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2020.12.12 21:00

【インタビュー】『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』で注目される中国の新鋭・白雪が語るデビュー作に込めた思い

  • Fan's Voice Staff

中国大陸に住みながら、香港に越境通学している高校生の少女を通して、これまでほとんど描かれなかった中国の若者たちの裏事情や現実をリアルに描いた青春映画『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』。中国の新人監督・白雪(バイ・シュエ)の長編デビュー作です。

2015年、香港の新界と接している中国の経済都市・深センに住む16歳の少女ペイは、毎日、香港の高校に通っている。ペイは、香港に出稼ぎに行ったランが、香港の妻子持ちのトラック運転手ヨンと親しくなって生まれた子どもだ。景気が悪くなるとランは、ペイを連れて深センに戻り、麻雀で生計を立てながらふたりで暮らし始めたのだ。心の拠り所である親友のジョーと北海道旅行を夢見ているペイだが、ある時、香港と深センの間でスマートフォンの密輸グループと知り合い、お金欲しさに危険な仕事に手を染めるが──。

2年間に渡り膨大なリサーチとインタビューを重ね、執筆した脚本を元に完成させた本作は、ベルリン国際映画祭やトロント国際映画祭など多くの国際映画祭で上映され、高く評価されました。エグゼクティブ・プロデューサーを務めた巨匠・田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)に「映画に対する鋭い直感がある」とその才能を絶賛された白雪監督の貴重なインタビューです。

中央:白雪監督(第69回ベルリン国際映画祭にて)© Berlinale 2019

──2007年に北京電影学院を卒業されましたね。長編デビューまでに時間がかかったのは、どういった理由からですか?映画制作にとって、難しい環境だったのでしょうか?
2007年頃は、中国映画の市場化が始まったばかりで、出資者たちは有名な監督に注目していました。映画監督という職業の特性だと思いますが、人生である程度の経験を積み、いろいろなことを悟った上でこそ、語りたいことが出てくるのだと思います。私はある程度経験を積んだ30歳を過ぎた頃から、やっと自分の言いたいこと、撮りたい映画は何かが分かってきました。

──『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』は監督デビュー作として非常に完成度が高い作品ですね。なぜ深センと香港を題材に映画を撮ろうと思ったのですか?
私の両親は90年代初期に南に渡った北方人です。私も6歳の時に両親に連れられて深センに行き、重要な成長期を過ごしました。深センにたくさんの思い入れがあるので、深センに関する物語を書きたいと思いました。

最初はこのペイという女の子が面白いと思いました。香港と深セン、2つの異なる環境の中を浮遊している。それが、私がこの物語を書いた最も原始的な動機です。ストーリー以外に、当時の私には映画を撮るという特別な想いがありました。卒業して10年の間に蓄積したものを噴き出さずにはいられない状態になっていたのです。自分なりに独特だと思う人物をつかんで彼女を撮りたい、いくらお金がかかっても撮ろうと思いました。当時、その衝動が抑えられませんでした。

──脚本を書くにあたって、実際に、香港との越境通学をしている小中高校生に取材したとお聞きしました。
人数はそんなに多くないんです。共通点が分かってきたら次は個性を見つけるべきだと思い、取材の人数を増やすのではなく、2~3人の女の子をフォローするようにしました。

──スマホの密輸に関する取材は、どのようにしたのですか?
税関付近で密輸グループに見える人に、自分が運び屋をやりたいような素振りで話しかけました。彼らは面白いことを沢山話してくれました。「過春天」という隠語も、彼らとの話から知りました。

──以前のインタビューでは、越境通学する学生に「ドラマ性を感じた」「ある種の衝突が存在する」「矛盾と衝突を描きたかった」ともおっしゃっていました。この場合の「矛盾」「衝突」とは具体的にどのようなことでしょうか。
彼らは、毎日の生活の中で異なる環境を経験しています。環境がもたらすものは必ずマイナスなものではありませんけどね。ある日気づいたのは、家族に関する原体験が幸せな子どもは、自分のアイデンティティにそこまで不安定さを感じないということ。だから「矛盾」や「衝突」の大きな原因は、実は家族との原体験にあるのではないかと思ったのです。

香港は一見キラキラ美しく輝いている大都市ですが、教育制度も階級化されていて、階級を突破することは容易なことではないでしょう。ただ私は、実際に香港で暮らしたことはないので、こうした考え方が必ずしも正しいとは言えませんけど。香港に暮らしている友達はストレスが大きいと言っていますが、私からすると、香港だけではなく、北京や東京など、大都会ではいずれも同じだと思います。

──映画の英題名は『THE CROSSING』ですが、このタイトルにした理由はなんですか?
THE CROSSINGという言葉に、ダイナミズムを感じました。私の頭の中で、ペイはいつも走っているイメージです。『THE CROSSING』にも、中国語の『過春天』(春を過ぎる)の字面にも、ある種のダイナミック感があると思ったのです。

