Column

2019.03.23 21:00

【来日インタビュー】『バンブルビー』トラヴィス・ナイト監督が語る、日本への愛とトランスフォーマーへの思い

  • Mitsuo

SFアクション大作『トランスフォーマー』シリーズの中の人気キャラクター、バンブルビーを主人公にしたシリーズ最新作『バンブルビー』。

1987年のサンフランシスコを舞台に、父を亡くし人生に迷う18歳の少女チャーリーと、地球外生命体“バンブルビー”の出会いと友情を描いたハートウォーミングなドラマです。

これまでの『トランスフォーマー』シリーズとは一線を画す本作を手がけたのは、オレゴン州ポートランドでストップモーション・アニメーション・スタジオ「ライカ」を率い、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(16年)で英国アカデミー賞長編アニメーション賞受賞、米国アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされるなど、高い評価を得ているトラヴィス・ナイト監督。自身にとって初の実写映画です。

2007年にスタートした実写映画『トランスフォーマー』シリーズは、当初からマイケル・ベイが監督を務めており、同監督以外が起用されるのは、6作目となる『バンブルビー』が初。

公開に先駆け来日したトラヴィス・ナイト監督が、子ども時代に受けた日本からの影響や、本作へのこだわりを語りました。

──前作『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は日本へのラブレターだとおっしゃっていましたが、今作は、トランスフォーマーファン、とくにG1(ジェネレーション1)へのラブレターなのでしょうか。

はい。その点はこの映画にとって大きな意味がありました。もちろんこの映画にはいくつものレイヤーがありますが、私は80年代に育ちましたが、80年代中頃にトランスフォーマーが初めて出てきました。私は、コミックやおもちゃ、アニメ、そしてトランスフォーマーのキャラクターが大好きになりました。トランスフォーマーの映画を作るなら、これをインスピレーションにしようと思い、初めてトランスフォーマーを見た時に感じたあっという驚きや発見、ハートや感情移入できる部分、興奮といったものをこの映画に込めようと思いました

──『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は、日本に影響を受けた作品でした。『トランスフォーマー』は日本発祥の作品です。こうして日本に深い関わりのある作品に続けて監督することになったのは、偶然なのでしょうか。あなたにとって日本はどういう存在なのでしょうか?

偶然というものはないと言った人もいますよね。日本と私の家族の関係は深く、私の父は若い頃日本に来て、そこで受けたインスピレーションが、後のナイキになりました(※監督の父フィル・ナイトはナイキ社の共同創業者)。私は8歳の時、父の出張に連れられ日本に来て、世界に対する見方が完全に変わりました。建築物から音楽、服装、食べ物、漫画などこれまで一切見たことも経験したこともないものがそこにはありました。その時、大きな袋いっぱいにコミックや漫画を家に持ち帰ったのですが、その1冊が、「子連れ狼」で、それが『KUBO/クボ』の大きなインスピレーション源となりました。いま私は、日本にインスパイアされただけではなく、日本が発祥の映画を携え再び日本にいるわけですが、こうしたことは偶然ではないとい思います。これまで私が作った映画を見れば、それぞれに、私が日本で見たものに直接繋がる部分があることがわかると思います。私をインスパイアしてくれた日本への愛を、こういう形で皆さんに共有できるのは、非常にワクワクします」

──この作品に登場するトランスフォーマーのルックスは、初期のアニメシリーズのデザインに寄せていると思われます。それはやはり、あなたが見た世代のものに寄せたからなのでしょうか。

この作品は、1体のトランスフォーマーのオリジンストーリーなので、トランスフォーマーが生まれた80年代中頃を設定とすることは非常に理にかなっていると思いました。私がトランスフォーマーを初めて見た時に感じた、新しい感じや発見を今作で感じてもらいたかったのです。この“G1”のトランスフォーマーは、今作のような形で大スクリーンで描かれることはこれまでありませんでした。過去10年間の映画『トランスフォーマー』シリーズは、マイケル・ベイ監督のもと、一定の感性や視点がありました。私は、自分がトランスフォーマーを映画化するなら、最初にトランスフォーマーが出てきた時のあの感じを呼び起こすものにしたかったのです。そのシンプルなデザインの中には、非常に心に刺さる、大胆で美しいものがあり、いつも自分が大スクリーンで見たいと思っていたトランスフォーマーを、今回映画にしました。それから、(トランスフォーマーの)アニメが初めて私に感じされてくれたあの感覚や雰囲気も。言ってみればこれは、30年前、10歳のトラヴィスが観たかったであろうトランスフォーマー映画です。

