【単独インタビュー】クリス・フォギン監督が語る『フィッシャーマンズ・ソング』が人々の心を捉える理由
- Atsuko Tatsuta
イギリス南西部コーンウォール地方の小さな港町ポート・アイザックの現役の漁師たちが中心となって結成した舟歌バンド“フィッシャーマンズ・フレンズ”。2010年に1st.アルバム「Port Isaac’s Fisherman’s Friends」が全英チャートでトップ10入りを果たし、大きな話題となりました。揃いのPコートとジーンズ、ワークブーツの漁師たちが歌うのは、彼らが普段から歌っている舟歌や民謡。いかついビジュアルとその美しいハーモニーを奏でる歌声のギャップも受け、アルバムはゴールドディスクに輝きました。
映画『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』は、ロンドンからやってきて偶然にも彼らを発掘した敏腕マネージャー、イアン・ブラウンとバンドのメンバーらの出会いとサクセスストーリーを描いた、嘘のような実話に基づいたヒューマンドラマです。
フィッシャーマンズ・フレンズの浜辺でのライブを旅先で偶然聞いた音楽マネージャーのダニー(ダニエル・メイズ)は、上司に彼らとの契約を命じられ、小さな港町ポート・アイザックに残るハメに。民宿を経営するシングルマザーのオーウェンには敵意をむき出しにされますが……。
監督は、青春映画『キッズ・イン・ラブ』(16年)の新鋭クリス・フォギン。自然豊かな町で仲間や家族に囲まれて暮らす漁師たちと、都会暮らしに疲れきった音楽業界人のカルチャーギャップを軽やかなタッチで描きました。
イギリスでは公開直後からまたたく間に10億円を稼ぎ出し、スマッシュヒット。続編の制作も決定している話題作の日本公開に合わせ、フォギン監督がスカイプインタビューに応じてくれました。
──小さな港町の漁師たちがアルバム・デビューを果たし、全英を感動させたという実話が基になっていますが、このストーリーはどのように知ったのでしょうか。
2013年に、私が長編デビュー作『キッズ・イン・ラブ』を製作していた時、プロデューサーのジェームズ(・スプリング)の手元にこの脚本があったんです。私はたまたまそれを読ませてもらい、本当に感動して、惚れ込んでしまいました。このストーリーが象徴するものに、ものすごく惹かれました。監督したいとすぐ思いましたけど、その時は自分には回ってきませんでした。ですが2017年にジェームズから電話があって、”あの企画がまだあるのだけれど興味があるか”と聞かれたので、”やりたい”と即答し、監督を引き受けることができました。
これは、実際に存在する人たちの物語です。彼ら寄り添うことが一番大事なことだと思いました。映画化にあたって、物語の牽引役であるダニーのキャラクターなどを膨らませた部分はありましたが、彼らがどんな人々であるのか、それをきちんと表現することを一番に考えましたね。
──あなたのおっしゃる“このストーリーが象徴するもの”とは具体的にはどんなことでしょう?
家族、友人、コミュニティといったものですね。これらは僕にとって大きな意味を持つものなので、このストーリーはとても私の心に響いたのです。またダニーというキャラクターも気に入りました。自分のやりたいことを達成しようと、ベストを尽くす。僕自身もロンドンに出てきて映画業界で仕事を探して……とダニーが音楽業界で模索していたと同じようなことを経験していたので、そのあたりも共感しました。
──実際のフィッシャーマンズ・フレンズの方々に会った印象はどんなものでしたか?
彼らは、ハッピーでフレンドリーで、面白い人たちなんです。私たち撮影隊のこともとても歓迎してくれました。彼らのおかげでみんながハッピーになって、いい雰囲気の中で撮影が進められました。彼ら無くしては、このようなハートフルな作品にはならなかっと思います。本当に感謝しています。
──舞台となっているコーンウォールは、とてもノスタルジックな美しい街ですが、イギリス人にとってはどんな場所なのでしょうか。
英国人は、コーンウォールと聞くと、独特な美しい風景を思い出しますね。天気がいつも良くて、穏やかで。また、独特のコミュニティや家族を大切している人々というイメージを持つ人も多いと思います。
──スクリーン上で見ても本当に美しい場所ですね。
実際に訪れたら、きっと素晴らしい場所だと言っていただけると思います。イギリス南部にあり、ロンドンから離れた場所ですが、私はイギリスに長期で滞在するならば、必ずコーンウォールへは行くべきだとみんなに言っているくらいです。それくらい美しい場所で、しかも人々はとても温かいんです。
──実話を映画化するにあたり、映画的なマジックをどのように取り入れようと思ったのでしょうか。
ビジュアル面は大きかったですね。幸い私は、撮影監督やプロダクションデザイナーなど素晴らしいスタッフのチームに恵まれました。コーンウォールの景色は、素朴さだけでなく自然の壮大さもあるので、そのスケールも捉えたいと思いました。ドラマティックな物語を語るだけでなく、ビジュアル的にも美しいものを作るというのが、私たちのゴールでしたが、彼らのおかげで達成することが出来たと思います。ひとりの観客として観ても、とても美しい風景が撮れていると感動しました。
──メインのモチーフとなっている漁師の歌は、とてもプリミティブというか素朴な歌ですね。これらの漁師の歌を以前からご存知でしたか?
実は、脚本を読んだときには、こうした歌の存在も知りませんでした。彼らのこともね。”こんな人たちがいるんだ!”と驚きました。レコーディングされた彼らの歌を最初に聴いたのですが、生き生きとしていて本当に楽しそうで、感動しました。その後、ポート・アイザックに行った時、彼らがパフォーマンスする場所である”プラット”やパブ、練習場に使っている教会で彼らが歌うのを聴く度に、その素晴らしさに毎回感動してしていましたよ。私の家族もこの漁師の歌にハマってしまい、今でも息子たちは車の中でいつも歌っていますよ。なにせ楽しいんです!
──イギリスでは彼らのアルバムは大ヒットしたワケですが、”楽しい”という要素以外に、彼らの歌はなぜそこまで人を惹きつけるのだと思いますか。
今日の文化の中で、こういう音楽を聞く機会はなかなかないと思います。彼らの歌は、メインストリームの音楽とまったく違うし、そこにハマってしまうのではないでしょうか。喜びに溢れているし、楽しく、みんなで歌って盛り上がれるような曲だということも理由のひとつですね。
──ロンドンから行ったダニーが、最初、コーンウォールの人々から受け入れられず戸惑います。田舎のコミュニティは、よそ者が受け入れらにくいという側面もありますよね。実際のこの街は、どんなものだったのでしょうか。
実は、私はとても温かく歓迎されました。彼らは基本的に愛情深くて、とてもフレンドリーで、本当に私たちをよくサポートしてくれました。撮影も、そして実際に出来上った作品も楽しいものになりましたが、それもすべて彼らの人柄のおかげです。
──歌がレコーディングされてアルバムがヒットしたとき、1つ目のミラクルが起こり、また映画が作られるという2つ目のミラクルも起こりました。彼らはどのように受け止めたのでしょうか。
喜んでくれたことは確かですね。私がこの映画を監督とするとなったとき、まずは、バンドのメンバーが幸せになれるようなものを作りたいと思いました。実際にそうなったことが、僕たちとしてもとても誇らしいです。またこの映画をきっかけに、たくさんの人にコーンウォールを訪れて欲しいと思っています。僕らが見た風景や出会った人々に会ってもらえたらと思います。カフェやパブに入って時間を過ごして、僕らが経験したようなもの体感して欲しいですね。
──この映画製作を通してどんなことを学びましたか?
繰り返すようですが、本当にバンドのメンバーや街の人々の人柄とそのおもてなしが素晴らしかったので、私も他人に対して、そんな風に振る舞おうと心から感じたことですね。お互いに尊敬し合う、そして生活を楽しむ。自分自身、他人に対しての接し方を考えなければいけないと反省させられました。”楽しい体験”は、大事です。今後の映画でも、作る側も参加する側も、お互いに思いやりをもって接することができるような撮影現場にしようと肝に命じました。
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『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』(原題:Fisherman’s Friends)
イギリスのコーンウォール地方にある港町ポート・アイザックを旅行していた音楽マネージャーのダニーは、偶然”フィッシャーマンズ・フレンズ”の浜辺ライブを見かける。上司達に彼らとの契約を命じられたダニーは小さな港町に居残るハメに。民宿の経営者でシングルマザーのオーウェンはダニーの失言に敵意をむき出しにしていたが、彼が見せた音楽への情熱に心を動かされる。契約できたものの、はたしてフィッシャーマンズ・フレンズは生き馬の目を抜く音楽業界でメジャーデビューできるのか?
監督/クリス・フォギン
出演/ダニエル・メイズ、ジェームズ・ピュアフォイ、デヴィッド・ヘイマン、デイヴ・ジョーンズ、サム・スウェインズベリー、タペンス・ミドルトン、ノエル・クラーク
日本公開/2020年1月10日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
配給/アルバトロス・フィルム
© FISHERMAN FILMS LIMITED 2019