【ネタバレ楽曲解説】『WAVES/ウェイブス』監督本人が31曲のプレイリストと音楽を語る
- Fan's Voice Staff
注目の気鋭スタジオA24の最新作『WAVES/ウェイブス』。フロリダで暮らすアフリカ系アメリカ人の兄妹、タイラーとエミリーの身に起こった悲劇と再生を描いた青春映画です。
『イット・カムズ・アット・ナイト』のトレイ・エドワード・シュルツ監督が新たに放つ、スクリーンいっぱいに躍動するサウンド、息を呑むほど美しい色彩と独創的なカメラワーク、登場人物の心情を疑似体験するストーリーテリングは、いまだかつてない映画体験をもたらします。
主役とも呼べるのは、今の音楽シーンをリードする豪華アーティスト達が手掛ける31の名曲。シュルツ監督が事前に本編に使用する楽曲のプレイリストを作成し、そこから脚本を着想し製作されました。監督自身が“ある意味でミュージカルのような作品”と語るように、フランク・オーシャンをはじめ、ケンドリック・ラマー、アニマル・コレクティヴ、カニエ・ウェスト、レディオヘッドなど、新作をリリースするごとに音楽シーンを刷新してきたアーティスト達の、今の時代を映す31曲が物語を鮮やかに彩ります。全ての曲が登場人物の個性や感情に寄り添うように使用され、時には音楽がセリフの代わりに登場人物の心の声を伝える、〈プレイリスト・ムービー〉が誕生しました。
31曲のプレイリストを引き立てるオリジナルスコアを手掛けたのが、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーと音楽プロデューサーのアッティカス・ロス。『ソーシャル・ネットワーク』(10年)でアカデミー賞作曲賞を受賞し、その後も『ドラゴン・タトゥーの女』(11年)や『ゴーン・ガール』(14年)などの話題作を手掛けたり、今夏公開のディズニー&ピクサー最新作『ソウルフル・ワールド』の音楽を担当することも発表されている、引っ張りだこの二人です。
彼らは本作において、登場人物の心情を伝え時にセリフのようにも使われるアーティストの楽曲に対し、メロディーラインを強調しないそぎ落とされたソリッドなオリジナルスコアで感情の微細な動きを巧みに、そしてエモーショナルに浮かび上がらせることに成功しています。サウンドデザインに際し、劇中の効果音やセリフをサンプリングしたりなど、独創的な音楽の制作にも挑戦。また、フランク・オーシャンなどの名曲と自分たちのスコアを絶妙なアレンジで流れるように繋げているのも彼らの手腕です。
本記事では、映画で使われたのべ31曲のプレイリストとオリジナルスコアの、シュルツ監督自身による解説を掲載します。
1.「FloriDada」アニマル・コレクティヴ
僕はアニマル・コレクティヴが大好きだ。フロリダも好きだし、この曲のエネルギーと混沌が気に入っている。『WAVES/ウェイブス』は、厄介な人間の経験と人生の二面性(不快と美しさ、善と悪、個人と家族)にまつわる作品だ。この曲のブリッジ部分だけを使ったのは偶然ではない。橋は映画全編で使われる力強い視覚的モチーフだ。橋(ブリッジ)で始まり橋(ブリッジ)に終わる。
その橋こそが家へといざなう
戦いの終わりを告げる橋
代償を払った橋
古い橋には、さよならを告げよう
2.「Be Above It」テーム・インパラ
これはテーム・インパラの中で大好きな曲の1つであり、タイラーの世界の流れを観客に紹介する完璧な方法でもある。僕にとって、繰り返される“超えていけ”というささやき声は、タイラーの内面を観客に示すものだ。初めてこの曲を聴いた時、僕は心を奪われた。スタジオ・バージョンとライブ・バージョンを組み合わせることにしたのは、インスト・バージョンが映画の序章のようだったからだ。
3.「Mitsubishi Sony」フランク・オーシャン
この映画では、フランク・オーシャンのアルバム「Endless」の曲を使いたかった。「Blonde」や「Channel Orange」など、フランクの他のアルバムと比べてあまり知られていないからだ。これは「Mitsubishi Sony」のリマスター版で、脚本段階では使用予定ではなかった数少ない曲のうちの1つだ。元々は曲の導入部分を使っていたが、とても映画に合ったので、曲を丸ごと使おうと編集中に決めた。愛する人たちと夜更けまでパーティーをしていてハイになった気分のようだ。さらに、この曲はタイラーやアレクシスが車の中で歌うオリジナル曲「Shut the fuck up!」と連携している。車中シーン撮影の時に、トランシーバーで指示を与える僕に、アレクシス役のアレクサが「黙ってて!(Shut the fuck up!)」と叫んだことからできた即興曲。
4.「What a Diff’erence a Day Makes」ダイナ・ワシントン
初めてウォン・カーウァイの『恋する惑星』を観て、この曲が流れた時を覚えている。僕は恋に落ちた。あの映画に対するオマージュであり、子供時代を懐かしく思う気持ちの表現でもある。映画は次第に盛り上がっていき、タイラーの生活と物語が始まった翌日で、教会にいて家族の生活がもっと分かり始める。歌詞は後に映画の中でつらい意味を帯びる一方、希望にあふれてもいる。たった1つの過ちが人生を永遠に変えてしまうこともあるが、新たな癒やしの日は必ずやって来る。このシーンを撮影した後、タイラー役のケルヴィンが家に帰ると、実の母親がこの曲を歌い始めた。彼が幼い頃、彼女はいつも彼にこの歌を歌いかけていたのだという。運命を感じたよ。
5.「La Linda Luna」ケルヴィン・ハリソン・Jr.
これはケルヴィンのオリジナル曲だ。正直に言って、彼は真の音楽の天才だ。ケルヴィンの父親はすばらしいミュージシャンで、彼らの親子関係がこの映画に多大な影響を与えた。「La Linda Luna」というタイトルは、アレクシスのミドルネーム、ルナ(かわいい月)にちなんだものだ。人間関係がどのように崩壊し、愛し合う2人がいかにして悲しい場所に行きついてしまうのかを探りたかった。
6.「LVL」エイサップ・ロッキー
これは映画の中で僕のお気に入りのカットの1つだ。タイラーの人生が永遠に変わってしまう直前、MRIの中でこの曲のビートが上昇していくサウンドが、音楽と映像のシンクロを示している。タイトルは僕にとって人生とは何かだ。浮き沈みが激しく、皆異なる。
「Bad News」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
これはタイラーがMRIの検査結果を聞いた直後、すぐ不安に襲われるシーンで最初に聞こえてくる曲だ。この瞬間まで映画オリジナルのこの曲をとっておいたのは、サウンドトラックとの違いを感じてほしかったからだ。トレントとアッティカスはこのトラックで映画のサウンドを操り、タイラーの心境を観客に伝えてくれた。ピアノもこの曲の重要な要素だ。タイラーが演奏するシーンで、持ち続けようと努力していても純粋さが失われていくのが分かる。この曲は、タイラーの本音と感情の内なる戦いを明らかにしている。
「Odds Against」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
「Bad News」が終わると、タイラーと父親の間に緊張した雰囲気が漂う。両親からの期待は、成功せねばという乗り越えられないプレッシャーだ。これは僕自身にとってとてもパーソナルな曲だ。僕は今も、高校時代にレスリングで負った肩の傷がある。僕の全世界が崩れ去り、それまでの努力がすべて無に帰した。ひどいビデオメディアの授業を取ったことで僕は救われた。再びカメラを持ち、撮影するよう強いられたんだ。この映画でトレントとアッティカスと一緒に仕事ができて、夢が叶った。
7.「Rushes」フランク・オーシャン
いい時も悪い時もある
僕が大好きなフランクの楽曲の1つで、人間関係の浮き沈みを描いている。タイラーとアレクシスが水の中にいるシーンを撮影していた時、フロリダで熱雷が発生し幻想的だと感じたのを覚えている。映画の後半で起きることを映す鏡として、この曲を使った。
水の深さが十分であることを願う
8.「Backseat Freestyle」ケンドリック・ラマー
ケルヴィンは撮影の日に歌詞を覚えなくてはならなかった。ハイな状態から抜けたタイラーの心理状態を反映するため、曲のペースを落とした。このトラックは、16歳の頃の自分自身の気持ちを再構築したものだとケンドリックは言う。タイラーが反発し苦しみから逃れようとするこの瞬間に、とてもマッチしていると思う。解放されるが、ほんの一瞬だけだ。
「Everything Burns」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
