【最速レビュー】タランティーノ最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ネタバレなしレビュー
- Atsuko Tatsuta
カルト映画界のスター監督クエンティン・タランティーノの長編第9作目となる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が、現地時間5月21日(火)に第72回カンヌ国際映画祭でワールド・プレミアされた。
映画オタクのビデオ定員だった若き日、自ら脚本を執筆、監督したギャング映画『レザボア・ドッグス』(92年)でデビューしてから2年目、ジョン・トラボルタ、ユマ・サーマン主演の『パルプ・フィクション』(94年)でカンヌの最高賞パルムドールを受賞し、いきなりアート映画界の頂点を極めたタランティーノ。米国のB級映画や日本のヤクザ映画、香港のカンフー映画、イタリアのマカロニ・ウエスタンなどジャンル映画から影響を受けた独特のスタイルで、アート映画界の最高峰カンヌに殴り込みをかけ、現在のジャンル映画ブームの礎となる作品を作り続けてきた、映画史においてももっとも革新的でオリジナルな監督のひとりである。
カンヌ出品も『パルプ・フィクション』以降、『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07年)、『イングロリアス・バスターズ』(09年)がコンペに選出されている。
ちなみに、タランティーノは、映画における並々ならない知識量でも知られていて、審査員を務めたり、マスタークラスを開催するなど世界の映画祭でもひっぱりだこだが、カンヌでも2004年に審査員長を務めている。その年のパルムドールは、マイケル・ムーア監督の『華氏911』、男優賞にはその“目力”が評価され、是枝裕和監督の『誰も知らない』に出演した柳楽優弥が14歳の若さで受賞し、話題になった。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、“永遠の映画青年”タランティーノが6歳だった頃の1969年のハリウッドに、オマージュを捧げる作品である。タランティーノが愛する映画的要素がてんこ盛りに詰め込まれた作品でもあり、タランティーノ・ファンにとっては垂涎の一作だ。
主人公は、かつて西部劇などで活躍した俳優リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼の長年のスタントマン兼、運転手のクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。このふたりの関係を中心に、ヒッピームーブメント全盛期のハリウッドを描く。
レオナルド・ディカプリオが演じるリックとブラッド・ピットが演じる役クリフは、バート・レイノルズとそのスタントマンだったハル・ニーダムにインスパイアされたキャラクターである。
レイノルズは、アメフト選手出身の俳優で、セルジオ・コルブッチ監督のマカロニ・ウエスタン『さすらいのガンマン』(66年)に主演するなどタフガイキャラで一斉を風靡、アメリカン・フットボールをテーマにした『ロンゲスト・ヤード』(74年)やロマンチック・コメディ『結婚ゲーム』(79年)でゴールデングロ−ブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされるも、一時は、プライベートでのスキャンダルなどもあり、キャリアは低迷。が、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ブギーナイツ』(97年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、大復活した。
『ジャンゴ 繋がれざる者』(12年)からも明らかなように、マカロニ・ウエスタンやコルブッチの大ファンでもあるタランティーノにとっても、レイノルズは憧れの俳優のひとりだ。本作にも出演が予定されていたが、2018年の9月に心不全で逝去、レイノルズの友人でもあったブルース・ダーンが代役として出演している。
物語は、決定的なストーリーがあるわけではなく、リックが俳優として参加している西部劇の撮影風景や、クリフのスタントマン兼、運転手としての生活から、当時のグラマラスなハリウッドのライフスタイルを見せていく。その語り口はまったくもってタランティーノ的で、過去の映画などからの引用も満載。それをすべて解読するには、相当な回数を観る必要があるだろう。
ハリウッドきっての、ふたりの大スター共演でも話題だが、『イングロリアス・バスターズ』に出演しているピット、『ジャンゴ 繋がれざる者』に出演しているディカプリオともに、タランティーノ映画への相性はよく、のびのびと演技をしているだけでなく、ピットにいたっては、コミカルで新しい側面も見せている。その作風やスタイルばかりに目がいきがちだが、改めてこの監督の演出力の確かさも実感させるものだ。ふたりの相性もよく、個性を相殺することなく、バディ・ムービーとしても一級品といえる。
忘れてはならないのは、1969年という年だ。往年の映画ファンには、「シャロン・テート殺害事件」が起こった年として記憶に残っている年である。
チャールズ・マンソン率いるカルト集団のメンバーが、新進監督だったロマン・ポランスキーのハリウッドの邸宅に押し入り、ポランスキーの妻で女優のシャロン・テートを惨殺した事件である。当時、妊娠中で26歳だったテートだが、これが人違いの殺人だったこと、前年にはポランスキーの妊婦を主人公にしたホラー映画『ローズマリーの赤ちゃん』(68年)が公開されたこともあり、異様な事件としてセンセーショナルに取り上げられた。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、リックの家はポランスキーの邸宅の隣という設定である。マーゴット・ロビー演じるテートは、当時の新進女優を体現する存在でもあるが、物語の展開のアクセント的な役割を果たす。
タランティーノは、この作品に関しては特に「ネタバレ厳禁」を声高に訴えているが、その展開は、実際に簡単に予測できるものではなく、その意外性はこの楽しく、少し過激なバイオレンス・コメディに感動的な瞬間をもたらすだろう。
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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(原題:Once Upon a Time in Hollywood)
監督・脚本/クエンティン・タランティーノ
キャスト/レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ジェームズ・マースデン、ほか
日本公開/2019年8月30日(金)全国ロードショー
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント