【インタビュー】『報道バズ』在米日本人クリエーターが語る、ここがヘンだよ日本のメディア
- Atsuko Tatsuta
今年2月からAmazonプライムビデオやGoogle PlayなどのVODで配信されている日米合作のインディーズドラマ『報道バズ 〜メディアの嘘を追いかけろ〜』が面白い。
物語の舞台はニューヨーク、日本のバラエティ番組で不本意ながらお色気が売りの“女子アナ”として活躍していた和田明日佳が、TV局のを辞めて一念発起。ニューヨーク・ブルックリンの小さなニュースアプリ会社で、報道記者として再スタートを切る。「嘘のない報道」をモットーに体当たりの取材を始めるが、スクープを連発して目立ってきたことでインターネット上で叩かれ、ついには事件にまで発展する──。
主人公の和田明日香を中心に、高名なジャーナリストを母に持ち重圧を背負う上司、外見は“外国人”なのに英語が苦手な自称“残念なハーフ”、アイデンティティの葛藤を抱える日英バイリンガルのハーフ、自己主張が苦手なゲイのテックオタクなど個性豊かなキャラクターが登場。コメディタッチで展開するものの、彼女等の奮闘や葛藤を通して「やらせ」や「女性蔑視」といった日本のメディアに対する批判や、LBGTQ、人種問題、文化摩擦、インターネット社会の落とし穴など現代的な社会問題が描かれ、社会派ドラマとしても見応えがある。
制作したのは、脚本家で俳優の近藤司、俳優でプロデューサーの本田真穂、監督の川出真理からなる北米在住の日本人クリエーターチーム「Derrrrruq!!!(デルック)」。クラウドファウンディングなどで制作資金を調達し、6年間かけて制作にこぎつけたが、脚本監修には『攻殻機動隊 S.A.C.』や『エウレカセブン』の脚本家である佐藤大、エグゼクプロデューサーには『この世界の片隅に』製作代表の桝山寛ら、業界のベテランが名を連ねる。
海外在住者だからこそ描けたであろう、“日本の業界の不都合な真実”を映し出したニューヨーク在住の本田氏、川出氏、カナダ・トロント在住の近藤氏に、Fan’s Voiceではオンラインインタビューを実施。企画の発案から制作秘話、今後の展開などをたっぷり伺った。
※以下テキストは、インタビューのダイジェストです。全編は動画をご覧ください。
──インディードラマをつくって配信しようというアイデアはどこから?
近藤 2011年くらいから、ニューヨークのフィルムメーカーたちの間で、YouTubeやVimeoなどのプラットフォームで短いドラマシリーズをアップし、それが人気になってTV番組や映画になるという例が増え始めた。規制がないので、誰も見ないだろうと思えるような作品もアイディア勝負で作って、成功するという人たちがたくさん出てきた。同じような考えを、日本向けにしたら面白いものができるんじゃないかなと。私たちが最初に発表した作品は『2ndアベニュー』というんですけれど、日本のテレビでは作れないものを作って、YouTubeにアップしたいというアイディアは、最初から今に至るまで変わっていないですね。
──脚本を書くにあたって軸にしたものは?