このトラックはタイラーの苦悩と後悔を浮き彫りにしている。関係が壊れ始め、彼は失われた愛を夢に見ている。タイラーとアレクシスの(焚火の)炎の中のショットは、かなり気に入っている。トレントとアッティカスが繰り返すこのテーマは、あと2回、極めて重要な喪失と苦痛の瞬間にも流れる。水はこの映画の大事な要素だ。キャラクターたちの気持ちが通じ合う大切な瞬間は、水の中か水辺にいる。これは視覚的に破壊を示す炎とバランスを取っている。
9.「America」ザ・シューズ
ジェイク・ギレンホールが意識高い系の若者たちを殺す傑作ミュージックビデオを観て以来、この曲が大好きだ。この曲の展開は、ザ・シューズがアメリカ中を移動しているようで、タイラーと友人のエネルギーとマッチする。
「The Light Shines Through」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
この曲は、映画の中で初めてタイラーが本当に精神的に打ちのめされる時に流れる。彼はもろさと内に秘めていた感情のすべてをさらけ出す。悲劇に襲われる前、妹のエミリーと深く結びつく最後の瞬間であり、彼女の中に永遠に残る大切な瞬間だ。ピアノが奏でるテーマはとても気に入っている。理由は極めてパーソナルなものだ。トレントとアッティカスは、僕がとてもつらかった時にこのトラックを送ってくれて、僕は聴いた途端に泣き出してしまった。この曲は映画の要、苦しみの先にある美しさ、そして癒やしてくれる誰かだ。このトラックのアルバム・バージョンをここに入れた。映画では、このトラックは同じメロディーだが短くなっている。
10.「Focus」H.E.R.
ケルヴィンはアレクサと初めて会った時、この曲に合わせて踊る彼女を見事にビデオで撮った。だからこの曲は自然とこの映画の一部になったが、元々は脚本になかった。アレクサ演じるアレクシスの心がこの曲を通して観客に伝わり始める。僕には、もがき苦しみ終わりを迎えようとする関係に思える。このトラックと次のトラックとの間で交わされる会話が好きだ。2人のキャラクターが、恋人に対して自分の気持ちをどう表現すればいいのか分からず苦しんでいる。
僕を見つめていてくれる?
ベイビー、僕を見つめていてくれる?
分からない?
ただ君を愛したいんだ、ベイビー
11.「IFHY(feat. Pharrell)」タイラー・ザ・クリエイター
お前が憎い、でも愛してる
俺は気持ちを隠しておくのが苦手だ
お前はパーフェクトでいるのが得意
俺たちは面倒に巻き込まれるのが得意
この曲がメチャクチャ大好きだ。「IFHY」は僕が子供の頃に聴いた思春期のラブソングのようなものだ。僕は高校生の頃こんな曲をかけながら、恋人のことが原因で自分の部屋を破壊した。子供じみていたかもしれないが正直な気持ちだった。よくも悪くも、つらい時は音楽に助けられた。だからこそ、タイラーとエミリーの経験が率直に伝わるようなサウンドトラックにしたかった。
12.「Surf Solar」ファック・ボタンズ
この曲には前に進もうとする力とエネルギーがあり、タイラーの経験を正直に表現していると感じる。このシーンでタイラーと一緒にいなくても、“何かを見逃すのではと不安になって”怒れるティーンエイジャーをイメージするだろう。
13.「Love is a Losing Game」エイミー・ワインハウス
これはエイミー・ワインハウスの不朽の名曲だ。タイラーの視点からエミリーの視点へと移り変わる時に流れる。エイミーのトラックの中でも大好きな曲で、僕が気に入っているシーンの最後で使われる。しばらくひどい目に遭った後は息抜きが欲しかった。そして、エミリーとアレクシスという2人の若い女性たちが互いに結びつくシーンが欲しかった。皆の夜がこのシーンのように楽しくあるべきだ。この曲に合わせて踊るアレクシスの表情が大好きだ。
14.「I Am a God」カニエ・ウェスト
曲の使用許諾を得るのが難しく長い時間がかかり、テルライド映画祭とトロント映画祭が終わるまで許可をもらえなかった。ありがたいことに、カニエは承諾してくれた。なぜなら僕は「Yeezus」のすべての曲が大好きだからだ。別の曲も数えきれないくらい試したがダメだった。タイラーが父親に打ち勝った直後、“俺は神だ”という歌詞の力強さとパワーが欲しかった。とても悲劇的で、タイラーはパニック状態のようだ。ジョニー・バーンが自分のサウンドデザインをこのトラックと組み合わせた方法と、僕らがそれをミックスしたやり方に満足している。
15-16.「U-Rite」「U-Rite(Louis Futon Remix)」THEY.
このシーンは1カットで撮影したから、この曲がしっくりハマるんだろう。神経質な警告のようだ。このシーンでは皆に音楽と触れ合ってほしかったので、本物のパーティーのように感じられるよう、この曲はその場でライブでかけた。撮影現場で音楽をかけるのは、いいエネルギーを作る上で大事なことだ。映画では、このトラックの最後はトレントとアッティカスの音楽と結びつき、再びタイラーの心境を表す。オリジナルとリミックスを組み合わせることで、さらに独特な力強さが感じられる。歌詞が「バックシート・フリースタイル」とティーンエイジャーの気持ちへと呼び戻してくれるところが気に入っている。
17.「Be Above It (Erol Alkan Rework)」テーム・インパラ
再びこの曲を使ったのは、タイラーが元いたところからどれほど転落してしまったかを示すためだ。胸が張り裂けるよ。
18.「Ghost!」キッド・カディ
「Ghost!」は憂うつを歌った美しい曲で、キッド・カディの曲の中でも特に気に入っている。タイラーの世界は急速に崩壊するが、彼には状況を飲み込む時間がなく、その結果、重いうつ状態に陥る。これはタイラーの人生におけるつらい瞬間を表す重要な曲であり、ピアノ・バージョンの「Bad News」とも関連している。
出会った人々と訪れた場所
そのすべてが俺を一人前の男にしてくれた
でも1つだけ知りたいことがある
俺はいつゴーストになった?
この世界に困惑している
俺は孤独だって? そうかもしれない
今も俺を苦しめることが1つだけある
俺はいつゴーストになった?
19.「The Stars In His Head(Dark Lights Remix)」コリン・ステットソン
僕はコリン・ステットソンの作品から、かなりインスピレーションを得た。非常に人を駆り立てる、根源的で恐ろしい作品だ。悪夢が現実になったかのような、夜を切り裂く原初の遠吠え。このシーンについて、父親役のスターリング・K・ブラウンと何度も話し合った。なすすべのない負のスパイラル、現実となったタイラーの最悪の悪夢、そしてこの悲劇が皆に及ぼす影響を感じさせる必要があった。タイラーとエミリーが負のスパイラルに陥り、観客が皆のつながりを感じる時も、二人の物語はどちらも極めて主観的で、それぞれの物語が終わるまで厳密に各自の視点から描かれる。
「After the Fire」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
これは炎のところでタイラーとアレクシスの間に流れる、トレントとアッティカスが作ったテーマ曲の続きだ。目的はこの悲劇の圧倒的な重さを深く感じさせることだった。僕には、この映画はショッキングで凄惨で嘆かわしく感じられる。皆の人生が永遠に変わるんだ。このシーンを編集していた時、僕はこらえ切れずに数時間泣いた。この曲は兄から妹への精神的な移り変わりを表している。エミリーは暗闇のトンネルから出て、新たな章が始まる光の中に入っていく。
「Wounds Heal」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
これはトレントとアッティカスが送ってくれた22分のオリジナルトラックだが、映画版は少し異なる。このトラックはエミリーの心の状態、つまり隔絶と深い苦悩を表現している。ここで使われるピアノの演奏のテーマは、乗り越えようとする彼女の精神を表す。ピアノのテーマを使うのはこれが二度目だ。最初は映画の冒頭で、タイラーとエミリーがバスルームにいるところだ。様々な理由から、ここでもう一度使うべきだと感じた。深い悲しみに暮れていても、この映画は新たな始まりを迎える。
「How to Begin」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
新しく出会った人に心を開くのは、得てして恐ろしいことだ。エミリーのような体験をした後では尚更だ。この曲はバランスと二面性を表している。彼女は好奇心旺盛だが警戒心が強く、希望に満ちているが慎重だ。
20.「Moonlight Serenade」グレン・ミラー
これは悲劇が起こった後で最初に聴こえてくる、この作品のためのスコアではない音楽だ。時を超越した、美しく希望に満ちた曲。そして僕と恋人にとって非常にパーソナルな曲でもある。僕はいつだって彼女の助けがなければ大変だった。
