Column

2018.10.08 12:00

北欧ホラーの新旗手、『テルマ』ヨアキム・トリアーに迫る

  • Fan's Voice Staff

昨年の『ゲット・アウト』の大ヒットにより、ホラー熱がこれまでにないほど高まっている映画界。特に、独特のロマンティックな雰囲気を醸し出す“北欧ホラー”は通常のホラーマニアだけでなく、広く映画ファンにも愛される逸品揃い。

 

その先駆けをつくった『ぼくのエリ 200歳の少女』(08年)。のちに『裏切りのサーカス』(11年)を監督するストックホルム出身のトーマス・アルフレッドソンの出世作です。直近では、今年5月に開催された第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で大賞を受賞したイラン系デンマーク人のアリ・アバッシ監督がスウェーデンを舞台に撮った『Border』(英題)など、北欧マジック・リアリズムとも呼べる新しいスタイルを築き上げています。

 

そんな中、日本でこの秋に公開されるのがデンマーク出身のヨアキム・トリアー監督による『テルマ』です。第90回アカデミー賞&第75回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ノルウェー代表に選出され話題となった傑作ホラーです。

 

 

ノルウェーの人里離れた田舎町で、信仰心が深く抑圧的な両親のもとに育った少女テルマ。なぜか彼女には、幼少期の記憶がない。オスロの大学に通うため一人暮らしを始めたテルマは、同級生のアンニャと初めての恋におちる。募る欲望と罪の意識に引き裂かれながらも、奔放な彼女に強く惹かれていくテルマ。だが、それは封印されたはずの“恐ろしい力”を解放するスイッチだった。テルマは不可解な発作に襲われるようになり、その度に周りで不気味な出来事が起こる。そんな中、アンニャが忽然と姿を消してしまう。果たして、テルマの発作とアンニャ失踪の関係は?両親が隠し続けてきたテルマの悲しき過去が明かされる時、自分すら知らない“本当の自分”が目覚め始める──。

 

トリアー監督(右)

 

監督・脚本を務めるヨアキム・トリアーは、長編映画の監督デビューからわずか4作ながら、カンヌをはじめとする世界の権威ある映画祭の常連となって数々の賞に輝き、今や北欧を代表する監督のひとりとして期待されています。これまでは、人間の抱える様々な問題に真摯に向き合ったヒューマンドラマを描いてきた同監督が、本作では初のジャンルものに挑戦し、新たな才能が爆発!『テルマ』はトロントやニューヨークなど名高い映画祭で賞賛され、米映画批評サイト”Rotten Tomatoes”でも93%フレッシュ(7月23日時点)の高評価を叩き出した、美しくも恐ろしいイノセントホラーを完成させました。

 

トリアーの長編映画監督デビュー作『リプライズ』(06年、日本未)は、トロント、ロッテルダム、サンダンスなどの国際映画祭に正式出品され、ノルウェーのアマンダ賞で、作品賞、監督賞、脚本賞を受賞。その後も『オスロ、8月31日』(11年、日本未)や、ハリウッドデビューを果たした『母の残像』(15年)も世界の映画祭で次々と高評価を得て、世界的に注目される映画監督となりました。

 

 

また、映画ファンなら“トリアー”というファミリーネームも気にかかるはず。そう、彼は、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00年)でカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアーの親戚でもあります。

 

そういえば、ラースも初期にTVのミニシリーズで『キングダム』というホラーを精神病棟を舞台にしたホラーを手がけたことがあります。2シーズン全8話が放映されましたが、非常に評判も良く、米国ではスティーヴン・キングを製作総指揮に、『スティーヴン・キングのキングダム・ホスピタル』(04年)としてリメイクされました。

 

また、カンヌでシャルロット・ゲンズブールが女優賞を受賞した『アンチクライスト』(09年)や今年のカンヌの「アウト・オブ・コンペティション」部門で上映されたマット・ディロン主演の『The House That Jack Built』のように、さまざまなスタイルのホラーを世に送り出しているあたりにも、北欧ホラーの層の厚さが感じられます。

 

 

さて、ヨアキム・トリアーですが、父は、ノルウェーで最も人気にある人形アニメ映画『ピンチクリフ・グランプリ』の音響技術者、祖父のErik Løchenはジャズミュージシャンながらも映画監督としても活躍し、『Jakten』(60年、原題)でカンヌ国際映画祭コンペ部門に正式出品された経歴を持つというアーティスト一家に育ちました。

 

