Column

2021.02.15 12:00

【単独インタビュー】『マーメイド・イン・パリ』新星マリリン・リマが語る、ファンタジックな恋愛の意味

  • Atsuko Tatsuta

フランスのマルチアーティスト、マチアス・マルジウ初の長編実写映画としても話題の『マーメイド・イン・パリ』は、愛に傷ついた男と恋を知らない人魚のラブストーリーです。

記録的な大洪水後、セーヌ川に浮かぶ老舗バー“フラワーバーガー”のオーナーの息子ガスパール(ニコラ・デュヴォシェル)は、傷を負って倒れていた人魚のルラ(マリリン・リマ)を発見。病院では受け入れを拒まれ、自身のアパルトマンに連れ帰ります。ルラの美しい歌声は、彼女に恋に落ちた男性の心臓を爆発させ死に至らしめますが、恋をする心を失ってしまったガスパールには効きません。ガスパールの献身的な看病で回復したルラでしたが、2日目の朝日が昇る前に海に帰らなければ命を落としてしまう運命にありました──。

人魚のルラ役に抜擢されたマリリン・リマは、大ヒットドラマシリーズ『スカム・フランス』(18〜20年)のメインキャストとしても人気となったばかりの25歳。センセーショナルなデビューを飾ったエヴァ・ユッソン監督の『青い欲動』(15年)以来の長編映画主演となりました。

下半身を魚型のコスチュームで覆った特殊な衣裳での演技、また劇中では歌唱シーンもある難役を見事にこなしたフランス映画界の新星に、オンラインインタビューを行いました。

──クラフトマンシップを感じさせる、フランスらしいファンタジックなラブストーリーをとても楽しく拝見しました。どのような経緯でこの作品に参加することになったのですか。
知り合いのキャスティングディレクターから、監督のマチアスが私の写真を見て会いたがっていると連絡をもらいました。マチアスとはカフェで会って、この映画について詳しく語ってくれたのですが、その時に”君にはこのルラという人魚の役をやって欲しい”とストレートにオファーされました。私は即答せず、数日間考えさせてくださいと言いました。というのも、この役柄はかなり複雑な、内容の濃い役柄なので、監督の期待に本当に応えられるのか、自分ではすぐに確信が持てませんでした。でも、このそうそう無いキャラクターですし、演らない手は絶対に無いなと思ったので、受けました。

──ルラというキャラクターはどのように構築していったのですか?
脚本より先にマチアスが書いた、映画の原作ともいえる小説があったので、参考にしようとカフェで会った後すぐに読みました。彼が創造した人魚がしっかりと描かれていたので、できるだけ近づこうと思いました。出演が決まってからは、それを基本にマチアスと連絡を取り合いながら、ルラという人魚像を作り上げていきました。やりとりの中でああだこうだ言いながら、徐々に彼が望む人魚になっていったという感じですね。

──あなた自身が思う、ルラという人魚は?
たった2日しか人間の世界にいられないという設定が、まず普通じゃない(笑)。最初は、人間の世界に入って怖がっている女の子。しかもガスパールや彼の周りの人たちの世界って、ちょっと変わっている。ルラは人間について少しは知っていて、むしろ憎んでいたわけですが、ガスパールに会って初めて、本当の人間を理解します。そうすると段々と情が移り、少女のようだったルラが、少しづつ大人の女性のようになっていく。ルラはとても短い時間の中でどんどん成長していきます。なので、声の出し方ひとつをとっても、最初は少女のような声で、次には恋をしている若い女性の声というように、少しづつ変えていきました。変化していく女性を演じることは、私にとってとても興味深いことでした。

──人魚は架空の生き物ですが、何のメタファーだと思いますか?
マチアスはこの映画で、現実とフィクションを融合させようとしていました。アニメーションを使ったり、彼自身が手掛ける音楽とか、彼のテイストが反映されています。しかもそれをマジシャンのようにミックスさせて、現実とフィクションを上手く融合させています。彼にとって、愛は素晴らしいものであるとともに、毒を含んでいるもの。スイートだけれど心に痛みをもたらすもの。それが彼の恋愛観なのだと思います。人間が感じるような痛みを伴う恋愛を、人魚と人間という架空の設定に置き換えることで、愛がもたらすものとはなにかというテーマを追求したかったのだと思います。

私はマチアスが創造した人魚になりきるため、あえて他の人魚伝説をみないようにしました。もちろん、マチアスがルラのキャラクターを創り上げる上で、アーティスティックな面などで他の人魚伝説からインスパイアされた部分はたくさんあると思いますけれど。

──人魚は最後は海に帰っていく運命にあります。水中と陸、同じ世界では生きられない人間の男と人魚の恋愛は、ハッピーエンドとは言えないかもしれません。これは彼の恋愛観が反映されているのでしょうか。
マチアスは、実生活では恋愛体質なんですよ。しかも彼の恋愛観はとても楽観主義的だと思います。恋をしたら相手にすべてを与えるタイプの人。とても情熱的です。恋愛において彼ほど楽天的な人を見たことはありませんね。なので、彼の恋愛観が悲観的だというのは考えたこともなかったので、この結末はある種とても面白いと思いました。でも思うに、彼の恋愛観の楽天的なところもちょっと出ていると思います。人間と人魚が本当に恋愛することはありえないんじゃないかと思いますが、ガスパールとルラは、心からお互いを必要とする本物の恋愛をする。そういう意味で決して悲観的ではなく、特にルラは、人間に抱いていたネガティブな感情を払拭することができ、今まで知らなかった人間を知ることができます。それに私は、二人はあの後再会できるんじゃないかと思っています。ガスパールは船で海に出ていきますが、私のイメージではきっとルラは船と伴泳して、ガスパールと再び話ができるような気がします。