21.「What a Diff’erence a Day Makes」ダイナ・ワシントン
これは二面性に関する映画なので、互いを非難し反映する瞬間が重要だった。ダイナーに戻りこの曲を再び使うことは、エミリーと家族の歴史にとって間違いなく大事だ。つらい時を乗り越えるために音楽が使われる、映画の中のささやかな瞬間。この曲に勇気づけられてエミリーは心を開く。
22.「Loch Raven (Live)」アニマル・コレクティヴ
愛を探し求め新しい何かを始めることは、本当にすばらしい経験だ。アニマル・コレクティヴにとってこの曲が何を意味しているかは僕には分からないが、僕にとっては、光と愛の方へと魂を押し進めてくれる気がする。映画でライブ・バージョンを使うのは、より鮮明に感じられるからだ。僕が用いた主な歌詞は“僕は君を見捨てない”このフレーズと音楽を合わせると、とても美しいと思う。愛を感じる。
23.「How Great (feat. Jay Electronica and My Cousin Nicole)」チャンス・ザ・ラッパー
このトラックはヒップホップとゴスペルが融合した最もパワフルなトラックの1つだ。チャンスがこの曲を使わせてくれて感謝している。彼は最高だ。この曲が彼にとっていかにパーソナルなものか話してくれた。キャラクターたちが困難を乗り越えるという映画なので精神性は重要な要素だ。精神性と愛、僕らを取り巻く美のすばらしさを称賛するために、このトラックを使いたかった。このシーンを撮影したのは、フロリダにあるお気に入りの湧き水のところだ。行くたびにマナティーを見る。
24.「Sideways」フランク・オーシャン
アルバム「Endless」に入っている次のすばらしいトラックにつなげるためだけに、この曲の最後の部分を使った。
25.「Florida」フランク・オーシャン
もしかしたらフランクはフロリダの湧き水に飛び込んでマナティーと泳いだことがあるのかも?この曲がなぜ「フロリダ」と呼ばれるのか分からないが必然だったんだろう。ここの撮影はすばらしかった。カヤックをひっくり返して、僕は携帯と財布をなくしたけど気にしなかった。この日は僕の人生で最高の日だと感じた。
26.「Rushes (Bass Guitar Layer)」フランク・オーシャン
この曲は映画に漂うタイラーの感情を表している。このインスト・バージョンは、ビジュアルアルバム「Endless」がリリースされる前にライブ配信で見つけた。「Rushes」のインスト・バージョンを復活させて、タイラーとアレクシスの海でのすばらしいひと時を呼び戻したかった。打ちのめされるシーンの後、物悲しさが浮き彫りになる。
27.「Bluish」アニマル・コレクティヴ
南フロリダの高校生はアニマル・コレクティヴを聴いているだろうかと質問されたことがある。聴いてないと言うのは安易すぎる。タイラーとエミリーは聴いているだろう。僕は高校生の頃、当時人気だった曲だけではなく、新しくて変わった音楽をいつも探していた。タイラーとエミリーの好みも、それと同じようにしたかった。
28.「Pretty Little Birds (feat. Isaiah Rashad)」SZA
君は羽の中にいるフェニックス
海の波で傷ついた
波に殺され、押し流されるだろう
でも君は空を飛べる、海を泳げる
エミリーのこの瞬間は大好きだ。すべてから解放され楽しみを享受する。観客にも彼女と一緒にその気持ちを感じてほしかった。この映画の中で大好きなシーンの1つは、エミリーが車の窓から身を乗り出すシーンだ。冒頭のタイラーの同じシーンを反映している。
俺は君の黄金のガチョウになりたい
君のために足の毛を剃りたい
髪を全部下ろして、君に触れさせたい
手足を広げて、君に触れさせたい
29.「Seigfried」フランク・オーシャン
それはループ
ループの反対側はループ
これはドラッグをキメてる時の感覚
何年も聴き続けるうちに、この曲の歌詞は変化し新しい意味を持つようになった。このシーンは、映画の冒頭の一場面である若い恋のメタファーを再現している。エミリーとルークが、タイラーとアレクシスの関係と同じような状態にあるのが分かる。でも観客は憂うつだ。なぜなら前にも同じものを観て、それは失われたからだ。ロードトリップは僕にとって忘れがたい思い出であり、恋人との関係において大切なものだった。その体験でどんな感情を抱いていたかを再現することが僕には重要だった。死に際の父親を訪ねようとした僕はとても世間知らずだった。到着するまで完全には理解していなかった。僕はただ愛する人と一緒に旅をすることに興奮していた。サウンドミックスの作業は、胸が締めつけられるようだった。このシーンは当時の体験を精神的に再現しているような感覚だった。