──本作のプロデューサーのひとりであるスティーブン・スピルバーグが、『レディ・プレイヤー1』で来日した際、「80年代はイノセントで、楽観的な時代だった」と言っていました。本作にそれが反映されているかはわかりませんが、この映画にもそんなテイストを感じたのですが、いかがでしょうか。

その通りだと思います。この映画は人間的な視点を持っています。80年代に育つ中で、映画で言えばスティーブン・スピルバーグから最も大きな影響を受けました。初めて涙を流した映画は、『E.T.』でした。エイリアンと少年の一生をすっかり変えてしまったであろう二人の関係性は美かったですし、『バンブルビー』にも、それに繋がるものがあると思います。それから、80年代のアンブリン(※スピルバーグ率いる制作会社)の数々の名作には、驚きや笑い、涙が満載で、こうした感情を引き起すものにしたいと思いました。80年代のスティーブン・スピルバーグの青春映画のように、冒険物語ながらも、心に響くハートが中心にあり、こうした映画は本作の大きなインスピレーションとなり、影響となりました。そして、『トランスフォーマー』映画レガシーのふたりの”父”、マイケル・ベイのアクションと、スティーブン・スピルバーグの心を、私の視点と共に織り交ぜようとしたのです。

主演ヘイリー・スタインフェルド(左)とトラヴィス・ナイト監督

──80年代の文化でいちばん気に入っているところはなんでしょうか?この映画では音楽が大きなポイントだと思いますが、特に音楽でこだわったことがあれば教えてください。特に思い入れのあった曲はありますか?

80年代は自分の子ども時代なので、魅力を感じているわけですが、当時の映画やテレビ番組、コミック、音楽は自分が育つ中で大切なものでしたし、いまでも見たり聞いたりする映画や音楽があり、私の人生では大きな意味を持っています。80年代を思い返すというのは、自分の歴史を辿るようなことなので、魅力的です。音楽は私がこれまで行ってきたあらゆることの中で、重要な位置を占めています。音楽ほど感情的に我々に訴えかけられるものは、他にないと思います。メロディーや歌詞を聞くだけで、過去の場所や気持ち、体験に連れて行ってくれるのですから。音楽は、言葉に出来ないことも、非常に美しい形で感情的にコミュニーケーションをとることができ、この映画では、作曲家ダリオ・マリアネッリによる音楽も、我々が選んだ80年代の曲も、物語を伝え、観客に感情を訴えかるような形で使うように心がけました。キャラクターの感情や立ち向かっている状況や、この映画のテーマなどですね。自分が子ども時代から大好きだった曲を使うことができただけでなく、物語を伝えるツールとして使えたことが、素晴らしかったです。

ザ・スミスは大ファンなので、まず大事でした。それから面白かったのは、チャーリーが、ビートルが金属生命体だと知る前に修理しているシーンに合う音楽を探していて、いろいろと試してもどれもはまらなかったのに、スティーブ・ウィンウッドの”ハイヤーラヴ”を付けてみたら、私が思い描いたようにこのシーンが生き生きとしてきたことです。子どもの頃はスティーブ・ウィンウッドはとりわけ好きなわけではなかったのですが、いまこの曲を聞いて歌詞の意味を理解してみたら、飛び跳ねるような高揚感のある楽しい音の裏に秘められた、深い意味がわかり、このシーンで引き起こしたい感情にピッタリだと思いました。このシーンでチャーリーは、なにかよくわからないけど、彼女の人生で非常に大きな意味を持つ、愛する相手を見つけます。この曲をあてたことによって、このシーンにはじめて命を吹き込まれました。

──これまではストップモーションアニメを手がけてきて、今回初めて実写映画に挑戦されたわけですが、仕事を頑張っている人とかクリエーターに向けた言葉をいただけますでしょうか。これまでとちょっと違うことにチャレンジした今回の映画であなたが大事にしていた心構えは?

