【単独インタビュー】『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』 監督が語るロンドン・カルチャーとは?
- Hikaru Tadano
世界中のポップカルチャーやファッションに今も尚、影響を与え続ける60年代カルチャー。“スウィンギング・ロンドン”と呼ばれた60年代のロンドンは、映画、音楽、ファッション、アートなどすべての新しい文化の発信地だった。
60年代といえば、スパイ・アクション映画が人気となった時代だが、エリート色の強い007シリーズに対するアンチテーゼとして、下町育ちの眼鏡をかけたサラリーマン・スパイを主人公としヒットしたのが、『国際諜報局』(65年)シリーズだ。大ヒットシリーズ『キングスマン』の元ネタのひとつとして知られるこのシーズで大ブレイクしたのが、主人公ハリー・パーマー役を演じたマイケル・ケインである。『アルフィー』(66年、※2004年にはジュード・ロウ主演でリメイクされた)ではプレイボーイを演じ、アカデミー賞主演男優賞候補となるなど、国際的にも名声を得たケインにとって、60年代はまさに“マイ・ジェネレーション”といえる。
『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』は、そんなマイケル・ケインが、プロデューサー兼プレゼンターとして当時のロンドン・カルチャーを案内するドキュメンタリーである。監督デイヴィッド・バッティにその製作の裏側を聞いた。
──監督は1962年生まれですが、60年代カルチャーにはなぜ興味を持ったのでしょうか。
「まず、60年代はとても多くのことが変わった時代だったと思う。一つには、若者たちが支配した時代だということ。二つめには、労働者階級が支配した時代だということだね。そして、マイケル・ケインもロンドンのイーストエンドというとても貧しい地域の、労働者階級の家庭に生まれているんだ。その地域の人々はみんな魚市場で働くのがお決まりのパターンで、明るい将来なんて望めない。マイケルも若い頃から、上に行きたいという野心はあったけど、階級の壁を破るのはとても難しかった。なぜなら、50年代までのイギリスでは、どこの出身か、どの学校を出ているか、両親がどの階級に属しているかによって、将来も決まっていたんだ。でも、60年代になったあたりからそれが変わりつつあった。僕はまだ幼くてよく理解できてなかったけど、僕の両親もそうだった。父は北部の労働者階級の出身で、母はマンチェスターの中流家庭の工場労働者の家に生まれた。でも父はその後、ジャーナリストとして働くようになり、母はバレエダンサーになった。彼らはそれまでの家族の中で初めて、違う職業に就いたんだ。だから、僕自身も60年代の変革から恩恵を受けた一人だといえると思う。最初にマイケルと電話で話したとき、彼もそうした60年代に起こった出来事を語りたいと言っていたよ」
──本作は、現在の若者たちが“スウィンギング・ロンドン”と言われたイギリスの60年代を知るのにとても良い、教科書のような映画ですね。マイケル・ケインは『バットマン』シリーズなど最近でもヒット作に出演していて若者にも知名度があるので、時代の案内役として適任だったと思います。また、近年のヒット作『キングスマン』シリーズも、元をたどれば『国際諜報局』というケインがブレイクした作品から大変影響を受けていますね。
「そうだね、彼の初期の作品『国際諜報員』は、マイケルのキャリアの中で一つのブレイクスルーとなった作品だ。この作品は『007』シリーズと同じスタッフ(イオンプロダクションのハリー・サルツマン)によって製作されているんだけど、ジェームズ・ボンドが上流階級やハイクラスの人物の特徴を持っているのに対して、『国際諜報員』のハリー・パーマーという主人公は、実際のマイケルと同じく、労働者階級出身の人物ということが大きな違いだね。もちろん、僕もみんなと同じくボンドは大好きだよ。でも、僕にとって『国際諜報員』はボンドシリーズを遥かに上回る面白い作品なんだ。主人公の設定がマイケルの出自と重なることもそうだし、リアリティを重視している点も、労働者階級のアンチヒーローという設定も、あらゆる部分で興味深い作品だよ。マイケルの他の作品では『アルフィー』も外せない。演じる上でのテクニックも凄くて、カメラのレンズに向かって観客を圧倒してくるようだった。フィクションと現実の壁を突き崩しているといってもいい。ちなみに、アルフィーというキャラクターも労働者階級の出身なんだけど、これはそれまでのイギリス映画ではとても珍しいことだったんだ。また、彼が初めて出演した作品にも触れておくと、『ズール戦争』(64年)はイギリスの植民地時代だった南アフリカを舞台にした作品だ。皮肉にもマイケルはここで上流階級出身の人物を演じているんだよね」
──本作に登場する60年代を代表する楽曲は、どのように選曲をされたのでしょうか?
