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2020.09.03 22:00

【ネタバレなしレビュー】『ザ・ボーイズ』シーズン2 ─ この毒気がクセになる!いよいよ9月4日配信開始!

  • No.Q

Amazon Originalシリーズ『ザ・ボーイズ』シーズン2がいよいよ配信される。腐りきったスーパーヒーローたちに特殊能力を持たない人間チーム“ザ・ボーイズ”たちが挑むSFブラックアクション『ザ・ボーイズ』は、シーズン1が2019年7月26日より配信されて以来、高い評価を得てきた人気シリーズで、すでにシーズン3の制作も決定している。9月4日(金)からのシーズン2配信を前に第1話〜第3話を視聴する機会を得たので、レビューをお届けしたい。

Oh,sh*t!!! 端から行儀が悪くて申し訳ないが、『ザ・ボーイズ』シーズン1は、そんなシーンのオンパレードだった。満を持して配信されるシーズン2の冒頭3話も、ショッキングでアンモラルで悪趣味なダークユーモアが満ちている。

アメリカのテレビシリーズでは、シーズンごとに登場人物たちの関係性や組み合わせを変えて、物語を展開させるのが定石だ。本作も然り。腐敗した“悪”のスーパーヒーロー「セブン」対、それを阻止する“善”のアウトサイダー「ザ・ボーイズ」という基本構造は守りつつ、ひねくれ者たちのひねくれた人間関係がますますひねくれ、ねじれてゆく。

特殊能力で人々を救うスーパーヒーローが実在する世界。世間を熱狂させる裏で、ある者はドラック中毒になり、ある者はパワハラ・セクハラを働き、ある者は助けるべき人たちを見殺しにして真実を歪曲する。そんな道徳心や倫理観を欠き、地位や名声に固執するヒーローたちに鉄槌を下すのが、CIAにパイプを持つ秘密組織「ザ・ボーイズ」だ。

『ザ・ボーイズ』のテーマについては、原作コミック第1巻に英俳優サイモン・ペッグが寄せた序文で的確に述べており、翻訳版の紹介にも用いられている──「誰がウォッチメンを見張るのか?」という古くからの問いに答えた作品、それがこの『ザ・ボーイズ』だ。

これは、グラフィックノベル界の巨匠アラン・ムーアが『ウォッチメン』でも提起した「だれが見張りを見張るのか?」を念頭に置いた解説だろう。もともとはラテン語のフレーズだが、ムーアの『ウォッチメン』を経て「見張り」に「コスチュームを着たヒーローたち」という意味が付加された。つまり『ザ・ボーイズ』のコンセプトは、「だれがヒーローの暴走を止めるのか?」と解釈することができる。

ちなみに、サイモンは原作コミックで主人公ヒューイのモデルになった。その縁もあってドラマ版でヒューイの父親役を演じたのだろう。出版まもなく映像化されていたら、彼自身が演じていたかもしれないと考えずにはいられないが、ヒューイ役に抜擢されたジャック・クエイドはお人よし感がより強く、血と肉断とタブー語をまき散らす本作において一種の中和剤になっているので結果的によかったと思う。

話を元に戻して、シーズン1のあらすじをおさらいしておこう。巨大企業「ヴォート社」に雇われたヒーローたちが人助けに勤しみ、ヒーロー中のヒーローを7人集めた「セブン」が絶大な人気を誇っている現代のアメリカ。ごく平凡な青年ヒューイ(ジャック・クエイド)は、恋人の命を奪ったセブンのAトレイン(ジェシー・T・アッシャー)に復讐するため、「ザ・ボーイズ」の一員となる。同じ頃、セブンの新メンバーとなったスターライトことアニー(エリン・モリアーティ)と出会う。

