Column

2020.12.10 12:30

【単独インタビュー】『パリのどこかで、あなたと』セドリック・クラピッシュ監督×アナ・ジラルドが語るマッチングアプリ世代の素顔のパリ

  • Atsuko Tatsuta

フランス映画界を代表する人気監督セドリック・クラピッシュ最新作『パリのどこかで、あなたと』は、庶民的なパリ18区を舞台に、孤独や不安を抱えながら生きる若き男と女の姿を通して、現代における人間関係や愛について物語るヒューマンドラマです。

ガンの免疫治療の研究者として働くメラニー(アナ・ジラルド)は、失恋の痛手から立ち直れず、マッチングアプリで出会った男と一夜限りの恋を繰り返している。一方、倉庫で働く内気なレミー(フランソワ・シヴィル)は、同僚が解雇される中、自分だけが昇進することへの罪悪感を感じていた。アパルトマンの隣り合わせの部屋に住み、同じようにストレスを抱えながらも知り合うことはないふたりの未来とは──。

『スパニッシュ・アパートメント』(02年)、『ロシアン・ドールズ』(05年)、『ニューヨークの巴里夫』(13年)の青春三部作を始め、今を生きる若者の姿を描き続けてきたクラピッシュ監督。前作『おかえり、ブルゴーニュへ』(17年)で兄妹役で共演したフランスの若手実力派アナ・ジラルドとフランソワ・シヴィルを主演に迎えた本作では、クラピッシュ監督が愛するパリの街に暮す30歳の男女のリアルを描き出します。

日本公開を前に、パリからセドリック・クラピッシュ監督とアナ・ジラルドがオンラインインタビューに応じてくれました。

セドリック・クラピッシュ監督、アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル

──おふたりともお近くに住んでいらっしゃるそうですね。
クラピッシュ (アパルトマンの屋根の写真を見せながら)ここが僕の家で、ここがアナの家。

──本当にご近所なんですね!偶然ですか?
ジラルド この映画の台本の読み合わせの時に、セドリックの家に行ったときに「売出し中」の看板を見つけました。ちょうど引っ越しを考えていたこともあって、見たら気に入って…、という感じで隣人になったんです(笑)。

──ところで監督は、新型コロナウイルスに感染し療養なさっていたそうですが、そんな中、お時間をとっていただいてありがとうございます。もう大丈夫ですか?
クラピッシュ ええ、もう大丈夫です。ありがとう。今のパリは天気も良いので、元気になってきました。

──それはよかったです。最新作『パリのどこかで、あなたと』のフランス語の原題『Deux moi』は、どのような意味を込めてつけたのですか?
クラピッシュ
 “moi”はフランス語で”私”という意味ですが、精神分析の用語では“ひとつの個人”を意味します。それで、ふたつ (deux)の”個人”という意味でこのタイトルにしました。映画で観ていただいたように、ふたりは別々に暮らしていますが、レミーもメラニーも家族の問題など、解決しなければならない問題をいくつも抱えている。ふたりはまったく知り合いでもない人間ですが、それぞれが自分の答えを見つけていかなければならないという意味で、このタイトルをつけました。

──監督の造語なんですね?
クラピッシュ そうです。普段、使われる言葉ではありません。

──この作品はふたりの生活を通して、パリに暮らす人々のリアル描き出そうとしているように思えます。冒頭、アパルトマンのそれぞれの窓越しにレミーとメラニーが映し出されます。この冒頭は、あなたが2008年に撮った『PARIS』を思い起こさせますが、ふたつの関連性はあるのでしょうか?
クラピッシュ
 はい。この作品は、『猫が行方不明』、『PARIS』に続く、パリについての3作目と言って良いと思います。けれど、これまでとまた違った視点で観客にパリを観て欲しいとも思いました。同じパリですが、カルティエ(地区)を変えています。パリには、お金持ちもいるし貧しい人もいる。文化的な人もいるし、商売人もいる。いろんな側面がありますが、そういった多様なパリのポートレイトを見せたいと思いました。ロバート・アルトマン監督がやったように。今回は、18区に生きているふたりを通して、パリの美しいポートレイトを描くことで、パリの心を表現したいと思いました。

──18区は、モンマルトルの丘があることで観光客にはよく知られていますが、パリに住む人々にとって、どういうエリアなのでしょうか?
クラピッシュ とても人気のある地区ですね。モンマルトルやサクレ・クール寺院というと観光地的なイメージもありますが、パリではどちらかというと貧しい地域というイメージが強い。中国系やインド系、アフリカ系の方なども多く住んでいて、とても多様性のある地区だと思います。

ジラルド セドリックも言ったように、18区はふたつに分かれますね。モンマルトルは観光名所だし、絵葉書になるような有名なエリアで、住むには高い。もう一方は、移民の街。人も多くガヤガヤしています。映画にも出ていたように、地下鉄の駅が地上に出ているところもあり、独特の雰囲気もあります。その賑やかさが好きな人も多いですね。私は静かな方が好きなので18区には住みませんけど、撮影自体は楽しかったです。どちらかというと家賃も安く、若い人が住みやすい街なので、この映画の舞台としては18区はいいアイディアだったと思いました。