ニルヴァーナといえば、そこにいた
ダッシュボードの上にあるフェニックスの羽のように貴重だ
そこには俺の曲がった歯と眠っている仲間
こんな夢を見る
夢想家のことを考え
夢のことを考え、ぼんやりと神を見る
「Ties」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
観客はこのトラックを聴くと、記憶の中に生きている気がする。美しさと物悲しさがバランスを保っているように感じる。
「Leaving Missouri」トレント・レズナー&アッティカス・ロス
スコアの中でこのトラックは、エミリーの内面に起きたことを説明する上で重要だ。彼女は再び死のそばにいるが、今回、死は許しと結びついている。エミリーはずっと苦しんできた。兄を許すだけではなく、彼女は自分自身を許す。1つの家族は終わりを迎えるが、彼女の家族の状況を変えるのに遅すぎることはない。許しはとても簡単に思えるが、とてつもなく難しい。
30.「True Love Waits」レディオヘッド
最初に「True Love Waits」のこのバージョンを聴いた時、僕は泣いてしまった。ああ、僕は多分、泣きすぎている。ただひたすら泣き続け、聴き直した。彼らがスタジオ・バージョンをレコーディングするのを長い間待ってくれてよかった。これがその結果だ。このバージョンを出すまでに彼らは試行錯誤を繰り返してきて、その結果がここに表れている。
映画の中でこの瞬間にエミリーの視点から離れるのは、彼女が内面のある部分に到達するからだ。ここからは両親が悲しみと向き合う。実際には一緒にいることがほとんどなくても、つながっていることを皆に感じてほしかった。僕の人生、特に高校時代において、音楽は非常に重要なものだったので、この映画はサウンドトラックを重視した映画にしようと意図して作った。大好きなレディオヘッドの曲よりも、この映画のラストにふさわしい曲を僕は知らない。
どうか行かないで
行かないでくれ
31.「Sound & Color」アラバマ・シェイクス
同名タイトルのアルバムの1曲目だが、映画ではラストに流れるのがいい。この曲は間違いなくこの映画の世界観を物語っている。この瞬間この曲は、僕らに必要な、待ち望んでいた希望を感じさせる。エミリーは旅を続ける。険しい道だと分かっているが、彼女は希望を持って、癒やしと新たな始まりに向かって進む。
新しい世界が窓の外にぶら下がっている
美しく奇妙な音と色
私と共に、心の中で
音と色のある人生を
==
『WAVES/ウェイブス』(原題:Waves)
傷ついた今日も、癒えない傷も、愛の波が洗い流す──
高校生タイラーは、成績優秀なレスリング部のエリート選手。美しい恋人アレクシスもいる。厳格な父親ロナルドとの間に距離を感じながらも、恵まれた家庭に育ち、何不自由のない生活を送っていた。そんなある日、不運にも肩の負傷が発覚し、医師から選手生命の危機を告げられる。そして追い打ちをかけるかのように、恋人の妊娠が判明。徐々に狂い始めた人生の歯車に翻弄され、自分を見失っていく。そしてある夜、タイラーと家族の運命を変える決定的な悲劇が起こる。
一年後、心を閉ざして過ごす妹エミリーの前に、すべての事情を知りつつ好意を寄せるルークが現れる。ルークの不器用な優しさに触れ、次第に心を開くエミリー。やがて二人は恋に落ちるが、ルークも同じように心に大きな傷を抱えていた。そして二人はお互いの未来のためにある行動に出る…。
監督・脚本/トレイ・エドワード・シュルツ
出演/ケルヴィン・ハリソン・Jr、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー
作曲/トレント・レズナー&アッティカス・ロス
2019年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/135分/PG12
日本公開/2020年4月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給/ファントム・フィルム
公式サイト
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