Column

2020.03.13 19:30

【単独インタビュー】『アベンジャーズ/エンドゲーム』アイアンマン役・藤原啓治が語る、トニーとのこれまでとこれから

  • Akira Shijo

※本記事には『アベンジャーズ/エンドゲーム』のネタバレが含まれます。

2019年4月に劇場公開され、全世界累計興行収入歴代1位の偉業を達成した『アベンジャーズ/エンドゲーム』。最凶の敵サノスを相手に多くのヒーローたちが消滅してしまうという衝撃のラストを迎えた前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』からの“アベンジャーズ”の逆襲が、最大のスケールで描かれたシリーズ完結編です。

MCU第1作目『アイアンマン』よりロバート・ダウニー・Jr.が演じたトニー・スターク/アイアンマンの吹替えを担当し続けてきたのが、藤原啓治さん!渋さと軽さをあわせ持ち、唯一無二の存在感を放ちながらさまざまな役どころを演じ分けるベテラン声優です。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』のディズニー公式動画配信サービス「ディズニーデラックス」での配信(3月13日より開始)に先立ち藤原さんにインタビュー。秘密厳守な吹替え現場のウラ話やダウニー・Jr.との出会いについて、たっぷり語っていただきました!

──『エンドゲーム』では、2008年の『アイアンマン』から10年以上演じてこられたトニー・スターク役に大きな区切りを迎えられましたが、どのようなお気持ちですか?
区切りまで演じきれたことに、ものすごく喜びを感じています。ちょっとお休みをいただいていた時期があったんですが、『アベンジャーズ』の新作が製作されていることは知っていたので。

──多くのファンが、よくぞ戻ってきてくださった!と思っていたと思います!
やっぱり、これで区切りという気持ちがあったからこそ「ここは復帰しなければ!」と、本気で思っていましたね。

──トニーが最期を迎えることは、ご存知の上で『エンドゲーム』の収録に臨まれたのでしょうか?
知らなかったです!衝撃を受けました。「え?」っていう(笑)。そういう”区切り”だとは思わなかったので。リハーサルの当日にその場で台本を渡されて、その時にはじめて知りました。

──秘密が厳守されるMCU作品の撮影では、キャストに開示される内容にも限りがあると聞きます。実際、吹替えの収録時には台本はどこまで書いてあったのですか?
一応、ラストまでは書いてあったように思いますね。ただ、編集や翻訳が変わることもあるので、最初は「一度ざっくり録ってみましょうか」という雰囲気で収録を始めてから、使われないはずの部分が使われるようになったり、録ったあとの音声にチェックを受けて再収録したり、とかもありましたね。リハーサル日が設けられていたので、家でゆっくり読む、とまではいかなくても、台本を読み込むには十分な時間をいただいていました。ただ、あそこまで厳しく情報が管理されている作品はなかなかないと思います。台本も、収録が終わると毎回その場で回収されていました。

──そういった環境で演じる上での難しさはありましたか?
難しさもありましたが……逆に、そんな危険な台本を持ち帰らなくていい安心感はありましたね(笑)。そんなもの持ち帰って、もし落っことしたりしたら大変だと思って。置いて帰った方が安心なので、精神的には楽でしたね。

──MCU作品では、他の出演者の方々とは同時に収録されるのでしょうか?
完全に一人で、閉じこもっての収録でしたね。何日かかけて録り続けていくうちに、日本語の声がちょっとずつ重ねて足されていくんです。それが聞こえてくることで、ああ他の人も収録したんだな、と把握していました。

──共演者の方々との交流はありましたか?
全くありませんでした!というか、誰が出ているのかもよくわからないままで……もちろん、レギュラーメンバーはわかりますけど。コレ誰が演ったんだろう?みたいなのも結構あって……だって書いてないんですもん(笑)。全然わかりませんでした。収録外で会っても、しゃべれるような情報を持っていませんでしたし。

──トニー役を10年以上演じてこられましたが、演技に変化はありましたか?
同じキャラクターを演じているということで、演じ方は基本的には変わっていないと思います。映画のテイストも毎回変わるので、そこに合わせていく部分はありますが。

──トニー役以外でも、様々な映画でロバート・ダウニー・Jr.が演じた役の吹替えを担当していらっしゃいます。演じ分ける際に意識していることはあるのでしょうか?
やっぱり、別のキャラクターを演じている、という風に思わないといけない、というのはあります。ダウニー・Jr.が演じている以上、キャラクター個別の演技それぞれにもベースには同じダウニー・Jr.本人の芝居の持ち味があると思うんですが、同じような演技をしていても別物である、と考えるようにはしていて。「こうすればロバート・ダウニー・Jr.の芝居になるんだ」という考え方をしたことはないです。意識的に、あまりダウニー・Jr.の存在を気にしないようにしていますね。ただ、彼のトニー役の演技についてあえて言うなら、お芝居の中に”おかず”が多いというか……あまりストレートでない、ちょっと遠回しで変化球な表現をされることが多いですね。そういうところが面白くて大好きなんですが。

