Column

2019.10.01 9:00

【単独インタビュー】DCコミックス共同発行人/CCO ジム・リー

  • Akira Shijo

DCコミックスを代表するヒーロー「バットマン」は、1939年3月30日、「Detective Comics」誌27号に、悪を倒す戦士へと変身する大富豪ブルース・ウェインとして初めて登場。現在まで数々の実写映画、TVドラマ、アニメーションが製作され、決意、勇気、正義のシンボルとして、世界中の人々から愛されてきています。

初登場から80周年となる2019年は、<バットマンよ、永久にー。>をキャッチコピーに、世界中でアニバーサリープロジェクトが始動中で、日本では、渋谷の商業施設「MAGNET by SHIBUYA109」を中心に、多彩なコラボ商品や謎解きデジタルスタンプラリー、イベントなど、多数の企画が展開されています。

この「バットマン80周年 渋谷プロジェクト」のプロモーションのため、DCコミックスの伝説的アーティスト、ジム・リーが来日!

不動の人気を誇るコミックアーティストで、DCコミックスの共同発行人/CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を務めるジム・リーは、1964年、韓国・ソウル生まれ。幼少の頃に家族とともにミズーリ州セントルイスへ移住。プリンストン大学卒業後はマーベル・コミックスで『X メン』シリーズを手掛け、一巻を月に800万部を売り上げるという偉業を達成。その記録は未だに破られていません。

リーは1992 年にワイルドストーム・プロダクションズを設立し、イメージ・コミックスの立ち上げにも参加。インディペンデント系のイメージ・コミックスはその後、北米3位の規模を誇る会社に急成長。1998年にDCコミックスによってワイルドストーム・プロダクションズが買収されたことをきっかけに、リーはイメージ・コミックスを離れ、DC エンターテイメントのクリエイティブ・チームに参加。DCのCCOとして、DC(バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマン、ジャスティス・リーグ)、DC Vertigo(サンドマン)、MADといった代表的なレーベルのキャラクターやストーリーをフルに統合させ、様々なフォーマットで展開する取り組みを指揮しています。

来日中、記者発表会や多数の取材、“バットシグナル”点灯イベントの合間を縫って、ジム・リーがFan’s Voiceの単独インタビューに応じてくれました。

──あなたから見た優れたコミックのキャラクターとはどんなものでしょうか?
どんなキャラクターでも、核になるのは信ぴょう性です。読者がそのキャラクターの様々なモチベーションを理解し、受け入れることができる、ということですね。これこそが、心を動かすキャラクターの要になります。それからこの信ぴょう性にも絡んできますが、できるだけ人間味を出すには、インスピレーションを与えるような魅力と同時に、葛藤や矛盾も抱える必要があります。必ずしも白黒がはっきりしていることはなく、グレーな部分は存在し、困難を抱えることでキャラクターの複雑性につながります。またキャラクターは1人だけで成立するわけではなく、対照的な敵や手助けしてくれるサポート役が必要です。例えば私は『ゲーム・オブ・スローンズ』のことをよく考えるのですが、どの登場人物も核となる自分なりの目的を持っていて、様々な形でそれが表に出てきて、そうした人物たちの関係性こそが、各キャラクターにあれほど魅力的を与えているのだと思います。これはもう3時間でも話せるネタですですので……(笑)。

キャラクターの表面的なところで言えば、まずは名前でキャラクターの人物像をシンプルに簡潔に表現できると良いですね。それからコスチュームは、キャラクターを突き動かす力などを反映しているもので。過去に使われた名前も多くなり、昔よりもカッコいい名前を作るのは難しくなっていますが、それでも85年を超すコミック業界で、今でも新しいキャラクターが毎日生み出されているのは、非常におもしろいことだと思います。

──そうした名前を考える時のコツや、特にインスピレーションになったりするものなどはあるのですか?
いくつか項目を入力するとキャラクター名を生成してくれるウェブサイトがあってね(笑)……というわけにはいかず、特にコツもない気がします。インスピレーションの源はあらゆるところにあります。道路標識や地図、様々な機械やガジェット、スラングとかね。

