Review

2019.06.27 22:00

【最速レビュー/ネタバレ】『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』“親愛なる隣人”がイノセンスを失うとき

  • Atsuko Tatsuta

※本記事には『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のネタバレが含まれます。

トム・ホランド主演&ジョン・ワッツ監督で成功を収めた『スパイダーマン:ホームカミング』に続く新シリーズの2年ぶりの続編『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が公開される。ディズニー傘下のマーベル・スタジオによるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品としては第23作目であり、フェイズ3の最終作でもある。

この春公開され空前の大ヒットとなった『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年)で描かれたように、最強最悪の敵サノスの“指パッチン”の悲劇による”5年間の不在”から、普通の高校生生活に戻ったピーター・パーカー/スパイダーマンは、親友のネッド(ジェイコブ・バタロン)や、密かに恋心を抱いているクラスメイトのミシェル“MJ”ジョーンズ(ゼンデイヤ)らとともにヨーロッパ旅行に出かける。トニー・スターク/アイアンマンから託された使命に責任を感じているが、その重圧からも、スーパーヒーローの仕事からも解放されて、つかの間のバカンスを楽しみたいのだ。そんなピーターは、スパイダーマンスーツをスーツケースに詰めることなく、飛行機に乗り込む。彼のこの旅での“ミッション”は、MJに告白することなのだ。

だが、スーパーヒーローの人生に休暇はない。イタリアの観光名所である水の都ヴェネチアに着いて間もなく、得体の知れない新たな脅威“エレメンタルズ”に襲われる。ピーターもスパイダーマンスーツなしでそれに対抗するが、勝ち目はない。そんなときに助っ人に現れたのが、クエンティン・ベック(ジェイク・ギレンホール)。見事にエレメンタルズを撃退したベックは、新しいヒーローとして人々に受け入れられ、“ミステリオ”の愛称をもらう。トニー・スタークという師匠を失った喪失感から立ち直れないピーターが、そんな彼に傾倒するのも無理はない。

しかしながら、ミステリオにはもちろん裏がある。コミック読者ならミステリオはヴィランであることを知っていると思うが、コミックそのままではないまでも、本作のミステリオもかなりトリッキーなヴィランである。

スパイダーマンのキャッチコピーは、“親愛なる隣人”であり、その親近感がこのシリーズの最大の魅力だ。ヴィランも別の惑星から来て地球を征服しようとしている異星人ではなく、例えば、『ホームカミング』のヴィラン、エイドリアン・トゥームス/ヴァルチャーが、職を奪われたことによりトニー・スタークを恨み、悪事を阻止されたことによりスパイダーマンを憎悪していたように、ミステリオもやはりある出来事により、恨みを抱いたことがヴィランへの第一歩だった。

多くのヒーローものでは、感情をもつこと=弱点と描かれるが、スパイダーマンは、イノセンスこそがその弱点である。

NYの自警団を自負して、意気揚々とヒーロー活動をしていたピーターだが、まだ若いピーターは、そうしたヒーローたちの陰で傷ついたり、煽りを受けたりしている人々がいるという現実にまで思いが至らない。

『ファー・フロム・ホーム』では、文字通り、NYから遠く離れた地で、ピーターは自分の無知、経験不足などを思い知らされるのだ。

正直に誠実に生きることは立派だけれど、それだけでは、大切な人たちを守れない。大いなる力をもったトニーが葛藤を抱えたように、ピーターは善悪だけでは測れない、大人の世界へ足を踏み込んでいく。

ピーター・パーカー/スパイダーマンの美点であるイノセンスをあざ笑うかのように、本作では彼の行動は裏目に出る。トリックと裏切りにより、彼の無垢な心はずたずたに引き裂かれる。さまざまなトリックを操るミステリオは、まさにスパイダーマンを翻弄するヴィランにうってつけだ。

だが、本作でピーターが本当に闘わなけばならなかったのは、ヴィランではなく、そうした無垢な自分自身だ。それを乗り越える必要があることを、ピーターは辛くも思い知るのだ。

ジョン・ワッツ監督は、マーベルヒーローの中でも最も明るく親しみやすいキャラクターであるスパイダーマンに、トム・ホランドという適役を見つけたことで、前作では“史上最高のスパイダーマン”という賛辞を得た。本作では、MCUの影響はさらに強まり、内包されるテーマはよりシリアスに内省的になっている。だが相変わらず、“高級なポップコーンムービー”とでもいえる、ジョーク満載の楽しく軽快な青春映画のトーンは維持し、見事なバランスで本作を着地させた。

ただし、これでピーター・パーカーの大人になるイニシエーションが終わったわけではない。ヨーロッパから帰国した彼には、もっと大きな試練が待ち受けているだろう。MCUにはエンドロール後の“おまけ”映像がつきものだが、今回の“おまけ”は、いつになく意味深かつ衝撃的だ。ピーターだけでなく、“裏切り”の矛先は観客にも向けられ、それは最後の最後まで続く。本当の最後まで、席は立たないように。そして、劇場を出た後は、すぐに次なる展開に思いを馳せることになるだろう。

==

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(原題:Spider-Man: Far From Home)

前作『スパイダーマン:ホームカミング』では、スパイダーマンこと15歳の高校生ピーター・パーカーが、ヒーローの師匠とも言うべきアイアンマンに導かれ、真のヒーローへと成長する過程が描かれた。本作は“ホーム”であるニューヨークから、舞台はヨーロッパへ。ピーター(トム・ホランド)は、親友のネッド(ジェイコブ・バタロン)やMJ(ゼンデイヤ)たちと夏休み旅行へ出かける。しかし、旅行中、ピーターの前に突如現れたのは、S.H.I.E.L.D.の長官、ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)。ニックが現れた理由とは?そしてピーターと対峙する新たな敵とは──?

監督/ジョン・ワッツ
脚本/クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
マーベル・コミック・ブック原作/スタン・リー、スティーヴ・ディッコ
製作/ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
キャスト/トム・ホランド、サミュエル・L・ジャクソン、ゼンデイヤ、コビー・スマルダーズ、ジョン・ファヴロー、J・B・スムーヴ、ジェイコブ・バタロン、マーティン・スター、マリサ・トメイ、ジェイク・ギレンホール
全米公開/2019年7月2日

日本公開/2019年6月28日(金)世界最速公開!
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント