは「ウェーイ!、あややーっ!」って感じで。

──松坂さんはどんな感じだったんですか?
松坂 「サインください!」(笑)。と言ったら、「ゴメンナサイ、ちょっと事務所が……」と言われて、「あああっ」って崩れ落ちました。

「サインください!」/Photo: Takahiro Idenoshita

仲野 (笑)。中1の桃李少年が!

──まさか今俳優になって、こうした役をやるなんて当時は想像もしていなかったでしょうね。
仲野 すごい縁、もう運命ですね。

松坂 松浦さんはもう、覚えているかどうかわからないと思うんですよね。

仲野 大人になって会ってないんですか?

松坂 ないですね。仕事を始めてからも一度もお会いする機会がなく。

──この映画はご覧になったんですかね?協力として名前がクレジットされていましたが。
(スタッフ) ご覧になったそうです。

松坂 あっ、そうですか…。

Photo: Takahiro Idenoshita

──脚本を読んだ感想は?この物語のどこに惹かれたのですか?
松坂
 脚本を読んでまず感じたのは、劔さんのエキセントリックな人生にはすごいものがあるな、と。で、それを突き動かしたものの一つが、あややでありハロプロだった。この存在で、劔さんの人生はやっぱり変わったんですよね。それからマネージャーになったり、いろんなジャンルの仕事をし始めるわけですが、その根源につながっているのを感じました。人生って本当になにがあるかわからないし、“あの頃”があるから今がある、ということを改めて実感できたし、とても温かい話でした。

仲野 とにかく登場人物それぞれが非常に魅力的で、しかも、彼らが実際にいる人たちというのが驚きでした。ハロプロのファンであるということで集まったメンバーが、みんなこんなに面白い人たちばかりだったな、と思って。あの空間に行ってみたい、あの時間に参加してみたいというような、少し羨ましい気持ちで読みました。

──劔と仲間たちは本当に個性豊かですが、自分に近いと思うキャラクターは?
松坂 自分が演じた劔さんの役に、共感や共通点を見出しながら演った部分もあるので、やっぱり劔さんになるのかなと。

仲野 僕も自分で演じた、コズミンですね。表現の仕方は違いますけれど。根本的には近い部分があると思いました。

Photo: Takahiro Idenoshita

──コズミンは、いわゆる嫌なヤツキャラでもあるわけですが、彼のどういう部分が魅力だったのでしょうか?
仲野
 器の小さな男なのに、自分を大きく見せようとするところとか。そういうのって誰にでもあることだし、僕自身もそういう気持ちもある。「なんでオレ、こんなに器ちっちゃいんだろうな」と自分のことが嫌になったりすることもありますから、そういう瞬間は”わかる、わかる”と思いました。ただ僕とは表現の仕方が違うので、その違いが演じる上では最大の魅力でもあり、コズミンの個性を楽しく演じれたと思います。それにしても、あんなにコンプレックスと自信が共存している人もなかなか珍しくて、それが愛おしいところに着地できれば、コズミンのキャラクター像が描けるかな、と。

──今泉監督は今最も勢いのある監督の一人だと思いますが、現場ではどんな演出をされるんですか?
松坂 監督は本当によく見ている人で、お芝居を途中でコソッと変えたりする。3人の登場人物がいるシーンなら、そのうちの一人に本番前にコソコソコソってしゃべっていて、そこから「ヨーイ、本番!」と入るんですよ。そうすると、さっき耳打ちされた人が脚本とは違うことを言ったりする。そういった不意打ちにリアクションをどう返すかということが試される、そういう今泉監督ならではの空気の変え方というか、それが僕はとても楽しく、時に緊張感があり、怖くもあり。

Photo: Takahiro Idenoshita

──怖いんですか?
松坂 やっぱり耳打ちされた時、もしくはされた相手のセリフを受ける時のその緊張感たるや、なんというか。恐怖みたいなところがありますね。何が出て来るんだろうという。

仲野 失敗できないですしね。でも、楽しい緊張感でした。モニターが置いてある撮影のベースのところから、手榴弾を投げられているような気持ちでしたね。「ヨーイ、(カチッ)、スタート!ボーン!」みたいな。

撮影現場にて

──撮影現場で印象的だったエピソードはありますか?
松坂
 銭湯で劔とコズミンが喧嘩するシーンで、僕と芹澤さんが湯船に浸かっていて、途中で太賀がバシャっと入ってきて、そこで僕と喧嘩を始めるんです。水を掛け合うんですけれど、実は一番被害に遭っているのが、二人の間にいる芹澤さんなんですよ(笑)。芝居を始めるまで、そうなることにまったく気がつかなくて、だから監督はわざと芹澤さんを真ん中に置いたのかーって。

仲野 あれ、上手いなって思いましたよね。

松坂 思った!

