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2019.06.21 22:01

【単独インタビュー】アンセル・エルゴート主演『ジョナサン-ふたつの顔の男-』の監督が語る、現代人の孤独と切望の行方

  • Fan's Voice Staff

『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴートが、1つの身体に共存する兄弟2人を演じた『ジョナサン -ふたつの顔の男-』。

内向的な青年ジョナサンと正反対の性格を持つジョンは、1つの身体を共有していて、脳に埋め込んだタイマーを、午前7時と午後7時に、毎日12時間で切り替わるように設定。互いにビデオメッセージを残すことで、相手が”眠っていた”間に起きた出来事を、日々共有していました。ところが、ある女性との出会いにより、二人のリズムは崩れていきます──。

2018年のトライベッカ映画祭で上映され、その知的で刺激的なストーリーと、エルゴートの高い演技力に絶賛の声が相次いだ本作。

日本での公開に先立ち、本作で長編監督デビューを果たした新鋭のビル・オリバーに、本作のテーマや撮影時の様子を、電話インタビューで伺いました。

──本作のストーリーは何にインスパイアされて生まれたのでしょうか?
このアイディアは脚本家の友人から聞きました。彼が高校生だった時、ある日学校のロッカーの鍵が開かなくなってしまいました。彼は鍵の番号を忘れるはずはないと思い、そこで想像したのは、夜の間に誰かが彼の身体を乗っ取って全く別の生活を送り、日中の彼は、夜の彼が起こした行動に対処するというアイディアでした。この一つの身体に複数の人物が存在するというアイディア、それから、その人物たちが共存するには、非常に厳密なルールに従うことが必要で、そのルールがあることで彼らは生き続けることができながらも、そのルールのために、人生を楽しむことを阻まれているという皮肉は、彼にとって印象に残るものでした。私もこのアイディアには即座に惹かれ、その人物の関係性をいろいろと考えてみたところ、一つの身体を共有する兄弟愛のような物語になりました。

ビル・オリバー監督(中央)とアンセル・エルゴート(右)

──このキャラクターや物語に影響したあなた自身の個人的な体験などはありますか?
監督は私が務めましたが、脚本はパートナーと共同で執筆しました。それぞれが片方のキャラクターになったように書くことが出来たので、二人で取り組んだことは非常に効果的でした。そういう意味で、非常に個人的なものとなりました。キャラクターにより深く入り込んでいくに連れ、我々の性格も表面化されてきたので。

──1人の中に複数の人格が存在するというのは、これまでも多くの映画などで描かれてきました。そうした中で意識したことはなんでしょう?
多重パーソナリティ障害、解離性同一性障害といった、実際の医学的障害を表現するものにはしたくありませんでした。こうしたトピックのリサーチは行いましたが、あくまでも本作はSFファンタジーとしたく、単一身体を複数の意識が共有するという状態を考案し、”Single Body Multi-consciousness”と呼ぶことにしました。もちろん、多くの映画や小説からインスピレーションは受けています。ドストエフスキーのフィクションや、双子やダブル(分身)を扱った映画など。このジャンルの作品にはいつも魅了されます。なので、私も少し違った内容で、このジャンルに貢献したいと思いました。

──ジャンルを限らず、ほかに好きな映画や監督は?
キューブリック監督の大ファンです。最も好きなSF映画は『2001年宇宙の旅』ですね。ほかにも、リドリー・スコット監督の『エイリアン』、『ブレードランナー』、最近ではアレックス・ガーランド監督の『エクス・マキナ』、『アナイアレイション 全滅領域』、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』。ヴィルヌーヴの作品はいわゆるSFではないかもしれませんがね。自分では”エモーショナルSF”と呼んでいますが、こうした作品に私は確かにインスパイアされてきました。『わたしを離さないで』も大好きですね。これもSF要素がメインではなく、キャラクターや人間性が物語の中心なので。

──この映画は、我々が生活している今日の実社会とどのように関連しているのでしょうか?
様々な関連があると思います。二人(ジョナサンとジョン)の関係で辛辣なところに、お互いを触れるどころか、同じ空間に存在することすら出来ない点があります。二人の関係は、ビデオといったテクノロジーや、見知らぬ人、医師、ガールフレンドといった他人を介して成り立っています。現代人は、携帯電話やコンピューター、様々なSNSを通じてつながることで社会生活を送り、こうしたテクノロジーは、皆を一つにしながらも、同時に孤立させています。こうした孤独と、つながることへの切望というのが、本作に関連していると思います。

