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2020.07.17 19:00

【ネタバレ無し感想・評価】『パブリック 図書館の奇跡』衝撃の展開が胸に響く社会派ヒューマンドラマ

  • Fan's Voice Staff

ハリウッドの名優エミリオ・エステベスが製作・脚本・主演・監督を務める社会派ヒューマン・ドラマ『パブリック 図書館の奇跡』。本記事では、公開に先立ち開催されたオンライン試写会に参加した日本のファンの感想とともに、本作の見どころをご紹介します。

アメリカ・オハイオ州シンシナティ。人種も生活環境も多様な市民が利用する公共図書館では、毎日、さまざまなトラブルが絶えません。館長のアンダーソン(ジェフリー・ライト)に呼び出された図書館員のスチュアート・グッドソン(エミリオ・エステベス)は、体臭を理由に退館を求められた男が差別的に扱われたとして図書館を訴えたと聞かされます。一方で、記録的な大寒波が町を襲い、路上ではホームレスの凍死者が続出。市のシェルターから溢れたホームレスたちが図書館で一夜を明かそうとしていることを知ったスチュアートは、館長に図書館の開放を提案しますが、取り合ってもらえません。図書館のルールを守るべきか、苦境に立つホームレスを救うべきか。苦渋の決断を迫られた彼は、70人のホームレスたちとともに図書館を占拠する道を選びます──。

ユーモアと人間味に満ち溢れた感動作

大寒波のために行き場を失い公共図書館に籠城したホームレスたちと、彼らと行動を共にすることを決意した図書館員の奮闘を軸に、笑いと涙たっぷりのストーリーが展開されていく本作。貧困、格差、災害といった多くの社会問題を内包しながらも、図書館に集まる個性豊かな人々を通して、多彩な人間模様を描き出す、人間味に満ち溢れた心温まるヒューマンドラマです。

スチュアートのように究極の選択を迫られたら、あなたならどうする?遠い街の物語ながら、共感を呼び起こす感動作です。

11年かがりで映画化を実現したエステベスの気骨

この映画の起点となったのは、俳優で監督のエミリオ・エステベスが、2007年にソルトレイクシティー公共図書館の元副理事チップ・ウォードが、LAタイムズに寄せたエッセイを読んだこと。図書館がホームレスシェルターとなっている現状や、彼らの多くが精神疾患を抱えていることが記された記事にインスパイアされたエステベスは、11年の歳月を費やして映画化を実現しました。

1980年代ハリウッドの青春スターの一団を総称する“ブラット・パック”のひとりとして一世を風靡した名優エミリオ・エステベスは、23歳で監督デビュー。その後も監督としてのキャリアを積み重ね、政治ドラマ『ボビー』(06年)ではゴールデン・グローブ賞作品賞と全米映画俳優組合賞アンサンブルキャスト賞にノミネート。聖地巡礼の旅を描いたロードムービー『星の旅人たち』(10年)では、円熟味すら感じさせる作風を披露しました。また、ブラット・パック時代の代表作『ブレックファスト・クラブ』(85年)では、図書室への居残りを命じられるやんちゃな高校生を演じています。

随所に散りばめられた“言葉の力”が胸を打つ

ホームレスの図書館占拠という設定は意表をつきますが、その一夜を通してさまざまな境遇の人々の人間模様が描かれることも、この作品の見どころです。それぞれの事情をかかえたホームレス、図書館長、交渉役に入った刑事、事件を政治利用しようとする検察官と、煽り立てるマスコミ。そして、物語が進むにつれてスチュアート自身の過去も明らかになっていきます。

貧富の格差や政治的分断が深刻化する現代ですが、多くの問題の根源に「無理解」があることは否めません。エステベス監督は、図書館という知の殿堂を舞台に、書籍や名言など、心に響くさまざまな言葉をセリフに引用し、物語に強さと深みを与えています。

エステベスの熱意に賛同した実力派キャストが結集

エステベス監督のもとには、実力派揃いの個性豊かなキャストが集結。シンシナティ市警ベテラン刑事のビル・ラムステッド役には、多彩なジャンルで圧倒的な存在感を保ち続けるアレック・ボールドウィン。次期市長選挙に出馬予定のため、イメージアップ狙いで立てこもり騒動に首をつっこむ検察官のジョシュ・デイヴィス役には、エステベスと同じように青春スターとして脚光を浴びたのち、近年は曲者俳優として異彩を放つクリスチャン・スレイター。介入する警察や検察の権力と、籠城するホームレスたちとの間で板挟みになる図書館長のアンダーソン役には、ダニエル・クレイグ版『007』シリーズのCIA局員フェリックス・ライター役で知られるジェフリー・ライト。

さらに『ネオン・デーモン』(16年)のジェナ・マローンがグッドソンの同僚マイラ役、Netflixオリジナルシリーズ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の主人公役で絶賛を博したテイラー・シリングが、グッドソンが住むアパートの管理人アンジェラ役に。エステベスとの掛け合いをいきいきと演じ、極上のアンサンブル劇に厚みを与えています。

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『パブリック 図書館の奇跡』(原題:The Public)

米オハイオ州シンシナティの公共図書館で、実直な図書館員スチュアート(エミリオ・エステベス)が常連の利用者であるホームレスから思わぬことを告げられる。「今夜は帰らない。ここを占拠する」。大寒波の影響により路上で凍死者が続出しているのに、市の緊急シェルターが満杯で、行き場がないというのがその理由だった。約70人のホームレスの苦境を察したスチュアートは、3階に立てこもった彼らと行動を共にし、出入り口を封鎖する。それは“代わりの避難場所”を求める平和的なデモだったが、政治的なイメージアップをもくろむ検察官の偏った主張やメディアのセンセーショナルな報道によって、スチュアートは心に問題を抱えた“アブない容疑者”に仕立てられてしまう。やがて警察の機動隊が出動し、追いつめられたスチュアートとホームレスたちが決断した驚愕の行動とは……。

製作・監督・脚本・主演/エミリオ・エステベス
出演/アレック・ボールドウィン、テイラー・シリング、クリスチャン・スレイター、ジェフリー・ライト、ジェナ・マローン、マイケル・ケネス・ウィリアムズ、チェ・“ライムフェスト”・スミス
2018年/アメリカ/英語/119分/スコープ/5.1ch/日本語字幕:髙内朝子

日本公開/2020年7月17日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
提供/バップ、ロングライド
配給/ロングライド     
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