が、10代の頃は映画よりもストリートカルチャーに傾倒。遊びで始めたスケートボードは、数々の大会で優勝するほどの腕前だったそう。自分自身でスケートボードの映像を撮影し始めたことにより、映画に興味を持ちます。デンマークのヨーロピアン・フィルム・スクールで1年間学んだ後、ロンドン近郊の国立映画テレビ学校で映画製作を本格的に学び、頭角を現すようになります。

 

独特な視線から物事を捉え、スタイリッシュな映像で物語を描くトリアーが傾倒した監督といえば、ニコラス・ローグ、ブライアン・デ・パルマ、ミケランジェロ・アントニオーニら、鬼才ばかり。特にニコラス・ローグの大ファンで、彼の代表作のひとつ『赤い影』(73年)の原題『Don’t Look Now』を、自身のプロダクション名にしてしまったほど。

 

 

一方で、大の親日家でもあるトリアーは、大友克洋の漫画や、宮崎駿や今敏などのアニメーション作品がきっかけで日本好きになり、日本語を学ぼうと挑戦したこともあったそう(ノルウェーにいい日本語の先生がおらず、結局断念)。20代に入ってからは小津安二郎の映画に出会ってかなりの衝撃を受けたといい、「黒澤明、成瀬巳喜男、小津安二郎、溝口健二…日本の名監督の作品は一通り見たよ!」とのこと。

 

『テルマ』のアイディアについて、「昨今のアメリカのメインストリームな映画は、アクションだけで人間の心が描かれていない。だから大友克洋監督の『AKIRA』や、デ・パルマ作品のようにSF的なストーリーを通して実存主義や人生における大きな疑問を描いてみたかったんだ」と語っていました。

 

 

撮影方法については「今回は初めてシネマスコープレンズを使ったんだよ。この映画では、閉所恐怖症的でありつつ、同時に壮大な映像を撮りたかった。漫画でよく使われる手法だよね。たとえば大友克洋の漫画『童夢』。子供や人間など小さなキャラクターと巨大なビルが、シンメトリックに描かれている。あの手法にはとってもインスパイアされたね」と、大好きな大友作品に影響を受けていることを明言。

 

思わず親近感を持ってしまうヨアキムの映画愛と日本愛が反映された『テルマ』。

 

 

主人公テルマを演じるのは、ノルウェーで子役時代から活躍していたエイリ・ハーボー。ヨアキム監督が1,000人以上の役者の中から見つけた逸材です。敬虔な信仰心と初めて覚えた欲望に引き裂かれながら、自分の中に眠っていた“恐ろしい力”と向き合うテルマを繊細かつ鮮烈に演じ、本作でノルウェーのアカデミー賞にあたるアマンダ賞にノミネートされました。2018年にはベルリン国際映画祭シューティング・スター賞を受賞するなど、ヨーロッパで最も期待されている若手女優の一人となりました。

 

 

テルマと惹かれあうアンニャを演じたのは、オケイ・カヤの名前で、ロンドンやニューヨークを拠点にミュージシャンとして活躍するカヤ・ウィルキンス。本作で映画デビューを果たし、女優としての才能を開花させました。また、テルマの父親役をヘンリク・ラファエルソン、母親役をエレン・ドリト・ピーターセンが演じ、北欧で最もリスペクトされる名俳優達が脇を固めています。

 

北欧ホラーの最先端『テルマ』。この秋必見ホラーの1本です。

 

 

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『テルマ』(原題:Thelma)

ノルウェーの人里離れた田舎町で、信仰心が深く抑圧的な両親のもとに育った少女テルマ。なぜか彼女には、幼少期の記憶がない。オスロの大学に通うため一人暮らしを始めたテルマは、同級生のアンニャと初めての恋におちる。募る欲望と罪の意識に引き裂かれながらも、奔放な彼女に強く惹かれていくテルマ。だが、それは封印されたはずの“恐ろしい力”を解放するスイッチだった。テルマは不可解な発作に襲われるようになり、その度に周りで不気味な出来事が起こる。そんな中、アンニャが忽然と姿を消してしまう。果たして、テルマの発作とアンニャ失踪の関係は?両親が隠し続けてきたテルマの悲しき過去が明かされる時、自分すら知らない“本当の自分”が目覚め始める──。

 

出演/エイリ・ハーボー、カヤ・ウィルキンス、ヘンリク・ラファエルソン、エレン・ドリト・ピーターセン
監督・脚本/ヨアキム・トリアー
2017年/ノルウェー・フランス・デンマーク・スウェーデン/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/116分/字幕翻訳:松浦美奈

 

日本公開/2018年10月20日(土)YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
配給/ギャガ・プラス
公式サイト
©PaalAudestad/Motlys