スケッチのリクエストにも快く応じてくれたジム・リー

──実際にコミックを一コマ一コマ描いている時は、どういうことに気をつけているのですか?
特に有名で象徴的なキャラクターを描く時、多くの人は表情を引き立てようと顔に集中する一方で、コスチュームは手早く描いて、キャラクターの立ち方や反応の仕方といったボディランゲージは、あまり気に留めません。でも私がジャスティス・リーグを描くなら、同じようなポーズで全員を立たせることはしません。もちろんそうしても、それぞれのキャラクターがどんな姿なのか、情報としては伝わります。でもキャラクターの感情や性格というのは、ボディーランゲージやジェスチャーを通じて表現されるべきたと思います。カバーアートでも物語でも、この点をよく考えながら私は描くようにしています。それから、ひとつのコマにも、ストーリーがあるように心がけています。多くの人は一連のコマを使って、動きやストーリーの流れを表現しようとします。でもその中のコマのひとつひとつでも、ボディーランゲージやジェスチャー、構図を使って、何かを語ることができるはずです。私がこの点を重視して描いていますね。

──バットマンの作品の中でいちばん思い入れのあるコミックは?
フランク・ミラーの「バットマン:ダークナイト・リターンズ」は、私が非常に影響を受けた作品です。私がクリエイターとしてコミックの世界に挑戦しようと決断したのは、この作品にインスパイアされたからです。高校時代からコミックは好きで、その後だんだんとその興味が本格化していったのですが、この作品が登場し、それまでにはなかった、自分がやりたいこと、作りたいものへのはっきりとした道筋を見せてくれました。この作品は本当に革新的で、フォーマットもカラーリングも、語り口も、値段も、あらゆる点でそれまでとは異なっていました。バットマンの物語の描かれ方もね。本当に心を打たれ、自分はこれで生きていきたい、この業界に入りたいと、本気になりはじめた瞬間でした。

──ゴッサム・シティを描く上で欠かせないものは何でしょう?何をもってゴッサム・シティになるのか、教えてください。
そうですね。ガーゴイル像は必須なのと、背景に”ツェッペリン”(飛行船)を描くのが私は好きです。クリーグ灯(スポットライト)も必要だし、それから、コミック3号ごとには雨を降らせないと(笑)。描き手ごとにちょっとずつやり方は違いますが、私は、警察官のユニフォームや車といったものは、過去と現代のスタイルを混ぜて、クラシックながらもモダンな感じにするのが好きです。レトロなユニフォームやスタイルをモダンなものにミックスしていくというのは、フランク・ミラーと一緒に仕事をして学んだことですね。そのため、ゴッサム・シティにはアール・デコからの影響が多くあります。一方で東京のような未来的な面もたくさんあって、特にビルが立ち並ぶスカイラインが、ゴッサム・シティの最もモダンなところだと思います。それと、ゴッサム・シティにはゴミの清掃員があまりいないので、街はゴミだらけで、路地は箱やパレットに埋もれています。見るからに臭くて、騒音だらけで、そこら中にネズミがいるような感じです。

──あなたのお気に入りのキャラクターはジョーカーとのことで、10月公開の映画『ジョーカー』についてInstagramでもコメントされていましたが、トッド・フィリップス監督の描き方について、どのように感じましたか?
はい。大胆で斬新な、心を揺さぶる力強い映画だと思いました。コミックとの一貫性という面では、コミックが約80年かけて作り上げてきたキャラクターを必ずしも反映しているわけではありませんが、カオスをもたらす存在という、このキャラクターの核心を、この映画は捉えていると思います。ちなみにジョーカーは来年80周年を迎えるんですよ。

トッド・フィリップス監督『ジョーカー』© Nico Tavernise

それからこの映画に限らず、ジョーカーというキャラクターは信頼できない語り手なのです。これは彼にとってとても都合がよくて、オリジンストーリーを明かしてしまうと、その力強さや謎めいたところが薄れてしまいます。なので、様々な映画が作られるのは良いアイディアだと思いますし、『ダークナイト』でも、ジョーカーが語る身の上話は、本当か嘘かわかりませんよね。彼は現実をまったく気にしていないか、ソシオパスであることから無意識のうちに嘘をついているか、自分の本当の過去を知らず覚えてもいない人物であるわけです。これにより、ジョーカーというキャラクターの複雑性はさらに増し、キャラクター探求をするのにも、より興味深い存在になるわけです。

──『ジョーカー』は現代社会の問題を痛烈に描いた映画であるようにも見れますが、映画やテレビ、コミックといったエンターテインメントでそうした問題を取り上げることについて、どのようにお考えですか?
エンターテインメントの目的とは、その言葉にある通り、エンターテイン=楽しませることだと思います。でも同時に、どんなストーリーテリングにも共通することですが、最も力強いエンターテインメントとは、現実生活から要素を物語に融合してより強烈なものにすることで、観客や読者に驚きや気付きを与えるものだと思います。ある意味、これがエンターテインメントとアートの違いだと思います。コミックでもいつもやっていることで、「ウォッチメン」や「サンドマン」、「ダークナイト・リターンズ」でも言えることです。「ダークナイト・リターンズ」はとても良い例で、バットマンの物語ではありながらも、同時に権威についての話でもあり、自身の終焉を迎えることの意味や、いかにして後世にレガシーを遺していくかという話でもあります。様々なレイヤーでの物語があり、こうした作品が愛される魅力にもなっているのだと思います。