──ガスパールが飼っている猫も印象的に登場しますね。猫は魚を食べますし、ルラは最初は猫を怖がっていますね。
猫は日常に温もりを与えてくれる存在ですよね。ガスパールは“僕はもう愛を信じない”なんて言いながら、本当は心の底で愛を求めている人。なので、愛情を注ぐ対象が動物になっているじゃないかと思います。ちなみに、あの猫はルラを見て怖がったのじゃないかと思います。あんなに大きな、しかも人間のような魚は、見たことがなかったでしょうから。

──猫との共演はいかがでしたか?
猫は二匹いました。動物を使った撮影はだいたい長引くので、一匹だけということはあんまりないですね。その内一匹は、主人公と同じガスパールという名前でした。撮影はとても上手くいきましたよ。

──セット美術も独創的ですが、ガスパールの親が経営しているセーヌ川に浮かぶバーの名前が“フラワーバーガー”だったり、ローラースケートで街中を走ったり、トゥクトゥクに乗ったり。普段パリの街ではあまり見かけない風景が出てきますが、こうしたところもマルジウ監督らしいですよね。
トゥクトゥクはほとんどパリでは見かけませんが、観光客用のものが1台あるんですよね。映画で使用したものと見た目は大分違いますけれど。“フラワーバーガー”という名前の由来は私は知りませんが、私たちフランス人にとっては英語の名前ってちょっとかっこよく響きますからね。ローラースケートに関しては、なんで?って撮影現場でもみんなちょっと驚いていましたね。あまりパリでは見ませんから。

マチアスは、まったく違ったテイストのもの、しかも意外性のあるものをミックスするのが好きなんです。ガスパールのアパルトマンの部屋も、賑やかでとても楽しいデコレーションですよね。実はあの小道具の多くは、マチアスが家から持ってきたものなんです。彼の家に行ったことがありますが、ある種の美術館のようでした。彼の奇想天外で独特の芸術の世界は、彼のアイデンティティのようなものと言えると思います。本当にユニークな人。どこからそんなアイデアが浮かんでくるんだろう。そのイマジネーション力はどうして培われたのか。たぶんそれは永久に謎だと思いますが。

──あなたがメインキャストの一人として出演した人気TV番組『スカム・フランス』は、日本でも配信が始まったばかりです。この映画でも初主演も果たしましたし、今、あなたはキャリアを順調に築いているようですね。
そうですね。フランスでは、この幸せがずっと続きますように!悪いことが起きませんように!という願いを込めて、“Je touche du bois”(”木に触れる”の意味)と言うんです。まさに私は木を触っている感じで、とても恵まれていることに感謝しています。しかもこのようなコロナ禍という、映画人にとってもみんなにとっても厳しい時代に、仕事を貰えることに感謝しています。女優のキャリアには、サスペンスがつきものです。撮るのか撮らないのか、そういうサスペンスの中で生きているので、この調子でずっといければ良いなと思います。それから、海外で撮影ができればとも思います。とても楽しいでしょうね。新しいシリーズものの撮影が始まっているんですが、これまで私が演じてきた役柄とはまったく違う、警官の役なんです。スカムでは若い普通の女の子だし、この作品では人魚。今度は警官。次々と違う役柄に挑戦できるのは、本当に幸運です。

──『スカム・フランス』とこの映画は、同時期に撮っていたのですか?
『スカム』は3年間かけて撮影していたのですが、ちょうどエピソード5、6のときに、『マーメイド・イン・パリ』を撮ったので、スケジュール調整が難しく、私のスカムでの出演シーンが元の脚本よりだいぶ短くなってしまったのがちょっと残念でした。俳優のキャリアの中では起こり得ることなので、仕方ないですね。

──パリでも新型コロナの感染が広がっていると聞いて心配していましたが、新作の撮影も始まっているとのことで、少しほっとしました。お気をつけて撮影を続けてください。
確かに他の国々でも映画業界が大変なのは一緒です。延期になっている作品もありますが、撮影が開始された作品もあります。私たちもみんなマスクをして、俳優だけがカメラが回っている間だけマスクを外すというやり方です。そういう撮影の仕方は奇妙ですけどね。撮影後も飲みに行ったりできないし。それって本来なら撮影の楽しみですからね。でも、撮影ができるだけでも幸せです。劇場も閉まったりして、映画はこれから配信が増えるかもしれませんが、いずれにしても私たち俳優は、観客の方に楽しんでもらうために頑張りたいと思います。

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『マーメイド・イン・パリ』(原題:Une sirène à Paris)

出演/ニコラ・デュヴォシェル、マリリン・リマ、ロッシ・デ・パルマ、ロマーヌ・ボーランジェ、チェッキー・カリョ
監督/マチアス・マルジウ
2020/仏/102分/G

日本公開/2021年2月11日(木・祝)新宿ピカデリーほか全国公開!
提供・配給/ハピネット
配給協力/リージェンツ
後援/在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
公式サイト
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