Column

2019.05.17 17:11

【単独インタビュー】『アメリカン・アニマルズ』バート・レイトン監督が語る、”新しい映画”の作り方

  • Mitsuo

大学生4人が時価1200万ドルのヴィンテージ本を狙った前代未聞の強盗事件を描く映画『アメリカン・アニマルズ』が、5月17日(金)に公開されました。

「その本が手に入れば、莫大な金で俺たちの人生は最高になる」と確信したウォーレンとスペンサーは、図書館に保管されたオーデュボンの画集「アメリカの鳥類」を狙い、友人のエリックとチャズに声をかけます。犯罪初心者の彼らは、『レザボア・ドッグス』や『オーシャンズ11』など、往年の犯罪映画をお手本に強盗計画を企て、特殊メイクで老人に扮し、図書館に乗り込みます。そこで彼らを待ち受ける運命とは──。

2004年にアメリカ・ケンタッキー州のトランシルヴァニア大学で実際に起きた事件を映画化したのは、ドキュメンタリー映画『The Imposter』(12年)で英国アカデミー賞最優秀デビュー賞を受賞したバート・レイトン監督。サンダンス映画祭で同作を上映した帰りの飛行機内で読んでいた雑誌で、本作の基となったトランシルヴァニア大学での強盗事件を知ったといいます。

実際の犯人が犯人役として映画に登場するという驚きの演出で、他の犯罪映画と一線を画す本作では、エヴァン・ピーターズやバリー・コーガンなどの俳優陣が事件当時の彼らを演じ、現在から過去を振り返るという形で犯人本人たちがそれぞれのエピソードを語っていきます。

日本公開に先立ち来日したバート・レイトン監督に、単独インタビューを敢行しました。

──初めてこの事件のことを知ってから、4人に対するあなたの見方はどのように変化しましたか?
非常に大きく変わりました。彼らのことを初めて雑誌で読んだ時には、なぜチャンスと可能性に恵まれた彼らが、明らかに破綻した犯罪計画で、自分たちの未来を危険に晒すのかと考えました。面白くて、記事を読めば読むほど、滑稽な失敗談だと思いましたが、同時に、単にそれだけの話だったのか、彼らのモチベーションは何だったのかと考えるほど、興味が惹かれました。刑務所の彼らに手紙を書いたのですが、その返信から、これはただの笑い話ではないことがわかりました。現代に真に通じる物語だったと感じるようになりました。どういうことかと言うと、“あなたは特別な存在になる”と繰り返し語りかけてくる社会で育った白人の、見失った自分を探す物語だったということ。現代社会においては、なにかしらの名声を持つ人物になれというプレッシャーが強まっていると思います。アメリカでもイギリスでも、”誰も平凡でいたくない”というのが社会のキャッチコピーのようになっています。こうした社会背景は、4人がとった行動の大きなモチベーションになったと思いますが、スマートフォンやSNSの登場により、”ステータス”のために日々を生き、身近に有名人が存在するようになってきている今、これは私たちにとってさらに身近なトピックになったと思います。そのため、彼らの事件には、映画化するだけの価値があると思いました。

──あなた自身も、若い頃は同様のプレッシャーを感じましたか?
感じていましたが、今どきの若者が感じているほど強いものではなかったでしょうね。私は一人っ子でしたので、家ではある意味自分が中心になっていましたし、なにかおもしろいこと、クリエイティブなことをしたいという感覚はありました。でもそれは、今どきの若者に比べると強烈なものではなかったと思います。昔は(自身のiPhoneを手に取り)こんなものはなかったのでね。今ではみんな、自分のTVチャンネルを持つことだってできますよね……。

──4人が強盗を計画した2003年〜2004年頃、アメリカではインターネット・バブル後の不景気の時代だったわけですが、その当時の感情というのも考慮されたのでしょうか。
そこには、“成功”の定義が変化したという側面があると思います。彼らの親の世代の”アメリカン・ドリーム”とは、良い家に住んで良い車を持ち、子どもを大学に送ることでした。今では”成功”というものは極端化し、巨額の富と巨大な名声を持つことが、理想となりました。親世代が成功と捉えていたものは、今ではあたりまえの平凡なものとなり、この4人を満足させるには十分でなかったのです。このストーリーに私が興味を惹かれた大きな理由は、これにあります。

──服役中の彼らと直接会ったことはありますか?
私とのやり取りは手紙だけでしたが、相手との関係作りには多くの時間と手間がかかるので、長年一緒に仕事をしているドキュメンタリーのプロデューサーに会いに行ってもらいました。

エヴァン・ピーターズ(左)とウォーレン本人

──彼らに映画化の話を持ちかけた時の反応は?
最初は懐疑的だったと思います。事件は彼らの親にとっては辛く衝撃的な出来事だったわけで、映画化することで、過去が蘇ってしまうことを心配していました。それから、コメディなのか知的な作品なのか、我々がどのような感じの映画を想定しているのか、彼らはよくわかっていなかったこともあると思います。私のことを知ってもらい、我々が作ろうとしている映画やそのビジョンを理解してもらうのには、しばらく時間がかかりました。

──製作中、映画の内容については彼らにどれくらい共有したのですか?脚本は見せたりしましたか?
なにも共有しませんでした。インタビューを受けてもらったので、私が尋ねた質問についてはもちろん彼らも把握していましたし、この映画のトーンを知るヒントになったとは思いますが。それ以外で彼らは、この映画の内容はなにも知りませんでしたよ。

──彼らはそれで納得していたのでしょうか。
そうですね、おそらくもっと知りたかったとは思いますが。どんな映画が出来あがるのか、彼らは全くわからなかったわけですからね。

バリー・コーガン(左)とスペンサー本人

──完成した映画を観た彼らは、どのような反応でしたか?
非常にほっとした様子でした。自分たちが完全な悪人として描かれていなかったことに、とても安心したのだと思います。映画の中で描かれることの多くに対し、彼らは非常に恥ずかしく思っている部分もありますが、少なくとも、正直でありのままの描写であったと感じてもらえたようでした。

──司書のBJは、この事件の直接的な被害者だったわけですが、映画化することやその出来に対してどのような反応を示しましたか?
彼女こそ、説得するのが本当に大変だった人物です。製作中はずっと閉ざしていたと言えます。映画化することも、そこに加担することも、彼女は当初望みませんでした。ドキュメンタリー製作には、相手を理解し、時間をかけて信用を得ることが伴います。そして私がどんな映画を作ろうとしていているのか、さらにその理由を理解してくれた時には、彼女は熱心になっていました。完成した映画を彼女は非常に気に入ってくれましたし、4人のことを初めて許すきっかけになりました。この映画を観るまで、彼女はこの4人がどんな人物だったのか知らず、情け容赦ない悪人だと思っていました。ですがこの映画を通じて、彼らは根は悪い人物ではないことに気付くことができ、許しに繋がったのだと思います。

──各国での観客の反応はいかがでしたか?
どこへ行っても観客からは最高の反応があり、非常に感謝しています。ドイツでは、映画に登場する”本人”たちが、実際の本人たちだとは信じられなかったと言われたりもしました。俳優たちだと思ったようで、それはそれで興味深い反応でした。昨晩の日本での試写も素晴らしい反応で、中には緊張と感動のあまり、身震いしている人もいました。比較的若めの観客層でしたが、圧倒されていた様子で、非常に嬉しかったです。

──日本では本作のポスターも人気ですが、デザインについて話してもらえますか。
ポスターのアイディアは、デザイナーの友人と話している中で出てきました。強盗映画のポスターは、人が歩いているカットのものが定番化していますが、このパターンをどのようにして破るか考えたところ、画集から鳥の頭の絵を使うのはどうかという話になりました。若者がアニマル化していくという話ですからしっくり来ましたし、画集との関連は一目瞭然なのに加え、ダーウィン、進化の概念、それからダーウィン的な意味で、生き残りへの備えができているということにも関連付けられると思いました。

──ちなみに、作中に登場する絵は、スペンサーが描いたものですか?
本編に登場する絵はすべてスペンサー本人が描いたものです。エンドクレジットの絵は、オーデュボンの画集から使用しました。

──本作で使用した音楽をどのように選んだのか、話していただけますか。
そうですね。私は執筆中も含め、いつも音楽を聞いていて、映画で使ったほとんどの曲は、私が気に入っていたものです。曲を選ぶときは、各シーンの感情を代弁するようなものを選びますが、70年代の曲はより不変的で、使い捨てではない感じがして、私は惹かれがちです。最近の曲を使い、『トレインスポッティング』のように非常に効果的にハマることもありますが、時代感といった余計な印象が付いてしまう場合もあります。そのため私は、まず曲が持つ感情に思いを巡らせ、あとは、前作でも組んだ若い女性作曲家のアン・ニキティンと一緒に考えるようにしました。彼女は本作のスコアで多数の賞にノミネートされましたが、オーケストラと電子音楽を融合した音楽になっていて、その背景には、音楽は映画での登場人物の過程を反映し、あらゆる要素が物語を効果的に語るのに利用されなければならないという考えがあります。ストーリーが進み、登場人物たちが現実から非現実的な空想のような状況に入り込んでいくに連れ、他の映画を引き合いに出したり、そうした作品の曲を使ったりすることで、現実から次第に離れていく様子を音響面でも反映させています。

