Column

2019.11.17 21:00

【単独インタビュー】『ブライトバーン/恐怖の拡散者』デヴィッド・ヤロヴェスキー監督が語る、ジェームズ・ガンとの映画作り

  • Mitsuo

ジェームズ・ガンの下に“ファミリー”が結集して製作されたジャンルミックスの新感覚サスペンスホラー映画『ブライトバーン/恐怖の拡散者』。

カンザス州ブライトバーンの農場に暮らすトーリ(エリザベス・バンクス)は、赤ちゃんを切望していました。そんなある日、謎めいた赤ちゃんが到来し、突然その夢が実現します。聡明で才能にあふれ、好奇心旺盛な男の子ブランドンは、トーリと夫のカイル(デヴィッド・デンマン)にとってかけがえのない存在となります。

しかし、12歳になったブランドンの中に強烈な闇が現れ、カイルは息子に恐ろしい疑いを抱き始めます。やがてブランドンは、普通の人が持つことのない異常な力を発揮し始め、ブライトバーンの街中を恐怖に陥れていきます──。

マーベル・スタジオの大ヒット作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの監督、ジェームズ・ガンがプロデューサーを務め、“ファミリー”が結集した本作。

監督を務めたデヴィッド・ヤロヴェスキーは、2014年、脚本も手掛けたホラー『インバージョン』(15年、未公開)で長編監督デビューしました。ガブリエル・バッソ、ショーン・ガン、キャスリン・プレスコットが共演したこの作品はカルト的な人気を呼び注目を集めました。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のエンディング曲「ガーディアンズ・インフェルノ」のミュージックビデオの監督も務め、ファンからよく知られる存在でもあります。映画以外でも、スティーヴ・アオキのミュージックビデオや、ジープ、レッドブルといった大手ブランドのCMやショートフィルムで活躍。大ヒット脱出ゲーム「Belko VR: An Escape Room Experiment」(17年)など、仮想現実体験デザインの鬼才としても名を馳せています。

脚本をジェームズ・ガンの弟ブライアン・ガンと、いとこのマーク・ガンが手掛け、SF、サスペンス、ドラマなどの要素が入り交じるジャンルミックス作品に仕上がった『ブライトバーン/恐怖の拡散者』。

日本公開にあたり緊急来日したヤロヴェスキー監督が、Fan’s Voiceのインタビューに応じてくれました。

──本作の監督はどのような経緯で務めることになったのですか?
ジェームズ・ガンとは昔から友人で、いつか映画を一緒に作りたいとずっと思っていました。映画のネタを探しはじめて、ジェームズの弟(ブライアン)といとこ(マーク)は執筆パートナーなのですが、ある日ジェームズの家にいたときに、二人が当時書いていた脚本の話をしてくれました。少し話を聞いたただけで、”自分が作りたいのはこれだ”と思い、僕に監督させてくれるよう二人にひざまずいて懇願しましたよ(笑)。そして僕だったらこの脚本をもっと怖く、ダークにしてホラーに変えると、僕なりの考えを提案しました。その案にみんな興奮してくれて、一緒に部屋にこもりリライトを行い、映画を作り始めました。

──それは「ガーディアンズ・インフェルノ」のミュージックビデオを作る前の出来事ですか?
ちょうどそのミュージックビデオを撮っているとき、僕たちは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のポスプロ部屋を乗っ取って、そこをベースに作業をしていました。ブライアンとマークに来てもらって、僕が『ブライトバーン』の監督をしたいと懇願したのも、この部屋ででした。なので、本当に同時期の出来事ですね。

──脚本を読んだ時はどんなことを考えましたか?最初のリアクションは?
最初に読んだ時は、20ページほど読み進んだところで閉じて、脚本の二人にメールしました。「僕がこの映画を作る可能性がないのなら、これ以上読みたくない。読み終わるまでムカムカし続けるだろうから」とね。でも読み終えた時は、とにかく大きな何かがこの脚本にはあった感じがしました。それをもっと怖くしようという点で僕の頭に浮かんだのは、ブランドンが外で飛び回っているのを、窓から母が眺めている様子でした。これはまだ脚本にはなかったのですが、でも僕はジョン・カーペンターが撮ったマイケル・マイヤーズのような、ワイドアングルの画でスーパーヒーローを撮りたいと思いました。これが最初の種となり、だんだんと大きなビジョンに発展していきました。

