Column

2019.06.14 11:00

【単独インタビュー】MCUにも抜擢されたデスティン・ダニエル・クレットン監督が新作『ガラスの城の約束』に込めた思い

  • Atsuko Tatsuta

MCU初のアジア人スーパーヒーロー『シャン・チー』の監督に抜擢、さらに読売新聞に外国人記者として勤務した経験を元に東京のアンダーグランドを描いたジェイク・エーデルスタインの著書「トウキョウ・バイス:アメリカ人記者の警察回り体験記」のTVシリーズ版の監督も発表されたばかりという、旬の監督デスティン・ダニエル・クレットン。

デスティン・ダニエル・クレットン監督

彼の実力を映画界に知らしめた長編第3作『ガラスの城の約束』が6月14日(金)に日本公開されます。

NYでコラムニストとして成功したジャネット・ウォールズが、ホームレス同然の生活も厭わない自由人の両親に育てられた自らの過酷な子ども時代を赤裸々に綴った自叙伝「The Glass Castle」の映画化です。

ジャネット役には、クレットン監督の『ショート・ターム』(13年)でもタッグを組んだ若きアカデミー賞女優ブリー・ラーソン、両親役にはナオミ・ワッツ、ウディ・ハレルソンと実力派のキャスティングでも注目の本作。

日本公開にあたり、クレットン監督に電話インタビューを敢行しました。

──『ガラスの城の約束』の話の前に、先程、あなたが手がける新しいTVのシリーズ『Tokyo Vice』の主演がアンセル・エルゴートに決定したという速報を目にしました。東京で撮影予定ですか?
ニュースを見たって?本当に?はい、東京で撮影する計画です。あくまでも、計画ですがね。

──では、近々日本に来るのですね?
行けるといいですね。日本は世界の中でもお気に入りの国ですから。

──日本と繋がりのあるバックグラウンドを持ってらっしゃいますよね?
私の曾祖母は沖縄からハワイに移住して、曾祖父も日本出身で、ハワイで結婚してサトウキビの栽培をしていました。私はハワイで、日本食を食べて育ちましたよ。新年にはいつも、祖母が作った餅がありました。日本には2回行ったことがあって、故郷に帰ってきたかのような気持ちになりました。日本で育っていなくてもね。ハワイにいましたが、日本文化に囲まれて育ったため、深いなじみを感じます。

──『Tokyo Vice』の主演にアンセル・エルゴートを起用した理由はなんですか?
アンセルに会った時、日本文化を非常に尊敬していると感じました。彼はまず、この作品を白人バージョンの日本にしたくないと言いました。リアルな日本を描きたいとね。私にとっても、いわゆるハリウッド化された、アメリカ人が想像する典型的な日本や東京を描くのは、最も避けたいことです。そういった意味でも、日本に対するリスペクトがあるアンセルは、適役だと思いました。彼は人柄もとても良いし、役者としても素晴らしいですし。

デスティン・ダニエル・クレットン監督

──さて、日本で公開になる『ガラスの城の約束』についての質問です。ベストセラーとなったジャネット・ウォールズの自叙伝が元ですが、この原作のどこに魅力を感じたのでしょうか?
プロデューサーのギル・ネッターに原作を渡されて読みました。私は6人兄弟の家族に生まれて、ハワイのとても小さな田舎の家で育ったのですが、原作本を読んだときに、自分の子供時代のことを思い出しました。家族をつなぐ愛の複雑性も。家族には、どんな困難が起きても、引き裂くことのできない素晴らしい愛があると思います。そういう意味でもこの本にとても共感して、この作品に関わりたいと思いました。

左より)ブリー・ラーソン、ジャネット・ウォールズ、デスティン・ダニエル・クレットン監督(NYプレミアにて)

──本作は何度も映画化の話がありましたが、なかなか実現しなかったとジャネットが語っていました。なぜあなたは映画化することができたと思いますか?
彼女の物語を核をしっかりと掴むために、とても密に一緒に仕事ができたからだと思います。この本を読んだときは本当に……この本には本当に様々な要素があって、5本くらい映画が作れてしまうほどでしたが、私はその中でも娘と父の愛という部分に共感しました。悲劇的なところもありますが、とても美しい愛でもあります。自分の父親は変えられないという学びが、彼女の人生に大きな影響がありました。彼女が唯一できるのは、彼を受け入れる方法を知ること。そうすることで、彼女はそれまでよりも自分自身も受け入れ、愛することにつながりました。本の中で私が共感したのはこの部分でした。