──あなたはドキュメンタリー出身ですが、本作の製作ではどのようなことがチャレンジでしたか?
全部です(笑)。脚本を書くのは初めてでしたし、ドラマ映画を撮るのもある意味初めてでした。ドキュメンタリー映画では、真実を捉えようとするわけですが、フィクション映画の製作は非常に異なり、真実を創り出し、それが自然なものだという印象を与えなければなりません。私にはドキュメンタリーでの経験から、何が真実かを感じ取り、判断する能力があるようで、不自然なことがあると、自分でも気がつきます。一方、テクニカル面では知らないことがたくさんありました。そのため、たくさん調べ物をしたり、他の映画を観たりして、この映画のあらゆる部分に対する自分なりの非常に明確なイメージを持つようにしました。ですので、とにかく下準備をしっかりすることです。

──本作の製作を通じて学んだことは何でしょうか?
そうですね。英語では「怖くても、やってしまえ」と言ったりするのですが、これは良いことだと思っています。まだ誰もやっていないことや、自分にとって初めてのことに挑戦するとき、不安や恐怖は付き物です。でもそれを、何かに挑戦しようとする妨げにしてはなりません。この映画を作る時、ドキュメンタリーとドラマという2つのジャンルを融合してもうまくいかないだろうと、大勢の人に言われました。彼らの根拠が何であれ、こうした言葉に耳を傾けすぎると、何も新しいことはできなくなってしまいます。これが本作の製作を通じて、私が学んだことですね。基本的に、ルールはないのです。あなた(記者)だって、ニュースやインタビュー、批評記事の書き方に絶対的なルールがあるわけではないでしょう。映画作りも同じで、このように映画は作られるべきだという決まりがあるわけではありません。なんでもいいのです。うまくいかないこともあるでしょうが、規範的に必ずしもルールに沿わなければならない、ということでもないのです。

──次のどんなステップをお考えなのでしょうか。
次は、”実話”ではないものを予定しています。原作本の映画化ですが、完全なフィクションは私にとって初めてで、とてもワクワクしています。次も犯罪映画のようなものですが、トランプ、トランプ・アメリカを彷彿させる物語でもあります。主人公は、嘘だらけの”なりすまし”の男。そんな彼に対して人々は、こんな人物であって欲しい、救世主のようであって欲しいと心底期待し、必要とするのです。トランプがどんなことをしても、どんなに卑劣であっても、人々は気にせず彼を”今の彼”にしてしまったようにね……。(※監督はあえて”大統領”という言葉を使わずに話している様子でした)

──以下、本編ネタバレとなります──

──本作のタイトルはどのようにして決めたのですか?
エリックが書いている本から”盗み”ました。映画冒頭に登場する、「進化論」でのケンタッキーのアメリカン・アニマルズに関する記述を見つけていたのは彼で、タイトルにぴったりだと思ったのでそのまま使わせてもらいました。そのお返しとして、彼はいま回顧録を書いているので、その様子を映画の終わりに登場させました。

──映画の中盤、夜の路上でスペンサーがフラミンゴを目撃するシーンがありますが、あれば実際にあったことですか?
いいえ、あれは演出です。私はスペンサー本人から、”いつもオーメン(前兆)を探していた”と聞いていました。続けるべきか止めるべきかのサインとなる何かを、常に探していた、と。そして彼は鳥に対して何らかの縁を感じていたことも話してくれたので、どうしようか悩むあのシーンのアイディアが思いつきました。

──本編終盤のスペンサーのコメントで、ウォーレンが話していたことは、必ずしもすべてが事実ではないのではとありました。あなた自身は、ウォーレンの話を信じていますか?
おっと(笑)。本当の答えは、絶対にわからないでしょうね。ウォーレンは、自分が話をでっち上げたとは絶対に認めないでしょうから。私個人的には、ウォーレンはきっとアムステルダムには行ったでしょうが、そこで実際に誰かと会ったのかは、よくわからないと思っていますよ。

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『アメリカン・アニマルズ』(原題:American Animals)

監督・脚本/バート・レイトン
出演/エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン
2018年/アメリカ・イギリス/116分/スコープサイズ/5.1ch 

日本公開/2019年5月17日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!
提供/ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ
配給/ファントム・フィルム
公式サイト
© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018