Column

2020.09.25 20:00

【単独インタビュー】『ウルフズ・コール』監督&主演俳優が”映画史上初めて”の撮影を語る

  • SYO

『ハンターキラー 潜航せよ』(18年)や『世界の涯ての鼓動』(17年)、『アルキメデスの大戦』(19年)など、潜水艦(潜水艇)を描いた作品は今ちょっとしたブーム。そんな中、フランス発のヒット作『ウルフズ・コール』が9月25日(金)に日本公開を迎えます。フランス海軍が全面協力した本作は、世界大戦を未然に防ごうとする潜水艦の乗組員たちの闘いをスケール感たっぷりに描いたポリティカル・サスペンスです。

“黄金の耳”と呼ばれる人並み外れた聴覚で、フランス海軍原子力潜水艦の分析官を務めるシャンテレッド(フランソワ・シヴィル)。海中の“音”を聞き分けて敵艦を把握する、音響戦のエキスパートです。そんな彼は、シリアでの潜航任務中にこれまで聞いたことのない“狼の歌”のようなソナー音に惑わされ、判断ミスを犯してしまいます──。

あの音は何だったのか? 任務後、秘密裏に解析を始めたシャンテレッドは、衝撃の事実にたどり着きます。時を同じくして、ベーリング海からフランスへ向けて核ミサイルが発射されたとの報が。相手は“狼の歌”とのことですが……。

外交官出身という異色のキャリアを持ち、本作で長編監督デビューを果たしたアントナン・ボードリー監督と、『FRANK -フランク-』『おかえり、ブルゴーニュへ』で知られ、主役シャンテレッドを演じたフランソワ・シヴィルにインタビューを実施しました。

フランソワ・シヴィル、アントナン・ボードリー監督

──本作のストーリーは、何に着想を得て生まれたのですか?
ボードリー 潜水艦の内部に入艦する機会があって、そのときに直感的に感じたんです。この潜水艦の中というシチュエーションは、友情の物語を描くにあたって最適だと思いました。この映画は、彼らのためになら死ねるかとか、僕らが生きるためには彼らが死ななければならないといった友情の物語です。僕の想像力から生まれた作品ですが、実際の潜水艦の乗組員の方が映画を観てくれて“これは実際に潜水艦に乗っていたらあり得ることだ”とお墨付きをくれました。“フィクションでありながら、起こりうるリアリティを描いてくれた”ってね。

シヴィル 初めて脚本を読んだときは、“何だこの話は!”と思いました。というのも、ここで語られる乗組員たちの専門用語は僕たちが日常的に使ったり接しているものではないから。でも、読み込んでいくにつれてこれが彼らの日常で、彼らにとって普通の言語なんだと知った時に、感動しましたね。一気に読んで、読み終えたときには胸がいっぱいになった。早くこれを人に語りたいというような思いにとらわれました。同時に、希望も感じたのです。

──お2人はそれぞれ、本作で大胆なチャレンジをされました。ボードリー監督は長編デビューが本作のようにハードルの高い題材であったこと、シヴィルさんは絶対音感の主人公を演じることへのプレッシャーはありましたか?
ボードリー プレッシャーはものすごくありましたね。でもポジティブに取り組めた理由は、この物語を語りたいという熱い思い、情熱があったからです。そして素晴らしい役者たちに会うことができてみんなが協力的で、スタッフの方々も経験値が高かったおかげで支えてもらえました。

シヴィル 音というのは、今回の映画の中心にあり、僕が演じた人物にとってもそう。絶対音感を持っているという設定は、僕にとっては役に没頭する助けになりました。音響分析官のシャンテレッドは、常に最高の能力を発揮しなければならず、他者から距離を取って自分の世界に埋没しなければならない……そういった他者との違い、敏感ゆえの脆弱さ等の設定があったからこそ、彼の行動の理由が把握しやすかったのです。

僕自身は準備をするのが結構好きだから、全然大変じゃなかった。やらなければならないことのハードルが高ければ高いほど、ワクワクするんです。潜水艦という未知の世界に飛び込むのは、すごく楽しかったですよ。