ブリー・ラーソン

──主演のブリー・ラーソンについて聞かせてください。彼女は本作や『ルーム』のように、困難な時期を経験した役柄を選ぶことが多いですね。なぜ彼女はそうした難しい役どころに適しているのだと思いますか?
ブリーは私が知る人の中でも、最も共感力のある(感情移入のできる)人の一人だと思います。私と同じように、ブリーはジャネットの物語にとても共感しました。これはウディ・ハレルソンも。みんな、物語となにかしらの個人的な繋がりを感じていました。ブリーは、強い女性でありながらも、心に深い傷を負ったキャラクターを、見事なバランスで演じられる役者だと思います。ジャネットは、仕事に成功している強くひたむきな大人でありながらも、ただ父に愛されたいと思う普通の少女でもあります。ブリーは、そんな強さと脆さを同時に表現するのが、非常に上手なのです。

両親役のナオミ・ワッツ(手前)とウディ・ハレルソン

──日本でも、児童虐待はとても深刻な社会問題になっています。映画では児童虐待やネグレクトという要素を含みながらも、親を断罪するのではなく、愛の物語として描いていました。なぜそう描くことを選択したのですか?
何かしらの依存症だったり、問題を抱える親を持つ子どもなら、単に親に“悪”とか”ひどい親”というレッテルを貼れば済むというシンプルな話ではないとわかると思います。なにがあろうとも、そこには愛があるからです。そうした意味で、私は“愛の物語”と言ったわけですが、非常に放棄的で時に暴力的な両親を持ちながら、ジャネットはどう自分を保つのか。とある人が彼女に“父親のことは許しましたか?”と聞いた時に、彼女はとても力強い返答をしました。「壊れている人をどうやって許すことができるの?壊れた状態で存在するものを、どのように許すの?それがありのままの彼らなのですよ」と。彼女は父親の愛を疑ったことは人生で一度もありませんでした。ですが彼女は、いかに彼が壊れていたか、彼が抱えていた問題に気付く必要がありました。それは、私が共感した部分でもありました。

ウディ・ハレルソン

──ジャネット本人にとって、とてもパーソナルな映画となったわけですが、完成した映画を観たあと、彼女とはどんな会話をしましたか?
彼女が初めて完成した作品を観ている瞬間は、私にとってとても恐ろしい経験でした。彼女の人生と父の記憶を表現したものを、見せていたのですから。彼女が気に入らなかったらどうしようかと、とても怖かったです。映画が終わると、彼女は立ち上がって私のほうを振り返り、涙を流していました。私に大きなハグをして、何度も「ありがとう」と言い続けました。私にとって、これ以上素敵な瞬間はありません。自分がインスパイアされた彼女の人生に、ほんの少し関わった気分になれたのですから。

──ジャネットにとって、この本を書いたことは自分の過去を見つめ直し、浄化するという意味を持っていました。本作を作ったことは、あなたにとってどのような意味を持ちますか?
私自身、そして大勢の映画クルーにとって、それぞれの過去を振り返るきっかけになりました。幼少期や親のこと、そして親から受けている影響を。映画を作る過程は、自分を見つめなおすセラピーのような意味合いも含んでいた気がします。家族について、それから親が子どもに与える影響の大きさについて、たくさんの会話がありました。許すこと、気にしないようにすることについても。非常に有意義な経験だったと思います。

──あなたはMCUの新作『シャン・チー』の監督としても名前があがっているなど、ますます注目されていますが、自身のキャリアにおいて今どの段階に位置していると思いますか?
いつも駆け出しのような気分です。新しいプロジェクトが始まる度に、新しいことを学んでいる気がします。今自分のいる環境にいられることが非常にラッキーだと思いますし、普段はスクリーンで描かれないキャラクターの物語を伝えられることも幸運に感じています。今後も続けられることを願っています。

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『ガラスの城の約束』(原題:The Glass Castle)

「ニューヨーク・マガジン」で活躍する人気コラムニストのジャネットは、恋人との婚約も決まり、順風満帆な日々を送っていた。ある日、ジャネットは車道に飛び出してきたホームレスの男性に遭遇する。それは、なんと彼女の父・レックスだった──。

レックスは、いつか家族のために「ガラスの城」を建てるという夢を持つエンジニア、妻のローズマリーはアーティスト。彼らは定職につかず理想や夢ばかりを追い求め、自由気ままに暮らしていた。物理学や天文学などを教えてくれる父・レックスは、幼い頃のジャネットたち兄弟にとってカリスマ的な存在で、聡明なジャネットのことを彼は「チビヤギ」と呼び、愛情を注いでいた。しかし、仕事が上手くいかないレックスは次第に酒の量が増え、家で暴れるようになっていく。やがて、高校生になったジャネットは大学進学をきっかけに、ニューヨークへと旅立ち、両親との関係を断とうとするが・・・。

監督/デスティン・ダニエル・クレットン
脚本/デスティン・ダニエル・クレットン、アンドリュー・ラナム
原作/ジャネット・ウォールズ 「ガラスの城の約束」(ハヤカワ文庫)
出演/ブリー・ラーソン、ウディ・ハレルソン、ナオミ・ワッツ
2017年/アメリカ映画/英語/127分/スコープサイズ/5.1ch

日本公開/2019年6月14日(金)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国公開
提供/ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ
配給/ファントム・フィルム
公式サイト
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