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2020.12.17 12:00

『ニューヨーク 親切なロシア料理店』ロネ・シェルフィグ監督インタビュー

  • Fan's Voice Staff

ロネ・シェルフィグ監督最新作『ニューヨーク 親切なロシア料理店』は、ある事情を抱え夫から逃げてきた母クララと息子二人が、マンハッタンで創業100年を超える老舗ロシア料理店で見知らぬ人々と出会い、新たに人生をスタートする姿を描いた感動作です。

監督・脚本・製作総指揮を務めたロネ・シェルフィグは、世界で活躍するデンマーク出身の監督。『幸せになるためのイタリア語講座』(00年)が、ベルリン国際映画祭銀熊賞をはじめ多くの賞を獲得し、世界的に脚光を浴びました。その後、キャリー・マリガン主演『17歳の肖像』(09年)では英国アカデミー賞で9部門受賞し、米国アカデミー賞でも3部門にノミネート。アン・ハサウェイ主演『ワン・デイ 23年のラブストーリー』(11年)では、日本でも多くの観客から支持されました。

困難な時代だからこそ、今を生き抜くために大切なことが詰まった本作では、クララ役に『ルビー・スパークス』のゾーイ・カザンをはじめ、料理店のオーナーに名優ビル・ナイなど実力派キャストを迎え、家族や仕事、恋愛にトラブルを抱えながらも、自分らしい生き方と幸せを見つけていく人々の姿を優しい眼差しで描きます。

本記事では11月に実施されたロネ・シェルフィグ監督のオフィシャルインタビューを掲載します。

Photo by Desiree Navarro/WireImage

──本作の舞台は、ニューヨークのカーネギーホール隣にある老舗のロシア料理店“ロシアンティールーム”がモデルですね?
その通りです。インスパイアーされた、と言った方が良いかもしれません。温かい場所に人が集まれる様な、また、たくさん秘密がありそうな雰囲気の場所。そこにユニークでインターナショナルな人々が集まるのです。

──原題の『The Kindness of Strangers(見知らぬ人の親切)』という言葉は、巨匠エリア・カザン監督の名作『欲望という名の電車』(51年)の有名なセリフを連想します。
ニック・ケイヴの楽曲にも同じタイトルがあるし、いろいろなところで使われている言葉ですよね。例えば病院で、患者が朝の4時にやってきても、看護師たちは直ちにどういう状況か察知して、理解を示してくれる。そういうことを表しています。

──エリア・カザンの孫娘であるゾーイ・カザンの起用と、彼女との仕事はいかがでしたか?
ゾーイ・カザンは、いわば、ハリウッドのロイヤルファミリーと言われるような良い家系に育ったセレブリティ。とても賢くて、イエール大学を出ている。働く意思や倫理観もしっかりしていて、素晴らしい俳優です。そうそう、映画の中で、彼女が子どもたちに読み聞かせをするシーンがあります。その撮影の時に、彼女は、自分の祖父(エリア・カザン)がエリス島にやってきて、ゴッドファーザーの様なイメージで、読み聞かせをしてくれた体験を話していました。映画には音声として入っていないけれど、そのシーンで彼女はそういうことを話していたんです。

──心が温かくなるストーリーでした。いつ頃から構想を?
新型コロナウイルス感染の流行よりもずっと前から、長い間考えてきました。私は、家を訪ねて会いに行くよりも、偶然人が出会うことによって友情が生まれたり、関係が生まれることを良いことだと思っています。それがコロナの状況下で、今までとは違う、新たな意味を持つようになってきました。アメリカの状況についての政治的な考えはもともと含んではいません。知らない人同士の関係性で何かが生まれるということを考えているのです。この映画の構造は、他人同士が、どんどん近づき、一つにまとまり、それぞれにとってかけがえのない人になったり、恋人になったり、理解者になったりします。映画を観た人には、登場人物たちのメッセージを聞き、優しさを感じて、立ち上がり、周りの見知らぬ人を信じてほしい。特に魅力的と思っていなかった人が、実はあなたの近くにきて重要な存在になるかもしれないということ。そして、希望は楽観主義的なものではない、ということを。

──国際的に活躍する豪華キャストが勢ぞろいですね。
彼らは本当に才能を持った素晴らしい役者、という一言に尽きます。お互いに噛み合うか、というところが大事なところでした。注目されている彼らを起用できたことは、私にとって素晴らしい体験でした。アンドレア・ライズボローは本当に素晴らしくて、私たちにとっての贈り物と言っても良い存在でした。ビル・ナイももちろんそうですし、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズも、素晴らしい役者でとても魅力的な人物です。ケイレブに関しては、彼のコメディアン的な要素にすごく惹かれたのです。悲劇をコメディアンにやらせることを面白いと思っていて、そこにはこだわっているので。

──現代に生きる私たちは、結婚、育児、仕事などすべてを背負うことが多く、疲れている人も多い。そういった人たちへ伝えたい想いを込めたのでしょうか?
より苦しい状況にいたり、助けを必要としている人の中には、クララのような女性はもちろんいるけれど、男性ももちろん同じくらいの割合でいると思います。彼らはクララやアリスのように自分のことを主張できずにいて、シャイ。そのために、お互いを助け合うことで何かを見出せるということはあると思うのです。

撮影風景

──映画が現代の社会を描くことの必要性、影響力についてどう考えていますか?
映画というのは多くの責任を負っています。家庭だったり、人々の意識の中だったり…いろいろな中に入り込んで探求していく。観客は移動して、その時間、空間を体験しにくる。彼らの生活、問題点を代弁できているかということが大切。映画作家として気をつけないといけないポイントですね。

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『ニューヨーク 親切なロシア料理店』(原題:The Kindness of Strangers)

マンハッタンで創業100年を超える老舗ロシア料理店〈ウィンター・パレス〉。かつては栄華を誇った伝統あるお店も、今や古びて料理もひどい有様。店を立て直すために雇われたマネージャーのマークは刑務所を出たばかりの謎だらけの人物。常連の看護師アリスも、他人のためだけに生きる変わり者。そんな料理店に、二人の息子を連れて、事情を抱えて逃げてきたクララが飛び込んでくるが…。

監督・脚本/ロネ・シェルフィグ
出演/ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、タハール・ラヒム、ジェイ・バルチェル、ビル・ナイ ほか
2019年/115分/英語/デンマーク、カナダ、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ/日本語字幕:石田泰子

日本公開/12月11日(金)シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
配給/セテラ・インターナショナル
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