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2020.02.14 17:00

【ネタバレ無し感想・評価】『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』美少年作家になりすました女性の内面に迫る衝撃のドラマ

  • Fan's Voice Staff

2000年代半ばに文壇を賑わせたスキャンダルの裏側を、美少年作家になりすましたサヴァンナ・クヌープの視点から描く『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』。本記事では、日本公開に先駆け開催された試写会でのファンの感想を軸に、映画の見どころを紹介します。

2001年、女装の男娼だった金髪の美少年J・T・リロイが書いた自伝的小説「サラ、神に背いた少年」がベストセラーが話題に。J・T・リロイは、ローラ・アルバート(ローラ・ダーン)が創り出した架空の人物でしたが、ローラはある日、近所に引っ越してきたパートナーのジェフ(ジム・スタージェス)の妹サヴァンナにJ・Tを演じてもらうことを思いつきます。

金髪のウィッグとサングラスで、美少年作家として写真を撮られることで、50ドル。バイト感覚で引き受けたサヴァンナ(クリステン・スチュワート)でしたが、謎めいたルックスは話題となり、J・T・リロイとして公の場に登場する機会も増えていきます。小説が映画化され、さらに脚光を浴び、セレブとの交流も広がりますが、そんな大ブレイクの影で、サヴァンナは偽りの姿を演じ続けることに、違和感と罪悪感を感じ始めていました──。

イタリアのホラーの巨匠ダリオ・アルジェントの娘アーシア・アルジェントの監督作『サラ、いつわりの祈り』の原作者としても知られるJ・T・リロイ。本作は、ふたりの女性が創り上げた”彼”をめぐる一連のスキャンダル事件の当事者であるサヴァンナ・クヌープの自伝「Girl Boy Girl: How I Became JT Leroy」の映画化したものです。

監督には、アビー・リー、ケイレブ・ランドリー、ライリー・キーオ主演の『ストレンジャーズ 地獄からの訪問者』(18年)のジャスティン・ケリー。ガス・ヴァン・サントやウィノナ・ライダーなど多くのセレブリティを巻き込んだ大騒動として今も語り継がれる“J・T・リロイ”の新たなる真実がここに明らかにされます!

セレブも騙された華麗なウソ、信じられないその真実

サヴァンナ・クヌープ(クリステン・スチュワート)

母親の元を離れ、兄の住むサンフランシスコに移り住んだサヴァンナは、兄の恋人の作家ローラが創り出した“J・T・リロイ”という金髪の美少年作家の役を演じてしまったことから、脚光を浴び、あれよあれよという間に文壇の寵児として祭り上げられていきます。セレブリティとの交流や、カンヌ国際映画祭への出席、数々のインタビューや撮影会──ローラが創り出した虚構のキャラクターがあまりにも魅力的だったため、文壇も映画界もみんな金髪の美少年に夢中になりました。ウソのような事実とはまさにこのこと!

サヴァンナはそのゲームから抜け出せなくなりますが、一方で、ローラの操り人形でいることに限界を感じていました。いつまでもウソを突き通すことはできない……。綱渡りのような毎日を送るサヴァンナの危うさと心の揺れを、サスペンスばりのスリリングなカメラワークで捉えます。

世間に認められたい、その欲望が生んだ哀しきドール

ローラ・アルバート(ローラ・ダーン)

著作がベストセラーとなるほどの筆力を持ちながら、ローラはなぜ、 “J・T・ リロイ”というアバターを作り出さなければならなかったのか?「こんなおばさんが書いたものに誰も興味をもつはずがない」というローラのセリフのように、人は外見や肩書で人は判断しがちであり、目新しいものに飛びつきがち。母親に虐待された美少年の実体験としてセンセーショナルに売り出された小説が、40代女性の空想だとしたら、本当に人は興味をもったのでしょうか。J・T・リロイは、ローラのコンプレックスと承認欲求から生まれた、哀しい人形でもありました。

注目のスキャンダルの映画化にスターが豪華競演

右:エヴァ(ダイアン・クルーガー)

J・T・リロイを演じていたサヴァンナの存在を暴露したニューヨーク・タイムズの記事が掲載された2006年から15年あまり経った今でも、このストーリーへの人々の感心は止まりません。2016年には、ローラ・アルバートの視点からこの事件を語るドキュメンタリー映画『作家、本当のJ・T・リロイ』が製作され、日本でも話題となりました。

サヴァンナの視点から映画かれた『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』にも、今をときめくスターたちが名を連ねました。サヴァナを演じたのは、『トワイライト』シリーズで大ブレイクし、フランスの名匠オリヴィエ・アサイヤス監督の『アクトレス〜女たちの舞台〜』(14年)などインターナショナルに活躍するクリステン・スチュワート。「当時は、“創られた真実”の方にみんな夢中になってしまって、彼女たちの内面で何が起きていたのか、内面にあった真実はなんだったのか、ということまでは語られなかった。だから今、それに光を当てたこの映画を公開できることはすごくクールだと思う」とコメントしています。

実際に小説を書いていたローラ・アルバートを演じたのは、ローラ・ダーン。『マリッジ・ストリー』の敏腕離婚弁護士役で本年度のアカデミー賞助演女優賞を受賞した演技派女優も、この真実の物語に感動したひとりです。「この映画でのローラが象徴しているように、自分自身の真実と格闘することは、時に苦痛で、誰かに指摘されるまで自分が何で苦しんでいるのかわからなかったりする」「ローラにとってこれは嘘ではなくて生き延びる手段だった」と、ローラに対し理解示していますが、才能がありながら、自分に対して自身がもてない中年女性の痛みを見事に体現しています。

本作で“第三の女性”として登場するのが、女優であり『サラ、いつわりの祈り』を監督したエヴァ。アーシア・アルジェントをモデルにしていますが、演じているのはドイツ出身でハリウッドやヨーロッパ映画で活躍するダイアン・クーガー。サヴァンナと親密な関係となり、多大な影響を与えるなど、本作のスパイスとなる重要なキャラクターですが、その美しさにはサヴァンナでなくともきっと魅了されるはず。

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『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(原題:Jeremiah Terminator LeRoy)

アメリカ文壇に彗星のごとく登場し、時代の寵児となった美少年作家J・T・リロイ。映画『サラ、いつわりの祈り』の原作者としても知られる彼は、ふたりの女性が創り上げた架空の人物だった!2000年代に一大スキャンダルとして報じられたこの驚くべき事件について、初めてJ・Tの分身を担ったサヴァンナの視点から映画化。彼女は、なぜローラに言われるがまま数年間もJ・Tを演じ続けたのか?

監督・脚本・製作総指揮/ジャスティン・ケリー
原作・脚本・製作総指揮/サヴァンナ・クヌープ
出演/クリステン・スチュワート、ローラ・ダーン、ジム・スタージェス、ダイアン・クルーガー、コートニー・ラヴ
アメリカ/カラー/108分/スコープ/5.1ch/字幕翻訳:石田泰子/PG12

日本公開/2020年2月14日(金)よりシネマカリテ&YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開!
配給/ポニーキャニオン
公式サイト
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