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2020.05.05 11:00

【単独インタビュー】SFドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』製作総指揮マット・リーヴス

  • Mitsuo

スウェーデンのアーティスト、シモン・ストーレンハーグによる不思議なイラスト作品集にインスパイアされたTVシリーズ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』が、Amazon Prime Videoにて独占配信中です。

アメリカ・オハイオ州の小さな街の地下に建造された「ループ」は、SFのような事象を現実に叶え、宇宙の謎を解き明かすための研究施設。その真上の街では、人々の身に様々な奇妙な体験が起こります──。

製作総指揮を手掛けたのは、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08年)や『猿の惑星:新世紀』(14年)、『猿の惑星:聖戦記』(17年)の監督で知られ、ロバート・パティンソン主演で話題の新作『ザ・バットマン』(原題)の監督・脚本・製作を務めるマット・リーヴス。アート本をTVシリーズ化するという珍しい企画で、脚本には『レギオン』のナサニエル・ハルパーン、エピソード監督にはマーク・ロマネクやジョディ・フォスター、さらにキャスト陣にはレベッカ・ホールやジョナサン・プライスといった実力派キャストが顔を揃えました。

Amazon Prime Videoでの全世界配信開始にあたり、リーヴスがFan’s Voiceの電話インタビューに応じてくれました。

Photo credit: Shutterstock

──シモンのアートにはどのように出会ったのですか?TVシリーズ化するのはあなたのアイディアだったのですか?
面白い出来事でしたよ。私の会社「Sixth & Idaho」のアシスタントが──当時彼は『猿の惑星:聖戦記』での私のアシスタントだったのですが──ネット上でものすごく注目を浴びていたシモンのイラストを見かけて、「これを見てくださいよ、すごくないですか?」と教えてくれました。シモンのイラストからは、子供時代を呼び起こす不思議な気持ちや哀愁とテクノロジーが衝突したような感じがしました。とても刺激的で、魅惑的で、ひとつひとつのイラストには物語があるようにも感じられ、映画的にも思えました。(このようなアート本を原作とするのは)異例かもしれませんが、我々は権利を取得できないかと思い交渉を進めたところ、無事に取得することができました。

それから脚本家探しが始まったのですが、ナサニエルは我々が最初に会った人物でした。彼はシモンのイラストに非常に深く共鳴した様子だったので、シモンを紹介したところ、ふたりは本当に親しくなりました。シモンはCERN(※スイス・ジュネーブ郊外にある世界最大規模の素粒子物理学研究所)の近郊で育って、イラストは自身の子供時代がベースにあったそうですが、そうした子供時代の話で特につながりを深めたようです。それから1週間ほど経って、ナサニエルは我々に数々の物語を提案してくれて、そのすべてを今回シリーズ化する結果となりました。ナサニエルは、「ひねりの効いた、展開が大事ではないエモーショナルな『トワイライト・ゾーン』のようなものにしたい。不思議なミステリーを使って人が生きることに光を当てながらも、絶対に答えには辿り着かない」と言っていました。シモンのイラストからも同じ様な感じがしました。何故だかわからないけど、野原に放棄されたテクノロジー(機械)から、答えることのできない疑問に引き込まれていくような感じと言うか。本作もそのような感じがするものにしたかったし、実際にそうなったと思います。それができたのもAmazonのおかげで、非常にラッキーでした。

──その後の制作過程にあなたは、どのように関わったのですか?
権利を取得してナサニエルとシモンをつないだ後は、監督を探しました。第1話(「ループ」)を監督することになったマーク・ロマネクは私と非常に仲が良いのですが、フィルムメイカーとしてナサニエルの対になる存在となりました。数々の素晴らしい作品を撮ってきたマークは、史上最高峰のミュージックビデオ監督の一人にも挙げられるような名監督ですが、どんな案件に対してもまずはノーと言う人物です。今回の案件を彼が引き受けるか私にもわかりませんでした。でも、もしかすると共感してもらえるのではと思っていたところ、その通りとなったので、ナサニエルらを紹介しました。

