Column

2018.09.15 10:00

【独占インタビュー】巨匠アニエス・ヴァルダが、54歳年下のアーティストJRと『顔たち、とこどろころ』という冒険に出た理由とは?

  • Hikaru Tadano

※本記事には、映画『顔たち、ところどころ』のネタバレが含まれます。

 

60年代に“ヌーヴェルヴァーグの紅一点”といわれ、女性監督の草分けとして活躍するフランス映画界の巨匠アニエス・ヴァルダと、巨大なポートレイトを建物やストリートに貼り出す表現方法で注目を浴びた気鋭の若手アーティストのJR。歳の差54歳のふたりが意気投合し、フランスの田舎町を旅しながら、人々と触れ合う様を追ったドキュメンタリー『顔たち、ところどころ』は、ワールドプレミアされた2017年のカンヌ国際映画祭でドキュメンタリー賞を受賞し、米国のアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされた傑作です。

 

“人生最後のアジアツアー”として、今年のフランス映画祭に合わせて6月末に来日する予定だったものの、健康問題のためキャンセルした90歳のアニエスに独占インタビューしました。

 

 

──来日楽しみにしていたので残念ですが、久々にお目にかかれて嬉しいです。

「健康問題で日本に行けなかったのが、とても残念です。今回は、“人生最後のアジアツアー”として、娘と一緒に行こうと思っていましたので。私は、もう90歳ですからね。時の経過は早いものです」

 

──まず、『顔たち、ところどころ』は、JRとの共同監督作品になりますね。キャリア初の共同監督でもあります。JRとは、どのあたりが波長が合ったのでしょうか。

「人々に対する愛情。それとイメージ(写真)に対する情熱ですね。とくに”グラン・イマージュ”(偉大なイメージ)。私が1981年に『壁画』(Mur murs)という短編ドキュメンタリーを撮ったのは知っている? 壁に巨大なグラフティを描く無名のアーティストたちについての映画なんだけど、彼らはギャラリーで作品を見せるのではなく、ストリートで多くの人々の目にさらされるということを選んでいる彼らにとても興味があったのです。JRも、ストリート・アーティストとして名声を獲得したアーティスト。JRの写真集をみて、壁に大きなポートレイトを貼り出したりする表現方法に興味を持ったのです。実は、JRは娘のロザリーが紹介してくれました。私は、それまで彼のことを知らなかったんですよ。娘には、私が彼や彼の作品を知らなかったことに逆に驚かれましたけどね(笑)で、この映画の冒頭にあるように、娘がJRに電話したら次の日に来てくれた。その二日後には、私がJRの家に行って、彼の作品を見たんです」

 

 

──旅に出ることになったきっかけはなんですか?

「彼の“魔法のトラック”が素晴らしいと思ったんですね。撮る機材としてね。これに乗って一緒に旅をしたいと思いました。小さな言葉が風に乗って飛んでいくような、そんな感じですね。で、一緒にやろう、ってふたりで決めたんです。娘のロザリーは若い時には、オペラのコスチュームをつくる仕事をしていたのですが、その後、フィルムの修復をしたり、映画のプロデュースをしています。彼女は私とJRが気があって友達になったことをとても喜んでいました。で、一緒に旅をするといったら、それをドキュメンタリーにしましょう、私が製作するといってくれたんです。それに面白い偶然もありましたね。『5時から7時までのクレオ』(62年)を撮ったときにカメオ出演した(ジャン=リュック・)ゴダールとアンナ・カリーナの写真をJRに見せたんですけど、あの映画を撮っているとき、私は33歳でした。私とJRが会ったとき、JRは33歳だったんです(映画中は34歳)」

 

──JRとは、似ている部分もありますか?

「何かに熱狂するところは似ているわね。熱いタイプっていいうか。それに笑うのが大好きなところも。大事なのは、仕事が早いところ。すぐ行動に移す。そんなところも似ているからとてもラクだわ」

 

──作品づくりでも共通点はありますか?

「JRは、写真だけでなく社会問題にもコミットしているの。環境問題の会議で、200人のポートレイトを撮ったこともあるわ。デモをやろうと思ったら禁止されたので、“行進”をしないデモなら文句を言われないだろうと、フランスの国会議事堂だとか図書館だとか、有名なモニュメントに顔の写真を貼るという企画をした。写真によるデモよね!写真を使って、メッセージを伝えるんです。また、フランスのパリから30分くらいの郊外のモンフェルメイユという街があるんですけど。JRは、そこで消防士だとか教師だとかさまざまな職業の人々の写真を撮って、70メートルにわたり貼ったの。私も1975 年に「ダゲール街の人々」というポートレイトを撮影するという仕事をしています。身近な人たちを撮ったんですけど、それが後にドキュメンタリーになって、世界中の人たちに観てもらえたんです。

 

 

今回のドキュメンタリーでは、フランスのさまざまな地方が出てきます。最初は私が知っている土地からスタートして、それから偶然に知った場所に行ったり、どんどん広がっていきました。最初のシークエンスは北部からスタートします。一時は炭坑で栄えた街ですが、いまは炭坑は閉鎖され、炭坑夫たちが住んでいた住宅だけが残っている。住んでいる人はほとんどいない。そこに住んでいるジェニーヌさんとフィーリングがあって話が盛り上がった。ジェニーヌさん、そのあとはお父さん、お父さんのお友達と、どんどんみんなに広がっていって、彼らのポートレイトを撮影したのよ」