ボーイズのリーダー、ブッチャー(カール・アーバン)は、セブンのリーダーの“聖人”ホームランダー(アントニー・スター)と面会した妻が直後に失踪したことから私怨を抱き、復讐の機会をうかがっていた。当のホームランダーは、正義感にあふれた清廉潔白なパブリックイメージとは裏腹に、国防事業への参入を目論む巨大企業「ヴォート社」に対して腹黒い手口で貢献していた。ブッチャーは積年の恨みを晴らすべくホームランダーをおびき出すが、逆に衝撃の事実を突きつけられる。

シーズン2の第1話~第3話で描かれる人間関係について、第4話以降の予想も織り交ぜつつ見ていきたい。まず気になるのが、主人公ヒューイとアニーの恋仲だ。ボーイズとセブンの良心的存在である2人は、偶然の出会いから恋人になったが、アニーがヒューイの“仕事”を知ったことで関係に暗雲が立ち込めた。シーズン2でもひそかに連絡を取り合っているが、人目を忍んで密会してもロマンチックさは皆無で、スパイが情報交換するときのようなピリピリした緊張感が漂う。

予告編では、アニーがボーイズに合流したように見えるが、第4話以降でヒューイはいかにして仲間たちを説得するのだろうか? ともにヴォートにたちむかうのであれば、この恋愛関係は一筋縄ではいかないだろう。世界一のスーパーヒーローになることを夢見ていたアニーが幻想を捨てて正義を貫こうとしたのならば、ヒューイには彼女をしっかりサポートしてもらいたい。

ヒューイとアニーの関係を大きく左右しそうなのがブッチャーだ。ホームランダーのせいで妻が死んだと思っていたブッチャーは、極端にスーパーヒーローを嫌い、似たような境遇のヒューイに自分を重ね合わせてアニーとの交際を邪魔しようとしていた。

「愛する人を奪ったヒーローに復讐する」という共通の目標をもった上司と部下だった2人は、シーズン1の最後で絶好のチャンスを迎えるも、それぞれの理由で復讐を果たせなかった。シーズン2では改めて「打倒ヴォート」という目標に向けて動き出すが、アニーがスーパーヒーローである以上、いつ対立が起きても不思議ではない。その結果、チーム分裂の危機!なんてことになれば、よりスリリングな展開が期待できそうだ。

一方でホームランダーの縄張りでも勢力図が書き換えられた。傲慢で執念深い策士は、新しいキャラクターたちによって肩身の狭い思いをさせられる。彼の不満・不愉快を絵に書いたような百面相だけでも一見の価値がある。

ホームランダーをやり込める一人目は、ヴォート社の社長エドガー(ジャンカルロ・エスポジート)。正確には初登場ではないが、ホームランダーの担当だったマデリンがいなくなった今、真の権力者としての力を見せつける。

本作のユニークさのひとつにヒーローたちが企業との契約のもとで働いていることがあげられる。最強の力を有しながらも企業のアセットでしかない特殊能力者が、身体的には凡人ながら多大な影響力を持つ権力者と直接顔を合わせることでヒエラルキーのねじれが鮮明になった。トップを自負する男たちの主導権争いは、アメリカを、ひいては世界を揺さぶるかもしれない。

ホームランダーをいらだたせるもう一人が、セブンの新メンバー、ストームフロント(アヤ・キャッシュ)だ。ホームランダーとクイーン・メイヴ(ドミニク・マケリゴット)を突撃訪問し、SNSのライブ配信でチーム加入を報告するなど、やることなすこと破天荒。彼にとってはとにかく癪に障る存在だ。

ストームフロントは、原作ではナチスによるコンパウンドVの実験でスーパーパワーを得た排他主義のマッチョだったが、ドラマ版では忖度なし謙遜なしの超毒舌女に変更された。性別を変更したことでファンからバッシングもあったようだが、媚びを売らず反骨精神にあふれた、好感が持てるキャラクターになっている。

自分自身を神格化している男が、不利な状況のまま食い下がるはずがない。果たして、どんな汚い反撃に転じるのか? 予告編ではストームフロントとは結託したようにも見えるが、ホームランダーが裏で何かを画策しているのか、はたまたストームフロントが秘密兵器を隠し持っているのか。最強の男の周囲からも目が離せない。

そして、ドラマ版「ザ・ボーイズ」で時代性が一番反映されているのは、スターライトとディープ(チェイス・クロフォード)のエピソードだろう。ディープからパワハラ+セクハラのダブルハラスメントを受けたスターライトが、事実を告発する流れは「ワインスタイン・スキャンダル」に端を発する「#MeToo運動」を汲んでいる。

セクハラ男たちはともに社会的に罰せられたが、かたやワインスタインには懲役23年の実刑判決という「制裁」が下され、かたやディープには「マイナー枠代表」「レイプの被害者」という「救済」が与えられた。

実在の人物とドラマの登場人物を同じ土俵に立たせるのはナンセンスだと百も承知だが、ディープの今後とそれに対するスターライトの反応・対応は、「ワインスタイン・スキャンダル」に対するハリウッドの“判決文”になるのではないかと個人的に注目している。

Comic-Con@Homeで発表されたようにシーズン3の制作は決定済み。さらに、オリジナルのスーパーヒーロー、ソルジャーボーイ(ジェンセン・アクレス)の登場も明らかになっている。スターライトの前任者ランプライター(ショーン・アシュモア)もシーズン2に登場するとなると、過去の出来事にも光が当たりそうだ。そうなれば、人間関係はねじれていくだけでなく、ひも解かれていくことになるだろう。

 
 
 
 
 
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とはいっても、原作コミックにおける登場人物の設定や随所随所のエピソードは踏襲しているが、ストーリー自体には大きく手が加えられているため、今後の展開は予測不能。謎めいたブラック・ノワールの出番が増えたり、マザーズミルク(ラズ・アロンソ)とフランチー(トメル・カポン)がボーイズに入った理由が描かれたりしたらいいなという期待を抱きつつ、表裏がありすぎるホームランダーの限度を知らない傍若無人ぶりが何よりも楽しみなので、彼にもっともっとエスカレートしてほしいと願うばかりだ。

過剰な胸糞要素や商業主義への鋭い批評につい目が行きがちだが、きれいごとだけでは済まされない現実社会の人間性や人間関係が反映されているのも本作の見どころの一つだと思う。

現実には笑えないことも、フィクションに変換されることで笑い飛ばせることが多々ある。笑えない話題の絶えない今の世の中だからこそ、『ザ・ボーイズ』にはこれからも、腹の皮も中身もよじれて切れるくらい大いにひねくれた人間模様を見せてもらいたい。

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Amazon Originalシリーズ『ザ・ボーイズ』シーズン2

キャスト/ カール・アーバン、 ジャック・クエイド、 アントニー・スター、エリン・モリアーティ、ドミニク・マケリゴット、ジェシー・T・アッシャー、ラズ・アロンソ、チェイス・クロフォード、トマー・カポン、福原カレン、ネイサン・ミッチェル、アヤ・キャッシュ
プロデューサー/エリック・クリプケ、セス・ローゲン、エヴァン・ゴールドバーグ、ジェームズ・ウィーバー、 ニール・H・モリッツ、パヴン・シェティ、フィル・スグリッチャ、クレイグ・ローゼンバーグ、 レベッカ・ソネンシャイン、ケン・レビン、ジェイソン・ネッター
エグゼクティブ・プロデューサー/マイケル・サルツマン、ガース・エニス、ダリック・ロバートソン
制作/アマゾンスタジオ、ソニー・ピクチャーズ テレビジョン、ポイント・グレイ・ピクチャーズ、クリプケエンタープライズ、オリジナルフィルム

2020年9月4日(金)第1話〜第3話、第4話以降は10月9日まで毎週金曜日に配信(全8エピソード)