またナサニエルに対して私は、クリエイティブ面での相談相手となりました。彼が脚本を書いてくると、口頭で相談にのったり、コメントの書き込みが必要だったら書いてあげたりして。必要とされる時に、そこにいてあげるわけですね。プロジェクトの”案内人”と言ったところでしょうか。私はこれまで『猿の惑星』や『クローバーフィールド』といった映画を作り、今は『ザ・バットマン』の途中ですが、そのおかげで、今回のような自分が心から気に入った小規模なプロジェクトを、実現へと結びつける力がつきました。この作品はまぎれもなく、ナサニエルのイマジネーションが、シモンとマーク・ロマネクと結びついて生まれたものであり、私は必要に応じてナサニエルをあらゆる形でサポートしていくのが役割でしたね。

──キャストもクルーも素晴らしい方々が揃いましたね。特に音楽はこの作品の雰囲気作りに大きく影響していると思いますが、フィリップ・グラスを起用できた経緯は?
それもマーク・ロマネクのおかげですね。彼は最初の脚本とシリーズ全体像のピッチを聞いて、参加してくれることになりました。その頃はまだ配信先となるAmazonに話を持ちかける前でしたが、撮影面でもナサニエルのパートナーとなる人物が欲しいと思っていました。そしてマークは、本作の最高のクルーを揃えてくれました。第1話を撮影したジェフ・クローネンウェス、美術担当のフィリップ・メッシーナ、それからフィリップ・グラスと繋がりがあって連絡をとったのもマークです。このプロジェクトを映像作品として様々な面で高めるのに、彼は貢献してくれました。

──SF作品という扱いですが、実際は奥深い人間ドラマですね。SF要素はドラマの設定作りに使用するのが主のようですが、このバランスについて、ナサニエルやサイモンとはどのような話をしたのですか?
それがコンセプトとしてずっとありました。面白いのは、私が会社を設立時には、SFであれアクションであれ、ジャンル作品の作り手のためのものにしたいと思っていました。表面的であっても、比喩的であっても、人間の生き方を捉えたものであればなんでもね。(リーヴスによる)1本目の『猿の惑星』(『新世紀』)や『クローバーフィールド』も、私にとっては非常にパーソナルで個人的なつながりを感じる作品でした。表面的には「猿の惑星の新作だ!」としか思われなかったかもしれませんがね。

私がキャリアを通してわかったのは、ジャンル映画を通じてであっても、非常にパーソナルな内容を描けるということです。これが「Sixth & Idaho」で目指したことですね。シモンのイラストを発見した時、まさにそれが実現できるネタだと思いましたし、ナサニエルもその点で共感したわけです。そのため、今回のような描き方に議論を重ねてたどり着いたわけではなく、コンセプトとして始めからありました。「ジャンルを使って人間ドラマを描いたら良いのではないか?」といった会話から発展したのではありません。シモンのイラストが魅力的なのも、まさにそれが理由で、空想世界のようでありながらも、非常に人間的で、人が生きることを比喩的にジャンルで表現したような、メランコリックでミステリアスなものでしたから。

──物語の舞台を原作のヨーロッパではなく(アメリカ中西部の)オハイオとしたのはなぜですか?
それは、ナサニエルがアメリカ人で、彼にとって私的なものにしたかったからですね。確かネブラスカ州だったかと思いますが、彼は中西部の出身で、自身の子供時代を想起される場所を舞台にしたかったのですね。非常にパーソナルなものです。私自身も共感できる、そうした私的な制作活動を皆が行えるように支えていくのは、プロデューサーとして私が最も大切にしていたことでした。本作の物語はナサニエルにとっても非常に私的なものだったので、舞台をアメリカに移すことは、彼の”地元”に合わせることだったのですね。起点はシモンとCERNとアートワークでしたが、ナサニエルはこうした事柄を自身の生い立ちと結びつける方法を見出したわけです。

