Column

2019.11.18 22:00

【単独インタビュー】『ブライトバーン/恐怖の拡散者』主演ジャクソン・A・ダン─ジェームズ・ガンが見出した天才子役

  • Atsuko Tatsuta

ジェームズ・ガンの下に“ファミリー”が結集して製作されたジャンルミックスの新感覚サスペンスホラー映画『ブライトバーン/恐怖の拡散者』。

カンザス州ブライトバーンの農場に暮らすトーリ(エリザベス・バンクス)は、赤ちゃんを切望していました。そんなある日、謎めいた赤ちゃんが到来し、突然その夢が実現します。聡明で才能にあふれ、好奇心旺盛な男の子ブランドンは、トーリと夫のカイル(デヴィッド・デンマン)にとってかけがえのない存在となります。

しかし、12歳になったブランドンの中に強烈な闇が現れ、カイルは息子に恐ろしい疑いを抱き始めます。やがてブランドンは、普通の人が持つことのない異常な力を発揮し始め、ブライトバーンの街中を恐怖に陥れていきます──。

主人公ブランドンを演じたジャクソン・A・ダンは、2003年サンディエゴ生まれ。4歳で演技を始め、10歳の時に出演した舞台を観たマネージャーとエージェント契約することに。ヒットシリーズ「シェイムレス5 俺たちには恥はない」(15年)に出演し、TV界で活躍。映画でもマイカ・モンロー主演のミステリー『The Scent of Rain & Lightning』(17年、日本未)、西部劇『Gone are the Days』(18年、日本未)などにも出演しました。

マーベル・スタジオの大ヒット作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの監督、ジェームズ・ガンがプロデューサーを務め、“ファミリー”が結集した本作。日本公開にあたり緊急来日したジャクソン・A・ダンが、Fan’s Voiceのインタビューに応えてくれました。

──オーディションで本作に選ばれたそうですが、この作品に出演してみたいと思った理由は?
最初にエージェントからオーディションの連絡を受けた時は、脚本はもらえず部分的なシーンだけで、それを読んだのですが、どんなストーリーなのか想像がつきませんでした。でも興味が惹かれる内容で、何度かオーディションを重ねていくうちに脚本を見せてもらうことができ、またそれをオーディションで演じて、ついに役が決まりました。

──この役に決まった時はまだ10歳少々と、まだホラーを観られる年齢でもなかったかもしれませんが、このジャンルについてどのように思っていたのですか?
僕にとって(演じるのは)初めてのホラー映画でした。でもホラーはずっと好きで、いつも観ていました。実際の現場では突然驚かされるようなことが起きるわけでもないし、僕は自分の年齢などを理由に何かに対して怖気づいたりするタイプでもないので、気楽な姿勢でいました。

──空前のホラーブームですが、あなたのお友だちの中でもホラーは流行っているのですか?どんな作品が好きですか?
ホラーを観る時はいつも友だちと一緒です。一人で観るには怖すぎるのでね。大人数で集まって一緒に観ることが多いです。

好きな作品はたくさんありますが、いくつか挙げるなら、『ババドック 暗闇の魔物』は楽しいですね。スリラー寄りですが『クワイエット・プレイス』も好きです。どちらかと言えば控え目で突然驚かせるような演出があまり無いホラー映画が好きです。繊細な落ち着きの中に怖さがあるものというか。

──『アベンジャーズ/エンドゲーム』には12歳のアントマン/スコット・ラングとして出演しましたね。ジェームズ・ガンもMCU監督の一人なわけですが、本作にあなたが出演することになったのは、偶然なのでしょうか?
『エンドゲーム』の撮影は『ブライトバーン』の役が決まる1ヶ月前に済んでいて、本当に偶然でした。でも現場ではジェームズ・ガンに『エンドゲーム』のことや『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のことを聞いたりしたので、面白かったです。

