Column

2019.01.25 22:00

【単独インタビュー】ルカ・グァダニーノが新作『サスペリア』を語る

  • Hikaru Tadano

『君の名前で僕を呼んで』の世界的大ヒットで脚光を浴びたイタリアの秀英ルカ・グァダニーノ。新作はなんとホラーの金字塔『サスペリア』のリメイクである。ダコタ・ファニング、ティルダ・スウィントンらインターナショナルなスターキャストを迎え、大胆に脚色された新『サスペリア』は2018年のヴェネチア国際映画祭でワールドプレミアされるや否や、世界中で熱い議論が交わされる注目の作品となった。折しもホラーブームの中、今、禁じ手ともいえる伝説のホラーをスクリーンに蘇らせたグァダニーノ監督の想いとは?

 

 

──前作『君の名前で僕を呼んで』と『サスペリア』はまったくタイプの違う映画ですね。なぜ『君の名前で〜』の次の作品として『サスペリア』を選んだのでしょうか?

「『君の名前で僕を呼んで』と『サスペリア』は、まったく違ったやり方で、命が輝く瞬間を描いているといえる。命が輝く瞬間とはとてもミステリアスで、今でも興味を惹かれる。3年間『サスペリア』の製作に取り組む中、いろいろ問題を抱えて難航しているうちに、僕は『君の名前で僕を呼んで』を撮る機会を得たんだ。そしてその頃、サスペリアもやっとスタートできることになった。だから、我々は、『君の名前で僕を呼んで』を撮影しながら、サスペリアの準備をしたという感じだね」

 

──10歳の時、『サスペリア』を観て、かなり早い段階からリメイクを考えていたそうですね。

「僕は、本当に小さい頃から、この映画をリメイクするという妄想を抱いていたんだ。それは、映画監督になるなって思ってもいなかった頃だよ。こういう仕事をするようになって、リメイクの権利を買って、ある人たちと一緒に映画(リメイク版)をつくろうとしていた。10年くらい前は、他の監督——デヴィッド・ゴードン・グリーンという、僕の友人で才能のある監督なんだけれど──を考えていたんだ。けれど、それが上手くいかなくて、結局、自分たちでつくることになった」

 

──なぜ子供の頃からの夢だったのに、最初から自分で監督しようと思わなかったのですか?

「僕はとても現実的な人間なんだ。リメイク権を買ったときには、僕はまだ無名だった。監督名が僕ではこんなに多くのお金を出してくれる人々はいないと思ったんだ。とてもシンプルなことだよ。(無名の監督に大金を出すことに)みんな躊躇するよね」

 

 

──この映画では、1977年のベルリンに舞台が変更されています。また、バーダー・マインホフ事件など政治的なストーリーが、魔女の物語の背景で起こっていますね。70年代のドイツに興味をもった理由は?この『サスペリア』の闇は、ドイツの歴史に深く関わっていると思うのですが。

「ダリオ・アルジェント版は、1976年に撮影され、1977年に公開された。その数年後に、私はイタリアの有名な批評家のレビューを読んだんだけれど、それは当時のフェミニスト的なプロパガンダやチャントとかを引用していた。人生の早い時期でそれを読んだことで、僕はこの映画に囚われてしまったといえる。ダリオ版のおかげで1977年のドイツにフェティッシュな興味をもつようになったともいえる。で、ある時から…、3、4年前だな、脚本家のデイヴィッド・カイガニックとともに、この新しいバージョンを考え始めた。77年のダリオ版は、1977年のフライベルクが舞台だったが、我々は、その時代のドイツで実際に何が起こっていたか、史実により興味をもったんだ。当時“ドイツの秋”と呼ばれるテロ事件が起こったが、そこには深刻な世代間の葛藤があった。ドイツが20世紀の前半で行ったことに対する罪を背負い、喪に服している世代と、その子供たち世代の間の葛藤だ。子供たちの世代は、ある意味、神経症的であり、父親や母親がしてきたことの罪と向き合おうとしている。ライナー・ベルナー・ファスビンダーらによる『秋のドイツ』というドイツ映画も参考にした。どのように歴史が、私的なコミュニティに影響を与えるか。(映画に登場する心理療法士の)クランペラーは、一日の終わりに、動乱の中で離ればなれになった妻を思う。希望の光が物事をよくしていくんだ」

 

──リメイクといっても、設定以外はオリジナル版とはかなり異なりますね。まったく別の作品という言い方もできます。脚本家のデヴィッド・カイガニックとはどのようにストーリーを構築していったのですか?

「カイガニックと仕事をするときは、本当にたくさんの話をするんだ。まず最初のアイデアは、この映画を元々のサスペリアを公開された1977年に舞台にするというものだった。それに、魔術というものも入れたい。ダンスの要素を強調したいと思った。

 

 

それから、女性ばかりの中に、男性キャラクターを入れようということになった。それが心理療法士のクレンペラーだ。彼は不条理なことが起こっている中で、唯一、合理的な味方をしている人。この不条理な状況をどうみるのか、その視点を入れたら面白いと思ったんだ。それから、重要なのは、ヴィクトール・クランペラーの「第三帝国の言語「LTI」─ある言語学者のノート」という本。これは、私たちがこの物語を作り上げていく上で、ガイドラインとなった。いかに言葉が、ゆっくりと少しづつ静かに物事を変えていくかについて書かれている、本当に美しい本なんだ」

 