──メイキング映像では、第8話のエピソード監督を務めたジョディ・フォスターも「映画的実験」と言っていますが、本作が映画的であることはあなたにとってどれくらい大切だったのですか?
プロジェクト開始当初から、それが全てでした。シモンのイラストはひとつひとつが短編映画のようで、非常に映画的でした。一般的なTVシリーズの多くは、キャラクターやストーリーが作品の中心で、牽引役となっています。ビジュアル面で美しいアプローチがなされていないと言うつもりはなく、もちろん実際に美しいものも多くあるのですが、本作が珍しいのは、イラストがすべての出発点となっていることです。そのため、映画的である必要があったし、本当に大切にしました。映画の考え方やフィルムメイキングの手法を、あらゆることの根底に置きました。ナサニエルも映画作りのように脚本を書いたし、映画監督を集めてそれぞれのエピソードを担当してもらうことも、非常に重要でした。ひとつひとつのエピソードを一本の映画のように感じてもらいたかったし、各監督の個性を反映させたく思いました。ジョディのエピソード(第8話「ホーム」)は彼女の特徴が出ていると思うし、アンドリュー・スタントン(第4話「エコースフィア」監督)は私の友人で、監督することにとても興奮してくれました。

ナサニエルにはポーランドのとあるTVシリーズが念頭にあって、ご存知かわかりませんが、クシシュトフ・キェシロフスキが手掛けた『デカローグ』(89〜90年)という作品です。それぞれのエピソードが、聖書の十戒の一つをテーマにしていて、各エピソードは短い映画のようで、それぞれ違いがありながらも、十戒というテーマでつながっているわけですね。そこから映画版として『愛に関する短いフィルム』、『殺人に関する短いフィルム』も作られましたが、どちらも名作です。ナサニエルが思い描いた本作のスタイルは、まさに『デカローグ』からインスピレーションを受けました。ひとつひとつのイラストから想起される小さな実験のようなものが、数々の短い物語を結びつけ、またそれぞれが小さな映画のようであるわけですね。

──特に気に入っているのはどのエピソードですか?
それは……私には難しすぎて、選べません!どれも大好きですからね。それぞれのエピソードに違いがあって……、でもエモーショナルなところで好きなのは……、でもネタバレもしたくないですから、何も話さないほうが良いですね。個人的に本当に最も深く心を動かされたのは、「エコースフィア」ですね。このエピソードのジョナサン・プライスは本当に素晴らしかったと思います。でも本当に、どのエピソードも美しく、各監督や俳優の表現を私はとても気に入っています。このシリーズのことを非常に誇りに思っていますし、携われたことは嬉しいことです。先ほども言った通り、プロジェクトを共にするクリエイターに”武器”と”盾”を提供するのが、私が出来る最大の貢献だと思っていますし、彼らは本当に美しいものを作ってくれたと思います。

──次シーズンの製作にも期待して良いのでしょうか?
そう願いたいですね。今のところ大成功を収めていますが、次のシーズンが作られるかどうかは、もうしばらく経ってみないとわかりません。これからも引き続き多くの方が本作を観てくれたら、次につながるでしょうね。視聴者数や、始めから最後まで観た方の数といったもので決まりますからね。本作が世界に送り出されるのを見届けられて非常に興奮しましたが、これからも多くの方に観てもらえることを願っています。

──今後機会があれば、エピソード監督を務めようと思いますか?
機会があれば、はい、監督すると思います。ただ、スケジュール的には今は『ザ・バットマン』の途中で……、新型コロナウイルスのせいで中断していますがね。それから、他にもいくつか手掛けているものがあります。でも今後機会があれば、ぜひひとつ、エピソードを監督したいと思います。

私は「Sixth & Idaho」を、クリエイターが思い通りに作品作りができるように、支援する場所にしたく思っています。私が共感できて、作りたいと思うような作品の中でね。本作は間違いなく私が感情的に共感するものだったし、それが製作した理由です。私がぜひ描きたいと思うような物語なのですから、機会があれば、ぜひ監督したいと思いますよ。

──シリーズを通したテーマに「他者とのつながり」があるかと思いますが、デジタル化が進んだ上に、外出自粛・自主隔離が新たな日常となった今、このテーマは今の時代にさらに強く関連しているように感じますか?
確かにそう言われてみると、面白いですね。制作中は確実に今の時代につながる作品だと思っていましたが、その通りですね。今こそ、非常に関連のあるものになりましたね。皆が互いと距離を置き、テクノロジーを使って他者とつながる方法を見つけなければならない。でもそれは、人とつながるのには不完全な手段ですよね。大変な出来事を体験していること、思いもよらなかった形で生活が瞬く間に一変するといった意味でも、まさにこの作品の物語に共通していますね。

また奇妙なことに、この作品は当初から今のタイミングでリリースされる予定でした。様々なものを”観る”手段が限られた中で、本作が人々に届けられたわけですが……、非常に不思議ですね。もともと現代に関連があると思っていましたが、ですが我々自身が非常に不思議な状況に置かれたことで、驚くほどその関連性が高まりましたね。とても奇妙な形で。

──以前は脚本・監督がメインでしたが、最近は製作も多く手掛けるようになりましたよね。プロデューサーとして、どんな学びがありましたか?
『ザ・バットマン』はプロデューサーに加え脚本・監督も務めているので、これまでとあまり変わらない感じの仕事の仕方ですね。『クローバーフィールド』や『猿の惑星』、そして今は『ザ・バットマン』といった作品が経歴にあることで、やりたい作品を実現化できるようになってきているとは思います。このドラマを作る上で、私にとって最も大切だったのは、私と似通ったクリエイティブ志向を持った人たちを指南することでした。プロデューサーとしては、他のクリエイターと一緒に仕事をしたり彼らのアイディアに触れることで、自分のアイディアが豊かになります。皆それぞれが自身の視点から同じ方向を追い求めるようなクリエイティブ環境では、常に学びがあります。俳優も脚本家も監督も、仕事を一緒にすることを通じて彼らのことを学ぶことができます。さらにその一人ひとりとの関わりが、私自身の仕事を深めることにつながります。面白いですよね。他人のクリエイティブな挑戦に参加したり指南することで、自分が脚本や監督を務める他の仕事にひらめきや刺激を与えてくれるのですから。すべてが共生していて、とても楽しいものです。

ひとつひとつのプロジェクトが学びの体験で、今回のプロジェクトは、私にとって初めてだったところもあれば、これまでと同様だったところもあります。人が生きることのメタファーであることは、ストーリーテリングの鍵だと思います。でもアート本をプロジェクトの起点、さらには物語の起点とすることは、まったく初めてのことで、スリルを感じました。本作の製作は本当に楽しかったし、今後もっとできるといいなと思っています。

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『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』(原題:Tales from the Loop)

原作/シモン・ストーレンハーグ
脚本/ナサニエル・ハルパーン、シモン・ストーレンハーグ
製作総指揮/マーク・ロマネク、マット・リーヴス、アダム・カッサン、ラフィ・クローン、 マティヤス・モンテーロ、サマンサ・テイラー・ピケット、アダム・バーグ、ナサニエル・ハルパーン
監督/マーク・ロマネク、ジョディー・フォスター、アンドリュー・スタントン、ソー・ヨン・キム、チャーリー・マクダウェル、ティム・ミラン、ディアブラ・ウォルシュ、タイ・ウェスト
出演/レベッカ・ホール、ポール・シュナイダー、ダニエル・ゾルガードリ、ダンカン・ジョイナー、ジョナサン・プライス ほか
シーズン数/シーズン1
話数/全8話

Amazon Prime Videoにて独占配信中
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