仲野 俺達じゃなかったんですよね。芹澤さんがぐっちょぐちょになってて、すごい面白くて。

松坂 演ってる時に本当に笑いそうになりましたね。可笑しかった。

芹澤興人演じるナカウチ

──映画の中ではアイドルを通じてどんどん絆が深まっていきますが、実際に俳優同士も仲良くなりましたか?
松坂 すぐに打ち解けましたね。こんなに年齢も違うのに、共通の話題でここまで仲良く距離が縮まるものなんだ、というぐらい早かったですね。

──やはりハロプロの話題とかで?
松坂 例えばライブハウスのシーンで、セットに写真集が置いてあるんですが、誰々がカワイイとか、この写真良いねって話をするだけで男は盛り上がれるところがある。

仲野 そこで一気に年齢差感じなくなるんですよね。

Photo: Takahiro Idenoshita

──ちなみにお二人の推しはどなたですか?
松坂
 僕はやっぱりあやや…松浦先輩の水着姿を見る、このいけない感じ(笑)

仲野 でも今思うとより…

松坂 めっちゃ可愛いやん、めちゃめちゃ美人…って。

仲野 当時、小学校2年生くらいの頃は僕はゴマキがずっと好きだったんですけど、今は藤本美貴推しの役だったので、ミキティを見ていると、あのゴマキへの想いを凌駕する勢いで、むちゃくちゃ可愛いなと思って。今もう一回あのまま出てきて欲しい(笑)。

──”あの頃”というものはみんな誰にでもあって、本作のタイトルも絶妙だなと思いますが、お二人は”あの頃”というとどんな自分を思い出しますか?
松坂 やはり学生時代、小、中、高校とそれぞれ思い出があるんですけど、中学のバスケ部の顧問の先生が、すごく厳しい体育会系の先生で、普通にぶん殴ったりするんですよ。シュートを外すと蹴っ飛ばされるとか、そんなことが当たり前だった。それに対して僕ら部員は反発しようとして、退部届を全員で書いたんです。それを顧問の先生に叩きつけて”辞めます”って言おうと根回しをしたのに、一人だけ裏切った子がいて。

仲野 (笑)いるんですよねー、そういうヤツ。

松坂 一人だけ出さなかった子がいて、彼だけが一人残って練習している姿を見て、”なんか、俺らも戻ろうか…”という(笑)。情けない話なんですけど、それで顧問の先生に頭を下げて。”すみません、申し訳ありませんでした!”って。

Photo: Takahiro Idenoshita

──10代の少年にとっては大きな事件ですよね。
松坂 大きいですね、まさに”あの頃”ですよね。

仲野 僕も学生時代、高校生の時の記憶が鮮明に残っていて、当時10人くらいのグループだったんですが、誰かの誕生日のときはバースデーサプライズをやるという習慣があって、毎月のように仕掛けていた。それで映像を作ったり、ちょっとした短編映画を作ったりしていて、映像作りにめちゃめちゃハマっていました。

松坂 へえ、すごいねえ。

仲野 自分でFinal Cutで編集して、脚本も書いて。ドラマ仕立てもあるし、バラエティ番組みたいな構成のもやってみたり。

──今だったらYouTuberですね。
松坂 完全にそうだよね。

仲野 それでみんなで大きな会場とって、誕生日のヤツをサプライズで呼び出して上映会やったりとか、ライブハウス貸し切って、クラスの友だち80人くらい呼んで楽器演奏したり(笑)。本当にあの頃、キラキラしてましたよ。

松坂 すごいねえ。めちゃイベントやってたんだね。

──俳優というより、裏方志向だったのですか。
仲野 とにかくそいつが喜ぶ顔をどれだけ引き出せるか、どうやって驚かすか、みたいなことをよくやっていました。みんなでわちゃわちゃやっているのが楽しかったですね。でも、月に1回サプライズがあるから、ネタはほぼ僕が考えていたし、脚本を書くのも、撮影も編集も僕がしていて、もうこれ疲れたって言って僕がやめたんです。”もういい、もうサプライズ禁止!”って言ってやめたので、もうやることはないですね(笑)。やりきりました。

松坂 もうちょっと分担していればね。

仲野 そう、分担していれば続いたんですけど、背負いすぎちゃって。

Photo: Takahiro Idenoshita

──『あの頃。』は楽しく始まり、シリアスな展開になっていきますが、特に思い出深いシーンはどこですか?
松坂 本当にシリアスなシーンで死ぬほど笑いそうになったところが一つだけあるんです。コズミンが更新したツイートを芹澤さんの携帯で見た劔が、リツイートしちゃうというシーンがあるのですが、そこで僕がRTのボタンをピッて押した後に芹澤さんが「えっ」って言うあの言い方が死ぬほど面白くて(笑)。ちょっと細かいのですが、あの言い方と顔が、この人わざとやってるのかなと思うくらい面白いんですよ。

仲野 芹澤さん、本当に読めないですよね。狙っているのか、狙ってないのか。

松坂 あの人は、「えっ」というセリフが、僕が今まで出会った役者さんの中で一番上手いと思います。「えっ」だけのセリフ。

仲野 それ、芹澤さんはめちゃ嬉しいんじゃないですか。俺は言われたら嬉しいですもん。「えっ」が日本で一番上手い。

──仲野さんはどうですか?
仲野
 うーん、桃李くんの部屋で一緒にクリームシチューを食べるところ。

松坂 あー、あったね!あれ、良いシーンだよね。好き好き。

仲野 劔さんと二人で、コズミンが珍しく優しいシーンで、こういう一面もあるんだっていうほっこりシーンなんですよね。コズミン的には数少ない、唯一と言っていいほどのほっこりシーンで、好きです。

──そんな風に料理も作って男同士で励まし合うというのはお二人の青春時代にはありましたか?
松坂 作って食べるは、なかったかもですね。基本、コンビニでたまっておでんを食べるとか。

──そのシーンの撮影ではどんなことを意識されていたのですか?
仲野
 コズミンは本当にもう振り切って嫌なヤツだったりするので、実はこういうところもあるんだよ、嫌いになりきれない大事な部分、人として温かい部分もあるんだよと意識していましたね。なおかつ(そのシーンでは)握手会のチケットを通じて、オタクというかファンがそういうものと向き合ったときにどんな風になるのかも描かれていて、あややに対する愛情が伝わるじゃないですか。いろいろな優しさと愛情がこもったシーンだと思いました。

──ちなみに、良い人を演じる時と嫌なヤツ演じる時、どっちが楽しいんですか?
仲野 嫌なヤツ、楽しいですよ。

松坂 楽しいよね。『ゆとりですがなにか』の時の太賀は、すごい楽しそうでしたよ。

仲野 (笑)あれは楽しかったです。生き生きしていましたね。全然違うけど、コズミンにちょっと近いものは感じますね。

松坂 なんかこう、真ん中にちゃんとドンと良い人が立ってくれていると、外野はいろいろ出来るんですよね。やりやすい。

仲野 やりたい放題できるというか(笑)。今回やりたい放題やらせてもらいました。

松坂 いろんなボールを「ウェーーーイ」って投げられる、投げまくる楽しさはありますよね。

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『あの頃。』

監督/今泉力哉
脚本/冨永昌敬
音楽/長谷川白紙
原作/劔樹人「あの頃。 男子かしまし物語」(イースト・プレス刊)
出演/松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウ、大下ヒロト、木口健太、中田青渚、片山友希、山﨑夢羽(BEYOOOOONDS)、西田尚美
製作幹事/日活、ファントム・フィルム
2020年/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/117分

日本公開/2021年2月19日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給/ファントム・フィルム
公式サイト
©2020『あの頃。』製作委員会