Review

2019.12.20 12:00

【ネタバレ無しレビュー】『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』はサーガ最大級のセレブレーション

  • Atsuko Tatsuta

9作品から成るスカイウォーカー・サーガの最後を締めくくる『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は、J.J.エイブラムスのスター・ウォーズ愛がこれまでもかというほどに溢れ出ている作品だ。

2013年、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』の取材で彼のLAにある制作会社バッド・ロボットを訪れた際、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15年)の監督就任が発表された直後で、J.J.は喜びを隠しきれないでいた。

「『スター・トレック』シリーズはそれほどファンじゃないけど、だからこそ、良い作品が撮れると思った。脚本家たちが“トレッキー”だから、そのバランスが良いと思った。だけど、子どもの頃から僕は『スター・ウォーズ』の大ファンで、このシリーズを監督することは夢だった」

J.J.エイブラムス監督

実際、10年ぶりにシリーズを始動するに当たって、J.J.は適役だった。2015年に公開された『フォースの覚醒』は、レジスタンス軍の将軍となったレイア・オーガナ(キャリー・フィッシャー)、ジェダイ・マスターのルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)、ハン・ソロ(ハリソン・フォード)、ウーキー族のチューバッカ、ドロイドのC-3PO、R2-D2といったスター・ウォーズの大スターたちに加えて、スカベンジャーのレイ(デイジー・リドリー)、元ストームトルーパーのフィン(ジョン・ボイエガ)、レジスタンスの敏腕パイロットのポー・ダメロン(オスカー・アイザック)、悪役にはハン・ソロとレイアの息子でファースト・オーダーを率いるカイロ・レン(アダム・ドライバー)、そしてBB-8というキュートなドロイドといったフレッシュな顔ぶれで、旧作から続三部作への橋渡しを見事に成功させた。

それから4年後、J.J.は『スカイウォーカーの夜明け』で再び、重責を担うことになった。当初は、『ジュラシック・ワールド』(15年)で成功を収めたコリン・トレボロウが監督に抜擢されていたが、スタジオ側とクリエイティブに関して意見が合わず、降板したことによって、J.J.に再び、白羽の矢が立った。

しかしながらこのミッションは、J.J.にとって『フォースの覚醒』以上のチャレンジとなった。続三部作の2作目、つまりサーガにおける第8作となる『最後のジェダイ』(17年)は、ライアン・ジョンソンによって監督された。これは、批評家からは絶賛されたものの、ファンからは酷評を浴びた。批評家とファンの間の評価が真っ二つに分かれることは時々あるが、世界中に熱狂的なファンを抱えるスター・ウォーズのようなフランチャイズにとって、ファンからそっぽを向かれることは、見過ごすことができない一大事だ。過去のスター・ウォーズ作品のレガシーを受け継いだ正統派の『フォースの覚醒』に対して、『最後のジェダイ』はタイトルロールでもあるルーク・スカイウォーカーの描かれ方やフォースの力の誇大化、また、カイロ・レンを操るなど暗黒面の中枢と見られていたスノークのあっけない死に方など、意表をつく展開や設定が物議を醸し出した。

J.J.は、新三部作の完結編という任務だけでなく、ジョンソンが広げた風呂敷を閉じるという課題も背負ったのである。

エンドアの戦いから30年後を舞台にした続三部作の主人公は、辺境の惑星ジャクーのスカベンジャー、レイである。幼い頃に別れた家族との再会を待っている孤独な少女が、フィンやポー、BB-8という仲間と出会い、レイア率いるレジスタンスとともに、帝国軍の残党と闘うというストーリーラインだ。だが、『エピソード1』〜『エピソード3』が、若きジェダイの騎士アナキン・スカイウォーカーが暗黒面に落ち、暗黒卿ダース・ベイダーになるまでの物語であり、また『エピソード4』〜『エピソード6』が、若きジェダイの騎士ルーク・スカイウォーカーが、敵対する暗黒卿ダース・ベイダーが自身の父という衝撃的な事実を知り、ベイダーを乗り越えることで成長する物語であったように、『スター・ウォーズ』シリーズは、すでにその呪われたスカイウォーカー家を巡る物語とともにある。

2015年から始動した続三部作は、そのスカイウォーカー家を巡る新たなストーリーが必要とされた。

『フォースの覚醒』では、新トリロジーのヴィラン、カイロ・レンがハン・ソロとレイア姫(ルークの妹)の息子であり、彼が父ハン・ソロを殺すという衝撃的なドラマが盛り込まれていた。父を殺してでも祖父ベイダー卿の意志を引き継ぐことこそ、レンが父を乗り越え、強くなる唯一の方法という選択である。

では、レイとは何者なのか?

レジスタンスと行動を共にするが、強力なフォースの持ち主であり、カイロ・レンとは不思議な絆で繋がっていることは、すでに『最後のジェダイ』までで明らかになっている。『スカイウォーカーの夜明け』では、このレイの出自が明らかになる。

『エピソード1』〜『エピソード6』までの2つの三部作では、あくまで血筋にこだわってきたスカイウォーカー・サーガだが、『フォースの覚醒』および『スカイウォーカーの夜明け』でJ.J.が明示するのは、「血筋よりも絆」という価値観だ。

孤児だったレイが、仲間=新しいファミリーを持つことで、力を得る。ダース・ベイダーの血が流れていても、ルークが勇敢で豊かな感情をもった最後のジェダイであり、レイアが正義感溢れるレジスタンスの将軍であったように、自らの心に忠実に生きることで、レイの人生は開けていく。レイの存在や彼女の選択は、これまでのスター・ウォーズの世界にはなかった新しいものであることは確かだ。

シリーズ始まって以来の女性ヒーローと話題になったレイだが、『スター・ウォーズ』の世界にもダイバーシティの波は確実に影響を与えている。血筋を巡る物語は、高い志とレガシーを継承し、新しい時代に向けた希望の物語となった。

一方で、カイロ・レンである。スカイウォーカー家の血を引く彼は、どこへ向かうのか。ギリシャ神話に影響を受けている『スター・ウォーズ』シリーズらしく、ルークとベイダーがそうだったように、『フォースの覚醒』で父と対峙し殺したカイロ・レンだが、ならば母レイアとはどのように向かい合うのか。母の息子への大いなる愛は、本作のいちばんの見所のひとつだ。

ちなみにキャリー・フィッシャーは2016年12月に60歳で急逝したため、本作では、『フォースの覚醒』で使用しなかったカットを使って出演している。あたかもそのシーンのために撮影したかに見えるのは、脚本の努力の賜物なのか、見事としか言いようがない。

ストーリーだけでなく、J.J.は本作に、『スター・ウォーズ』のレガシーをこれでもかというくらいに盛り込んでいる。懐かしい名場面を彷彿とさせるシーンの数々、空中戦、セリフ、ビークルに至るまで、ファンなら小躍りするに違いない描写が次から次へと登場する。まさに力業。完結編という難問をこのように遊び心をもって攻略できたのも、スター・ウォーズをこよなく愛するJ.J.ならではだろう。この作品の意味は、少なくともJ.J.にとっては、42年間にわたって脈々と受け継がれてきたスター・ウォーズのレガシーへの最大のセレブレーションであることは間違いない。

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『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

監督・脚本/J.J.エイブラムス
日本公開/2019年12月20日(金)全国公開
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
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