Voice

2020.08.07 11:00

【ネタバレ無し感想・評価】『ハニーボーイ』過去を乗り超えて繫がる父と息子の感動ドラマ

  • Fan's Voice Staff

シャイア・ラブーフ脚本、ノア・ジュプ主演のヒューマンドラマ『ハニーボーイ』。本記事では、公開に先立って開催されたオンライン試写会に参加にした日本のファンの感想とともに、本作の見どころを紹介します。

12歳のオーティス(ノア・ジュプ)

2005年、ハリウッドの若手スター、オーティス(ルーカス・ヘッジズ)は、泥酔した状態で自動車事故を起こす。PTSDの症状があると診断された彼は、治療の一環として過去のトラウマと向き合うため、これまでの人生をノートに書き始める。蘇るのは12歳の頃の父との思い出だった。1995年、人気子役だったオーティス(ノア・ジュプ)は、父親ジェームズ(シャイア・ラブーフ)とふたりで狭いモーテルに暮らしていた。かつては道化師の仕事していた父は、酒とドラッグでトラブルを起こし離婚。今は禁酒会に通いながら、オーティスのマネジメントを仕事としていた。だが、不器用なジェームズは愛情を上手く表現できず、オーティスは孤独といらだちを深めていく──。

アルマ・ハレル監督

監督は、シャイア・ラブーフの友人でもあるイスラエル出身のアルマ・ハレル。CMやミュージックビデオでも活躍してきた気鋭の映像作家であるハレルは、この記念すべき長編デビュー作で、サンダンス映画祭ドラマ部門で審査員特別賞、全米監督協会賞で新人監督賞を受賞しました。また、本作を観たポン・ジュノは、「2020年代に注目すべき気鋭監督20人」にハレルの名を挙げています。

シャイア・ラブーフの自伝的な物語

14歳でディズニー・チャンネルの人気者となったラブーフは、『トランスフォーマー』シリーズの主役に抜擢され、若手人気俳優としてブレイク。ところが、私生活ではトラブルが続き“お騒がせセレブ”としても有名に。自動車事故で逮捕後、裁判所の命令でリハビリの一環として受けたセラピーで、つらい子ども時代について書いた草稿が、本作の脚本の土台となっています。「僕の特定の瞬間から生まれたもの」とラブーフが語る脚本は、まさに辛い過去と向かい合ったラブーフの原点ともいえる物語で、第23回ハリウッド映画賞ではブレイクスルー脚本賞を受賞するなど、高い評価を獲得しています。

脚本に加え、ラブーフは父親ジェームズ役として自ら出演。前科者で短気なアルコール依存症という欠点だらけの男ながら、カリスマ性と人間味を備えた人物像は観るものの共感を誘います。当初は、ラブーフは大人になったオーティスを演じるつもりでいたものの、監督のハレルは「演じるなら父親」と断言したそう。実際、自らのトラウマの原因となった父親を演じることで、心から父親を愛することを学ぶ機会を得たそう。ラブーフの渾身の演技には、キャリア最高との声も上がっています。

早く大人になった少年とふがいない父の不器用な愛

大人になったオーティスが自分自身と向き合ったことによって見出すのは、少年時代に受けた大きなトラウマ。それは、父親との複雑な愛憎関係でした。子役として成功したばかりに、父親を養うことになった12歳の少年が負った心の傷。ふがいない自分に苛立ち、やさしくできない父親の悲哀。愛すべき父と息子がすれ違っていく悲劇と、その陰に埋もれた愛と希望というテーマは普遍的で、観る者の心に刺さります。

ノア・ジュプが天才子役ぶりを発揮

12歳のオーティスを演じるのは、『ワンダー 君は太陽』、『クワイエット・プレイス』、『フォードvsフェラーリ』などで存在感を示した、いま最も輝いている天才子役のノア・ジュプ。プロデューサーのアニタ・ゴウは「ノアは心が成熟していて、年齢よりもはるかに賢い。物語の複雑なところや自分の役柄をちゃんと理解していた。彼とシャイアは、びっくりするほど最初からぴったりと息が合っていた」と振り返り、またラブーフも、「彼は12ページぶっ続けでやる備えとテクニックを持っていた」と、若き名優を絶賛しています。

演技派俳優たちのアンサンブル

大人になったオーティスを演じたのは、ルーカス・ヘッジズ。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー賞にノミネートされた若き演技派です。当初ハレル監督はラブーフに似ている俳優を探していましたが、「ルーカスに会って2分もしないうちに、彼こそすべてに対する答えだとわかった」としてキャスティングを決断。ルックスはラブーフに似ていないヘッジズですが、映画を観た人たちからはその憑依ぶりに、「ラブーフに見えた!」という声も。

12歳のオーティスが心を開く隣人の少女“シャイ・ガール”役には、新世代のシンガーソングライターとして注目されるFKAツイッグスが抜擢されました。個性的で力のあるキャストの見事なアンサンブルは、この映画の大きな見どころのひとつです。

雄弁な映像美と音楽

シャイ・ガール役のFKAツイッグス(右)

CMやミュージックビデオで名を馳せたハレル監督は、圧倒的な映像美と登場人物たちの感情に寄り添った音楽使いの的確さでも類まれな手腕を発揮しました。ハレルがそのビジョンを具現化するために起用した撮影監督は、ブエノスアイレス出身のナターシャ・ブライエ。常に照明を変えたり、コントラストや深み、色を調整したり「まるでジャム・セッションのようだった」と語っています。通常の映画作法から離れ、自分なりの美学を追求したハレル監督ならではの映像は、言葉にならない感情を伝えてくれます。

音楽を手掛けたのは、シガー・ロスのヴォーカル、ヨンシーのコラボレーターとしても知られる作曲家・プロデューサーのアレックス・ソマーズ。近年では、『はじまりへの旅』(16年)やオスカーノミネートのドキュメンタリー『Hale County This Morning, This Evening(原題)』(18年)にもオリジナル楽曲を提供するなど、精力的に映画、映像作品に参加しています。そのドリーミーで温かみのある音楽は、トラウマを乗り越え歩み出そうとするオーティスを優しく包み込みます。

==

『ハニーボーイ』(原題:Honey Boy)

ハリウッドで人気子役として活躍する12歳のオーティスは、いつも突然感情を爆発させる前科者で無職の“ステージパパ”ジェームズに振り回される日々を送っていた。そんなオーティスを心配してくれる保護観察員、安らぎを与えてくれる隣人の少女、共演する俳優たちとの交流の中で成長していくオーティスは、新たな世界へと踏み出すのだが──。

監督/アルマ・ハレル
出演/ノア・ジュプ、ルーカス・ヘッジズ、シャイア・ラブーフ
脚本/シャイア・ラブーフ
2019年/アメリカ/95分/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:栗原とみ子/PG12

日本公開/2020年8月7日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給/ギャガ
公式サイト
© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.