Column

2019.05.08 17:30

【単独インタビュー】ジェームズ・ワンを魅了した『ラ・ヨローナ 〜泣く女〜』の新鋭マイケル・チャベス監督に聞く、”怖さの演出法”と恐怖とは

  • Fan's Voice Staff

『死霊館』シリーズのジェームズ・ワンが製作を手がける新ホラー映画『ラ・ヨローナ 〜泣く女〜』。全米で初登場No.1の大ヒットとなった本作の監督を手がけたのは、ワンがその才能を高く評価したという、新進気鋭のマイケル・チャベスです。

1970年代のLAを舞台に、ソーシャルワーカーのアンナと彼女の子どもたちが、呪われた“泣く女”ヨローナに襲われる……。古くからメキシコに伝わる伝説を元にしたゴースト・ホラーの傑作です。

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』、『グリーンブック』と話題作に出演しているリンダ・カーデリーニを主演に迎えた本作で大成功を収め、新人ながら幸運なデビューを飾り、さらには『死霊館3』の監督にも決定しているチャベス監督に電話インタビューを敢行しました。

──『死霊館』シリーズを大成功させたジェームズ・ワンが、あなたの短編を観て気に入り、本作の監督に大抜擢したとのことですが、どういうアプローチがあったのでしょうか。

まず、製作会社の人からメールをもらったんです。「ジェームズ・ワンが君の短編を観てとても気に入って、会いたがっている」とね。僕は、ジェームズ・ワン監督の大ファンだったので、それは僕がこれまで受け取った中で最高のメールになりましたよ。で、それからすぐに実際にジェームズ・ワンに会いました。話してみると、ジェームズと僕にはいくつもの共通点がありました。ふたりとも興味を持ったことには熱中するタイプで、映画づくりに対する情熱が溢れているところとかね。本当に話が合ったんです。

マイケル・チャベス監督(中央)

──短編を観たジェームズ・ワン監督は、あなたの怖さの演出法が上手いと言ったそうですね。

僕が思うに、人には”怖がりたい”というところがあると思います。あるいは、怖がるのを待っているような。僕は短編では、観客がホラー映画を観ているときに、怖がるのを待っている瞬間を利用して、遊ぼうと思ったのです。観客は、恐怖が来るのはわかっています。でも、いつそれが来るのかはわかりません。それが思った通りに来ることもあるかもしれないけれど、まったく意表を突いて来るかもしれません。順当に幽霊が出てくる演出をしたり、わざとハズした演出をしたり、それで観客もスリルを感じるのではないかと思ったんです。作っていて楽しいですよ。ジェームズは、そういう演出がとても上手いですね。彼の作品は間違いなく、僕のインスピレーション源になっています。もっといえば、僕が好きな監督は、このように正統派の演出をしたりハズしたりするのを、上手く操る監督ですね。

リンダ・カーデリーニとジェームズ・ワン(LAプレミアにて)

──ジェームズのほかに好きな監督は?

デヴィッド・フィンチャー、ウェス・クレイヴン、ジョン・カーペンター、そしてヒッチコック。ヒッチコックは、ホラーというよりサスペンスの巨匠ですけどね。学ぶものが多くあり、影響を受けました。ホラー映画で好きなものといえば、『ポルターガイスト』や『アザーズ』、『セブン』などですね。『セブン』はホラーのジャンルに入らないかもしれないけど、スタイルという意味でとても大きな影響を与えてくれました。それから『リング』。オリジナルもリメイク版もとても好きです。『呪怨』も好きですね。リメイク版よりオリジナルの方がずっと良いですが。これらは僕の好きなホラーのごく一部ですよ。

──本作のモチーフとなっているメキシコのラ・ヨローナの伝説については、以前から知っていたのですか?どんなところが面白いと思ったのでしょうか?

僕はLA育ちなんですけど、LAで育った人はみんなラ・ヨローナの物語を知っています。キャンプファイヤーでの怪談の定番でもある、有名なゴーストストーリーです。僕の中で、このラ・ヨローナの物語はずっとひっかかっていました。子どもの頃、ラテン系の友達から聞いたのですが、彼の母親や祖母は “いい子にしていないとヨローナが来るよ”と言って子どもをたしなめていたそうです。その話が印象的で、いつも頭の片隅に記憶がありました。また、大人になってから気がついたのですが、ホラー映画には、悪い母親、あるいは邪悪な母親というものがよく登場しますが、それがとてもパワフルでプリミティブな存在で、非常に興味深いと思いました。誰にでも母親はいますよね。つまり、その大きい存在である母親が邪悪であるというのは、観客に与えるインパクトとしてとてもパワフルだと思ったのです。

──あなたにとって、ホラー映画の核となる“恐怖”とはどんなものでしょうか?

まずは、未知なものですね。理解できないもの、あるいは知らないもの。ホラーには、スラッシャーものや、70〜90年代の『アザーズ』のような、雰囲気が怖いものなど、それぞれの怖さがありますが、僕はどんなタイプのホラーも大好きなんです。そして、タイプが違ってもすべてのホラーの怖さに共通するのは、未知のものということです。また、良いホラー映画は、必ずと言っていい程キャラクターが素晴らしいという共通点もあります。主人公に共感できれば、観客は一緒に旅をしたくなるものです。あるいは、主人公を心配したり、気にかけたりします。登場人物に感情移入するから、彼らの身に起こることにも怖さも感じるんですね。さらには、恐ろしいモンスター。アイコニックな忘れ難いモンスターを作り上げることができれば、それはフィルムメーカーとして、夢のようなホラーが作れた証拠になるでしょう。

──以降、本編のネタバレが含まれます──

──ホラー映画におけるモンスターですが、サイコパス系のモンスターと違って、今回のヨローナのような邪悪な母親は、感情が根底にありますね。たとえば、憎しみ、嫉妬、怨念といった負の感情が彼女の原動力になっています。そういう人間的な感情が、モンスターを作り上げるというロジックを、作り手としてどのように面白いと思ったのでしょうか?また、ストーリーには、その感情的な側面をどのように織り込んでいったのでしょうか?

いい質問だね!この物語では、母親の“後悔”というものが重要です。ヨローナの話が、怪談として、あるいは教訓話として、何百年も語り継がれているのは、この話がとても人間的だからだと思うんです。ブギーマンとは、そこが決定的に違うところですね。この哀れな母親の話は、子どもにとっても親にとっても共感ができる、親しみやすい話だからこそ、何百年も廃れないのです。ヨローナという女性は、大きな過ちを犯してしまった。それを後悔をして……という悲劇的な話ですが、この物語は、時代を超えた、おとぎ話的な側面もあります。僕は、このおとぎ話的な要素も映画に反映させたいと思いました。彼女は、子どもを殺すという怪物的な行為を犯したことによって、自分が怪物になってしまいました。でも、彼女の人間的な部分を強調しすぎてしまうと、怖いという部分がなくなってしまいます。ホラーを上手く作り上げるには、ヨローナは恐ろしいモンスターだけれど、やっぱり可哀想と観客が同情もできる。そのバランスを大事にしました。

──フィルムメーカーにとって、ホラー映画は、いろいろなテクニックを試せる興味深いジャンルですよね。今回は、どんなトライやチャレンジがありましたか?

とてもいい質問ですね!ヨローナは、水のモンスターです。彼女は水をコントロールできるのです。だから映画を作る上で、嵐を起こしたりとか、水をいろいろな風に使えるのがとても興味深かったですね。彼女がやってくることを、水を使って知らせたりもできるのです。そういう遊びを考えるのは、とても楽しいものです。短編でもCMでも、アイデアやテクニックを駆使するのは楽しいですが、特にホラーは、そういったテクニックを工夫したり遊んだりできるジャンルですよね。映画でいえば、こうした遊びは、他のジャンルではあまり出来ません。ホラーでも、特に幽霊とか超自然現象的なものを扱ったときには、より遊べると思いますね。

──『死霊館3』の監督を手がけることもすでに発表されていますね。いままでの『死霊館』シリーズをどう思っていますか?また、あなたならではの『死霊館』をどのように作り上げる予定ですか?

『死霊館』シリーズは大好きなんです。『死霊館』は呪われた家の話。”3″については、ストーリーは話せないんですよ。ビジョンについては話したいんですけど、実はストーリーと密接しているので、言いにくいですね(笑)。ただ、呪われた家の話にはなりませんよ。前シリーズの要素は入っていますけれどね。一番異なる点は、いままで観客が観たことながい敵と戦わなければならなくなることでしょうか。僕は、良いシリーズものというのは、どんどん変化していくと思っています。『死霊館』シリーズも次作で、未知の領域に入っていきます、としか今はいえませんね(笑)。

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『ラ・ヨローナ ~泣く女~』(原題:The Curse of La Llorona)

1970年代のロサンゼルス。とある母親がソーシャルワーカーのアンナ(リンダ・カーデリーニ)に助けを求める。子どもたちが危険にさらされているというのだが、アンナはそれを無視してしまう。しかし、これはヨローナの呪い。彼女の泣き声を聞いた子どもは必ず連れ去られてしまう。アンナはシングルマザーで大切な子どもたちがいた。エイプリル(マデリン・マクグロウ)とクリス(ローマン・クリストウ)だ。ヨローナは次にアンナの子どもたちを連れ去ろうと狙いを定める。執拗で残酷なヨローナの呪いをとめることができず助けを求めていたところに、信仰心を捨てようとしていた神父が現れ、最悪の呪いと対峙するのだが…。

監督/マイケル・チャベス
製作/ジェームズ・ワン
出演/リンダ・カーデリーニ、マデリン・マクグロウ、ローマン・クリストウ、レイモンド・クルツ、パトリシア・ベラスケス ほか
2018年/アメリカ/カラー/デジタル/英語

日本公開/2019年5月10日(金)公開
配給/ワーナー・ブラザース映画
© 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.