──MCU映画に比べ、予算規模ではブライトバーンは手作り感のある、インディ映画に近いものですが、両方に出演してみてその差は感じましたか?
そうですね、『ブライトバーン』の方が予算が少ない分、より現実味があるように感じられました。特にこれだけの予算で、あれほどの終盤のシーンを描けたことには驚きました。ロケ地は2ヶ所の農場くらいで少なく、もちろんどちらもアトランタ内で、シンプルでした。

──ブランドンの好青年的な部分と、内にある邪悪さというのは、どのように演じ分けたのですか?
ブランドンの立場に置き換えて考えるようにしました。彼は単なる邪悪な存在ではなく、その行動には様々な背景があります。その多くが彼自身の葛藤で、彼は身体的にも精神的にも他とは異なるのに、”人間の家族”は彼がとるべき行動や振る舞いを言ってきます。一方で、世界征服するよう彼に語りかけ、(家族が促す行動とは)異なる方向に彼を導こうとする”別の存在”もあります。そうした意味でブランドンの中には激しい衝突があり、混乱が生じています。怒りといった感情が呼び起こされやすい状態で、それにより悪い行動を起こしてしまうわけですね。

──監督からはこの役についてどのような説明がありましたか?
プリプロダクションでブランドンが置かれた状況について、僕たちは話しました。彼はそれまで普通の子どもとして育ってきて、自分におかしなところがあるとは思っていない。ずっと怪我をしたことがないことを少し不思議に思っている以外はね。まったく新しい霊に取り憑かれる普通の子どもなわけだから、このようなことが自分に起きたときのように演じるようにと言われました。実際ブランドンも、普通の子どもだったのですから。

──本作は1978年の『スーパーマン』をはじめ過去の作品からの引用がたくさん入っていますが、準備段階で観た作品、意識した作品はありますか?
なるべく『ブライトバーン』を他のメインストリームな映画とは分けて考えるようにしました。スーパーヒーロー映画よりも、『シックス・センス』といった映画から多くのインスピレーションを受けました。もちろん『シックス・センス』の少年は邪悪な人物なわけではありませんが、メンタル的にそのような面があります。別にスーパーヴィランのスーツを着ているわけではないし、完全なるヴィランなのではなく、そうしたものに取り憑かれていると捉えるようにしました。

──大人の演技派俳優はヒーローよりもヴィランを演じたいと口を揃えて言うのですが、あなたはどうですか?
確実にそう思います。正しい場面で正しい行いをする典型的なヒーローよりも、悪に満ちたキャラクターの思考プロセスの方が明らかに興味深いところがあります。人は生まれつき良い振る舞いをしようと思う傾向がありますが、一方で奥深くには無謀な面も抱えています。この生まれながら持った姿勢と新しい邪悪な視点を行き来する自分の中での戦いに、ヴィランは重きを置くことができますからね。

──ブランドンを演じる上でいちばん難しかったところは?
ブランドンという普通の少年の感情と、邪悪な存在からコンタクトを受けているエイリアンとしての感情を行き来する、感情的に困惑した様子を表現するところですね。内面での葛藤とある意味での無力さを見せるのは、面白くもありましたが、確実に難しいところでした。

──ところで、あなたのバックグラウンドについても伺いたいのですが、なぜ俳優になろうと思ったのですか?なにかきっかけがあったりしたのですか?
小さい時から僕はカリスマ性があったようで、いろいろなことにも積極的で、映画もずっと大好きでした。僕はなんでも直ぐに覚えられて、一番の特技のひとつなのですが、小さい時から曲などは1回か2回聴けばもう記憶できてしまいました。演技をするようになってからも、脚本は1度か2度声に出して読むだけですぐに覚えてしまいます。これが出来ることが自分としてはなんとも嬉しくて、確実に俳優になった理由のひとつですね。あとはとにかく、自分の性格的に、この仕事に惹かれているのだと思います。

