Column

2019.08.02 17:00

【単独インタビュー】14歳で風力発電を作った『風をつかまえた少年』ウィリアム・カムクワンバの人生とは

  • Mitsuo

電気で家族を助けたい。そのまっすぐな思いで、14歳の少年が風車による風力発電を作ってしまった感動の実話を、アカデミー賞ノミネート俳優キウェテル・イジョフォーが自らメガホンをとり映画化した『風をつかまえた少年』。

2001年、大きな干ばつに襲われたアフリカの最貧国マラウイで、貧困のため通学を断念した14歳の少年ウィリアム・カムクワンバは、図書館で本を読み漁り、独学で廃品を利用した風力発電できる風車を作り上げます。マラウイの電気の世帯普及率が2%台のなか、自宅に明かりを灯し、家族と村の人々、そして彼自身の未来を切り開いた奇跡の実話です。

その後ウィリアムは、2007年と2009年に国際的カンファレンス「TEDグローバル」に登壇。2013年にはタイム誌の「世界を変える30人」に選出され、2014年6月にアメリカの名門ダートマス大学を卒業しました。

彼の体験をもとにした本「風をつかまえた少年」(文藝春秋刊)は、瞬く間に話題となり世界23カ国で翻訳。アル・ゴア元副大統領や、日本では池上彰氏が絶賛し、社団法人全国学校図書館協議会の第44回夏休みの本(2011年)にも選出されました。

『風をつかまえた少年』の日本公開に先立ち、ウィリアム本人が来日。Fan’s Voiceの単独インタビューで、これまでの軌跡と今後を語ってくれました。

──マラウイでの生活からこうして映画のPRで日本にやってくるまで、これまで長い道のりだったと思いますが、振り返っていかがですか。
とてもワクワクする”旅”でしたし、このような展開となったことを非常に嬉しく思っています。10代で風車を作っている時は、その後、世界のいろいろなところに行ったり、今日こうしてあなたのインタビューを受けるようなことになるとはまったく想像していませんでした。元々は、直面した問題をなんとかしようとして始まった旅で、その後も困難があったりもしましたが、全体的にみると、これまで素晴らしい道のりだったと思います。

──その中でのハイライトは?
ワオ(笑)、たくさんあるので全部と言いたいところですが……。再び学校に行けたこと、大学を卒業して、結婚して、マラウイで活動を続けられていること、世界中を旅して、素晴らしい活躍をしている人たちと会う機会があることですね。

──アメリカの名門ダートマス大学での大学生活はいかがでしたか?
非常に素晴らしい経験で、世界中から来た学生と友だちになりたくさんのことを学べたし、自分の文化も共有することができました。ダートマス大学があるのは(北東部の)ニューハンプシャー州で、冬の天候は非常に厳しく極寒になるのですが(笑)、それ以上にエキサイティングな時間を過ごすことができました。

──この映画でも描かれていますが、あなたはねばり強く決して諦めない姿勢と、常に前向きに考え、発明家的な思考をお持ちですね。こうした資質はどこに由来していると思いますか?
大きなインスピレーションとなったのは、マラウイの祖母です。(現地では)男性と女性の仕事の分担がはっきりしていて、家を建てる時の煉瓦作りは男性の仕事とされているのですが、私の祖母は自分でやっていました。大変な作業ですし、周りからは「なんで旦那じゃなくあんたがやっているんだ」と言われていましたが、それに対する祖母の返事に、私は非常に感銘を受けました。「もし自分の服に火がついたら、誰かが消してくれるのを待ったりしない。熱いのは自分なのだから、自分で消そうとするだろう。そして苦しんでいる様子に周りの人が気づけば、一緒に消してくれるだろう」。彼女が言いたかったのは、自分が抱える問題のことは自分が一番よくわかっている、自分が行動を起こせば、困難にぶつかった時に周りも手伝いに来るだろう、ということです。ですので(風力発電を作った)当時、問題に直面した私には、解決に向けて自分で何かしなければというモチベーションがありました。

問題の解決法に”科学”を使うという意味では、私は小さい時から好奇心が強かったと思います。科学に興味があり、いろいろな物の仕組みに興味がありました。その昔、車はどうやって走るのかを聞いて回っていたのを、今でも覚えています。聞いた相手からは「ガソリンを入れて、エンジンを回せば、走る」と言われたのですが、私が「そんなことは知ってる。ガソリンはどうやってエンジンを動かして、車を走らせているのか」と返すと、誰も答えられないのです……。

それから私は、新しいことを試すこと、失敗することを恐れません。失敗を経験した人は昔からいるので、自分が失敗しても、初めての人になるわけではないのです。失敗がすべての終わりを意味するわけではありません。

