Column

2019.04.26 21:00

【インタビュー】仏の名優ロマン・デュリス、『パパは奮闘中!』で妻に捨てられたイクメン役に挑戦した理由とは

  • Hikaru Tadano

セドリック・クラピッシュ監督やジャック・オディアール監督作品で知られロマン・デュリス。最近ではリドリー・スコット監督による『ゲティ家の身代金』での印象的な演技が記憶に残る、フランスを代表する俳優です。

そんなデュリスが、妻に出て行かれ、ふたりの子どもの子育てに奮闘するシングルファザーを熱演するのが『パパは奮闘中!』。新境地開拓にして、キャリアにおける最高の演技との絶賛されています。

ベルギー出身の新進監督ギヨーム・セネズとともに、12年ぶり来日したデュリスに、話を伺いました。

──『パパは奮闘中!』は、これまでのあなたが演じてきた役柄とはかなり違っていますね。あなたの新しい一面が見られてとても興味深かったです。

そう言ってもらえてよかったです。ありがとう。

──シングルファザーの話といえば、ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ共演の『クレイマー、クレイマー』という名作があります。あの頃と違って、今では”ワンオペ”は珍しくないですね。

フランスでもそうですけど、女性がますます仕事に進出し、家をあけることが多くなりました。そうすると男性が主婦の役割もしていくことが多くなる。でも、何との戦いかといえば、時間との戦いだと思うんです。仕事をしながら、いかに時間をやりくりして家庭のために時間を捧げるか、ということも関係しますからね。たとえ、オリヴィエのように(妻が出ていった)という極端なケースでなくても、これは今日的な身近なテーマだと思います。

──ギヨーム・セネズ監督は、デビュー作でもある前作『Keeper』(15年)で注目されましたが、あなたもその作品を気に入って、シナリオが出来上がるシノプシスの段階で、出演を快諾されたとか。

そうなんです。『Keeper』という作品は──今回の作品でも採用されているんですが──シナリオがなく、その場でセリフを作り上げていくという即興的な演出法がとられていました。これは、上下関係がなく、誰もが参加し、誰もが提案できる、そういうワクワクする演出方法だと思ったんです。僕は、そういった撮影をまだやったことなかったので、ぜひチャレンジしてみたいと思い、即、引き受けました。本当にエキサイティングなことだと思いました。

──あなたほどのキャリアだと、新しいことに出会うことは少ないんでしょうね。

そうかもしれません。でも、映画づくりは、毎回毎回違うものだとは思いますよ。

──実際にその演出法で演技をしてみた感想は?

素晴らしかったですね。実は、映画の現場でアドリブというのは珍しくないと思われるかもしれませんが、アドリブを許して、それでいて秩序を保てるように指揮できる監督は、そうそういないんですね。セネズ監督は、好き放題させるのではなく、自分のやりたい方向にガイドできる才能を持った人ですね。

──セネズ監督にもお話を伺ったのですが、彼は、あなたがふたりの子供がいる父親であることが、この映画になにかをもたらしてくれるはずだと、最初から確信していたと言っていましたよ。

そうですか。オリヴィエという役柄はある意味、僕とはかなり違う人間です。社会的背景も違います。俳優は、想像することも仕事のひとつなので、似ている人間を演じる必要はありません。でも、共通項があれば助けにはなることは確かですね。

──今回、オリヴィエという役を作り上げる上で、核になったものは何ですか?

彼は、工場で働いていますが、それは、僕にとっては経験がなく、想像しなければならない部分です。けれど、この場合は、想像だけではで役を作り込むこともできません。どんな言葉遣いをするのか、職場でどんな振る舞いをするのか。オリヴィエの言葉遣いは、私が日常では使わない言葉なので、現場に行って学ぶ必要がありました。なので、工場に実際に行って、チーム主任はどういう立場で、どう部下に話しかけているのかとか、あるいはオフィスにいるときはどうしているのかなど、かなりリサーチしましたよ。本も読みましたね。

──オリヴィエは、仕事場ではバランスのとれた人に見えますが、家庭ではちょっとキレやすかったり横暴だったり、必ずしも完璧な夫や父親ではないように見えます。外面が良いというか。

確かに、オリヴィエが二面性をもっていて、仕事場ではリーダーシップもあるしバランス感覚もありますね。でも、家庭では違う。本当は、もっと大切にしなければならない人がいるのに、どうしていいかわからないんですね。僕自身も、この部分はとても興味深いと思いましたよ。

──そんなオリヴィエに共感できましたか?