「選曲にはとても苦労したね。60年代をきちんと描こうとすれば、当時流行った有名な曲を避けて通ることはできないけれど、ビートルズやストーンズ、ザ・フーのようなアーティストの曲を使うには莫大な使用料が発生するから、それが当面の課題だった。でも、プロデューサーのサイモン・フラーはスパイス・ガールズのような有名アーティストたちのマネジメントもしているから、どうすればこうした楽曲の権利をクリアできるか知っていて、とても助けになったんだ。もちろんマイケルの人脈にも助けられたね。ポール・マッカートニーをはじめ、彼の多くの友人たちがいなければ、こんなに上手くはいかなかったと思う。金銭面以外で気にしていたことも付け加えると、僕は“アルバム”を聴いて育ってきた世代なんだ。アルバムって、だいたい10曲くらい入っていて、美しいアートワークのジャケットがある。アーティストはそうした“外側の部分”も含めて、リスナーに語りたいことを表現して来たんだ。でも、今ではアルバムを買う人は少なくなってしまった。若い人たちは特に、iTunesやSpotifyで個別のトラックを聴いてしまうから、アルバムを通してアーティストが訴えたかったストーリーは欠け落ちてしまうんだよ。だから、僕たちはこの映画では、アーティストたちが1枚のアルバムを作るように、きちんとその曲が持つ背景のストーリーが伝わる様な選曲にしたかったんだ。この映画に使われている曲全てが、歴史的なストーリーを持っているんだよ」
──『マイ・ジェネレーション』というタイトルは、ザ・フーの代表的な曲のタイトルでもあると同時に、「マイケル・ケインさんの世代」ということも表現していると思いますが、最初からこのタイトルで行こうと考えていましたか?
「僕たちは他にも違ったタイトルを沢山考えていたんだ。でも、まさに君が言うとおり、二つの理由で今のタイトルにしたんだ。ひとつ目のザ・フーの名曲からという点では、あの曲が1965年に世に出たということにも起因している。前年の1964年には労働者階級の若者たちによって、南部のブライトンでモッズとロッカーズによる乱闘事件が起きているし、いわゆる「若者の怒り」が際立った時代でもあったからね。二つ目の「マイケル・ケインの世代」についてだけど、本当は60年代に青春を送った多くの人々より少し年上なんだ。面白い話があるから紹介しよう。マイケルが役者として売れなかった20代に、もう辞めようと思ったことがあったそうなんだ。それを彼のお母さんに相談したら、“やりたいことがあるなら、30歳になるまでは挑戦してみたら?”と言われた。それで諦めずに続けていたんだけど、ずっとオーディションには落ち続けて。とうとう2、3週後に30歳になるという時に受けたオーディションが『ズール戦争』だったんだ。最初、マイケルが応募した役は労働者階級出身の兵士だったんだけど、ディレクターから“ごめん、その役はもう決まってしまったんだ”と言われて落胆していたら、ディレクターがまた戻ってきて“将校の役が空いているんだけど、出てみないか?君は背が高いし、ブロンドだからぴったりなんだ”と言われたんだそう。ちなみに、この時のディレクターはアメリカ人だったけど、もしイギリス人のディレクターだったら、将校という上流階級の人物の役をマイケルに演らせることは絶対になかっただろうね。こうして、30歳になるすぐ手前で、「俳優マイケル・ケイン」が誕生したんだ。この映画は、まさに彼に代表されるような「ジェネレーション」の話といえるよ」
──日本では今、クイーンの伝説的なリード・ボーカルのフレディ・マーキュリーの伝記映画『ボヘミンアン・ラプソディ』が大ヒットしています。1962年生まれのあなたはむしろクイーンの時代に青春を送ったわけですが、あなたから見て60年代と70年代の音楽の違いはなんでしょうか?
「あえていうと、70年代は60年代よりグラマラスだし、華やかで壮大なイメージかな。叙事詩のような長編作品みたいなね。それに比べて60年代はもっと親密な感じがするよ。素材のまま、加工していない感じと言ったらいいかな。ビートルズやストーンズ、ザ・フーにしても、元々アメリカの音楽に影響を受けていて、小さなクラブでの演奏からスタートしているしね。60年代の音楽には、誰とでもそういうクラブで知り合えたような親密な感じがあるかもしれないね」
──イギリスは60年代以降、今日まで素晴らしい俳優を排出していますね。ハリウッドで活躍する多くの俳優も英国人です。監督がいまイギリスで注目している若手俳優はいますか?
「そうだね、女優なんだけど、フローレンス・ピューかな。彼女がブレイクしたのは『レディ・マクベス』だったけど、力強くて大胆で。とにかくチェックしてみてよ!」
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『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』(原題:My Generation)
監督/デイヴィッド・バッティ
プレゼンター・プロデューサー/マイケル・ケイン
出演/マイケル・ケイン、デイヴィッド・ベイリー、ポール・マッカートニー、ツィギー、ローリング・ストーンズ、ザ・フーほか
2018年/イギリス/カラー(一部モノクロ)/85分/PG12/英語/日本語字幕:野崎文子/字幕監修:ピーター・バラカン
日本公開/2019 年1月5日(土)、Bunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー
配給/東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト
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