──最初の発電用風車を作る上で最も大変だったところは?
部品探しが一番大変でした。ジャンクヤード(廃品置き場)を探し回って、集めてこなければならなかったので。もう一つ大変だったのは、私がやろうとしていたことを誰も理解していなかったということ。彼らは風車というもの自体を知らず、私は気が狂ったと思っていました。そのため、なにかを頼むこともできませんでした。質問の内容を理解していない相手に、回答を求めることはできないのです。

──作るのには何ヶ月かかりましたか?これまでにいくつ建てたのですか?
最初の風車には、完成まで3ヶ月かかりました。私はほかに8つほど建てましたが。まわりの人に風車の作り方を教えたので、その人たちが建てたのがほかにもあります。

──最初の風車で発電した電気は、電灯を灯すのに使ったとのことですが、ほかにはどのような目的で電気を使っているのですか?
携帯電話を充電するのに使っていますよ(笑)。

監督・脚本に加え、ウィリアムの父親役を演じたキウェテル・イジョフォー(右)

──今回の映画化には、どのように関わられたのですか?
キウェテル(・イジョフォー)は、脚本を書いていてわかららないことがあれば、私に電話をかけてきて質問したり、事実とあっているか確認したりしていました。撮影にはあまり関わりませんでしたが、ストーリーに関連のある村の人たちと直接話せるように、はじめの段階で彼らを紹介しました。

──この映画はあなたの書いた本がベースにあるわけですが、そもそもあなたの体験を本にしようと思ったのには、どのような背景があるのですか?
出版については、エージェントの方からアプローチされました。元々私はブログを書いて、それを見たウォール・ストリート・ジャーナルの記者が私の話を記事化して、それがエージェントの目に入ったそうです。ブログを始めた理由も、世界中の人たちにこの話を共有するためだったので、エージェントから本を出すことに興味はないかと尋ねられて、回答に悩むことはありませんでした。とにかく皆さんに私のストーリーを知ってもらいたくて。

──マラウイではイノベーション・センターの設立に向けて活動されているそうですが、あなたの夢、ゴールは?
イノベーション・センターは、自分のコミュニティにある問題を解決しようとする若い人々が、自分たちの手でそうした問題を解決できるようなプロジェクトを立ち上げる場所となります。クリエイティブで優秀な若者が大勢いるのに、今はまだその才能を十分に発揮できていません。いろいろな機械や道具を設置して、自分が風車を作ったときにあったら良かったと思う環境を整備することで、クリエイティブな活動をサポートしたく思っています。まだ計画段階初期で、今まさに資金調達をはじめるところですが、今後2,3年で完成させたいと思っています。これは私にとって大切な人たち共通のゴールです。

私個人では、再生可能エネルギーにもまだ興味がありますし、それから、それぞれのコミュニティのニーズや人々に合わせたプロジェクトを設計して、彼らが抱える課題を、彼ら自身の手で解決できるようにしていきたいとも思っています。

──この映画を通じても教育の重要性が伝わってきますが、あなたにとって教育とはどのようなものですか?
教育こそすべてです。本当に多くの可能性を広げてくれます。私にとって教育は、仕事に就くためのものではなく、人々やその行動についてを学び理解し、自分のアイディアを共有しコミュニケーションをとるためのことだと思います。それから、他の人のアイディアから学び、自分だけでなく周囲の人にとっても良い判断を下せるようになること。今はそんな風に思っています。教育は、自分だけでなく、周りの人が抱える問題を解決する手助けとなるツールだと思います。

──環境によっては教育の重要性になかなか気が付かないこともあります。そうした環境では、どうするのが良いと思いますか?
最も重要なのは、人々が自分の人生を生き、やりたいことを成し遂げられるように、励まし手助けしてあげることだと思います。今やっていることは親の世代から続いている、今の状況が永遠に続くと思う時もありますが、彼らに”本当にやりたいことは何か”、”何をしている時が幸せか”と尋ねていくことで、何かを達成できるんだという視点を持たせるのが、一つのアプローチだと思います。教育はその中に交わってきます。

学ぶ者としてはオープンマインドでいることを心がけ、自分が勉強したいことではないという事柄にも、前向きであること。初めは気乗りしないものでも、2,3年後に突然楽しくなることだってありますから。

──ダートマス大学でも、気乗りしない授業はありましたか?
それは記憶にすら残っていない授業ですね(笑)。よく覚えていませんが……朝早くからの授業だったのかもしれません。なので、朝は起きませんでした……(笑)。

==

『風をつかまえた少年』(原題:The Boy Who Harnessed the Wind)

監督・脚本・出演/キウェテル・イジョフォー
出演/マックスウェル・シンバ、アイサ・マイガ
原作/「風をつかまえた少年」ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー著(文藝春秋刊) 

日本公開/2019年8月2日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 他全国順次公開
提供/アスミック・エース、ロングライド
配給/ロングライド
公式サイト
© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC