Column

2019.12.06 13:00

【独占インタビュー】『ラスト・クリスマス』ポール・フェイグ監督「この映画はジョージ・マイケルへのラブレター」

  • Atsuko Tatsuta

クリスマス・シーズンを迎えたロンドン。クリスマスショップで店員として働きながら歌手を目指すケイト(エミリア・クラーク)。プライベートも仕事も混乱に満ち、友人のアパートを転々としている彼女の前に、突然、好青年トム(ヘンリー・ゴールディング)が現れます。彼女を理解し、よき相談相手となってくれる彼にケイトの心はときめきますが、ふたりの間の距離はいっこうに埋まる様子はありません。そんな時、ケイトは謎めいたトムの真実を知ることになります……。

『ラスト・クリスマス』は、タイトルにも引用されているワム!の大ヒット曲「ラスト・クリスマス」を始め、英国ミュージックシーンのスーパースター、ジョージ・マイケルの楽曲にインスパイアされた、ロマンティック・コメディです。

主演は、人気TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のデナーリス・ターガリエン役で大ブレイクし、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(15年)、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18年)などハリウッド大作でもヒロインに抜擢されたエミリア・クラークと、『クレイジー・リッチ!』(18年)で大富豪の御曹司ニック・ヤンに抜擢され俳優デビューを飾ったヘンリー・ゴールディング。また、ケイトが働くショップのオーナー”サンタ”役を、国際的なアジアンスターのミシェル・ヨーが演じています。

ケイトの母役を演じたエマ・トンプソンは、『ハワーズ・エンド』(92年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したイギリスの名女優ですが、アン・リー監督の『いつか晴れた日に』(95年)では、アカデミー賞脚色賞を受賞するなど、脚本家としても活躍しています。

そんなトンプソンが脚本を執筆した本作の監督を手掛けたのが、ポール・フェイグです。

『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11年)、『ゴーストバスターズ』(16年)などで知られるコメディの名匠が、公開に先立ち、ニューヨークでインタビューに応じてくれました。

Photo by Dimitrios Kambouris/Getty Images for Universal Pictures

──『ラスト・クリスマス』は、大ヒット作『ラブ・アクチュアリー』以来のホリデーシーズンのロンドンを舞台にしたクリスマス映画と期待されていますが、良いクリスマス映画の要素とは?
良いクリスマス映画は、“クリスマスについて”ではなく、クリスマス時期に起こる人間ドラマを描いている作品だと思います。クリスマスは、一年の中でも人々がエモーショナルになる時期です。家族が集まって一緒にお祝いする時間は、とても温かくノスタルジックな気分にもなります。そうした良い面もありますが、悪い面もあります。普段は離れていた家族が向き合うことで、問題も表面化したりもしますからね。私が映画史の中で最も好きなクリスマス映画『素晴らしき哉、人生!』(46年)も、クリスマスを舞台にしながらも、クリスマスについての映画ではありません。素晴らしいキャラクターや語るべきストーリーがまずありきで、物語がクリスマスの雰囲気の中で進行していくのです。

──この作品ではケイトの母親が移民であり、ミシェル・ヨー演じるクリスマスショップのオーナーも明らかに移民です。そうした社会的な背景が盛り込まれていることは、この作品に人間ドラマとしての深みを与えていますね。
確かにケイトの母親やケイトを通じて描かれる移民事情は、この物語の重要な要素のひとつですね。ミシェル・ヨーが演じた”サンタ”というキャラクターは、脚本を手掛けたエマ・トンプソンの義理の娘をモデルにしたものです。でも、政治的な映画を作るつもりもまったくありませんでしたけれどね。最も大切なのは、映画を観た観客が楽しんでくれることです。2017年のロンドンという舞台を考えれば、外国からの移民やそれにまつわる問題は、現実社会を反映しているのだと思います。

サンタ(ミシェル・ヨー)、ケイト(エミリア・クラーク)

──イギリスとアメリカのジョークには大きな違いがありますが、アメリカ人のあなたが、イギリスを舞台にしたコメディを監督するのはチャレンジだったのではありませんか?
はい、大きな違いがあると思います。すでに脚本には、たくさんのジョークが書き込まれていたのですが、それを調整する必要がありました。ご存知のように、イギリスでは大笑いでも、アメリカ人が聞いてもまったく笑えないジョークもありました。特定の地域だけでウケるのではなく、もっと幅広い人たちに観て欲しく思いながらも、イギリスらしいウィットや物語、表現は残したいと思いました。ジョークだけでなく、アメリカ人の見方とイギリス人の見方にも大きな差があると思います。『ジ・オフィス』(英国BBCのTVシリーズ)のアメリカ版を作るときに、私も監督として携わりましたが、英国版でリッキー・ジャーヴェイスが演じたキャラクターとかシニカルなセリフ、ブラックユーモアの量などを調整し、もう少しハートフルなものに変換する必要がありました。言い方が難しいのですが、アメリカの観客は善人や善行が好きな傾向にあるのです。今回もスタジオや(脚本を手掛けた)エマ・トンプソンとそういった点で折り合いをつける必要がありました。エミリアのキャラクターは、とてもタフな状況に置かれていますが、それでも悲惨ではありません。そのベストバランスを探ったのです。でもその調整はかなり大変でしたよ。

──あなたは、『ブライズメイズ』を始め、女性が登場する映画を多く作っていますね。今回はエミリア・クラークをファンタジーの世界から、現代へと連れ出しました。
確かに、彼女は“ドラゴンの母”ですからね(笑)。エミリアと最初に会ったのは、4年くらい前です。私は『ゲーム・オブ・スローンズ』の大ファンだし、彼女が主演したブロードウェイの舞台「ティファニーで朝食を」も観ていて、素晴らしい役者だと思っていました。それで、彼女にはシリアスじゃない役を演じてもらいたかった。彼女はご存知にように、いつも陽気で笑っていますし、実際、会ったら楽しくて愉快な人です。なので彼女のそういう面を知ってもらうためも、コメディを演じるのは良いタイミングだと思いました。それに彼女が、この物語のドラマティックな側面やハートブレイキングなシーンも上手く演じられることはわかっていましたしね。

──ヘンリー・ゴールディングとは、すでに『シンプル・フェイバー』で仕事をしていましたね。ミシェル・ヨーは、ヘンリーから紹介されたのですか?
そうです。ミシェルが『スター・トレック ディスカバリー』の撮影でトロントにいた時に会いました。私とヘンリーも、『シンプル・フェイバー』の撮影でトロントにいたので、一緒にディナーに出かけたんです。ミシェルは私にとって“スーパー・ヒーロー”のような存在なので、目の前に彼女がいることが信じられませんでした。彼女もとても面白い人で、私たちはずっとジョークを言って笑っていました。実は私はエマ(・トンプソン)が書いた脚本を読んだ時点で、“サンタ”役にはとても演技力の高い俳優が必要だと思っていました。エマは、アカデミー賞脚本賞を受賞している実力者で、とても素晴らしい脚本でしたが、“サンタ”役も愉快な場面もあったかと思えば、シリアスなシーンも演じなければいけない、複雑でひと筋縄ではいかない役でした。それに、外国から来た強い訛りのある役とも書かれていました。ミシェルなら、観客が共感できるように、完璧に演じてくれると思っていました。

サンタ(ミシェル・ヨー)

──エミリア、ヘンリー、ミシェル、エマといった個性豊かな俳優を集めましたが、彼らとの撮影現場はどんなものだったのでしょうか。
楽しかったけど、同時にチャレンジでもありました。ヘンリーとは、『シンプル・フェイバー』で一緒に仕事をして、親しい友人になっていました。彼はとても親切で良い人なんですよ。誰かが困っていたりトラブルに直面していたら、助けてあげるような。そういう彼の持ち味がスクリーンにも反映されていたと思います。エマ・トンプソンは、(役柄と同じように)母親のようにエミリアの世話をしていました。それから、エミリアとヘンリーがふたりで歌うシーンがあるのですが、その合間にもジョークを言って笑い合ったりしていたし、ミシェルとエミリアもバディ同士のような感じで、みんなそれぞれに絆が築けて、とてもいい雰囲気でしたね。

エミリア・クラーク、エマ・トンプソン、ミシェル・ヨー(ニューヨーク・プレミアにて)Photo by Dimitrios Kambouris/Getty Images for Universal Pictures

──コヴェント・ガーデンやリージェント・ストリートなどで実際にロケされたそうですが、ロンドンで撮影することは、あなたにとってどれほど必要だったのですか?
とても重要でした。この映画においてロンドンは、重要なキャラクターのひとつと言って良いと思います。最初に脚本を読んだときには、ロンドンが舞台ということでとても興奮しました。とてもロンドンが上手く描かれていましたからね。私はずっとロンドンで撮影したいと思っていました。ロンドンという街がとても好きなのですが、私が知っているロンドンを描いている作品はかなり少ないので、それをやってみたいと思いました。もっとも、妻が一番喜んでいたようでしたけれどね。”『アバウト・ア・ボーイ』の舞台で1年ほど暮らせる!”という具合にね。

──コヴェント・ガーデンでの撮影は、夜中に行われたとか。
はい。コヴェント・ガーデンでの撮影は、午前2時から始めて、お昼頃まで行いました。その最初の1週間は本当にタフなものでした。ずっと考えていたんです。でもコヴェント・ガーデンに似ているロケ地を探すことができなかったので、コヴェント・ガーデンをクリスマスシーズン用に飾り立てました。“サンタ”のクリスマスショップも、使っていないトンネルのようなところに建てました。

──この映画はタイトルからも明白なように、ジョージ・マイケルの音楽にインスパイアされていますね。どのように曲を選んだのでしょうか。
私たちは、常にジョージ・マイケルの楽曲について話し合いながら製作を進めていました。準備段階でBBC制作の彼についてのドキュメンタリーも観ました。”2時間バージョン”の方は、素晴らしいドキュメンタリーです。そのドキュメンタリーに使われていたサウンドトラックを通して、彼の特別な曲「ヒール・ザ・ペイン」などを発見したんです。私がそれまで聞いたこともなかった曲もいくつもありましたから、脚本を書いている最中、そうした曲をいくつも脚本に入れ込もうと、5つの曲を選んだのですが、それでは足らず、最終的に15曲くらいになりました。「ディス・イズ・ハウ(ウィ・ウォント・ユー・トゥ・ゲット・ハイ)」は、未発表だった曲です。ジョージは、映画の製作が本格的に始まったばかりの2016年に亡くなってしまいましたが、この映画のサントラは、言わばジョージ・マイケルへの私たちからのラブレターのようなものです。

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『ラスト・クリスマス』(原題:Last Christmas)

監督/ポール・フェイグ
原案/エマ・トンプソン、グレッグ・ワイズ
脚本/エマ・トンプソン、ブライオニー・キミングス
出演/エミリア・クラーク、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ヨー、エマ・トンプソン
2019年/イギリス/103分/ビスタ/日本語字幕:栗原とみ子
ユニバーサル映画

日本公開/2019年12月6日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開!
配給/パルコ
公式サイト
© Universal Pictures
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