クリエーターやアーティストは皆そうかも知れませんが、私は、自分自身に挑戦したいと思っています。同じことを何度も何度もやりたいとは思いません。自分が手がける映画では毎回、居心地の悪い立場に常に自分を置くようにしています。まだ、自分がやったことがないことから生まれる、興奮と恐怖を同様に感じたいのです。『トランスフォーマー』はこれまで私がやってきたこととは、まったく違いましたが、似ている点もあり、例えばアニメーション要素という意味では、バンブルビーはアニメ的技法で描かれるキャラクターですよね。実写のフランチャイズ映画を手がけるのは初めてで、本当に怖かったです。でも同時に、興奮しましたし、スタジオ・ライカの精神や自分のフィロソフィーを、このフランチャイズにもたらすことで、非常に愛らしい映画ができるのではと思いました。現場では毎日が学びでした。ものすごい速さとエネルギーで物事は進みましたが、同時に、温かく人間味のある環境でした。そうしたところから来る喜びというのは、スクリーンを通じても感じてもらえると思います。この映画をつくることは本当に素敵な経験で、あらゆる瞬間を楽しむことができまし、それが完成した作品に反映されていると思います。本当に温かい作品に仕上がっていると思いますが、それは我々の作り方がそうだったからです。

──マイケル・ベイやスピルバーグから、この作品に関してアドバイスはもらいましたか?

ふたりからはメモ書きをもらいました。これは映画人としてはありがたいことで、相手がこの二人のような大物なら、それはなおさらです。スピルバーグに関しては、そもそも彼の映画から私は強い影響を受けていました、彼からのインスピレーションが既に大きな”アドバイス”だったのです。マイケルとは(製作の)初期段階で会って話し、彼が『トランスフォーマー』シリーズを作る時の哲学を学びました。彼も、私の視点は異なったものになると理解していたし、これから私が突き進んでいく先、フランチャイズ映画のプレッシャーというものも理解していました。そしてマイケルは、ジェリー・ブラッカイマーが若き日のマイケルに与えたアドバイスを、私に話してくれて、それは“映画を守れ”ということ。大勢の人が、いろいろな方向に持っていこうとするので、“あなた(=監督)こそが映画を守り、あるべき姿にさせる。皆それぞれに目論見や視点があるのだから、あなたの仕事は、映画の面倒をしっかり看て、世話人になること。なので、映画を守れ。それだけは絶対に見失うな”ということです。途中、うまくいかない時や困難に直面した時、現場でいろいろなことが起きてしまっていた時、それからポストプロダクション時などに、この言葉を思い出し続けました。迷った時も、”映画を守る”ためにと考えると、正しい選択をすることが出来ました。シンプルながらも本当に意味のあるアドバイスでした。

──この映画の見どころと、なにか日本のファンに伝えたいことがあれば、お願いします。

現場初日は、私にとって重要な日でした。本当に怖くて、一日をなんとかやり通し、クビになっていないとわかると、”OK、自分にもできるかな”と思いました。映画が完成し、観客と一緒に映画館で観た瞬間を、私は一生忘れないでしょう。自分が長い時間をかけて作ってきたものに対する人々の反応を見ることができました。観客は、私が意図したタイミングで皆が笑い、息をのみ、すすり泣いてくれたのです。知らない人たちを感情の旅に連れて行くことは、本当に素晴らしいことだと思います。人々に良い方向にインパクトを与える物語を伝える機会が私に与えられているというのは、本当にありがたいギフトです。観客が素晴らしい反応を示してくれたことで、それまでの努力が報われたように思いました。日本のファンの方々に向けてですが、日本に戻ってこられて本当に嬉しく思っていますし、今後も、また別の作品でも、私の人生を変えたこの美しい国を讃えることができればと思っています。ぜひ本作を見て、この映画に込められた愛を感じてもらえると嬉しいです。

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『バンブルビー』(原題:Bumblebee)

自分の居場所を見つけられない思春期の少女チャーリーは、海沿いの小さな廃品置き場で、ボロボロの黄色い車を見つける。「バンブルビー」と名付け、修理したこの車が、やがて普通の車ではないと気づくのに、時間はかからなかったー。1987年、まだ地球は平和な生活を送っていた。その時までは。

監督/トラヴィス・ナイト
原案/クリスティーナ・ホドソン
脚本/クリスティーナ・ホドソン、ケリー・フレモン・クレイグ
製作/ドン・マーフィ、トム・デサント、ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、マイケル・ベイ
製作総指揮/スティーヴン・スピルバーグ、ブライアン・ゴールドナー、マーク・ヴァーラディアン、クリス・プリガム
キャスト/ヘイリー・スタインフェルド、ジョン・シナ、ジョージ・レンデボーグJr.、ジョン・オーティス、ジェイソン・ドラッカー、パメラ・アドロン、ステファン・シュナイダー
全米公開:2018年12月21日

日本公開/2019年3月22日(金)全国ロードショー
配給/東和ピクチャーズ
公式サイト
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