近藤 HBOの『ニュースルーム』というアメリカのニュースを扱ったドラマ──僕も尊敬しているアーロン・ソーキンという脚本家の作品なんですが、それがすごい面白かった。当時、アメリカで起こっていることを1年も経たない間にドラマの中に取り入れて、それがさらにインターネット上で議論され、人々が関心を呼ぶという仕組みになっていて。これはどの国でやっても面白いと思ったのが始まりでした。
川出 日本では、インディーズのドラマってないですよね。ドラマはTV局がつくるものだから。私もアメリカに行ってびっくりしたんですけど、インディーズドラマがある。映画だとインディーズ映画は昔からあるので、わかりやすいんですけれど、日本にはないものをつくろうよ、という発想。
──本田さんが演じる主人公は、バラエティで活躍している女子アナという設定でしたが、そこにもシニカルさを感じました。
近藤 日本にある職業で、英語で説明するのが難しい職業って女子アナだけじゃなくてたくさんあると思います。女子アナというと日本でテレビを見ている人たちは、どういう立ち回りをしている人かすぐに頭に浮かぶ。でもアメリカでは説明が必要になる。それはドラマとしてなにが掘り下げがいがあるのではないかと思いました。
──このドラマの中でも日米の温度差が現れているのが、日本からTV局のディレクターの態度です。
近藤 実体験から来ていますね。誇張している部分はあるんですけど。日本に帰ると、見た目や体重に関するコメントがすぐに飛んできたりする。女性に対して親戚や友人とかが、まだ結婚してないの?結婚は?とか。私は、北米生活が長くなっているのですぐに、失礼だなと思ってしまうんです。日本に帰ったときに、そういう体験をしているのでドラマには反映されています。
──ダイバーシティが大きなテーマになっていますが、意識したところですか?
川出 私達のチームも、世代が違う女性ふたり、そしてゲイの男性という3人で組んでいるというところもあるし、日本から飛び出した日本人、海外でマイノリティとして生きているという点からも、多様性というのはものすごい大きなテーマです。
──このドラマは日本人に向けて作っている理由は?
川出 最初の段階で、日本にないものや日本で作りにくそうなものを作って、日本の人に見てもらおうというのがひとつの目標であったので、入り口がそれだった。
本田 その年は、震災があった年なんですよね。それをすごく話したのを覚えていて、それまで私たちは、アメリカ社会に溶け込むことをプライオリティにおいていた。
──6年がかりで作られたということですが、どこの部分がたいへんだったのでしょうか?
近藤 最初は、HBOの『ニュースルーム』みたいに、その年に起きたことを脚本に入れて、もうこんなネタ出ているというようなスピード感を出したかった。脚本を進めるにあたって予算的な問題もあり、すぐにはリリースできない。作ってもどこが配給してくれるかわからないし、結果的に6年後になってしまったんですけれど、何年も前の事件の話を、確かその時は小保方さんの話や兵庫県議の会見が話題となっていて、それらを入れたら面白いんじゃないかみたいなことを話し合ったのを覚えているんですけど、結果的に具体的な事件を入れずに、抽象化することで賞味期限を延ばすというか、数年後のリリースになっても使えうものにするということを脚本の段階では気を使いました。
──クラウドファンディングを行ったということですが、インディーズドラマということもあり、資金調達は大きなハードルだったのでしょうか?
川出 資金調達は、前作を見てくださったエグゼクティブプロデューサーが関わってくださるということが最初に決まって、そこから脚本を作って、この脚本だったらこれくらいお金がかかるねと言って、知り合いを中心にプレゼンをしまくった。とってもアナログなやり方でした。
近藤 脚本の段階から、これは本当に配給できるの、みたいな。もちろん、リスクのある作品だからこそ、我々がやる価値があると信じてやっていた。人に話せば話すほど、これはビジネスにならないんじゃないか、と言われた。
本田 断られれば断られるほど、モチベーションは上がるけど前には進まないという時期がありましたよね。
──2月から配信されていますが、視聴者からのリアクションで面白かったものはありますか?
近藤 脚本家の立場からいうと、脚本を書く最初の段階で思っていたことが、確認できた感想が結構あった。日本のメディアに対する意見をみんな持っているということを強く実感しています。良いという意見と悪いという意見も。メディアの中にいる人も含めて、みんな実は、『報道バズ』で扱っている芸能事務所とステマの問題であるとか忖度、テレビでの女子アナの扱いなどに対して、知らない人はまずいない。TV業界に関係ない人でも、こういうことが行われていることを知らない人はいない。作品で描かれていることに対して、驚いている方はいない。「そうだよね、そうだよね」とうなずく人、「いや、ここはこうだよね」という意見をもっている人がたくさんいて、日本におけるTV、新聞の影響の大きさを実感しました。逆にテレビや新聞でそういうことが語られないから、一般人がそういう考えを持っていないように思ってしまうけど、実はメディアにはこうあって欲しいという意見は存在しているんだなということを実感しました。
川出 海外ドラマのファンがたくさんいることを知れて、よかったです。今回、演技も演出も、日本でよく見られる作品とは違う作り方をしたんですけれども、そこに気付いてくれる人がたくさんいらしたのと、海外ドラマみたいだね、と言ってくださった方も多かった。
──具体的にはどういったところですか?
川出 テンポとスピード感。作品によっても違いますが、相対的に日本の作品は、報道バスより、スピードを落としたじっくり見せるタイプのものが多い。海外の作品は、実生活のスピード感でシーンを動かしていく。じっくり見せるんだぞ、と引き伸ばさない。編集についても、海外では「切る」というんですけど、日本では「つなぐ」という違いがある。そのスピード感は意識しました。
本田 リアクションに関して、私が一番興味深かったのは、「(自分では)マイノリティに寄り添っていると思っていても実は、差別を助長していることもある。だからみんなが気をつけなければいけない」とおっしゃっていた方が2、3人いて、こんな深いところまで読み取って下さってよかったな、という感想を持ちました。ただ、人によって、(海外ドラマの)あまり見たことのない演出が合わない人は、テーマとかじゃなくて、見るに耐えない作品なのだなと思いました。賛否、どちらの感想もたくさんいただけて、とても勉強になりました。
──『報道バズ』のオフィスがあるのがブルックリンでしたが、ブルックリンは今、そういった会社が多い地域なのですか?
近藤 ニューヨークではスタートアップの会社が多いのがブルックリン地区というのが最初のアイディアでした。ニューヨークを作品として描くという意味でも、マンハッタンはこれまでも映画やドラマで切り取られているので。ブルックリンは、毎年景色が変わる場所でもある。古い建物がリノベーションされていたり。画的にも面白いだろうし、実際にスタートアップが多い。我々のクラウドファンディングをさせていただいた、Kickstarter(キックスターター)も確かブルックリンの会社ですし。そういう背景がありました。
──どんな方々に見ていただきたいですか?
川出 私は日本でも長く働いていたのですが、これではやりたいことをやっていないので死ねないと思ってアメリカに来て、映画の勉強を始めたんですけど。なので、こういうメディアの問題を、日本の社会で見てきました。今回の作品の中に出てきているエピソードは、それぞれそれほど珍しいものではないし、そんなの僕も知っている、ということもある。けれど、そこで止まらずに、知っているけれど、それを問題として取り上げて考えていくことが大事だと捉えて欲しい。私と同じように、日本社会のことを知っているよ、と思っている方にも見ていただだきたいです。
近藤 日本のメディアに関して考えのある方にぜひ見ていただきたいし、見た感想をSNSだとかで発信してもらうことで、これまで議論の対象になることがなかった日本のメディアに相対化できるような、議論ができたらいいですね。
──次の作品の計画はありますか?
川出 案はいっぱいあります。が、まず、『報道バズ』をアメリカとイギリスで配信する予定にしています。コロナ禍の関係で最終待ちなんですけれど(※8月より両国のAmazon Prime Videoにて配信中)。
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『報道バズ 〜メディアの嘘を追いかけろ!〜』(英題:HodoBuzz)
キャスト/本田真穂、松崎悠希、倉持哲郎、辛源、コリンズ・ユリエ
脚本/近藤 司
監督/川出 真理
エグゼクティブ・プロデューサー/マスヤマコム(桝山寛)
プロデューサー/川出真理、近藤司、本田真穂、遠山豊(Promax inc.)
製作/Tall Trees Playground LLC
製作協力/TATE Hatoryu NY / Y.K. Well Enterprise、Spyce Media LLC