──今回の主人公に、アンセル・エルゴートが適役だと思った理由は?彼はインスタグラムでも非常にアクティブですよね。
そうですね。キャスティング時、彼はまだ数本の映画に登場しただけで、今ほどの大スターになっていませんでした。『きっと、星のせいじゃない。』(14年)でとても有名になってはいましたが、まだ歳も若く、出演本数が多くなかったので、今回の役には早すぎるのではとも思っていました。でも、実際に『きっと、星のせいじゃない。』を観ると、ジョンらしい、社交的でチャーミングな、カリスマ的な性格を彼は演じていて、とにかくその存在感から、今後スターになるのは明らかでした。一方で彼の、より内向的でおとなしい面がどのようなものかがわかりませんでした。が、『ステイ・コネクテッド〜つながりたい僕らの世界』(14年)のアンサンブルキャストに彼も参加していて、鬱に苦しむ非常に内向的なティーンを演じていました。そこでは、ジョナサンらしい面がはっきりと見られたので、(キャスティングに向けて)彼と会うことにしました。

──それは『ベイビー・ドライバー』の前のことですか?
『ベイビー・ドライバー』撮影後、公開前のことですね。『ベイビー・ドライバー』本編も、観ていませんでした。

──アンセル自身は、活発で楽しい性格ですが、ジョナサンやジョンのキャラクターを形成する上で、彼自身の性格はどのように活かされたのでしょうか?
そうですね、彼は明らかに”ジョン”のタイプですね。彼は、そちらのキャラクターの方により自然に反応していましたし、物語でもっと登場させたがっていました。一方で彼は、自分の母親を参考にすることで、ジョナサン的な面を引き出すことができたと言っていました。ジョナサンは、二人自身の世話をし、ルールやライフスタイルにも厳格なため、母親みたいだと考えたようです。

──ジョナサン役に向けた準備としては、アンセルとなにか行いましたか?
特別な準備は、なにも行いませんでした。彼もニューヨークに住んでいるので、彼の部屋で何度か会ったり、脚本を通しで数回読んで話したりすることで、撮影が始まる前にお互いを知り合い、気楽な存在でいられるようにしました。でも、彼自身のプロセスや彼の考えに対して多く疑問を投げかけたり、こちらから意見を多く言うことはしませんでした。きっと彼なりのものをしっかりと用意してきて、見せてくれるだろうと。そして実際に、彼はそうしました。それから、(医師役の)パトリシア・クラークソンとアンセルには、多少の時間を一緒に過ごしてもらいました。作中での二人には、長期間に渡る関係があるので、互いにケミストリーを構築してもらうために。

──撮影にはどれくらいの日数をついやしたのですか?
21日で撮影しました。タイトでしたね。

──ほぼジョナサンの視点のみで全編描かれるわけですが、観客の興味を引き続けるために意識したことはありますか?
ジョナサンのみの視点で描くことに決めた理由はいくつかあるのですが、まず予算がそれほど多くありませんでした。私にとって初の長編でしたからね。視点を一つに絞るのは、上手く抑える方法だと思いました。それから単一視点の映画は、より興味深いサスペンスや心理的描写がある気がして、私は好きです。眠っている間に自身に何が起きるのかわからず、そしてジョンがなにをしたのかを知らずに毎朝目を覚ますという、ジョナサンの視点に絞ることで、ヒッチコック作品のようで、サスペンスフルになると思いました。観客もジョナサンと一緒に、何が起きているのか、心配に思うようになります。サスペンスの程度としては軽いものではありますが、感じてもらえたらといいなと思っています。

──ではなぜジョンではなく、ジョナサンの視点を選んだのでしょうか?
そこですよね。この辺からこそ、より個人的な話になってくるのかもしれませんが、私は内向的な、自分の感情を留めておくタイプの人が魅力的だと感じます。表面上は非常に落ち着いていますが、内面に複雑なものを秘めている。インスピレーションを受けた映画に、シャンタル・アケルマンの『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』(75年)という3時間半ほどの作品があります。とある女性の生活を、3日間に渡り延々と捉えているのですが、彼女が内に抱えているものの大きさを、観ている方はだんだんとわかってくるのです。非常に惹きつけられるものがありました。ジョンの方がより楽しくてカリスマ性があって、観客ももっと観たいと思うでしょうが、私はそれを承知の上で、観ている人に軽いフラストレーションを感じさせるのも良しとしました。多少のリスクをはらむとは思いますがね。