──主人公ペイの夢は親友と日本に雪を見に行くことでした。監督は日本に何か特別な思いはありますか?
香港や中国の南方で生活する女の子にとって、日本はとても惹きつけられるところです。加えて、南方の女の子は雪を見たことがないので、彼女たちの外の世界、未知の世界に対する憧れを表しています。初めての日本は、子どもを連れて沖縄に行きました。その後、大阪アジアン映画祭で、大阪と京都に行きました。次は東京に行ってみたいですね。

──あなたのパートナー(夫)も、この映画にプロデューサーとして参加していますね。
夫は大学の同級生です。彼は録画科を卒業し、その後は映画の作曲や録音をやっていました。私たちは大学1年生から付き合いで、卒業して2年後に結婚しました。ずっとうまくやってきたのは、私たちは気が合うだからと思います。『THE CROSSING』の脚本を書き始めた頃、彼も映画プロデューサーとして生きていくという決心したのですが、当時はなかなかチャンスがありませんでした。その後、二人で『THE CROSSING』を作り上げました。この作品は、私たちのもう一人の「子ども」のように思います。

──もともと映画監督を志したのは高校生の頃だとお聞きしました。
確かに高校生の頃は沢山の映画を観ました。クシシュトフ・キェシロフスキ監督が好きで、彼の『愛に関する短いフィルム』(88年)と『殺人に関する短いフィルム』(88年)には大きな影響を受けました。他には小津安二郎監督の『東京物語』(53年)や、今村昌平監督の『楢山節考』(83年)も印象的でした。

──他に好きな日本人監督や影響を受けた日本人監督などはいらっしゃいますか?
是枝監督は私がとても好きな監督です。その理由は、彼の世界への見方にあります。これは彼の一番独特なものと思っていて、しかも学べるものではありません。

──中国国内の監督は北京電影学院の講師陣に名を連ねる「第5世代」の影響が大きいのでしょうか。それともジャ・ジャンクー監督ら「第6世代」なのでしょうか。それともそれ以降の監督なのでしょうか。
どの世代の監督の影響が大きいというのはありませんが、私の映画観と人生観は、田壮壮監督の影響をとても大きく受けていると言えますね。映画に対する見方や認識も、田壮壮監督と話しながら学んだものです。

──田壮壮監督は創作に関して、どんな手助けをしてくれましたか?
この映画を作る時は、監督はいつも私に「自分で決めろ」と言ってきました。初めは理解できなかったのですが、私に自分で判断できるようになって欲しかったのだと、後になってわかりました。

──ところで、白雪という名前はとても美しいですね。本名ですか?
本名です。特に由来はないのですが、生まれた日に雪が降っていたので、両親はそういう名前にしてくれました。本当はこの名前は自分らしくないと思います。「白雪」は柔らかで美しいイメージですが、自分は果敢な性格だと思います。

──子育てをしながら映画制作に臨んだとお聞きしています。ご苦労はありませんでしたか?
面白いことに、「監督をやめてそばにいてあげようか」と子どもに話したら、「これはお母さんの好きなことだから諦めないで」と答えてくれて、驚きました。真の教育とは、親の自らの言行で教え導くことではないでしょうか。ある目標に向けて努力する姿を、子どもは見ています。これはとても重要なことであり、私ももっと良い自分になって、子どもの誇りになれるように頑張りたいと思います。

現在の生活では基本、仕事と子育てのバランスをできるだけ取るようにしています。どうしても調整できない場合、仕事を優先します。普段は午後3時半に学校に行って迎えて、家に帰ったら一緒に宿題をしたりピアノを弾いたりします。これらの事が終わったら、仕事の打ち合わせなどをアレンジするようにしています。

──次回作の企画はありますか?
次回作は多国間犯罪のストーリーにするはずだったのですが、コロナ禍で先が見えなくなりました。なので、まずは母娘の物語を撮ろうと考えています。

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『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』(原題:過春天)

出演/ホアン・ヤオ(黄堯)、スン・ヤン(孫陽)、カルメル・タン(湯加文)、ニー・ホンジエ(倪虹潔)、エレン・コン(江美儀)、リウ・カイチー(廖啓智)
監督/バイ・シュエ(白雪)
エグゼクティブ・プロデューサー/ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)
ゼネラル・プロデューサー/チェン・ジエンフォン(鄭剣峰)
製作/スン・タオ(孫陶)、ハー・ビン(賀斌)
脚本/バイ・シュエ(白雪)、リン・メイルー(林美如)
2018年/中国/北京語・広東語/DCP/カラー/99分/英題:THE CROSSING

日本公開/2020年11月20日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開!
配給/チームジョイ株式会社
公式サイト
©Wanda Media Co., Ltd