Column

2019.02.24 21:00

【特別インタビュー】ピーター・ジャクソンが『移動都市/モータル・エンジン』の監督を任せたクリスチャン・リヴァーズがその舞台裏を語る

  • Fan's Voice Staff

『ロード・オブ・ザ・リング』三部作、『ホビット』三部作で知られる冒険ファンタジー映画の巨匠ピーター・ジャクソンが手がける最新プロジェクト『移動都市/モータル・エンジン』。英国の作家フィリップ・リーヴの小説「移動都市」を元にジャクソンが自ら脚本、プロデュースを手掛けた渾身のSFファンタジーである。

最終戦争後、残された人々は、移動型の都市を作り出し、他の小さな都市を捕食しながら、生き続けるという弱肉強食の荒廃した世界が広がっていた。最下層界では、捕食した都市の起源や人が取り組まれる一方、最上階では上流階級の人々が優雅な暮らしを謳歌している。そんな巨大移動都市“ロンドン”は勢力を増す中、ひとりの少女へスター・ショウ(ヘラ・ヒルマー)が“ロンドン”に侵入し、闘いを仕掛ける……。

監督に抜擢されたのは、クリスチャン・リヴァーズ。17歳でジャクソンと出会い、『ブレインデッド』(92年)に始まり『ホビット』シリーズまですべてのジャクソン作品で、ストーリーボーディング、特殊効果、視覚効果などの部門で貢献してきた。『キング・コング』(05年)ではアカデミー賞視覚効果賞を受賞している。

そんなリヴァーズ監督に、監督デビュー作への思いを語ってもらった。

──本作を撮ることになったきっかけを教えてください。

リヴァーズ「短くまとめるとしたら、こうだ。私はショート・フィルムを撮った経験があり、そのあとにピーターの何本かの映画(『ホビット』シリーズ)でセカンドユニットの監督を担当もした。そしてある日、仕事に向かうために車に乗っていた時に、本作の話を聞いたんだよ。ピーター(・ジャクソン)から電話をもらい、“『移動都市/モータル・エンジン』について知ってるか?”と聞かれたんだ。でもその時点では、私はまだほとんど何も知らなかった。ピーターが「移動都市」の映画化権を得たことだけは聞いていたし、初期のプリプロダクションに取りかかった、ということも知っていたけど。その後、彼は『ホビット』とかで忙しくなってしまった。ピーターは“あの作品の権利が切れてしまいそうなんだけど、君が監督しないか”と打診してきた。私は10秒ほど考えてから“もちろんやるよ”と答えた。短くまとめるとこういう経緯だよ」

ピーター・ジャクソン(中央)とクリスチャン・リヴァーズ監督(右)

──ピーター・ジャクソンと一緒に何年も働いてきたあなたですから、それは特別な瞬間だったでしょうね。

リヴァーズ「そう、その通り。本当に特別な瞬間だったよ。でも、“クリスチャンならきちんと映画化できる”と信じてもらえたことが嬉しかった。私にとってこれは新しいチャレンジの始まりだ。楽しいけれど、とても難しいチャレンジだ。こういう作品を映像化するのはとても手間がかかる。創造の苦しみということだね」

──『移動都市/モータル・エンジン』はパワフルで、魅力的な人物たちが登場するすばらしいストーリーでね。

リヴァーズ「そうだね、どう説明するかな……。まず、これは人物が中心に据えられている作品だ。それぞれ、とても変わったバックグラウンドを持つへスター・ショウとトム・ナッツワーシーが、ある日突然出会う。そして2人はいつしか壁を乗り越え、恋に落ち、彼らの住む世界をよりよい方向へと変えていく。つまり、2人の人物の成長物語なんだ。物語の舞台となる世界では移動都市(traction city)と、それに対抗する反移動都市同盟との対立が起きている。反移動都市同盟は、決まった土地に定住し、地上を巨大都市が支配し、弱い都市を捕食することは間違っていると考える住民だで。その中心にあるのはこの旅で恋に落ちる2人の物語なんだよ」

──へスターとトムを演じた二人の魅力な俳優についてお話しいただけますか。

リヴァーズ「ああ、もちろん。彼らについては、いくらでも話せるよ。主役の2人、まずヘスター・ショウはヘラ・ヒルマーが演じている。もう1人のトム・ナッツワーシーを演じるのはロバート・シーアンだ。どちらも、演じがいのある本当にすばらしい役柄だね。そして演じている俳優の2人には、それぞれの役に似ているところがあるのが面白い。ヘラは、なんというか、その、シリアスなところがあって、時折鋭い一面をちらりと見せる。ロビー(=ロバート・シーアン)はとても気さくで、よくジョークを言っていた。トムという役に自然な魅力を加えてくれたよ」

──ふたりは相性がとても良いですが、それは最初から分かっていたことだったのでしょうか?

リヴァーズ「実は、彼らは別々に出演が決まったんだ。お互いが顔を合わせる前から、すでに確定済みだった。ピーターやフラン(・ウォルシュ)、フィリッパ(・ボウエン、製作総指揮・共同脚本)と一緒にキャスティングを行う場合、完ぺきな俳優が見つかるまでは、とにかくひたすら探し続けるほかない。ヘラに関しては、ずいぶん前から決まっていた。ヘスターというのは、見る人を惑わすような行動を取るキャラクターで、私たちはヘラという俳優を見つけた。彼女はまさにぴったりだったよ。ふたりは相性もよかった。スクリーンで観てもらえば分かる通り、間違いなくヘスター・ショウとトム・ナッツワーシーに見えたね」

──共演者たちも素晴らしかったですね。

リヴァーズ「本当にすばらしいキャストだった。才能ある俳優たちを発掘することができてすごくラッキーだったね。彼らのほとんどは本作に出るまでは、いわゆる有名俳優として知られている人たちではなかった。もちろん、できればこの1作だけじゃなくて、続きを作りたいね」

──『移動都市/モータル・エンジン』の見たこともない映像には圧倒されました。あの世界を作り上げるのは大変だったのでは?

リヴァーズ「とにかく、山のようなハードワークが必要だったよ。今回デザインした世界は、現代を生きている私たち自身にも、本物らしく感じられることが重要だった。そして我々の未来の世界、あるいは過去の世界としても違和感のないデザインでなければいけない。決してディストピア風の世界を目指していたわけではなかったんだよ。新しい文明の形にしたかった。たとえば私たちが古代ローマの人々なら、現代の世界をどう想像しただろうかと考えた。そこで今自分たちが持っているものを、すべて未来の視点から見直してデザインした。

とにかく骨の折れる仕事だったが、才能あるアーティストと技術者、そしてデザイナーが揃っていたから助かった。アート部門とデジタル・エフェクトのアーティストたちも本当に優秀で、いろんな人たちの協力があったからこそ、あの映像が完成したんだ」

──ピーター・ジャクソンが作品を作り続けてきたニュージーランドという国は、今回のロケ撮影にも最適の場所だったようですね。

リヴァーズ「ロケ地として最高であることは確かなんだが、それよりもすばらしいのは現地に揃っているスタッフ。今回はニュージーランドの風景を使うことはできなかった。本作の舞台として使えるような場所はなかったからね。『ロード・オブ・ザ・リング』とか『ホビット』なら、あの見事な風景を利用して撮影できたけれどね。今回はすべてセットを用意し、視覚効果を駆使するしかなかった」

──今回初めてピーター・ジャクソンのプロデュースのもと監督を務めることになりましたが、これはあなたにとってどんな経験でしたか?

リヴァーズ「とてもすばらしい体験だったよ。ピーターは、私と私の仕事に対して敬意を払ってくれた。だから、セットに来て、私の様子や仕事ぶりをチェックするようなことはなかったけれど、必要な時には私にアドバイスをくれた。本作に求められるレベルより低いクオリティの映像で、妥協したりすることのないようにね」

──ジャクソン監督が、映画業界で唯一無二の存在になれたのはなぜだと思いますか?そして、彼が映画史上に残る地位を築けた理由とは?

リヴァーズ「何が彼を唯一無二の存在にしたか?ピーターは、映画とは何であるか、そしてなぜ人々は映画を観に行くのか、ということをきちんと理解しているのだと思う。それから、彼は根っからの革新者なんだ。自然に斬新な考えが浮かんでしまうタイプだよ。彼は自分が創造する映像について、どうすれば新しく、斬新な形を取ることができて、観る人たちに興奮を覚えてもらえるかということが、本能的に分かってしまうんだ。だからこそ、彼は驚くべき作品を作り続けてこられたんだと思うよ」

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『移動都市/モータル・エンジン』(原題:Mortal Engines)

世界が滅び、人々は空に、海に、そして地を這う車輪の上に、都市を創った。たった60分で文明を荒廃させた最終戦争後、残された人類は移動型の都市を創り出し、他の小さな都市を駆逐し、捕食しながら生き続けるという新たな道を選択。地上は“都市が都市を喰う”、弱肉強食の世界へと姿を変えた。この荒野は巨大移動都市・ロンドンによって支配されようとしていた。ロンドンは捕食した都市の資源を再利用し、人間を奴隷化することで成長し続ける。小さな都市と人々は、その圧倒的な存在を前に逃げるようにして生きるしかなかった。いつ喰われるかもしれない絶望的な日々の中、その目に激しい怒りを宿した一人の少女が反撃へと動き出す。

製作/ピーター・ジャクソン
脚本/フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、ピーター・ジャクソン
監督/クリスチャン・リヴァーズ
出演/ヘラ・ヒルマー、ロバート・シーアン、ヒューゴ・ウィーヴィング、ジヘ、ローナン・ラフテリー、レイラ・ジョージ、パトリック・マラハイド、スティーヴン・ラング
原作/フィリップ・リーヴ 著・安野玲 訳「移動都市」(創元SF文庫刊)

日本公開/2019年3月1日(金)全国公開
配給/東宝東和
公式サイト
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