──この物語はスーパーマン、特に1978年の映画『スーパーマン』(リチャード・ドナー監督)にも似ていますが……
スーパーマンって誰でしたっけ?知ってるような気もするけど、そんな名前を実際に聞いたことはないですね(笑)。
──とりわけスーパーマンを想起させようとしているのではないということですか?
他の惑星からやってきた子どもを森で見つけ、その子を育てながらきっと良い子になるだろうと期待する作り話がありますが、この映画では確かにこの概念に対してあら捜しをして、挑戦していますね(笑)。

──怖ろしい子どもに苦悩する親といえば、リチャード・ドナー監督の『オーメン』がありますが、この映画を意識したところはあるのですか?
はい、とても。リチャード・ドナーの名前はこの映画を作る中で何度も登場しました。彼は『トワイライト・ゾーン』のいくつかのエピソードの監督していて、”飛行機のエピソード”のオマージュとなるシーンを、『ブライトバーン』に入れるつもりだったんです。最終的には採用しなかったのですが、ストーリーボードも描いて動きも考えましたよ。

──子どもの頃はどんなホラー映画が好きだったのですか?
とても良い質問ですね。『エルム街の悪夢』は僕の人生を変えました。初めて観たのは5歳の時で、この映画を観るには小さすぎると言われるかもしれませんが、本当に怖い思いをして、その恐怖はとても長い間続きました。でも一番のお気に入りは『マウス・オブ・マッドネス』ですね。個人的には一風変わったホラーが好きなので。それから言わずもがなですが、『シャイニング』なども好きです。

──『ブライトバーン』には痛々しいシーンも非常に生々しく描かれていますが、こうしたゴア表現を遠慮なく盛り込んだのは、メジャー映画とは異なったものを見せようという思いの表れなのですか?
そうです。僕はピーター・ジャクソンなどに憧れて育ちました。そんな僕にとって、最近のホラー映画はちょっとヤワ過ぎる感じがします。人が痛めつけられる時、昔の映画にあったような描かれ方がされなくなり、脅威とされるものも、昔ほどリアルではなくなったと思います。超自然的な現象に寄り、怖いことはなんでも「ドーン」とか「バーン」で済まされてしまうというか。僕は怖いものが出てきた後には、周りにあるすべてのものを使って、誰かが死ぬまで攻撃し続けるといったところまで描きたかった。”牙を尖らせた”ようなホラーにしたく思いました。

──そういった描写は満足いくだけ盛り込めましたか?
(大笑いする監督)頭の中には面白いアイディアがどんどん浮かんでくるのですが、映画では物語を伝えなければならないので、すべてを採り入れることはできませんね。でもブランドンのいろいろな人に対する暴力的で残虐な振る舞いについてはずっと考えていられるし、楽しいことですよ。

エリザベス・バンクス演じるブランドンの母親トーリ

──この作品はコメディやドラマをはじめ様々な要素が織り交ぜられているジャンル・ミックス映画ですが、どのようにバランスをとるようにしたのですか?
そうですね。この映画の感情的な核にあるのは、実は僕の母親との関係でした。小さい頃の僕は変わった子どもで、学校でも明らかに浮いた存在でした。先生を怖がらせるような変な絵を描いたりもしていましたが、それでも母は僕のことを信じてくれてました。暴力性のない良い子で、クリエイティブな子なのだとね。ですので僕はこの映画を、変人扱いされて育ったすべての人たちに感謝を捧げるものとして作りました。

──BBというイニシャルに込めた特別な意味などはあるのですか?
あの記号はいかにも少年が描くようないたずら書きです。(イニシャルの)先にブランドン・ブレイヤーという名前が決まっていたので、そこから発展していきました。

──この映画を作る中で特に大変だったところは?
何かが飛ぶというのはそれだけで大変なことなので、技術的な面で苦労はありました。でも真のチャレンジとなったのは、”ジャンル・マッシュアップ”を作り出すところでしたね。ただ感情的に振り回す映画にならないよう、スーパーヒーロー映画にホラーの要素を加え、感情的な核を持たせながら、ひとつに繋がった感じのするまとまりのある映画を作るということですね。