──すでに映画祭などで上映されていますが、観客の反応はいかがでしたか?
いくつかの映画祭で上映されました。私も出席して観客とも話したのですが、皆ポジティブな反応を示してくれて、私が期待したとおり、観た後にとても考えさせられたと言っていました。様々な受け止め方をしたり、心を動かされた人もいて、これまでのところ、良い反応です。

──初の長編監督作として、特に大変だったことは何ですか?
この作品までは短編しか作っていなかったので、体力的な意味で、長編を作るのに求められるスタミナと疲労が大変でしたね。タフな挑戦であることはわかっていましたが、それでもやはり、チャレンジとなりました。それから、低予算なため時間がなく、この点も大変でした。ハンドカメラで手早く撮ったようなものではなく、スタイリッシュで計算された画作りをしたかったのでね。本作のカメラ位置や動きは、綿密に計画されたものです。低予算でこれを実現するのは大変で、なんとかギリギリのところで出来ました。余分に撮影する余裕がなかったので、編集した後、ほとんど素材が残っていませんでしたよ。

──撮影現場で最も大切にしたことは?
現場にいる全員の時間が、気持ちの良いものになるよう、心がけました。クルーもキャストも、自分の役割を良く捉え、我々が作ろうとしている映画に対して、同じ認識を持つようにしました。ギャラも少なく、現場の環境も贅沢なものではない中で、これは最も大事なことだと思います。現場のモラルを高く維持し、全員がプロジェクトに真剣であるようにすること。本作では、クルーやキャストが脚本を読んだ段階から魅力を感じてくれていて、それぞれが熱心に、ベストを発揮してくれました。

それからもちろん、可能な限り最高なパフォーマンスを引き出すのが私の役割だったわけですが、カメラ側(撮影)には、素晴らしいクルーを起用できたので、私は俳優側に集中することができました。言ってみれば本作は、”人物スタディ”なので、パフォーマンスが良くなければ、作品自体が成立しませんでしたから。

──現場の雰囲気はどのような感じでしたか?
良い雰囲気でしたよ。ニューヨークで撮ったのですが、多くのクルー同士は、以前にも一緒に仕事をしたことがあり、既に面識がありました。彼らのコミュニティは非常に緊密なのでね。彼ら同士での略語やサインがあり、とても上手くコミュニケーションを取り合っていました。私とは皆初対面でしたが、彼ら同士が知り合いだったのは良かったと思います。キャストもクルーに対して非常にフレンドリーで全く問題がありませんでした。

本編の大部分はアパート内でのシーンですが、これはルーズベルト島にある本物のアパートで、6〜7日間で撮りました。決して広い部屋ではなく、段々と窮屈に感じられましたが、喧嘩することなく、なんとか切り抜けました(笑)。

──本作がテーマとする、”孤独”と”他者とのつながりへの切望”というのは、終わりがあるものでしょうか?
それですよね。私が思うに、終わりはないのではないでしょうか。十分に満足することはできないと思います。だからこそ、私は、クリエイションに取り組み、充足を得ようとしているのだと思います。現実生活で、どんなに多くの友人や恋人がいたり、家族と近い距離にあっても、どこかに境界は存在していて、必ずいつかは葛藤し、切望することになります。ですので、映画を作ったり、ほかのどんな形式の芸術においてでも、クリエイトすることで、切望へのファンタジーにふけることができるのだと思います。

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『ジョナサン-ふたつの顔の男-』(原題:Jonathan)

監督/ビル・オリバー
出演/アンセル・エルゴート、スーキー・ウォーターハウス、マット・ボマー、パトリシア・クラークソン
2018/アメリカ/英語/カラー/95分/シネマスコープ

日本公開/2019年6月21日(金)新宿シネマカリテほか全国公開
配給/プレシディオ
協力/ムービープラス
公式サイト
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