どんな役柄でも、演じている瞬間はその人物を大好きだと思っているんです。でないと演じられない。でも、彼と僕とは似てはいませんね。家での振る舞いにおいては、ある意味、クオリティの問題だと言えるかもしれません。家族は、一緒いる時間が長いわけだから、僕も、いつでも優しくできているかというと、難しいかもしれません。でも、いい関係を築こうと努力はしているんです。

──『青春シンドローム』(94年)を始めとするセドリック・クラピッシュ監督の作品であなたは青春スターになり、また、ジャック・オディアール監督のノワール・フィルム『真夜中のピアニスト』(05年)などではミステリアスな役を演じ、数々の賞を受賞しました。また、『モリエール 恋こそ喜劇』(07年)ではコスチューム劇にも出演しています。が、本作での演技は、あなたのキャリアの中でも最高といえるのではないでしょうか。

ありがとう。俳優としてのキャリアは、すべて出会いによるものだと思っています。素晴らしいキャラクターとの出会い、素晴らしい監督との出会い。ときどき熱演しているとか、すごく良い演技をしているとか、俳優は称賛されるけれど、そういう良い出会いに恵まれた作品のときに、俳優は輝いて見えるだけなのではないでしょうか。僕自身でいえば、たとえば、映画自体の出来がよくなくても、そこで自分がなにか開拓し、進化できたと思える経験があれば、それは俳優としての自分には良いことだと思っているんです。もちろん、オリヴィエのような役を演じたことは、僕にとっては幸運でしたよ。

──ところで、来日は12年ぶりだそうですね。

そうですね。街を散策したいですね。イラストを描いているので、本当は機会があれば展覧会も開いてみたいんですけど。今回は時間はないので無理ですが。

──日本でも映画を撮りたいと、監督と盛り上がったとか。

そうなんです!僕は俳優でしかないから、映画をつくるというより、役をちゃんと演じるというだけですがね。日本で撮ることの意味がはっきりしていないと、撮る意味がないとは思います。観光的な風景を撮るだけでは、ね。『ロスト・イン・トランスレーション』(03年)のように、日本の存在意義が明確にある作品でないと。日本でもし映画を撮るとするなら、違う文化を吸収して、映画に反映できるかどうかが重要なのだと思います。

Romain Duris(ロマン・デュリス)

1974年5月28日、フランス・パリ生まれ。1994年、セドリック・クラピッシュ監督のキャスティング・ディレクターに見出され、『青春シンドローム』でスクリーンデビュー。この映画の成功で一躍、若手スターのトップに踊り出ると共に、クラピッシュ作品の常連となる。トニー・ガトリフ監督の『ガッジョ・ディーロ』(97年)でセザール賞有望若手男優賞候補に。ジャック・オディアール監督の『真夜中のピアニスト』(05年)でリュミエール賞最優秀男優賞を受賞し、フランスを代表する俳優となった。近年ではリドリー・スコット監督の『ゲティ家の身代金』(17年)で誘拐犯を印象的に演じ、高く評価された。

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『パパは奮闘中!』(英題:Our Struggles)

監督・脚本/ギヨーム・セネズ
共同脚本/ラファエル・デプレシャン
出演/ロマン・デュリス、レティシア・ドッシュ、ロール・カラミー、バジル・グランバーガー、レナ・ジェラルド・ボス、ルーシー・ドゥベイ
ベルギー・フランス/2018年/99分/フランス語/字幕:丸山垂穂/原題:Nos batailles

日本公開/2019年4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給/セテラ・インターナショナル
協賛/ベルギー王国フランス語共同体政府国際交流振興庁(WBI)
公式サイト
@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma