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2020.02.10 15:00

【ネタバレ無し感想・評価】『1917 命をかけた伝令』は“映画史に残る大傑作”!

  • Fan's Voice Staff

本年度アカデミー賞にて撮影賞など3部門で受賞した名匠サム・メンデス監督最新作『1917 命をかけた伝令』。本記事では、2月14日(金)の日本公開に先駆けて開催された本作のFan’s Voice独占試写会でのファンの感想を中心に、映画の見どころを紹介します。

1917年4月、第一次世界大戦が始まって3年。フランスを横断する西部戦線では、長大な防衛線を挟んで、ドイツ軍とイギリス、フランスの連合軍が睨み合っており、多大な犠牲を払いながら消耗戦を繰り広げていました。若きイギリス兵スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)は、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が率いる部隊に重大なメッセージを届ける任務を命ぜられます。あらゆる通信手段をドイツ軍によって遮断されているため、彼らの足だけが頼りですが、マッケンジー大佐の部隊に追いつくには、ドイツ軍が築いた塹壕やドイツ軍が占領中の街といった危険な地域を抜けなければなりません。重大な伝令を携えたふたりは、仲間1,600人の命を救うべく最前線へと駆け出します──。

昨年12月に欧米で公開されるや否や大絶賛され、映画賞レースを席巻した『1917 命をかけた伝令』。第77回ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)、監督賞をW受賞!第73回英国アカデミー賞(BAFTA)でも作品賞など最多7冠に輝き、第92回アカデミー賞では作品賞など10部門にノミネート、撮影賞、視覚効果賞、録音賞の3部門で受賞しました。

映画体験の素晴らしさを実感する新たなる傑作

サム・メンデス監督(中央)

『1917 命をかけた伝令』は、『アメリカン・ビューティー』(99年)でアカデミー賞を受賞したイギリスの名匠サム・メンデスが、初めて脚本まで手掛けた思い入れの強い作品です。第一次世界大戦に従軍した祖父アルフレッド・H・メンデスから聞いた体験談を基に、若き兵士の1日を通して、戦争の真実に迫ります。

1917年、19歳でイギリス軍に入隊した祖父は、小柄でひと目につきにくいという理由で伝令兵となり、終戦後にその体験を回顧録として執筆しました。「ひとりの兵士が指令を伝達するというシンプルな発想が私の記憶の中にずっと残っていて、やがてこの作品をつくるきっかけとなった」とメンデス監督は語っています。

映画は1日の物語ですが、そこには一生分ものドラマが詰まっています。サム・メンデス監督は、単調になりがちなその道中を、ドキュメンタリータッチという常套手段はあえて避けて、映画的な手法をもって2時間弱で描き切りました。草原、廃墟と化した街、河川、塹壕……ほぼ一人称ともいえるカメラの視点はずらさず、背景を巧みに変えて時間経過を見せる見事な手法は、サム・メンデス監督が優れた映画監督であると同時に、トニー賞受賞の名舞台演出家であることを思い出させます。

若き伝令兵に寄り添い、戦場での過酷なミッションに帯同するかのような“異次元の映画体験”は、これまでの戦争映画の臨場感をはるかに超越し、この作品を唯一無二のものにしています。

名匠ロジャー・ディーキンスによる驚異の“ワンカット映像”の没入感

ロジャー・ディーキンス(撮影監督)、サム・メンデス監督

映画化にあたっては、主人公の息遣いのような細部までを“リアルタイム”に描くために、長回し映像で“全編ワンカット”のように見せる手法が選ばれました。

撮影を手掛けたのは、『ブレードランナー 2049』(17年)でアカデミー賞撮影賞を受賞している名匠ロジャー・ディーキンス。長回しは、技術スタッフと俳優たちの演技がぴったりと息を合わせることが必須なため、4ヶ月の綿密なリハーサルが重ねられましたが、圧巻の映像によって得られた、まるで自分が戦場に立っているかのような没入感は、これまで体験したことのないものです。

長回しといっても、「俳優の顔に迫るクローズアップも必要だし、彼らが風景の中にいる様子を引きで撮影する必要もあった」と語るディーキンス。オペレーターに担がれたカメラは、次にワイヤーに繋がれ、空高くへと持ち上げられたかと思うと、またオペレーターがカメラを担いでジープに飛び乗る……。地を這い、天を舞うダイナミックな映像は、こうした綿密かつアクロバット的な撮影体制で実現されました。

家族とは、友情とはなにかを問いかける人間ドラマ

壮大なスケールで描かれる戦争映画でありながら、この映画を観ると涙が止まらないのは、そこに人間のドラマがあるから。彼らがどんな思いで戦場へ出かけ、何を見て、何を感じ、何を犠牲にしたのか。若く、純粋な兵士の1日に凝縮された戦争における壮絶なドラマには、感情を揺さぶられずにはいられません。仲間とは何か、家族とは何か、友情とは何か。

人と人とが殺し合う、生々しく凄惨な戦場。その背景では美しい自然が、生命の輝きを放っています。容赦なくそのコントラストを映し出すカメラは、戦争の愚かさを雄弁に訴えかけます。

音楽を手掛けたのは、『007 スカイフォール』(12年)などでサム・メンデス監督とコラボレーションしているトーマス・ニューマン。「音楽を通して主人公たちの感情を適切に表現する必要があった」と解説し、主人公たちが駆け抜ける土地の色彩からインスピレーションをもらったという音楽は、ドラマに奥行きと豊かさを与えています。

ジョージ・マッケイの命をかけた疾走に感動

第一次世界大戦をリアルタイムで知らない観客と同様に、戦争の現実をまざまざと見せつけられるスコフィールド上等兵を演じたのは、ジョージ・マッケイ。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した『はじまりへの旅』(16年)や、『マローボーン家の掟』(17年)などで知られる英国の新進俳優です。「ジョージにはどこか古風なところがあって、道義心や尊厳、勇敢さといった美徳を体現してくれた」とメンデス監督が絶賛しているように、控えめな性格ながら、戦場を駆け抜ける体力と勇気、そして仲間や友への忠誠心をもった誠実な青年を、文字通り体を張って演じてみせました。

スコフィールドの同士であるブレイク上等兵役は、人気TVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の悲運の王トメン・バラシオン役で知られるディーン=チャールズ・チャップマンが演じています。スコフィールドより年下で、天真爛漫な愛すべきキャラクターのブレイクは、この作品で癒やし的な存在でもあります。

スコフィールド上等兵(ジョージ・マッケイ)、ブレイク上等兵(ディーン=チャールズ・チャップマン)

脇を固める英国のスター俳優陣

マッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)

戦争の極限状態の中でふたりが出会う人々には、英国の名優たちがキャスティングされました。第一次世界大戦の責任を背負っているエリンモア将軍役には、コリン・ファース。無人地帯で前線を守り続けるレスリー中尉役に、アンドリュー・スコット。

廃墟と化した農場でふたりと出会うスミス大尉役にマーク・ストロング、前線撤退中のドイツ軍を猛追している第2大隊を率いるマッケンジー大佐役にベネディクト・カンバーバッチ、トム・ブレイクの兄であるジョセフ・ブレイク中尉役に、リチャード・マッデン。短い登場シーンながら、それぞれ強烈な印象を残しています。

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『1917 命をかけた伝令』(原題:1917)

監督/サム・メンデス
脚本/サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
製作/サム・メンデス、ピッパ・ハリス
出演/ジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ=チャップマン、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロング、ほか
全米公開/2019年12月25日、上映時間/119分

日本公開/2020年2月14日(金)、全国ロードショー
配給/東宝東和
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