──今回の作品では、フランス海軍が全面協力したとお聞きしました。
ボードリー そうです。潜水艦が水面に顔を出すシーンは、本物のフランス海軍の潜水艦を使っています。実際の潜水艦を使って浮上シーンを撮るのは、おそらく映画史上初めてなんじゃないかな。このシーンの撮影で、僕らはヘリコプターに乗って上空から撮っていたんですが、潜水艦とは交信ができないからどこから出てくるのかタイミングも場所もわからない。大体の軌道はわかっているから、この辺りだろうとカメラを構えるんですがワンテイク目はフレームに入らないところから潜水艦が出てきて失敗しちゃって(笑)。2テイク目でフレーム内にぴったり収まってくれたからすごくうれしかったです。撮影中だから拍手はしなかったけどね(笑)。

──拍手したら音が入ってしまいますもんね(笑)。
ボードリー そうそう。でも撮影中は、そんなことを考える暇がないくらい没頭していましたね。そして、“黄金の耳”を持つアナリストの方にもちゃんと会って、取材した上で作っています。フランスの海軍は、機械に頼らないで目で見て耳で聞くということを大切にしています。黄金の耳という職業は、フランスでは非常に貴重な扱いをされているんです。

アメリカはテクノロジーに頼った情報収集をしますが、フランスは軍事情報は人間から徴収するという伝統がある。これは軍に限ったことではなくて、様々な分野で人間性・人間の感覚というものを大切にしている。それがフランスという国なのです。だからこの映画のテーマは、テクノロジー至上主義に対する人間性。人間を大切にするフランスの潜水艦の状況、そこで友情や愛情が生まれるところを描きたいと思ったのです。

──潜水艦の中のシーンで、「天王星」と日本語で書かれたTシャツを着たキャラクターがいました。その意図は?
ボードリー よく気付いたね!戦略型の潜水艦の乗組員たちは、言ってみればちょっと海賊的な部分があります。ユニフォームを着る必要がないから、お気に入りの服を着ていいのです。実際にそういう現場を見たから、ガイコツだったりパンクやロック、フランスの首相だったりレーニンだったり……それぞれの個性を反映させた衣装を着てもらいました。後半に出てくる原子力潜水艦の方は、ちゃんと制服を着ています。こちらは核ミサイルを搭載しているから、真剣度がまるで違うんです。

──本作の製作において影響を受けた作品はありますか?
ボードリー リストアップするのが大変なくらい、様々な作品から影響を受けていますね。例えばフランスの伝統的な名作も観ているし日本だったら黒澤明監督の作品も観ています。ジョン・ウーも観ていますよ。潜水艦映画だけじゃなく、色々なものから自分はインスピレーションを受けています。本作には、映画人生が凝縮されているともいえるね。

シヴィル 僕自身は、もちろん大好きな俳優はたくさんいるけど、演じるときに参考にすることはありません。どうしてもコピーになってしまうからね。それよりも、例えば『オルフェ』で主人公がたどる軌跡が、本作のシャンテレッドにとても近いなと思いました。もちろん『U・ボート』や『レッド・オクトーバーを追え!』を見直したりはしたけど、それはどちらかというと潜水艦映画がどのように撮影されているかとか、乗組員はどんな精神状態でいるのだろう、と研究するため。同じようなことをやるために観たわけではないのです。

──お二人が思う、本作の“強み”はどういった部分でしょう?
ボードリー この映画は、観ている人が一気に引き込まれる作品です。映像もそうだし音響もそう。観客を没入させる映画でありがら、男同士の友情物語だったり、結構センチメンタルなところもある。それが僕らがやりたかったことなのです。

シヴィル この作品にはいくつかの長所が集結していて、ハイブリッドでレアな映画だと思います。知性があるし、大衆に向けた娯楽要素もある。でもスタイリッシュで、いい加減な演出をしていないんです。

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『ウルフズ・コール』(原題:Le Chant du loup)

フランス軍の潜水艦で、並み外れた聴覚を活かし「黄金の耳」と呼ばれる特殊分析官として従事するシャンテレッド。それは僅かに聞こえる音から敵の動向を探る重要なポジション。しかしシリアでの潜航任務中、彼は怪しげな音に気づくも識別に失敗し、その判断ミスから甚大な危機を招いてしまう。彼の耳を惑わせたのはまるで“狼の歌(呼び声)”のような正体不明のソナー音。やがて再びその音が聞こえたとき、シャンテレッドは人類滅亡の危機を賭けた決断を迫られる。

監督・脚本/アントナン・ボードリー
出演/フランソワ・シヴィル、オマール・シー、マチュー・カソヴィッツ、レダ・カテブ
2019年/フランス/115分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/フランスほか/字幕翻訳:大城哲郎/英題:The Wolf’s Call

日本公開/2020年9月25日(金)公開
配給/クロックワークス
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