──先ほど『ゲーム・オブ・スローンズ』が話題に出ましたが、今あなたが注目しているアーティスト、監督やミュージシャンがいれば、教えてください。
そうですね。『ゲーム・オブ・スローンズ』が終わったのは…今年でしたよね?最初の2シーズンくらい観た後はずっと追えていなくて、エンディングを迎えるとわかった後に、改めてコミットして一気にまとめて観たので……。とても強烈でパワフルで、本当に面白かったです。それから、ジョナサン・ノーランも素晴らしいビジョンを持っていると思います。彼が手掛けた『ウエストワールド』はとても良かったです。本当に数多くの力強いテレビドラマや映画がありますが、言ってみれば今はテレビの黄金期のようなものですからね。以前なら予算が無かったり、十分な観客がいないために実現できなかった作品を、作れる時代になりました。映画やテレビ、さらにはコミックも含め、様々なコンテンツが過去最高レベルの人気を集める中で、こうしたエンターテインメントを楽しめることは非常に興奮することですよね。

ドクター・マンハッタン

──学生時代のあなたは医者になることが目標で、コミックの道に進むのはご両親がら反対されたそうですが……
もともとの計画では、そうですね。猛反対でしたよ。

──振り返ってみて、コミックを選んだ自身の選択についてどのように感じていますか?
そうですね。十分に年を重ねた今振り返っても、結局はコミックを選んでいたと思いますよ。仮に出だしがうまくいかなくともね。最初は、まったく知らない新しい世界でその仕組みもわかっていないので、この業界に入り込むのは不可能だと思ってしまいます。でもその仕組みを理解した上で、成功していく人たちを見ていると、もちろん才能も必要ですが、いちばんの大事なのは、実現に向けた強い欲望と決意だと思いました。これが大部分ではないでしょうか。当時の私はなんとかこの業界に入り込もうと、強い意志を持って集中していました。なので、6ヶ月かかるか、3年かかるかの違いはあったかもしれませんが、いずれはこの道に進むことになったと思いますよ。

──ご両親からの理解は得られたのですか?
いいえ、30年経ちましたが一切連絡をとっていません!ということはなく(笑)、私が仕事をもらえた後はもう喜んでくれて、問題ありませんでした。

もともとは、絶対に叶うことのない狂った夢を私が追いかけているのではと、心配していたのだと思います。私は両親と毎日会えるよう実家に戻り、自分の部屋で熱心に描き続けました。目標に向かって私がどれほど努力していたのか、両親は目の当たりにしたわけですが、レギュラーの仕事が入ったことで、大喜びしてくれました。私がやりたかったことを実現させたことを、嬉しく思ってくれたのですね。コミックの仕事を始めた最初の年の収入は21,000ドルでしたが、1987年頃なのでそんなに悪い金額ではないし、まったく稼げていないよりは確実に良いですよね。でも両親は金額がいくらかよりも、この仕事が実在していたとわかって、喜んでいました。なにせコミック業界というものの存在すら、知らなかったくらいですからね。医者なら、病気になる人は絶え間なくいるので、仕事はなくならないわけですが、ストーリーを作って絵を描くというのは……「そんな仕事、本当にあるの?」といった感じです。でも実際に私が報酬をもらうのを目してからは、私を支持してくれています。むしろ、熱狂的なファンになってくれましたね。

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『バットマン』

<4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター ブルーレイ>(2枚組)6,345円+税
ブルーレイ 2,381円+税
発売元/ワーナー・ブラザース ホーム・エンターテイメント
BATMAN and all related elements are the property of DC Comics ™&©1989. ©1989 Warner Bros. Entertainment Inc. ™ &© 1998 DC Comics. All rights reserved.

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『ジョーカー』(原題:Joker)

監督・製作・共同脚本/トッド・フィリップス
共同脚本/スコット・シルバー
製作/トッド・フィリップス、ブラッドリー・クーパー、エマ・ティリンジャー・コスコフ
キャスト/ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ほか

日本公開/日米同日 2019年10月4日(金)全国ロードショー
配給/ワーナー・ブラザース映画
© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. TM & © DC Comics.