──影響を受けた俳優、尊敬する俳優はいますか?
基本的には俳優に惹かれるというより、役柄から影響を受ける方が多いです。例えば、個人の葛藤や感情的トラウマを多く抱えた役ですね。ダークに聞こえますが、自分はそんな役を演じてみたいと思います。『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーのような役は常にインスピレーション源として参考にしています。

──監督についてはどうですか?どんな監督と一緒に仕事をしたいと思いますか?
まずジェームズ・ガンと一緒に仕事をするのは夢だったので、今回は人生最高の経験ができました。他ではスピルバーグやポール・トーマス・アンダーソンなどですね。

撮影現場でのジェームズ・ガン(製作)

──次の作品はもう決まっているのですか?
はい、数本ありますが、まだ何も話せない段階です。でも近いうちに僕のSNS等で、今取り組んでいることが話せるようになると思います。

──SNSといえば、ジェームズ・ガン含め多数の映画人が非常にアクティブに活用していますが、SNSをどのように思っていますか?
僕もSNSは好きだし毎日使っていますが、便利なところもあれば、人々の社会生活にネガティブな影響があったり、プレッシャーとなり精神的な病の原因になってしまうこともありますよね。俳優業界でのSNSのという面では、今自分が取り組んでいることを伝えていくのに非常に便利なツールだと思います。一方で、キャスティング時にSNS上での人気が考慮されることがある現状は、歪んでいると思います。役に対して同等の俳優が2人並んだ時に、SNSでの人気の高い方が選ばれてしまうのは嫌ですね。ビジネス面で映画の宣伝をする時に、より大きなファンベースがある方が良いという見方は理解できますが、(キャスティングでは)SNSがそれほどの大きな意味を持つものでなければいいなと思います。

──この映画に出演したことで、あなたの生活やキャリアに変化はありましたか?
大きな影響がありました。いろいろな人から話題にされることが多く、本作での僕の演技が気に入った、と何人もの監督やプロデューサーから連絡を受けました。オーディションに行っても、「最近あなたの映画を観ましたよ。とても良い演技でしたね」と言われたり。確実に前よりも注目してもらえるようになり、僕のキャリアに確かな影響があったので、その点では非常に感謝しています。

仕事以外でも、学校に限らず音楽フェスティバルに行ったりしても僕のことがわかる人がいて。こうしたことを嫌がる俳優もいますが、僕は特に気にしていませんし、不快に感じてもいません。映画に出ることでこうなることはわかっていたのですから、別に不意を突かれたわけでもありませんし。

──ブライトバーンはカンザスの架空の街ですか、架空の街にしたことについて何か意味があると思いますか?
自分の街が”ブライトバーン”として描かれることを快く思う人はあまりいないのではないでしょうか。怖ろしい将来があるわけですからね。架空の街にした方が、建物の配置といった物理的な面で実際の街に倣う必要もないし、文化的なところも自由に作り出すことができるので、このようになったのだと思います。

撮影現場でのジャクソン・A・ダン

──BBという記号はどういう意味があるとあなたは解釈していますか?
たくさんの意味があると思います。最も明白なのはブランドン・ブレイヤーという名前と、”ブライトバーン”がありますね。でもこの記号は、ブランドンの苦難を表現しているとも思います。彼が”力”を使ってこの世界における自分の存在を主張することの象徴でもあり、ずっと無視されたりあれこれ指図されて育ってきた彼が、”僕はここにいる”と示すものでもあると思います。

──今回が初来日とのことですが、何を見て帰りたいですか?
ずっと前から日本には来たかったので、とてもワクワクしています。日本に行けると言われた時は本当に嬉しかったです。今晩リサーチして、今週末やる事のリストを作らなければなりませんね。できるだけ多くを見て帰りたいと思います。

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『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(原題:Brightburn)

製作/ジェームズ・ガン
監督/デヴィッド・ヤロヴェスキー  
出演/エリザベス・バンクス、デヴィッド・デンマン、ジャクソン・A・ダン、他
映倫:PG12指定

日本公開/2019年11月15日(金)全国ロードショー
配給/Rakuten Distribution、東宝東和
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