──ブランドン役のジャクソンについて。彼をこの役に起用する決め手となったものは何ですか?『アベンジャーズ/エンドゲーム』に彼が出演したことは、何かしらの影響はあったのですか?
いいえ、ありませんでした。(『アベンジャーズ』に)彼が出演していたことは知っていたし、本作に決まる前にそちらの撮影は済んでいたのですが、どんな役で登場したのかは僕は知りませんでした。本作には純粋なオーディションで決まりました。200本(人)ほどのオーディション映像が届き、ジャクソンのテープは僕たちが一番最初に観たものでした。それがとても良くて、「彼とならこの映画を作れる」と思いました。彼は観客に恐怖感を与える一方で、共感を呼ぶこともでき、この2つはブランドン役に特に重要となる要素でしたからね。ジャクソンとあと数人に実際に来てもらい、いろいろな指示に応えてもらったのですが、ジャクソンは本当に素晴らしく、彼には映画スターの素質があると思います。

──コミック原作のスーパーヒーロー映画が、これまでの映画史にないほどヒットしています。その時代に、この作品を世の中に送り出す意味をどう考えていますか?
僕にとっては2つの意味があります。昔と比べ今の世界は安心感が薄れており、これまでは安全と思っていたものが怖い存在になるという見方には、大きな意味があると思います。それから、同じようなスーパーヒーロー映画が量産され、映画界やポップカルチャーのあらゆる面を席巻しています。それなのに、悪に走り人々の味方にならないヒーローが一人もいないというのは、おかしなことだと思います。

──この映画をあなたやジェームズ・ガンは、”スーパーヒーローホラー”と呼んでいるようですね。
新たなスーパーヒーローのオリジンストーリーでありながらも、ブランドンは酷い方向に進んでしまうという意味でホラーと言えるので、スーパーヒーローホラーと言えるのではないでしょうか。

──ところで、ジェームズ・ガンとはどのように出会ったのですか?
パーティーで会ったんですよ(笑)。当時のジェームズはあまり作品を作っておらず、お休みをとっているような時期でした。Xbox向けの短編などを作っていたので、僕も彼のために何本かプロデュースしたのですが、同時に僕は映画のキャリアを始めようとしていて、彼はメンターになりました。映画を完成させるまでの各ステップを、何度も手をとって指南してくれました。

──彼とは趣味嗜好も合うようですが、お互いに似ているところと、異なるところは?
一風変わったものや、”普通”とは違うことをするのが好きな変わった人という意味で、僕たちはとても似ていますね。彼もバンドをしていたし、僕もバンドをしていたので、映画を考える時に音楽が非常に大きな意味を持つという点でも、似ています。異なる点で言えば、それぞれの経歴ですね。僕はミュージックビデオの監督を10年続ける中で、映像作りに対する非常に技術的、視覚的な理解を深めました。ジェームズの基礎は書くことで、ページの上で考えを展開させていくことに慣れています。そのため僕たちは非常に異なるスタイルで仕事をするとも言えます。仕事の仕方や物語の分解の仕方など、彼から本当にたくさんのことを学びました。一方で彼は、特に恐怖感の作り方といった技術的な面を僕から学んだと言ってくれました。とても光栄なことです。

現場でのヤロヴェスキー監督(中央)とジェームズ・ガン(右)

──今後、”ブライトバーン・ユニバース”展開の可能性は?
その質問に対しては決まった答えをするようにしていて、あえてこのような言い方にしているのですが、この映画を発表して特に楽しかったのは、誰もこの映画のことを知らなかったことです。どんな映画を作っていたのか知られておらず、しかも型破りなものであったため、多くの人が驚かされました。僕たちが作る映画で人々を驚かせるというのが、『ブライトバーン』のDNAの一部なのです。そのため、もし今ほかの映画を検討していても、そしてもし実際にその映画を作ることになっても、なるべく人々の不意をついて驚かせたいと思っています。『ブライトバーン』の最初のトレーラーがサプライズとなったようにね。

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『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(原題:Brightburn)

製作/ジェームズ・ガン
監督/デヴィッド・ヤロヴェスキー  
出演/エリザベス・バンクス、デヴィッド・デンマン、ジャクソン・A・ダン、他
映倫:PG12指定

日本公開/2019年11月15日(金)全国ロードショー
配給/Rakuten Distribution、東宝東和
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