──ピナ・バウシュやマリー・ヴィグマンなどを彷彿とさせるダンスシーンは圧巻ですね。

「ダリオ版では、バレエ学校を舞台にしているけれど、踊りのシーンは全部で2、3分くらいなんだ。あまり意味をなしていない。僕とデイヴィッドにとては、ダンスはとても重要だった。魔女の集団という女性のグループにおいて、なにかもっと意味のあるものを入れたかった。それは、バレエではなく、ダンスでなければいけなかった。女性と肉体との関係をもっと探求しようということになり、ダンスを重要な要素としれ入れることになった。バレエは、規律とか訓練(ディシプリン)が重要だが、軽さとか、自分の重みに反して、上に上がることが強調される。ダンスは、もっと肉体自体が重要になる。体が他者の体との関係性の中でどのように有機的な動きを見せるのか。そして、魔術とダンスによって魔法が生まれるんだ。女性のグループが集まって、魔術的なことを繰り広げていくにはダンスという表現がベストだと思った」

 

 

──ダリオは、リメイクについてシニカルな発言をしていたようですが。

「いいや。でも、このリメイクの権利をとるためにはとても長い時間がかかった。ダリオは長い間、権利を決して売らなかった。そして、彼が我々に売ってくれたことは本当に幸せなことだ。我々に彼の作品に対する偉大なるオマージュを捧げるチャンスを与えてくれたのだからね。ふたつの『サスペリア』は双子とか、従兄とかいう感じ。どちらかがどちらかの影というワケじゃない。つまり私たちがつくった『サスペリア』がダリオの『サスペリア』がもつレガシーを傷つけることは決してないんだ」

 

──彼は脚本を読みましたか?

「いいえ、彼は読みたがらなかったんだ。セットにも招かれるのも望まなかった。だけど、彼は映画を観て満足していたよ」

 

──アルジェント版では、ゴブリンの音楽が印象的で、今でも語り継がれていますが、今回、映画音楽を始めて手がけるレディオヘッドのトム・ヨークを起用した理由は?

「素晴らしいアーティストだし、メランコリーのあるアーティストだと思ったからだ。さらに彼は詩人でもある。僕が映画音楽として重要視しているのは、ポエティックであることと、メランコリックであること。そしてオリジナルな音楽であること。今回の場合は、ゴブリンとまったく関係ない音楽であることも重要だった。それには、トムが最適だと思ったんだ」

 

トム・ヨーク © Greg Williams

 

──あなたの『サスペリア』は、ジャンル映画の代表のようなアルジェント版と比べるとよりアーティスティックと評価されていますよね?

「それは嬉しいけれど、僕は自分の映画をつくるだけ。ハイアートの映画を作ろうと思ったことはないよね」

 

──昨今の映画界は、空前のホラー映画ブームですが。

「ムーブメントというものはあんまり信じてないね。ホラーが成功したからといって次にたくさんのホラー映画がつくられても、それがヒットしないと今度は下火になる。個人的には、ひとりひとりのフィルムメーカーが自分がつくりたいものをつくっていくほうがいいですね」

 

──ダリオ・アルジェントを筆頭に70年代、80年代のイタリアは名作ホラーがたくさん生まれ、一時代を築きましたが、影響を受けた監督や作品はありますか?

「確かにダリオ・アルジェント、マリオ・バーヴァ、ルチオ・フルチなど1970年代のイタリアのB映画は、とても生き生きしていて本能的で素晴らしい作品がたくさんあった。当時、イタリア映画はフェリーニやアントニオーニ、ロッセリーニといった偉大な映画監督のアート映画の罠にはまっていた気がする。本当は、当時のイタリアの映画界は、経済的に成功していたB級映画に支えられていたのにね。今のハリウッッドがやるように、B級映画とハイアートを掛け合わせたようなものを作っていたら、イタリア映画界は衰退しなかったかもしれないと思うよ。個人的にもっとも影響を受けて、人生でもっとも大切な監督といえば、ジョン・カーペンターとデヴィッド・クローネンバーグだ。理由はまったく違うけれど。

 

カーペンダーは、クラシックな意味での本当の天才な伝統的手法の映画監督だ。ハワード・ホークスやオーソン・ウェルズとかと同じように、映画という言語を自然に使いこなせる。クローネンバーグは、もっとアーティストとして際立っている監督だ。シネマを超越している。そして、ボディ・ホラーの発明している。その革新性にはとても影響を受けたよ」

 

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ルカ・グァダニーノ(Luca Guadagnino)

1971年、イタリア、シチリア生まれ。99年、ティルダ・スウィントン主演のデビュー作『The Protagonists』がヴェネチア国際映画祭で高く評価され、注目を浴びる。長編第3作目の『ミラノ、愛に生きる』(09年)は、米国のゴールデン・グローブ賞や英国アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされ、その名を国際的なものにした。アラン・ドロン主演『太陽は知っている』のリメイク『胸騒ぎのシチリア』(15年)に続き、ティモシー・シャラメ主演の『君の名前で僕を呼んで』(17年)が世界中で大ヒット。米国アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、脚色賞、歌曲賞の4部門にノミネートされ、ジェームズ・アイヴォリーが脚色賞を受賞した。

 

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『サスペリア』(原題:Suspiria)

監督/ルカ・グァダニーノ
音楽/トム・ヨーク(レディオヘッド)
出演/ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントン、ミア・ゴス、ルッツ・エバースドルフ、ジェシカ・ハーパー、クロエ・グレース・モレッツ

 

日本公開/2019年1月25日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給/ギャガ
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