 

──映画を観て素晴らしいのは、普段はアートとあまり縁のない暮らしをしているようにみえる人たちが、ふたりが出かけていったことによって、アートの一部になっていることですね。

「これは人と人との出会いという、人間的な部分からスタートしています。その次に、芸術的な部分の構築があるの。人はそれぞれの物語があって、思い出もある。炭坑の街で、古い写真をたくさん貼ってから、最後に、ジャニーヌさんの家に彼女の笑顔の写真を飾ったのだけれど、彼女はとても感動してくれたわ。彼女は、結局強制退去させられて、今は違うところに住んでいるのだけれど、この映画に参加したことによって彼女の心は温まったと思うわ」

 

──予定を立てて行くのではなく、偶然に任せたのですね。

「最初はある程度準備をしていくんですけど、そこから思いがけないことが起こり、最終的な写真になります」

 

──彼らはアートのプロジェクトに参加しているという意識はあるのですか?

「これは、社会的なプロジェクトじゃなくて、芸術的なプロジェクトであり、それに参加してくださいと最初に話します。工場では、みんなの集合写真に参加しませんか、と誘いました。彼らは、芸術は自分たちの人生にはあまり関係ないと思っているんですけど、私は、彼らの中にも芸術は存在すると思うんですよ」

 

 

──それを理解をしてもらうのは簡単だったのですか?

「それは自然に」

 

──初めての共同監督ですが、ふたりで行ったことによって新しい何かを発見しましたか?

「もちろん。最終的には、友情を見つけたといえると思います。でも、ふたりといっても、“平等”ではないんですよ。JRは、私が歳をとっていることに興味を持っていたようです。彼は、まだ若くて、健康状態もいいのですぐ動ける。私がそうじゃないということに、逆に興味を示していようです。たとえば、私は視力が落ちているのですが、目薬をさすシーンがあったでしょう? JRが写したいといったんです。私は目が悪くて、文字がぼやけて揺れて見えるの。なので、国立図書館の前の階段で大きな文字列をつくってそれを再現したのよ。ユーモアね!

 

 

でも、私にとってそれは常に楽しいものではないんです。実際、視力を失うことは楽しいことではないですからね。でも、映画の中では、それを楽しんでいるし、観ている方も楽しいでしょ?彼は、私の抱えている“問題”の演出家でもあったのね。私の手や足も撮影したりして。大きな貨物車に私の足の写真を貼ることによって、私がもう行かれないようなところへ、旅させてくれるんです」

 

──アートよりも前に、人と人とのつながりという意味で、観た後にとても心が温かくなる作品だと思いました。

「今、世界では地球温暖化や移民や紛争などさまざまな問題があります。カオスには答えがないけれど、でも、知り合ったひとたちに声をかけて、話をすることはひとつの応えであると思うんです。小さなことでも大きなことでも、常に人間的なものが問題の解決のきっかけになるのです」

 

──映画の最後でジャン=リュック・ゴダールの家に行きますが、JRを彼に会わせたかった最大の理由はなんですか?

「ゴダールは、(アニエスの夫の)ジャック・ドゥミと共に友達だったのだけど、それを話したときに、JRは“すごくいいね、僕も会ってみたいな”とぽろっと言いました。JRが私の眼となり足となり、旅をさせてくれたので、私は彼にゴダールに会う旅をさせてあげたかった。でも、彼は、私たちが訪問したのに出てくれなかった……とても驚いたし、あの時はとても悲しかったですよ。でも今は、あれはゴダールがくれたプレゼントだと思っているんです。シナリオを与えてくれたというかね。だって“ボンジュール、元気?”って再会したら、それで終わり。でも、彼が登場しないことによりドラマが生まれたんです」

 

──その後には話していないのですか?

「映画のDVDを送ったけれど、音沙汰なし。静寂。ゴダールの沈黙ね!」

 

──去年のカンヌ国際映画祭でプレミアして以来、世界中で公開され、賞もたくさん受賞しています。

「プロモーションのためにいろんな街を旅しましたよ。映画祭もたくさん行ったわ。たとえばイタリアでは大きな広場で野外上映をやった。映画の中と同じように、私たちも行った先々で一般の人たちと出会うの。私たちはきっと面白おかしくみえたでしょうね。JRは、背が高く、私は小さい。ローレル&ハーディというアメリカのお笑いコンビがいましたが、そんな感じ。

 

 

この映画は、社会学者的な仕事ともいえると思うけれど、それは真面目な社会学者ではなく、面白い社会学者。カンヌの公式上映は、とても素晴らしいもので、スタンディングオベーションもこれまでにないくらい長く続いたわ。人々から花束もたくさんいただいた。アカデミー賞ではドキュメンタリー部門にノミネートされただけじゃなく、名誉賞も受賞しました。でも、それはたまたまいただいた、小さなプレゼントにすぎないわ」

 

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『顔たち、ところどころ』 (英題:Faces Places)

監督・脚本・ナレーション/アニエス・ヴァルダ、JR
出演/アニエス・ヴァルダ、JR
音楽/マチュー・シェディッド(-M-)
2017年/フランス/89分/1:1.85/5.1ch/DCP/字幕翻訳:寺尾次郎

 

日本公開/2018年9月15日(土)より、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
配給・宣伝/アップリンク
公式サイト
© Agnès Varda – JR – Ciné-Tamaris – Social Animals 2016.