余談ですが、ダウニー・Jr.がまだ無名だった20代の頃に出演していた『ジョニー・ビー・グッド』(88年)という映画の吹替えを、たまたま担当していました。当時は深夜のテレビ放送用に吹替えを制作していたのですが、ディレクターに「なんか藤原くんと似てるんだよね」と言われて「そうですかね?」なんて話をしてたのを覚えています。その時は彼の名前を意識していなかったのですが、面白い演技をする人だなあ、と気になっていて。ずっと気にし続けていたところ、後になってそれがダウニー・Jr.だと知って。それが今こうして、彼の役を吹替えられる機会も増えて、嬉しいことですね。またちょっとカラーが変わりますが、”動物がいっぱい出てくるやつ”も楽しかったです(笑)。

──ディズニーデラックスのような配信サービスだと、好きなシーンやセリフをピンポイントで繰り返し楽しめます。『エンドゲーム』で、藤原さん的にここがイチ押し!というセリフやシーンはありますか?
いっぱいあるんですよね(笑)。難しいなあ~。やっぱり、娘のモーガンと一緒にいるところが好きですね。あとは、お父さんのハワードとの会話ですね。グッときますよね。特に、お別れする前に車の前でハグをするシーンがすごく好きです。

──今後のMCU作品に、トニーがまた登場するとしたら、どんな風に登場してほしいですか?
どうでしょうねえ~。登場してほしい気もするし、登場してほしくないような気もするし……同じような複雑な気持ちのファンの人たちも、たくさんいらっしゃると思うんですが。登場するとしたら、何気ないシーンでサラッと出てほしいですね。「アイアンマンだぜ!」みたいにド派手に出るんじゃなくて。最後のオマケシーンにチョロっと出るとか。

──”社長ヒーロー”のアイアンマンを演じる藤原さんご自身も、事務所の”社長”でいらっしゃいますよね。お忙しい中での普段の仕事術や、心がけていることがあれば教えてください。
同じ社長でも売り上げはだいぶ違うと思いますが(笑)。こちらはカツカツでやっておりますので。心がけていることといえば、一生懸命やることです。当たり前のことではあるんですが、お金をもらって働く以上、ちゃんと真面目にやろうという。

──藤原さんは、ヒーローだけでなく悪役を演じられることも多いですよね。
悪役を演じるのも楽しいですね!とことん憎まれた方がやられがいがあるし、ヒーローを立たせられて、みんなも喜んでくれるので。どちらかというと僕はそっちの役の方が多いんじゃないですかね?アブない人とか。ネチネチした、人にイヤがられるお芝居をする時、どうやったらイヤがられるんだろう?と考えながらやるのは単純に楽しいです。清く正しい模範的なヒーローも良いですがね。その点、アイアンマンはちょっとひねくれたところがあるから面白いのかもしれないですね。

──長く声優業を続けておられる中で、収録中に「このセリフを言えてよかった」と思う瞬間はありましたか?
いっぱいしゃべってきたからなあ。これも難しい質問ですね(笑)。気を使うわけじゃないのですが、やっぱり『エンドゲーム』の中の──劇場でも字幕版、吹替版の両方を観ましたが、改めて「私は……アイアンマンだ」は、言えて良かったなとしみじみ感じました。

あの場面、実はリテイクがかかって録り直したものなんですよ。その時には、前に録ったものと何が違うんだろう?と思うくらいの、ほんの少し、細か~い違いではあったんですが、実際に完成したものを観た時に「これは録り直してよかったな」と思いました。すごく”生”っぽく演じられたので。サラッと言える場面でもありませんでしたから、より満足というか、納得できるシーンになったと思っています。

──ありがとうございました!

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藤原啓治(ふじわら・けいじ)

1964年10月5日生まれ、東京都出身。AIR AGENCY所属、同社代表取締役。代表作はアニメ『鋼の錬金術師』マース・ヒューズ、『GRANBLUE FANTASY The Animation Season 2』オイゲン、『HUNTER×HUNTER』レオリオ=パラディナイト、洋画吹替『シャーロック・ホームズ』ホームズ(ロバート・ダウニー・Jr.)、『ダークナイト』ジョーカー(ヒース・レジャー)、ほか多数。

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『アベンジャーズ/エンドゲーム』(原題:Avengers: Endgame)

最凶最悪の敵“サノス”によって、人類の半分が消し去られ、最強チーム“アベンジャーズ”も崩壊してしまった。果たして失われた35億の人々と仲間を取り戻す方法はあるのか?大逆転の確率は、1,400万605分の1…。わずかな希望を信じて再び集結したアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソーたちに残されたのは、最強の絆だけ──。“今はここにいない”仲間のために、最後にして最大の逆襲が始まる!

監督/アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ
出演/ロバート・ダウニー・Jr. ほか

2020年3月13日(金)ディズニーデラックスにて配信開始
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