──アナへ、あなたが演じたメラニーは、出会い系アプリで恋人を探そうとしますね。インターネットでのこうした人との出会い方などは、あなたにとって身近なものですか?
ジラルド そうですね、ああいうアプリを私は使ったことはないですが、多くの友人が出会い系アプリを使って人と出会っています。その機能がすごいとは思いますが、同時に怖さも感じます。出会いにはもっと人間的なものがないといけないと私は思います。これまでだと、いろんな人と出会って、自分のフィルターを通して友達や恋人を選ぶわけですが、出会い系アプリなどにはそのフィルターがない。いろいろ不透明だし危険だと思います。今、コロナ禍で外に出られません。その中で、自分の周りにいない外の人と出会えるという意味では、良いと思います。劇中のダンスシーンについて、セドリックが以前インタビューで、「ダンスはスマホではできない、人間と人間のコンタクトがあってこそだ」と言ったのですが、ダンスって本当にいい。若い人たちが踊れるようなバーやディスコが開いて、そこで若い人たちが出会えるようになると良いと思います。

──クラピッシュ監督にお伺いします。アプリを通じて人が出会うという要素を入れたのは、ネット世代に対する疑念があったのでしょうか?
クラピッシュ スタッフなど一緒に働いている人たちは、30歳前後がかなり多いんですけど、こういったアプリやSNSで人と出会う人たちが身近にたくさんいますよ。なので、自然にこういう描写を入れたといえますね。30〜35歳くらいの女性はたくさん使っている。アナが言ったように、仕事をしている女性は、仕事場でしか出会うきっかけがない。そういったときに、アプリを使うことはひとつの手段なのだと思います。

──アナへ、あなたが演じたメラニーは、ガン治療薬の研究所に勤務していて、職場にも多くの女性がいます。
ジラルド こうした研究者について知ることができたのは、とても興味深い体験でした。共同脚本家のサンティアゴの姉がこうした研究室で働いていたので、研究者の女性たちと話をする機会を作っていただきました。彼女たちは、良い結果がでるかどうかわからないながら、顕微鏡で細菌を長時間見続け、忍耐強く研究を続けている。もちろん、結果が出れば医療に多大な貢献ができますが、その保証はありません。人間関係の問題について話してくださる方もいて、異性との出会いと求めていたり、違った世界の人と知り合いたいと思っている方々もいました。研究者の女性というと、生真面目で研究以外に興味がない、お堅い人というイメージを持ちがちですが、彼女たちは言ってみれば普通の女性でした。撮影の前にそれが実感できて良かったと思っています。

──映画界ではジェンダーギャップを是正する運動が起こっていますが、あなたの世代でも、女性であることがキャリアの障害だと感じたことはありますか。
ジラルド 壁を感じたことはありませんね。少なくとも映画界で、私の世代では。でも、固定観念のようなものがあるのか、脚本を読むと、女性の役柄は依然として昔ながらの女性像で作られている場合も多いのは確かですね。反対に、セドリックの『おかえり、ブルゴーニュへ』で演じたジュリエットは、自分のぶどう畑で自分のワインをつくる、いわば女王のような存在でした。性格もさばさばしていて。そんな風に女性がもっと個性をアピールできるような役柄やシナリオが必要だと感じますね。

──共演したフランソワ・シヴィルは、いま大人気のスター俳優ですが、彼の魅力は? 
ジラルド 女性的というのとは違い、男性的だけれど優しく物腰も柔らかい。こうしたフランスの若い男性の特徴が、フランソワにはあると思います。

クラピッシュ フランソワは、若いフランス人の男性を代弁していると言えます。とても優しいのだけれど、例えば、トム・クルーズのようなアメリカ人の男性の優しさとは違って、人懐っこくてソフトな感じですね。

──クラピッシュ監督は、若者たちのリアルを描くことで日本でも人気ですが、ロマン・デュリスを主演に撮っていた20〜30年ほど前と、現在の若者はかわりましたか?
クラピッシュ 多くのことが変わったと思いますよ。時代もすごい速さで変わっていますからね。今、26歳〜29歳ほどの若者たちが主人公の新しいテレビドラマの撮影準備をしているのですが、彼らと一緒にいると、頭の構造が私たちの時代とは違うのじゃないかと思います。インターネットやパソコンが私の時代には無かったとか、そういう単純な話ではなく、考え方や価値観が私の世代とは全然違うんです。

ジラルド こう言っていますが、セドリックは若い世代のことをかなり理解しているし、情報的にも追いついていると思いますよ。インスタグラムもよく見ていますよ。

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『パリのどこかで、あなたと』(英題:Someone, Somewhere)

監督/セドリック・クラピッシュ
脚本/セドリック・クラピッシュ、サンティアゴ・アミゴレーナ
出演/アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル ほか
2019年/フランス/111分/原題:Deux moi

日本公開/2020年12月11日(金)より全国順次ロードショー
提供/木下グループ
配給/シネメディア
公式サイト
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